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 『ノマドライフ』 本田直之 (朝日新聞出版) と同様に、現代版のノマド(遊牧民)生活を推奨する著作。急速に変貌しつつある現代という時代状況下における日本と日本人に関する危機意識がある人は、著者の精神的基調に共感することだろう。2012年2月初版。

 

 

【日本は「老人国家」】
 僕が日頃、海の向こう側で過ごしていて感じるのは、日本は海外から「年老いて考えが鈍くなったお金持ちの老人」のように受け止められているということだ。・・・中略・・・。さらにいえば、もう老人どころではなく、「ゾンビ国家」になってしまっているのではないかとさえ感じている。(p.17)
 IT技術を使いこなしている人々は、世界が変貌することをより早く掴んでいるから、日本の動きの遅さをこのように感じ取っているのだろう。
   《参照》  『たかが英語!』 三木谷浩史 (講談社) 《後編》
            【海外での質問は逆】
 IT技術に限らず、世界の技術的変貌は、日本人が思っているより早く進行している。具体的な事例をあげるなら、先頃行った中国では、2輪も3輪もバイクは全てEVになってしまっているし、大学が集積している西安では、レンタサイクルが市内に溢れていた。
 日本は、技術力が確かである分、従来の製品が長持ちするし、これを大切に使うから、必然的に切り替えが遅い。世界的なシフトの速さから見れば、老人にように見えるというのも、あながち誇張ではない。

 

 

【日本人は「ひきこもりすぎ」】
 国土交通省のデータによると、2009年の出国者数は1598万人で世界14位、入国者数は679万人で世界33位となっている。・・・中略・・・。このランキングには、人口の割合は加味されていないため、それを考慮すれば日本の「海外渡航力」はさらに下に位置すると思われる。・・・中略・・・。人口比で考えれば、イギリスは全国民平均で年に1.12回は海を渡っているのに対し、日本はわずかに0.12回だ。
 どうみても、日本はひきこもりすぎだ。(p.63-64)
 日本人の海外渡航者が他国比で多くないのは、地理的条件や言語圏条件が影響しているはずで、産業関連の技術者だけの統計をとったら、決して少なくないどころか世界平均をかなり上回っているだろう。
 しかし、著者は、若者を含めた日本人全体の傾向を憂えている。「視野の狭さ」が「発想の貧困化」を招くのは必然だから、著者の憂いは決して杞憂ではない。
 近年、東京オリンピックを見込んで、せっかくLCC(ロー・コスト・キャリアー:格安航空会社)が就航するようになっても、日本の若者たちがこれを利用しないなら、LCCも採算割れでいずれ撤退してしまうだろう。

 

 

【異国の地で暮らす】
 身元を保証するパスポートさえあれば、明日から3か月、異国の地で暮らすことになんら制限はないのだ。(p.76)
 観光目的のビザなし入国であっても、大抵の国は90日間の滞在が可能。
 短い例外はブルネイの14日。180日滞在可能の国もある。
 観光ビザで入国して、後付で就労ビザを取得することは可能。著者の場合は、自分で起業して自らを雇っているという形で就労ビザを取得したらしい。
 日本は、世界で最もビザなし入国が認められている国。
 日本人なのに、このメリットを活かさないなんて「宝の持ち腐れ」である。
   《参照》  『女子が旅に出る理由』 (いろは) 《後編》
            【魔法のパスポートで】
   《参照》  『日本を降りる若者たち』 下川裕治  講談社現代新書
            【カオサンで “外こもり“ する方法】

 

 

【ワーキングホリデイ】
 この制度の優れた点は、ごく一部をのぞき、18~30歳までの健康な男女なら、なんら制限なく適応可能ということだろう。・・・中略・・・。この制度なら、働いて収入を得ながら現地で生活するということが特別な資格なく可能だ。また、別の国に行くことはできるので、11カ国すべて滞在して回るということも不可能ではない。(p.98)
 この他に、ウーフという制度(主に有機農業を実践する農家への住み込み就労)もある。こちらはワーキングホリデイのような年齢制限はない。
 なお、海外で病気や怪我をして病院で治療した場合も、日本の国民健康保険が適用される。(p.105)

 

 

【ハイパーノマド】
 このまま日本に留まっていては良くないことが起こると直感した僕は、生活のスタイルを大きく転換する決意をする。それが、長期の定住場所を持たずに世界を回る「ハイパーノマド」だった。
 ハイパーノマドとは、フランスの経済学者で同国政府のブレーンでもあるジャック・アタリが提唱した21世紀のライフスタイルのひとつで、彼は今後、国を超えて稼ぎを得る非定住者と国を出ることができずに貧困に過ごす定住者とに世界は分れるといっている。(p.114)
 ハイパーノマド(超遊牧民)は、まさに世界を股に駆ける人々だけれど、彼らはたとえクリエイターであっても、実質的にはあくまでも通商の民である。
 日本を出ることができない多くの人々は、貧困に苦しむかもしれないけれど、世界をドラマティックに変革するイノベーションは、日本から生まれるはずである。遊牧民と定住民には、それぞれ違った役割がある。
 洋行体験のある個人の力こそが、日本の古いシステムを打ち壊す唯一のカギになる。そして、もしかしたら今後は、その新しい個人の力の集合が21世紀の黒船になるかもしれない。・・・中略・・・。古いシステムから抜け出し、「インディビデュアル・エンパワーメント」が最適化されるよう、パラダイムシフトを進めるべきだ。(p.167-168)
 秀でたハイパーノマドたちが、日本を変革する役割を担ってくれることを期待しよう。

