《1/3》より
【和議を探る坂之上田村麻呂】
「十万の兵をただ阿弖流為らに見せるだけにして和議の道を探るという方策もあろう。・・・(中略)・・・。恭順の礼を取らせるだけで、あとは互いに軍を解体するばかりだ。我らも伊治城以北にはいっさい手出しせぬと約束する。それ以上のことを求めては蝦夷らも頷くまい」(p.229)
「民らは大事に扱えと兵らに申し伝えよ。それが後々の恭順にも関わって参ろう」(p.249)
和議を望んでいたのは、蝦夷の側も同じだった。戦の最中にあっても、遺恨を残さぬように蝦夷側も朝廷側に完勝しながら、相手を殲滅することなく敢えて生きて返すことをしていた。であるにも関わらず、なかなか和議を結ぶ機が生じない。
【丹内山神社での占い】
物部の天鈴と、蝦夷の阿弖流為の会話。
かつて、天鈴の父が、阿弖流為を占ったことについて話している。
「俺はこれまで知らずにいたが・・・そなた、かつて丹内山神社の巖座の前で物部の巫女に先行きを見て貰ったことがあるそうだな」
阿弖流為は頷いた。一度として忘れたことがない。不思議な体験だった。
「なにを見た?」
「何千もの騎馬軍と平野で対峙する幻を。そのときは分からぬ顔もござりましたが、今思えば猛比古や取実なども側に居並んでおりました。信じられぬ力にござる」
「やはりまことの話であったか」
天鈴は軽い舌打ちをした。
「それがいけませぬか?」
「和議が成らぬということであろう。・・・(中略)・・・。それを前に聞いていれば別の手立てがあった」
「と申しますと?」
「この前の戦のときに騎馬軍を総動員すべきだったと悔やんでいる」
「その必要がない戦にござった」
「だからこそやれた。形だけでも騎馬軍を平野に繰り出せば占いが成就する。占いとはそういうものだ。自分で運を切り開くこともできる。なぜに親父どのがそれを俺に教えてくれなかったのか・・・巫女から耳にして目の前が暗くなったぞ」
天鈴は深い吐息をした。
「物部の占いは外れぬ。そうと分かれば田村麻呂との会見も無駄なものとなろう。むしろ次の戦を早めに行い、緒戦で騎馬軍を投じることを考えねばなるまいな。占いなどとそなたは笑うかも知れぬが、我らはそれを第一の拠り所として生きてきた。無視はできぬ」
天鈴は真面目な顔で阿弖流為を見詰めた。
その吐息が阿弖流為にも移った。(p.379-381)
朝廷と蝦夷の双方とも和議を望んでいながら、それが実現しなかったという、この占いを介しての記述を、それぞれの読者はどうとるのだろう。
紀元前に日本に渡来していた物部氏のルーツは古代ユダヤ。つまりカバラの民。日本においては陰陽師といわれるスピリチュアルな技法を持つ氏族。
【自分一人の命で済むなら・・・】
「だが、十歳やそこらの子らはその苦しみを知らぬ。なぜ戦を続けているのかも分かるまい。子らにあるのは、この落ち着きのない毎日ばかりだ。せっかく親たちが耕した田畑は三年やそこらで荒らされ、敵の襲来に備えた掘立小屋にしか住めぬ。侮蔑に抗っているのだと親が言って聞かせたところで、子らは敵の姿さえほとんど見たことがない。親が喜ぶゆえ勝ち戦に子らも手を叩くが、どこまで得心してのことか・・・」
「相手は子供にござる。いつか必ず分かるようになりましょう」
「子らにとっては、相変わらず貧しい蝦夷の国だ。胆沢の町並みとて昔の方がはるかに豊かであった。これが五十年も続けば、と思うと恐ろしくなる。戦に勝っても民らが貧しくては意味があるまい。子らがのんびりと大きくなれる国にしなければなるまいに」
「それは・・・確かに」
「我らが仕掛けている戦ならことは簡単だ。やめて国作りに励めばよい。が、これは敵が仕掛けてくること。俺の一存ではどうにもならぬ。いったいどうすればいい?」
阿弖流為は泣きそうな顔になった。自分一人の命で済むなら降伏してもいいとさえ阿弖流為は思いはじめていた。(p.387-388)
現在の日本の子どもたちも、この蝦夷の子どもたちの状態と同じだろう。
日本は世界支配者たちの策略によって、バブル崩壊後30年の長きにわたって経済的繁栄から遠ざけられ続けている。そのうえで、「戦争による人口削減」か「ワクチン接種による人口削減」かの二社択一を強要され、日本政府は後者を選んでいるのである。
子どもたちの将来を危ぶむ蝦夷のリーダー阿弖流為に相当する現代日本の政治家はいるだろうか?
かつては数人いたけれど、単に殺され続けてきただけで、日本は何も変わっていない。
《参照》 『日本人はドラゴニアン《YAP(-)遺伝子》直系! だから、〔超削減〕させられる』高山長房
【歴代首相の明暗】
《参照》 『これが[人殺し医療サギ]の実態だ!』 船瀬俊介×ベンジャミン・フルフォード
【日本国の人口削減は「拷問殺人」によって強要されている】
【蝦夷分裂を画策した阿弖流為】
巨大な悪を突出させて蝦夷に対立を作り、悪の側が暴走する。そうすれば悪に抗う蝦夷はすなわち朝廷と同じ立場となる。同一のものを敵とするからだ。阿弖流為はそう思い至ってこの数年を走り続けたのだ。この場合、悪となるのはもちろん阿弖流為でしか有り得なかった。・・・(中略)・・・。悪は決まったが、問題はそのあとだった。和賀や閉伊、志和という強大な兵力を抱える地域の長らが簡単に首を縦に振ってはくれなかったのである。阿弖流為は蝦夷を導いてきた者だ。それを見捨てるような形で戦を終結させ、しかも自分たちばかりが生き延びるということに彼らは断固として頷かなかった。それなら屈辱を覚悟の降伏も辞さぬという意見が多く出た。
阿弖流為は泣いて訴えた。
自分たちのために戦を終わらせるのではない。幼い子供たちのために自分たちがしてやらねばならない決着なのである。・・・(中略)・・・。ここはなんとしても和議に近い停戦に持ち込むしかない。(p.482-483)
阿弖流為は、自らの思いに従って揺らぐことなく行動してゆくけれど、戦の時代に生きた過去世を有する魂たちは、人望と義と停戦の狭間で、大局的に正しい判断ができなかった時の悔恨と苦しみを今も抱えているだろう。
【田村麻呂なれば他の蝦夷を・・・】
阿弖流為の右腕の伊佐西古と、朝廷側大将の御園が戦った場面。
御園は、一度は蝦夷の捕虜となりながら大事にされ、逃がされた経験を持つ人物。
「おまえとこうして死ぬとはな・・・」
伊佐西古は間近にある御園に微笑んだ。
「蝦夷もやるな・・・悔いはない」
御園も笑いで応じた。その口から血がどんどん溢れる。伊佐西古は御園を抱きしめた。御園もがっしりと伊佐西古を支えた。
「俺たちは和賀や志和の蝦夷を救うためにわざと戦さを続けたのさ。田村麻呂なれば他の蝦夷を救ってくれると信じてな」
言われて御園は目を丸くした。
「阿弖流為も直ぐに俺たちのところへ来るぞ。あの世ではもはや敵ではない。見事であった」
それに御園は大きく頷いた。
伊佐西古と御園はゆっくりと倒れて果てた。(p.495)