《前半》 より
 

 

【小さい組織の時のやり方を維持する】
 グーグルは大会社になっても創業時のカルチャーをそのまま踏襲し、何でも自分の手を使ってやる人たちの集まった小さなチームが、それぞれプロジェクトを進めます。巨大になっても機動性が非常に高い、身軽な組織を目指しています。
 間接部門は極端に少なくし、一人あたりの生産性が高い状態で、疾走する。大企業に長く勤めたあとグーグルの営業部門にスカウトされた人が 「出張の航空券も全部自分で手配しなければならない」 と、その徹底した行動重視にあきれていましたが、あえてそういう姿勢を示して 「小さい組織のときのやり方のまま疾走する」 スタイルを維持しているのでしょう。(p.216-217)
 実際のところ、部門化・分業化が進むとそこで働く人間には返ってストレスが溜まるし、個人の才能は生きなくなってしまうはずである。製造業においても、分業によるライン生産方式より、一人で全部仕上げるセル生産方式の方が効率が高いという結果が出ている。
《参照》   『ソニー中村研究所 経営は「1・10・100」』 中村末広 日本経済新聞社

                【ライン生産からセル生産へ】

 グーグルのように冴えた人々ばかりが集う企業だからこそ、 “何でも自分の手を使ってやる” という方法が活きるのだろう。狭い作業範囲が適するのは、それほど知力に秀でていない人々の場合である。

 

 

【日本語圏特有の匿名文化】
 ネット空間において英語圏と日本語圏で共通しないのが匿名性の問題だという。日本は過度に匿名の側に偏っている。その原因について、以下のように説明している。
 私がアメリカに来て最初に実感したのは、どこに行っても常に 「お前は何者だ」 と問われることでした。お前は何をやっている人間で、どんな実績があり、これから何をしようとしているのかと。
 アメリカで個として活きていくには、隠れているわけにはいかない。実社会であろうと、ネット社会であろうと、実名で、顔を上げて、発言と行動に責任を持ちながら、自分をはっきり押し出していく姿勢が必要です。
 日本人は、社会に対して、個としての自分を明確に提示していく習慣があまりありません。「自分が何者か」 よりも、「自分の所属はどこにあるのか」 に重きが置かれてきたからです。(p.226-227)
 日本人の場合は、社会的流動性の高い英語圏と違って、仕事に直結しない領域でつまりお遊び感覚でネットを使っている人々が圧倒的に多いということだろう。それは多様性と豊饒を予感させるハイポテンシャルな環境ではあるけれど、混沌を生み腐敗を許容しやすい環境でもある。
 匿名性は、長短を内に含みながら多くの可能性を宿しているけれど、短所の側に流れやすい傾向があるのは明らかである。大衆はそれほど高貴なものを欲する性を有していないのだから。
 この 「匿名性の方に偏った」 日本語圏ネット空間に特有の文化が、ネットの持つ豊饒な可能性を限定し、さまざまな 「良きもの」 が英語圏ネット空間では開花しても日本語圏では開花しないのではないかと、最近はそんな危惧を、強く抱いています。(p.223)
 全く同感。
 自己責任を問われないという前提で書き込まれている匿名の意見や、下半身関連の煩わしいアクセスを繰り返す人物や業者というのは、知的にも道徳的にも劣っているが故に、愚劣な行為を継続するのであるけれど、彼らは、有用で高貴な用い方を欲している人々をとことん辟易させている。明らかに日本のネット環境の良識的な利用を妨げているのである。
 このような劣性利用者を放置していては、ネット環境が高度な精神活動を司る前頭連合野という脳の部位の外部化として展開することなどとうてい出来ないだろう。個人的な倫理問題としての扱いでは無意味である。ネット環境を整備するエンジニアのみなさんが有用な策を講じなければいけないのである。
 eベイ創業者のピエール・オミディアは以下のように言っている。
 良い人々がより良く振舞えるようにする環境づくりを、本気で考えなければならないと思う。同時にネガティブな人々のもたらす影響を弱めて、小さくすることも重要だ。 ――― ピエール・オミディア (p.231)

 

 

【パブリックな意識】
 英語圏のネット空間は、「パブリックな意識」 にドライブされて加速度的に変化しているといってもいいと思います。大学や図書館や博物館や学者コミュニティなど、知の最高峰に位置する人々や組織が 「人類の公共財産たる知を広く誰にも利用可能にすることは善なのだ」 という 「パブリックな意識」 を色濃く持ち、そこにネットの真の可能性を見出している。その感覚が日本語圏のネット空間にはものすごく薄い。(p.230)
 李登輝元台湾総統は、かつて日本人から学んだ一番重要なものとして “公の精神” を上げていたけれど、世界中で日本ほどこの精神を衰退させた国はないのではないだろうか。
 それに相応しい見識があるとも思えない政治家や、公的資金を乱用している公務員の特別会計に関する実態をニュースで見るにつけ、その自覚なき愚かさの連続にただただ呆れるばかり。公的な職にある人々には “公の精神” など名ばかりで意識の中には全然ないらしい。考えているのは自分の権益と自分の生活だけだろう。
 日本のネット環境創出に関わっている、技術者のみなさんは、政治家や公務員よりはるかに高く冴えた知性を持っているはずである。シリコンバレーの技術者と同様に、最高の倫理観をもって日本社会を牽引してくれることを期待している。
 

  梅田望夫・著の読書記録

     『フューチャリスト宣言』 梅田望夫・茂木健一郎

     『ウェブ時代 5つの定理』

     『ウェブ進化論』

     『ウェブ人間論』

 

<了>