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 近年、「シェア(分かち合う)」という言葉を頻繁に耳にするようになった。誰であれシェアハウスという言葉を何度か耳にしているだろう。この本を読めば、シェアハウスに入居する人々について、読者の予測が違っていることに気づくことだろう。人とのつながりを欲していたり、個人的な体験や感想を「シェア」しあうコミュニケーションはとても大切なことと考えている人が、この本に書かれている内容を読めば、「シェアハウスに住んでみたい」と思うかもしれない。2011年2月初版。

 

 

【転轍機となる小さなトレンド】
 彼(マックス・ウェーバー)はプロテスタンティズムが原因となって資本主義という結果を生んだとは言っていない。プロテスタンティズムは、資本主義が発展するための転轍機となったと言ったのである。転轍機とは線路の方向を変える小さな機械である。しかしそれは、てこの原理で重い線路を動かすことができる。
 私のようなマーケッターが、新しい小さなトレンドを探す意味はそこにある。(p.25)
 この本を古書店で見つけた時、2016年の今日では確かな潮流となっている「シェア」に関する社会的な動きが、5年も前に既に書籍としてまとめられ出版されていたのに気づいて、正直なところ驚きだった。故に、転轍機を喩えにする著者のプロフェッショナルとしての眼を「さすが」と思う。

 

 

【シェアだからこそ伸びる市場】
 マイカーとして買えるのは200万円が限界だが、5人で共有するなら1000万円の車を買うという可能性もある。実際、東京都心のあるマンションでは、高級外車のアウディをカーシェアリングしている。
 プロ仕様の調理器具、高級な食器・・・中略・・・液晶プロジェクター・・・中略・・・なども自分で買うのは躊躇するが、数世帯で共有するなら、多少高額でも高機能な物を買いたいと思うだろう。シェアだからこそ伸びる市場はあるのだ。(p.39)
 近年、レンタカーで高級車の需要はかなり多いらしいけれど、ここにあるのは、マンション住人同士が共同購入するシェアの例。これからは、マンション販売側が、カーシェアリング用の高級車を含んだマンション販売をするということもあり得るだろう。
 シェアハウスは、一つの大きな家族のようなものであるために、単独世帯がたくさんいるよりも、付加価値の高い物、かつ高性能で環境にも負荷の少ない最新の製品を売ることができるのである。これはまさにエコノミーにもエコロジーにもよいことだろう。(p.38)
 ワンルームのアパートなら一口ガスコンロと小さな冷蔵庫を複数用意することになるけれど、シェアハウスなら一般家庭並みかそれ以上のダイニングセットが選ばれる。女性専用のシェアハウスなら、広い面積の高級ダイニングを用意するということもあるのだろう。
 メーカー側は、シェアという潮流を無視すると、将来の市場予測を誤ることになりかねない。

 

 

【シェアハウスの居住者】
 シェアハウスというと、おそらく読者の中には、先ほどの例のように、不況で所得が減った若者が、一人で部屋を借りられないからシェアハウスを選ぶのだと思うだろう。もちろん、経済的な理由でシェアハウスを選ぶ者はいるが、もっと大事なことがある。
 たとえば『東京シェア生活』で紹介されている高円寺にあるシェアハウスは、・・・中略・・・。物件の古さと自室の面積から言えば割高だ。・・・中略・・・。にもかかわらずシェアハウスに住むのは、シェア生活そのものが面白いという価値観があるからだ。
 だから、・・・中略・・・シェアハウスの居住者は「成熟した単独世帯」だという。それは「普通の一人暮らし」に飽きた人であり、一定の経済力があり、一定の社会性があり、複数年にわたる一人暮らしの経験があり、安さではなく良質な体験を求め、住居のデザインや品質にも刺激を求める人たちだという。(p.78-79)

 最近のシェアハウスは、・・・中略・・・入居者が自然に自室から出たくなり、リビングなどで自然に出会い、交流が生れやすいようにしているのである。(p.79)
 職業、年齢、性別などバラバラの人々が集った方が、圧倒的に現実生活の幅が広がることを、若者たちが理解しているかどうかしらないけれど、「成熟した単独世帯」が集うシェアハウス内でのコミュニケーションは、面白い人生展開を生む可能性が高くなるだろう。同じ屋根の下に住む異質な者たちと、共有スペースであるリビングをいわばサロンとして活用できるからである。
    《参照》   『「人生二毛作」のすすめ』 外山滋比古 (飛鳥新社)
              【バラバラ人間たちが集う会】

