現代社会の供給力不足 | 秋山のブログ

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「ポスト・ケインズ派経済学」でここは間違いだろうというポイントがあった。P14『1970年代に先進資本主義諸国を襲った経済危機』は『需要サイドの危機ではなく供給サイドの危機』であり、『ケインズが格闘していた1930年代の経済危機とは全く正確が異なるもの』だという話である。

 

人類は日々その知識技術を進歩させている。昨日10人必要だった作業は明日には9人でできるようになるかもしれない。例えば天変地異や戦争等によって生産施設が破壊されるようなことや、急激な労働人口減がおこらない(少子高齢化は急激ではないが一応このパターンではある)限り、供給不足になどなることは考えにくいだろう。人々が急にモノを買いだすといったことも、収入に限度があることを考えれば現実的ではない。そう考えると、戦争や地震、少子高齢化もなかった1970年代当時の先進資本主義諸国が供給力不足だったとはとても考えられないのである。

 

また、多くの人間にとっての日常の状況も、疑いを抱かせる鍵を与えている。日々自分達がおこなっている仕事で、需要が増える、すなわち今より客が来るようになっても、現在のマンパワーでこなせないというものの率はどれほどあるだろうか。多くの場合、客が金を払ってくれるのであればもっとモノを供給できると思われる。供給力が足りないという話は相当怪しいのだ。

そもそも1970年代はスタグフレーションで、失業率が高かったわけなので、それで供給サイドの問題と言われても説得力はない。

 

さらに追加すれば、しばしば紹介するペティクラークの法則から考えても、現代の先進国が供給力不足に陥ることはない(部分的になることはありえるが)ということが分かるのではないだろうか。

 

失業率が高いのに、物価が上がっていくことは、多くの経済学者を当時悩ませただろう。サミュエルソンなどはフィリップス曲線を因果関係であると勘違いしていたので、答えを出せるはずもない。

しかし物価上昇がどのような形でおこるかを、ポスト・ケインズ派の多くが持っている価格がコストと上乗せ利益で作られるというマークアップ原理と、雇用を決定するのは生産物市場の有効需要であるという考えに則って考えれば、答えはそれほど難しくないだろう。

物価は消費者の収入の上昇がなければ上がりにくい一方、消費者でもある労働者の賃金上昇はコストの上昇にも繋がるはずである。もちろん金利等他にもコストを上げる要因はいろいろある。市場における商品の価格は、競争の状況(独占、寡占の状況)によっても左右されるので、収入の上昇がなくても価格が上昇することはありえる。当時原油価格の高騰という事態があったが、好景気の時期のように労使関係で労働者が強くなければ、労働者の賃金は据え置かれたり、場合によっては下がることもあるだろう。失業率が高いことは、言うまでもなく労働者賃金の低下要因である。そして消費者の可処分所得の低下は有効需要を低下させ、さらなる失業に繋がるだろう。このように考えれば、スタグフレーションは不思議でもなんでもないのである。

ここでさらにインフレを抑えるために金利を上げたとする。これもまたコストを上げ、価格を上げる要因だ。同じような経路で、スタグフレーションを悪化させる可能性がある(物価の上昇は弱く抑制し、失業を大きく増やす。金利を上げた場合の悪影響は実証上否定しようがない)。

ということで、この時期の問題も、需要サイドの問題なのである。この時期の米国は大きな赤字を出していたけれど、意図的に財政政策をしていたわけではない。その後米国が不況から立ち直ったレーガノミクスは、反ケインズ主義の経済学に基づく政策だと主張されているが、実際は軍事費拡大などで財政赤字を大幅に増大させたケインズ政策である。

 

蛇足。ちょっと調べたところ、当時の貯金が目減りする状況→投資の減少→供給力の低下といった主張が見られた。これは貯蓄から投資が生まれるという誤りと、資本の投入が生産の要素であるという生産関数の単純な当てはめ(他の要因を無視している)という誤りの結果である。投資から貯蓄が生まれるのであってその逆ではないということは重要な事実であり、ポスト・ケインズ派経済学はもちろんそれを採用している。