国際空港で手荷物検査係を勤めるアツコは、列の後方に50代盆栽男、ナカガワが並んでいるのを見た。変装や簡単な整形くらいは見破る優れた相貌認知能力を買われ、SATの指令によりこの仕事についたアツコに、ある組織に潜入した調査員ヤマザキトオルから、組織の親玉ナカガワの画像ショットが送られてきた。以降、ヤマザキとの連絡は途絶えた。
 捕まえるだけなら簡単だが、証拠がなければいつまでも拘束することはできない。せいぜい数時間。その間にヤマザキ本人か他の人間が証言してくれるか、決定的な証拠でもなければ、アウトだ。
 ナカガワの順番がまわってきた。アツコはにこやかに微笑みながら、スーツケースを金属探知機に通した。
 
 マユミはボストンバックに宝石を詰めこんだ。
「飛行機が出る時間ね」
トオルはまだ鎖をつけられていた。
「社長が無事出国したことがわかれば解放してあげる」
「あんたはどうするんだ」
マユミは現金とパスポートもボストンバックに入れた。
「逃げるわよ、当然」
変わってしまったコンビニの女の子。同年代の子と比べても質素に、毎日を一生懸命生きていた苦学生が、今は派手な化粧に高価なアクセサリー、昔の面影はない。変わってしまったのは、トオルも同じだった。人のことは言えない。
「空港は無理だろう。検問にひっかかる」
「強行突破してみせる」
「俺が運転しようか」
意外な申し出に、マユミは不信そうににらんだ。
「警察手帳はある。俺がいれば検問は突破できる」
マユミの携帯が鳴った。マユミは携帯に出て、2、3の言葉を交わした。
「運転手が今上がってくるから、来たら鎖を外してあげる。妙なことしたら、撃つわよ」
マユミは銀色の拳銃をトオルに向けた。
 

 

 12月13日。終わらせ方に苦慮し始めております。「ラストは2人で蜂の巣」をご希望の方が多かったようです。トルネード戦隊(別な某ブログの妄想リレー小説)を出演させることはギリギリまで避けようとはしておりました。

 寒くなってきた。あれから何時間経っただろうか。
「ただいま」
マンションの玄関から親しげに入ってくる黒髪の女に、男は鎖で手足をつながれている。男は、元カリスマデザイナー、現在は公安の秘密組織SATの調査員、ヤマザキトオル。
「さみしかった? かわいい子犬ちゃん」
女はマユミ。巨大売春組織の幹部と言われているが、正体は不明だった。マユミという名も本名ではないだろう。
「最初はマスコミ関係者かと思ったけど、違うみたいね。警察?」
トオルは返事をしなかった。マユミはヒーターのスイッチを入れた。
「自分がどうなるか知りたいでしょう。社長とまだ連絡取れなくて決まらないのよ。ごめんね」
「あんただまされているよ」
「だまされている、私が、社長にってこと?」
「そうだよ。あいつはあんたたちを見捨てて逃走したんだ」
「そう」
トオルをじっと見て、マユミはくすっと笑った。強がりか、それともこちらの心理作戦などお見通しということか。
「ちょっと早いけど、クリスマスケーキ買ってきたわ。食べない」
マユミはコンビニの袋から箱を取り出した。この女も、逮捕されたら罪に問われるのか。
「コンビニのか」
「ご不満?」
「随分昔、コンビニで買ったよ。クリスマスケーキ。いつも行くコンビニの女の子が勧めてくれて、きっとノルマがあるんだろうなと思ったら断われなかった。俺独り者だってのにホールで買って、どうしようかと思ったよ」
マユミは目の前でケーキを切り分けた。添えられたのはスプーン。フォークだと武器になるからか。さすがに心得ている。しかしこの重い鎖をつけられていてはそうそう自由に腕も上がらない。
「あなたその子にだまされたのよ。ノルマのためにね」
「お前らと一緒にするな」
「私たちがしていることと何が違うの。喜んでもらって、お金をもらって」
何か言ってやろうとして、トオルはぎょっとした。マユミが泣いている。大粒の涙をこぼしている。
「ありがとう、覚えていてくれて」
「あんた」
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
窓の外には雪が降り始めていた。

 

 

 12月1日の記事。筆力がないために飛びます。しかも恥ずかちい。カッタウェイさんごめんなさい、私の趣味で縛ってしまったばかりに、この後緊縛プレイキャラになってしまうとは。この時は最後マユミさんに最後死んでもらう構想でしたが、コメント欄の声にコロコロ設定を変えてしまいました。別に設定に固執なかったし。

 バイトが終わった直後、携帯電話が鳴った。液晶には実家の電話番号が表示された。ミユキは携帯しかもっていない。親にはバイトの時間を伝えてあるので、電話はその時間を避けてかかってくる。
 電話に出ると、母の声で、
「驚かないでね」
と言われた。ミユキは淡々と聞いた。
 
 父の経営する工場が不渡りを出して休業中であること。
 今までは、学費だけは父が出してくれたが、今後は難しいこと。
 高3の弟は進学を諦めて働くと言っていること。
 
 電話を切って考えた。弟に進学を諦めさせ、自分が大学を続けるというのはどうしたものか。続けるにしても、自力で学費を稼ぐにはコンビニの時給では無理だ。できたら家に仕送りするくらいは欲しい。
 バイト雑誌に目を通した。夕方から働けて時給のいい仕事。お水系しかない。こんな地味顔なのに、そんなところで働けるだろうか。
 
