バイトを始めて2年経ち、ミユキは大学3年生になった。それから間もなく、例の男はぷっつりと来なくなってしまった。
転勤、転職、引越し、あるいは結婚してしまったのかも知れない。何も言わずに行ってしまったのだろうか。もちろん自分に言う必要などないだろうけれど。
さらに1ヶ月して、女性週刊誌にこんな見出しが躍った。
「カリスマファッションデザイナーヤマザキトオル、謎の失踪」
その見出しの下の小さな写真は、あの弁当男ではないか。
週刊誌をパラパラめくると、
「作風に限界」「何ヶ月も新作が出せず」「後輩の台頭に悩んでいた」
などなど。そんなに悩んでいる人に見えなかったが。
テレビタレント以外の有名人に疎いミユキは、大学の友達に聞いてみた。
「デザイナーのヤマザキトオルって知っている」
「知ってるよ、失踪した人でしょ」
「ネットで見たけど、六本木ナンバー1ホストのしげるに入れあげて借金すごかったんだって」
「何で男なのにホスト」
「それがコレだったんだって。きゃーははは」
きゃーはははって、そんな人ではないと思うけど。ネットの情報なんていい加減よね、きっとそうよ。
「私がバイトしているコンビニによく来てたから」
「まさか、カリスマデザイナーが下町のコンビニ行かないでしょ」
そうだけど。
どちらにしろもう遠い人だ。失踪なんて、何を悩んでいたのだろう。また同系列のコンビニに寄って
「あの時のコンビニのお姉さんが」
なんて私のことを思い出してくれることもあるだろうか。
本当はいけないのだが、前にクリーニングを取り次いだ時書いてもらった顧客カードをのぞき見して、その住所の場所に行ってみた。本当に、カリスマデザイナーが住むとは思えない質素なアパートだった。そして、今は空部屋になっていた。
11月23日の記事。カリスマデザイナーはやりすぎでした。毎回、今回で終わらせようと思いながら続いてゆくのでした。