 

 

【シェアハウスの安全性】
 シェアハウスなら、ワンルームマンションのように自分の部屋のドアが直接外部に面していることはないから、防犯上安心だ。仮に泥棒でも、火事でも、何かあったら大声を出せば誰かがかけつけてくれるという安心感がある。
 実際、ストーカー被害にあったことのある女性がシェアハウスに引っ越すという例も少なくないらしい。(p.88)
 シェアハウスだって、個室部分にはちゃんと鍵があるのだから、シェアハウスの安全性に関するメリットは大きい。

 

 

【テーマ別シェアハウス】
 シェアハウスは今後中高年向け、特に別離、死別した中高年向け、あるいはシングルマザー向けなども増えるのではないかと言われているが、もうひとつの方向としては、よりテーマ別のシェアハウスが増えるという予測がされている。
 テーマ別シェアハウスとは、趣味別に、それが好きな人が集まったシェアハウスである。(p.93)
 シングルの中高年は、一人暮らしを続けてデイサービスに通うようになるよりは、早い段階でシェアハウスに住むことを選択した方が、生きがいとしても圧倒的に相応しいだろう。日頃から同じ屋根の下に住む話し相手さえいれば、脳の劣化に対して最強の武器であるコミュニケーションが維持できるのだから、生涯デイサービスなどとは無縁で済むことだろう。
 テーマ別のシェアハウスとしては、共同耕作地付きシェアハウスがある。昨年、都内近郊の農地付き賃貸住宅の入居予約が数年待ちという状況であることがテレビ番組で報道されていた。その番組を思い出してのことなのだけれど、今は放射能流出を止められない福島第一原発問題もあるから、山梨県や長野県の市町村行政や賃貸住宅業者は、専業農家と耕作コラボ提携した共同耕作農地付きのシェアハウスを作ってインターネットで募集したら、中高年の入居希望者でタチマチ満杯になるだろう。いや、若者で埋まってしまうかもしれない。

 

 

【知財のシェア型ライフスタイル】
 有力ベンチャーキャピタルの創業者によれば、「大都市には人と人のつながりの重要性を理解する住民が多く、サービスを生む土壌になる」という。・・・中略・・・。
 こうしたことを考えると、シェアハウス、シェアオフィス、コワーキングといったシェア型のライフスタイル、ワークスタイルは、新しいビジネスを産むインキュベーターになる可能性が大きいと言える。行政も、シェアを促進、支援するような施策を打てば、地域振興にもなるだろう。(p.99)
 ビジネスマンたちは、社内のみであれ互いにコミュニケーションすることの重要性をよく知っているし、異業種交流によるメリットも良く知っているから、上記のような発想は普通に出てくる。
 チャンちゃんはビジネスマンをやめて8年になるけれど、今でも、違う発想や見解を仕入れるために本を読んでいるのだし、それでは飽き足らずに、わざわざいろんな場所に出かけている。なにせ、地方県の地元の書店に行ってみればその陳列図書状況から知の貧困は一目瞭然で、これでは地元のことしか知らないビジネス発想ゼロ人間が殆どであると思わざるを得ないのだから、そうせざるを得ないのである。
 また地方(痴呆)行政職員は、椅子に座っているだけで満額の給料が保証されることに胡坐をかいているような人々ばかりだから知的向上心はほぼ期待できず、やはりビジネスの現場を知らないはえぬき職員が殆どらしいから社会の変化にすら興味を持たないだろう。これでは、とうてい地域振興のためのアイデアなど出やしないのである。

 

 