 キャバクラみたいな場所は難しそうなので、小さなカウンターバーに応募してみた。面接した派手なママが一言。
「地味ね」
ああやっぱり。
「他の働き口なら紹介してもいいわよ。稼げればいいんでしょう」
ママはそう言って、目の前で携帯をかけ始めた。
「ナカガワさん、この前、地味系の女の子探していると言っていたでしょう。いい子が見つかったのよ。紹介するわよ」
ミユキは震えた。怪しい商売の人に売り飛ばされたりするのだろうか。
「そんな心配しなくても大丈夫よ。画廊や宝石店を経営している立派な人よ。あんたお水無理そうだし」
ママはナカガワという人の名刺を見せてくれた。
 
 30分ほどして、50歳くらいの体格のいい中年男が現われた。ミユキの父と同じくらいだろうか。
「学費の払えないかわいそうな女子大生よ」
とママは紹介した。
「それは気の毒に」
男はじろじろミユキを眺めた。帰りたくなった。
「今時めずらしいくらいすれていないね。お嬢さん、うちのお店は駅からわかりにくい場所にあってね。初めてのお客様は駅まで迎えに行かないといけないんだよ。お客さんを迎えに行く仕事も含めて、日給最低2万、売上から歩合をつけるから、その倍くらいにはなるよ」
本当だろうか。本当なら家に仕送りもでき、弟の学費も払ってやれる。ミユキは顔を上げた。
 

 

 11月25日の記事。展開が早いです。いかにもあやすいですが、日給2万はやりすぎだったかも知れません。これまでは次どんな話にするか全然考えなかったのですが、この時は

「次の話はこうしよう」

と考えていました。その次までは考えませんでしたが、長編化の予感が漂い始めていました。

 バイトを始めて2年経ち、ミユキは大学3年生になった。それから間もなく、例の男はぷっつりと来なくなってしまった。
 転勤、転職、引越し、あるいは結婚してしまったのかも知れない。何も言わずに行ってしまったのだろうか。もちろん自分に言う必要などないだろうけれど。
 
 さらに1ヶ月して、女性週刊誌にこんな見出しが躍った。
「カリスマファッションデザイナーヤマザキトオル、謎の失踪」
その見出しの下の小さな写真は、あの弁当男ではないか。
 週刊誌をパラパラめくると、
「作風に限界」「何ヶ月も新作が出せず」「後輩の台頭に悩んでいた」
などなど。そんなに悩んでいる人に見えなかったが。
 
 テレビタレント以外の有名人に疎いミユキは、大学の友達に聞いてみた。
「デザイナーのヤマザキトオルって知っている」
「知ってるよ、失踪した人でしょ」
「ネットで見たけど、六本木ナンバー1ホストのしげるに入れあげて借金すごかったんだって」
「何で男なのにホスト」
「それがコレだったんだって。きゃーははは」
きゃーはははって、そんな人ではないと思うけど。ネットの情報なんていい加減よね、きっとそうよ。
「私がバイトしているコンビニによく来てたから」
「まさか、カリスマデザイナーが下町のコンビニ行かないでしょ」
そうだけど。
 
 どちらにしろもう遠い人だ。失踪なんて、何を悩んでいたのだろう。また同系列のコンビニに寄って
「あの時のコンビニのお姉さんが」
なんて私のことを思い出してくれることもあるだろうか。
 本当はいけないのだが、前にクリーニングを取り次いだ時書いてもらった顧客カードをのぞき見して、その住所の場所に行ってみた。本当に、カリスマデザイナーが住むとは思えない質素なアパートだった。そして、今は空部屋になっていた。
 

 

 11月23日の記事。カリスマデザイナーはやりすぎでした。毎回、今回で終わらせようと思いながら続いてゆくのでした。

 ミユキは大学に通うかたわら、夕方からコンビニでアルバイトをしていた。仕送りはなく、生活は楽ではない。友達がサークル、合コンだと楽しく学生生活を送る中、毎日講義を終えるとまっすぐ勤務先のコンビニへ向かう。
 時給は安いが、賞味期限切れの食品をもらえる(本当はいけないのだが)のが、家計的には助かった。
 
 夜10時をまわると、必ずやってくる人がいる。ファッションにうといミユキでもそれとわかる、仕立てのよい高級ブランドスーツに身を包んだ青年。なぜこんな人がコンビニに、と思う。服にお金をかけすぎているのだろうか。
 必ずお弁当と付け合わせを1品。野菜不足を気にしているのか、サラダや煮物が多い。何だかかわいい。
 1人暮らしなのだろう。自分が彼女なら夕飯作ってあげるのに。あ、でもバイトがあるから無理か。何考えているの、バカバカ。
 
 毎日のように現われる彼は、ミユキと目が合うと、恥ずかしそうに目を伏せた。もしかして向こうも意識していたりして。まさかね。
「温めますか」
弁当を差し出した彼に、いつものように聞いた。
「お願いします」
そう言いながら、カウンターに置いてあるチラシを眺めている。レジには他の客も並んでいない。ミユキは思い切って話しかけた。
「うち、クリーニングの取次始めたんです。24時間受け渡しできるから、お忙しい方に便利ですよ」
男は不思議そうに見上げた。まずかったかしら。レンジが鳴った。ミユキは弁当と一緒にチラシを入れた。
「よかったら利用してみて下さい」
「ありがとう」
(しゃべった)
ミユキは固まりながら男を見送った。
 
 

 11月21日の記事。Yahooの3万打記念に書き始めました。この調子で10まで続くんですが、全く全体の構想を考えないで書き始めています。妄想ですから妄想の赴くままに。

 昨日の「妄想迷惑メール」とつながったのもたまたまで、最初は別な話のつもりでした。謎の男のモデルはカッタウェイ さん。