《前編》 より

 

【不耕起農法】
岩澤  田んぼを冬季湛水にしてもらって、生き物調査を実施しました。
 そうすると、イトミミズが10アール当たり1500万匹もいる田んぼがあることがわかりました。そういう田んぼでは、イトミミズの糞がトロトロの層になって積み重なり、雑草の種を覆っています。
 もっとすごいのは、このトロトロ層に膨大な肥料分が含まれていることです。そのため、ふつうに施肥をすると、窒素過剰になってイネが倒伏するほどです。だから、肥料は一切使わなくていいんです。生き物の活動だけでお米ができてしまいます。(p.71-73)
 無農薬・無肥料でかつ冷害にも強い不耕起農法に興味を持つ人は多いだろうけれど、「冬季湛水」がネックなのである。チャンちゃんの田んぼがある地域は、10アールあたり6400円も水利費を払っているけれど、冬季に水は流れてこないのである。つまり不耕起農法はテンデ無理。
 こんな状況なんだから、水利組合と農協と地目変更にとてつもなく厳しい法務局は、農業関連利権を維持するためにグルになっているんだろうと思うことがある。
    《参照》   『これから10年「世界を変える」過ごし方』 滝沢泰平 (ヒカルランド) 《前編》
              【慣行農業】

 また、不耕起農法でお米を作るといっても、多くの面積をこれでやろうとするなら、不耕起の硬い農地でも田植えが出来るような、特殊な田植え機が必要である。岩澤さんの働きかけで既にできているけれど、金額的にどうだろうか。
 不耕起農法による米作が広がらないのは、こういう理由があるからだろう。
 因みに、アメリカの状況(米作だけではないけれど)はというと、
岩澤  今ではアメリカは全耕地の50%以上が不耕起栽培のようですね。アメリカの農業に大型機械が導入されたことで、畑の表土が失われてしまったのですが、耕さなければ土に粘性を与えるグロマリンが働くことがわかって、この農法が広まったそうです。
養老  今はそこまで普及しているのですね。 (p.56)
 へぇ~。50%は凄い。

 

 

【補助金農業】
岩澤  農家の意識にも問題があります。・・・中略・・・、補助金のもらい癖がつくと、補助金がつかない事業に手を出さなくなるからです。(p.84)
 競売に出ていた農地を手に入れた人が、マルチシートを張ってカボチャの苗を植えた後、何の手入れもせず、草ぼうぼうにして終わったことがあった。
 昔からいる近所のおじさん「この人、なんで手入れしないんでしょうかねぇ?」って聞いたら、「補助金をもらうためだよ」と教えてくれた。収穫量に関係なく補助金が出るから、苗を植えて補助金対象に認可されさえすれば、その段階で終わりなのだという。補助金制度を実施する側も、それに寄生する側も、デタラメ100%である。

 

 

【日本のコメ農家】
岩澤  日本のコメ農家は、自分の田圃でやるのだから土地代はかからない、自分で働くのだから人件費はかからないといった単純な発想でコメを作り、田んぼを維持してきました。・・・中略・・・。
 サラリーマンの方が聞いたら驚かれるかもしれませんが、農林統計をみると、1キロのコメをつくるのに、原価はだいたい300円以上かかっています。そして、農協に収めているのは1キロ200円。だから1キロつくるごとに、100円ずつ損するのです。でも農家は損しているとは思っていない。なぜかというと、原価を計算せず、自分の「人件費」という概念がないからです。そういうどんぶり勘定をしているから、日本の田んぼはもっているんですよ。 (p.87)
 そう、チャンちゃんが年平均40アールほど8年間作ってみて、農協の口座に残っていた額から機械の修繕費等を差し引いたら、残ったのは僅かに40万円だった。年収5万円ということになる。これから、農作業に要した人件費分(年間労働日数を20日として8年分)を差し引いたらどうなるか?
 20日はサラリーマン1カ月分の労働日数だから、8か月分の給料に相当する。
 給料を月額30万として、8×30=240万円。
 ゆえに、米作8年間の実質収支は、40-240=-200。200万円の赤字である。
 単年度換算で、-200÷8=ー25。40アールの田んぼでお米を作ると毎年25万の赤字。
 やりたい人います? いるなら、いくらでも田圃貸しますよ。
 10アール当たりの賃貸料は、
 10アール当たりの固定資産税額(3000円)と水利費(6400円)の合計(9400円)でいいです。
 コメは一番手間のかからない安定収入作物だけれど、米作で半農半Xはできません。
 現実的なのは、農地付き住宅に住んで、作るのに農機具の要らない野菜を自給自足程度に夏場に作るだけですね。
 野菜を作るにしても、お天気任せでは作物は収穫できません。
 運よく雨がたくさん降った場合は、除草しないと草に負けてしまいます。
 水道水で灌水可能な庭先で作ることが、最低条件・必須条件です。

