バイトが終わった直後、携帯電話が鳴った。液晶には実家の電話番号が表示された。ミユキは携帯しかもっていない。親にはバイトの時間を伝えてあるので、電話はその時間を避けてかかってくる。
電話に出ると、母の声で、
「驚かないでね」
と言われた。ミユキは淡々と聞いた。
父の経営する工場が不渡りを出して休業中であること。
今までは、学費だけは父が出してくれたが、今後は難しいこと。
高3の弟は進学を諦めて働くと言っていること。
電話を切って考えた。弟に進学を諦めさせ、自分が大学を続けるというのはどうしたものか。続けるにしても、自力で学費を稼ぐにはコンビニの時給では無理だ。できたら家に仕送りするくらいは欲しい。
バイト雑誌に目を通した。夕方から働けて時給のいい仕事。お水系しかない。こんな地味顔なのに、そんなところで働けるだろうか。
キャバクラみたいな場所は難しそうなので、小さなカウンターバーに応募してみた。面接した派手なママが一言。
「地味ね」
ああやっぱり。
「他の働き口なら紹介してもいいわよ。稼げればいいんでしょう」
ママはそう言って、目の前で携帯をかけ始めた。
「ナカガワさん、この前、地味系の女の子探していると言っていたでしょう。いい子が見つかったのよ。紹介するわよ」
ミユキは震えた。怪しい商売の人に売り飛ばされたりするのだろうか。
「そんな心配しなくても大丈夫よ。画廊や宝石店を経営している立派な人よ。あんたお水無理そうだし」
ママはナカガワという人の名刺を見せてくれた。
30分ほどして、50歳くらいの体格のいい中年男が現われた。ミユキの父と同じくらいだろうか。
「学費の払えないかわいそうな女子大生よ」
とママは紹介した。
「それは気の毒に」
男はじろじろミユキを眺めた。帰りたくなった。
「今時めずらしいくらいすれていないね。お嬢さん、うちのお店は駅からわかりにくい場所にあってね。初めてのお客様は駅まで迎えに行かないといけないんだよ。お客さんを迎えに行く仕事も含めて、日給最低2万、売上から歩合をつけるから、その倍くらいにはなるよ」
本当だろうか。本当なら家に仕送りもでき、弟の学費も払ってやれる。ミユキは顔を上げた。
11月25日の記事。展開が早いです。いかにもあやすいですが、日給2万はやりすぎだったかも知れません。これまでは次どんな話にするか全然考えなかったのですが、この時は
「次の話はこうしよう」
と考えていました。その次までは考えませんでしたが、長編化の予感が漂い始めていました。