【シェアハウスの拡大予測】
 シェアハウスは今のところは未婚女性の住居形態として好まれているのである。
 シェアハウス業界では、強気の予測としては、単独世帯の三割がシェアハウスに住むという予測もあるそうだが、私の調査の結果はそれを裏付けている。リクルート住宅総研の調査によると、ニューヨークの25~34歳〔男女合計、未婚既婚合計〕は約2割が、ロンドンでは3割強が今現在ルームシェアで暮らしているそうだ。そういうことから考えると、東京でも単独世帯の2割くらいがシェアハウスに住むようになったとしてもおかしくはないだろう。(p.136-137)
 ルームシェアとシェアハウスは、金額的にも設備的にも内容が大分違うけれど、日本人の場合、ルームシェアはほぼ伸びないだろうから、シェアハウスにそのまま置きかえて数値予測しているらしい。

 

 

【シェアハウスに住みたい人たち】
 このようにシェアハウスに住みたい人たちは、いろいろな町、いろいろな人に関心がある人たちである。(p.157)
 そう、ひきこもり傾向を改善しようと意気込んでいる人ではなく、最初からそこそこオープンな性格で、人や町やその他など、興味の幅が広い人であることは間違いないだろう。
 日本は戦後ずっと、フローの豊かさを追求してきたけど、今、ストック型社会に移行しつつある。建物もそうだし、人間の知識や経験も、寄付講義などでシェアできる。歳をとってくると、自分の経験を伝えておきたくなるから。(p.180)
 チャンちゃんがこの読書記録のブログを書いている理由も、まさにこれ、不特定多数にシェアすることが目的である。
 チャンちゃんは大学生時代、大学の正門から徒歩わずか3分くらいの所にある小さな一軒家(家賃はたったの2万円だった)に住んでいたけれど、そこは地の利ゆえに不定期にシェアハウス(というか雀荘)になってしまっていた。
 当時は、出席しないと単位をくれない授業以外の授業は殆どパスして、自分の読みたい本を読むだけの、今と同じような生活をしていたけれど、当時も今もオタク系のヒキコモリではない。呼んでもいない奴らが「麻雀しようぜ」と勝手に上がり込んできた時は、「またか・・」と思いつつ、始まってしまえば大抵朝まで半分以上自分でしゃべっていたように思う。読んだ本の内容を、自分なりに表現してみる機会の場として活用していたからである。
 シェアハウスというものも、単に空間をシェアしているのではなくて、いろんな人の経験、知識、人生を、コミュニケーションを通じてシェアしているんですよね。自分の世界が広がることが、シェアのいちばんのメリットだと思います。(p.180)

 欧米において知を高めたサロン的な用途が、シェアハウス市場の、主たる動因になるだろう、ということ。

 

 

【シェアハウスの出現は市民社会の成熟の表れ】
 さほど大きな資本も持たない若い人たちがシェアハウスをつくったりして、共同利用部分を埋め始めた。これは市民社会の成熟だろうと思うんですよ。
 50年前の、『三丁目の夕日』の時代に集団就職してきた若者には資本はない。知識もない。こうやったら自分たちで共同利用できるものがつくれるんじゃないかとは想像だにできなかったはずです。それが今の若者にはできる。(p.228)
 確かに、50年前と現在では、体験や経験の密度がまるで違っているだろう。50年前、海外を体験する若者は稀だったけれど、今は、一度も行ったことのない人の方が稀な時代である。世界の複数の都市の有り様を見てくるだけでも、都市発展に関する時間軸の前後を知ることができるのだから、多くの若者はオッサンやオバサンよりはるかに豊かな発想土壌を持っているのである。
 ただ、いかんせん、前例踏襲しか脳のない頭コンクリのオッサンたちがのさばっている、閉鎖的な痴呆(地方)行政の現場では、若者や海外から移住してきた人々の発想や活力を活かそうとする気配はほぼない。知財を有する人材を活かしているところなら、地域を変えるためのアイデアなどいくらでも出るのだから、椅子に座って時間を空費しているだけの公務員庁舎になどなりはしないはずである。
    《参照》   『途上国から見た日本』 小森毅 (文芸社) 《後編》
               【国際協力と社会造り】

 

 

【消費に求める価値が変わる】
 人は消費ではつながれない。場所、物、人の知識、経験、労力などを共有したり、一緒に使ったりすることで、人はつながることができる。消費をしなくなるのではない。消費に求める価値変わるのだ。そういう時代の転換を本書を通じて少しでも感じ取っていただけたら幸いである。(p.232)


 

<了>