 

 

【SRI農法】
岩澤  私が市民農園などで一般の方に行ってもらえたらと思っているのは、マダガスカルで発明されたSRI農法というものです。・・・中略・・・
 仮に5月の初めに田植えをすれば、暖かいから田んぼの水分を保ちさえすればあとは何もいりません。マンションのベランダで2反歩、3反歩の苗ができてしまいます。(p.93)
 飢餓問題一発解消可能というほど、トテツモナク高収量の米作法らしい。
岩澤  いま東南アジアで普及していまして、現在30数か国で採用されているんです。
 私もいま挑戦しているのですが、残念ながら雑草に食われてなかなかうまくいきません。今年は3年目 に入りますから、何とかものにしてやろうと思っているんですが。
 この農法が確立されると、実は都市で週末農業で稲づくりができてしまうんです。(p.94)
 この本にもSRI農法の詳細は記述されていない。
 興味がある方は、自分でネットで調べてください。

 

 

【宮城産の牡蠣】
 畠山さんは、宮城県気仙沼でカキやホタテの養殖をしている。
畠山  私の場合も、最初に支援を申し出てくれたのは政府ではなかったですね。実はフランス料理のコックさんたちの集まりだったんです。アラン・デュカスという世界的に有名なシェフがパリでチャリティー・パーティーを開きそこで集めたお金を寄付してくれました。
 今、フランスで養殖されているカキの先祖は、宮城県で生産されている「宮城種」という種カキが輸出されたものです。(p.118-119)
 フランスではそれまで使っていたポルトガル産のカキが病気でやられてしまい、その後、「宮城種」が輸入されるようになったのだという。
畠山  私はフランスに渡ってカキ生産の実情を見てきたことがありますが、現地でカキ生産者に「日本の宮城県から来ました」と言うと、「フランスのカキを救ってくれたのは、宮城県産のカキです」と握手を求められました。
 それぐらい向こうの人は恩義を感じてくれていて、・・・中略・・・。(p.119)
 現在、フランスで食べられている牡蠣の先祖は、宮城の牡蠣って、ちょっと意外。

 

 

【『牡蠣と紐育』】
 その本(『牡蠣と紐育』)で知って驚いたのですが。18世紀の中頃まで、ニューヨークは世界一のカキの産地だったんですね。マンハッタンの貧しい人々はカキとパンだけを食べて暮らしていたそうです。
 現在では近代文明の象徴である摩天楼がそびえ立つあの街が、白人が足を踏み入れるまでは生物の宝庫で、自然の恵み豊かなエデンの園のような場所だったというんです。
 ハドソン川の水が流れ込むニューヨーク湾はカキの楽園で、カキ貝塚も見つかっているそうです。(p.124-125)
 「山は海の恋人」という標語に象徴される、山と川と豊かな漁場の関係は、畠山さんなどの努力によって多くの人々が知るようになったのだけれど、高層ビルを建ることが出来るのはマンハッタンが岩盤で出来ているからという単純な土木系の知識ゆえに、ニューヨークがかつて生物の宝庫であったという事実に、やや当惑してしまった。
 要は、地盤が岩盤かどうかは関係なく、ハドソン川が流れ込むアッパー湾周辺のニューヨークは、圧倒的に豊かな自然の宝庫だったということ。
 東日本大震災の後、滋養を多く含んだ山からの水が川となって流れ込む気仙沼の周辺の漁場は、ほぼ回復しているらしい。

 

 

【相模湾のブリが激減した訳】
畠山  かつて、神奈川県の小田原ではブリが大量に獲れたといいます。1954年頃までは、年間約60万匹もの水揚げがあったそうです。・・・中略・・・。
 それが今では、小田原のブリの漁獲量は年間600匹にまで減っています。それはなぜなというと、丹沢の山から相模湾に流れ込む3本の川が、すべてダムで止められてしまったからです。横浜市や川崎市に水を供給するためという理由で、森と川と海の関係を断ち切ってしまった結果、相模湾はえさがわいてこない海になり、魚が寄りつきにくくなったわけです。(p.127)
 家庭に電力を供給できる程度の自家発電機は、もうかなり前に出来ている。利権を持つ連中の邪魔がなければいつでも量産可能である。大規模な火力発電所や水力発電所、ましてや原発などなくても、それ以上の大規模発電システムもすでに実現可能。これで海水から飲料水を創ること等、お茶の子さいさいである。ダムはいらない。
 人間が、いつまでも、このような自然に負荷をかけないエネルギーシステムに切り替える意思を示さないなら、いずれ自然が強制的に人間の側をリセットするだろう。

 

 