 

 

【 「 The World Factbook 」 】
 日本にいながら手に入る情報としてお薦めしたいのは、アメリカのCIAのサイトにある「The World Factbook」 だ。そのサイトの運営もとからわかるとおり、情報の正確性に疑いはないし、更新スピードが早く、なにより閲覧者にわかりやすく解説されている。(p.123)

 

 

【ローカル性を貫くサンセバスチャン】
 この町を含むバスク地方は、スペインという国の一地方ではなく、あくまで「バスク」というコミュニティを強く意識しており、サッカーのリーガ・エスパニョーラでも、バスク地方の名門アスレティック・ビルバオは地元のバスク人のみで構成されているという徹底ぶりだ。・・・中略・・・。このローカル性を貫く姿勢は凄い。(p.141)
 広島カープはビルバオに近いけれど、ビルバオほどの徹底性はない。

 

 

【女性に高感度のパリ】
 パリ市内全体で見ると、ここは移民の街と言えるだろう。バルベス通りで食べるアフリカ料理は本物だし、街中で流れている音楽も、日本人がイメージしているようなフランスのものではない。ヨーロッパ圏における文化の流入の在り方を知るのに、いい機会と言えるかもしれない。
 付け加えるとすれば、女性の方が、パリはより魅力的な街に映るかもしれない。フランス人の多くは女性に優しいからだ。反対に男性の場合、国籍を問わず移民と同じような冷たい扱いを受けることもあるので留意しておきたい。(p.143)
 海外滞在記は、どこであれ、男性より女性の著作の方が面白いけれど、フランスやパリ関連の女性著作は、群を抜いて多いような気がする。昼のパリの街並と夜のシャンゼリゼを歩いてみれば、大抵の女性は何か心に刻まれるはず。オッサンやアンちゃんであっても、よっぼどドン臭いタコでない限り何かを感受するだろう。

 

 

【クリエイターが集まるヘルシンキ】
 フィンランドの首都であるヘルシンキは、とにかく変わったクリエイターが多くて楽しい街だ。具体的な理由までは分らないが、この街にはいろいろな考えを持つクリエイターが集まり、自由に表現する場が用意されている。
 とくにハウスミュージックの中心は北欧にあるといわれ、これから世界的に注目を集めるDJの多くがこの街を拠点としている。・・・中略・・・。
 またインテリアデザインの分野でも優れたクリエイターが多く、世界各地で開催されるデザインフェスティバルでも、この街で行われるものはとてもユニークでおもしろい。(p.144)
 ミュージックのアバも、家具のイケヤもスウェーデン生まれだけれど、フィンランドのヘルシンキが中心になっているって、意外。

 

 

【信じられないことが起きるのを肝に銘じておけ】
 僕がロンドン滞在中に出会ったアルゼンチン人ジャーナリストは、2001年12月にアルゼンチンが国家破綻したときのことを振り返り、「信じられないことが起きるのを肝に銘じておけ」と忠告してくれた。・・・中略・・・。預金封鎖は段階的に解除されたが、ドル建てしていた預金を暴落したペソやペソ建ての国債に強制的に切り替えさせられたことで、事実上、国民の財産は国に吸い上げられた。(p.35)
 ドル建ての預金すら強制的に切り替えるって、凄い権力技である。
 1929年の世界恐慌は、その10年後に第2次世界大戦を幕開けさせた。2008年のリーマンショックを世界恐慌になぞらえれば、2018年に何かが起こるかもしれない。それが世界的な戦争でなくとも、今後のパワーバランスを大きく左右させるような一大事が起こるのではないだろうか。(p.37)
 世界支配者たちは、金融恐慌と戦争をペアで計画的に繰り返してきたのは紛れもない事実。しかし、それをさせないように動いている勢力があるのも事実。
 さして貯金などないチャンちゃんのようなタコ族にとっては、金融恐慌があろうと何の心配もないけれど、近年の世界支配者たちは、地球工学・気候工学を駆使した荒業を行使するから、ノー天気なタコ族も現実的な困難に見舞われる可能性が低くない。たいそう厄介な連中は、そうやすやすと地球の支配権を手放そうとしないのである。

 

 

【「金」ではなく、水や食料】
 ちなみに、国家破綻の危機が高まってくると、資産を「金」に変えたほうがいいという風潮が出回るものだが、ソ連崩壊のときもアルゼンチンの国家破綻のときも、「金」はまったく役に立たなかったと当時の状況を知る友人から聞いたことがある。・・・中略・・・。あらゆる有事に備えるには、なにより水や食料を自ら確保していくのが一番なのだ。(p.174)
 このような危機的未来としてのタイムラインが全くない国は、残念ながら現在の地球上にはない。
 ハイパーノマド生活は、ある程度、有事に対するリスクヘッジになるけれど、その場合であっても、水と食料を確保できる場所であることが前提である。
   《参照》  『プレアデスメシアメジャーが示す「未曾有の大惨事」の超え方』 飛鳥昭雄・村中愛・小川雅弘
            【本は大事です】

 

 

<了>