【リアス式】
畠山  私は今の活動を始めてしばらくするまで、うかつなことに、リアス式海岸という言葉の本当の意味を理解していませんでした。三陸海岸で生まれ育ったにもかかわらず、「リアス式とは複雑に入り組んだ湾のこと」と覚えていた程度で、湾はてっきり海の波が削ってできたものだとばかり思っていたんです。
「リアス」の「リア」の語源はスペイン語のリオ(川)であり、「リアス」とは「潮入り川」という意味です。つまり、この湾はもともと川が削ってできた地形であって、海は後から入って来たんです。(p.141)
 へぇ~。
 横道に逸れてしまうけれど、
 だったら、只今オリンピック開催中のリオデジャネイロは? と思ったから調べてみたら、
 ポルトガル語で、Janeiro(1月の)の Rio(川)、と言う意味になるとか。
 だったら、毎月、地名を変更せにゃアカンのとちゃう?

 

 

【勉強が嫌いな人ほど学問に向いている】
養老  学問とは本来独学です。・・・中略・・・。学生には、自分で学ばなければ身につかないのだということを教えなくてはいけないんですが。
 日本は教育制度が行き届いているだけに、その考え方がない。・・・中略・・・。
鋸谷  勉強は、嫌いな人でも必要に迫られれば身につきますしね。私は勉強はあまりできなかったのですが、必要なことは勉強しましたし、理解できるようになりました。不思議なものです。
養老  勉強が嫌いな人ほど、独学に向いているんですよ。(p.165)
 学校で学ぶことより、社会人になってから学んだことの方が身についているのは、誰だって体験して知っているだろう。民間企業に就職した社会人は、必要に迫られてみんな自分で学んだのである。そんな体験すらしていないのは公務員だけだろう。
 好きだから嫌いだからとかいう戯言を自主性尊重というお題目に当てはめて使っている教育者(公務員教師)というのは、学問の在り方すら分かっていないウルトラ・タコ人間なのである。
    《参照》   『生き方の演習』 塩野七生 (朝日出版社)
              【「好きなことだけ・・」という生き方】

 

 

【8階建て集成材ビル】
養老  スウェーデンでは集成材だけで8階建てのビルを建てています。(p.187)
 思わず「ホント?!」と思ってしまった。
 いくら構造計算が可能な集成材だからといっても、そこまでできているとはビックリである。
    《参照》   『木の家の選び方5つの法則』 田鎖郁男 (ハウジングエージェンシー)
              【「構造計算」が可能な、新しい木の家づくり】

 

 

【戦後の日本の山は緑を取り戻している】
養老  戦後の日本はどうだったかというと、外材輸入によって暗黙のうちに国内の森林を保護してきたんですよ。日本の木材需要はすごく大きいにもかかわらず、木材自給率は27%にすぎず、7割を外国からの輸入でまかなっているんですから。外国人の中には「世界の森を荒らしているのは日本人だ」と言う人もいます。
鋸谷  まさにそうです。「日本の山は荒れている」とよく言われますが、事実は逆です。日本の自然林に関していえば、1000年ぶりぐらいに緑の豊かさを取り戻した状態になっています。植生的にも復活しています。
養老  だから、シカが増えているんですよ。
鋸谷  昔の日本では燃料として山の木を切っていましたから、里山の多くは裸山でした。(p.189)
 50年ほど前までは、都市近郊で山を持っている家は、“お大尽だった”らしいけれど、石炭や石油へのエネルギーシフトで、山林所有のメリットは消えた。でも、里山の禿げは治った。
 外材輸入による国内山林保護って、誇れない。地球全体でみれば、日本は明らかに悪役側である。
 石油や石炭を用いた公害抑止高効率発電技術力は、いずれも日本が世界一であることは明らかだけれど、どれも地球文明全体にエポック・メイキングなエネルギーシフトを起こす上では、返って足を引っ張っている技術である。
    《参照》   『破綻する中国、繁栄する日本』 長谷川慶太郎 (実業之日本社) 《後編》
              【石炭火力発電所】

 

 

【林業の合理化】
鋸谷  グーグルマップを使えば施業の境界管理もきちんとできるようになります。長野市森林組合なんかはコンピュータで管理していますね。
養老  そんなふうに、今までのやり方に漫然と従うのではなく、現場で本気で考えれば、林業はさらに合理化されていくのだろうと思います。(p.193)
 山林の間伐作業では、南側斜面は冬場に回すという施業段取りでも、かなりの合理化ができると書かれている。
 ほとんど商売にならなかった国内林業が、やり方次第、コンピュータの活用の仕方次第で、多くの利益を生むことが可能になっている。
 標高表示もできるグーグルマップを使って、山間地帯の地形をさまざまな角度から数値化してみれば、林業目的以外にも、重大な発見に遭遇するんじゃないだろうか? 農学部林学科でなくても理系の学生が、特定地域を元に卒論のテーマにしてやってみれば何か面白い発見があるかもしれない。

 

 

<了>