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 この対談を読んで、一番重要と思える単語を挙げるとするなら“志向性”だろうか。単に未来志向という連結用語を連想させているのではない。もっと根本的なことである。2007年5月初版。

 

 

【ビジョナリー不在の日本】
茂木  アメリカには、日本では評価されないし頭角を現しづらいタイプの人、つまりビジョナリーがいますよね。自分ですべてをこなすわけではないけれど、ビジョンを示す。
梅田  自分では手を動かさなくても、駄目なものは駄目と言って、きちんと方向を示して全体を動かしていくタイプの人はいますね。日本の現場主義はこういうタイプを嫌う傾向があります。
茂木  そういう人がいないことが、何度にもわたる日本のIT敗戦の原因ではないかと思うんです。(p.44)
 ビジョナリー(未来を示す者)は、現場で汗を流すタイプではなから、真面目が高く評価される日本の現場では、ビジョナリーやアイデアマンなんて全く評価されない定めである。 「私はこれだけやっている。なのに君は・・・」 このような判決文を告げられて終わりである。

 

 

【パイオニア】
茂木  日本でいう競争原理って、たとえば大学でいえば、論文を点数化して何点以上だと教授昇進といった内規があったりする。でも石井(裕)さんがMITのテニュア(終身教授資格)をとったときに、どういう審査をされたかというと、「それまで誰も手をつけていない分野を切り拓いたかどうか」ということを、世界中の影響力を持つ10人くらいの人からのヒアリングにもとづいて判断されたのだそうです。(p.45)
 西へ西へと新天地を開拓していった国と、島国とでは、こうも違う。

 

 

【本当に必要なバックアップ体制】
茂木  日本発で世界的なパラダイムを確立できるものってありますかね?
梅田  これからはあると思いますね。それは若い世代からしかでない。 ・・・(中略)・・・ 。
茂木  梅田さんは、社会的なバックアップ体制が必要だと思われますか?
梅田  バックアップ体制と言ったときに、官僚的なロジックでお金をいくら出して、というのは全然だめで、本当に必要なバックアップ体制って、社会における精神なんですよね。欠点を含む小さな芽に対して「良き大人の態度」が取れるかということ、ここが一番のボトルネックです。(p.52)
 世界的なパラダイムを生み出せるような突出した才能とまで言わなくとも、通常の企業活動において優れた成果を上げているところは率先して、若者を前面に出して年配者は背後で支えるような活動をしているはずである。ところが、これと対極的なことをやっているのが天下り利権をもつ官僚組織である。老害人罪連中が主導権を握っていると、費用削減と言われたら「人件費の安い新規採用を削る」と言うのだから驚きである。新時代を担う若者たちのためにバックアップ体制をつくるどころか、単なる老獪な権力者たちによる貪欲体制の死守である。クソ官僚どもが日本を滅ぼすだろう。

 

 

【ポジティブなビジョンを与えること以外に教育はない】
茂木  僕の倫理観としては、基本的にポジティブな気持ちを広げるような感じにしたい。イヤなことは書かない。
梅田  ブログは教育メディアと限定されるわけじゃないし、自己表現でもあるけれど、若い人がそれを読んで勉強する、という意味が大きいと思います。結局教育って、ポジティブなものを与えるということ以外に何の意味もない。
梅田  ポジティブなビジョンを与えること以外に教育はない。(p.93)
 そう・・・。
 チャンちゃんは社会に対してネガティブなこと(しかし事実)を時々書いている。これについては、既存社会の実態をきちんと知らせるという目的でしていること。既成権力の飼い犬であるマスゴミが伝えないことを伝えないことには、社会変革の端緒にすらならないからである。

 

 

【記憶のダイナミズムを成り立たせている志向性】
茂木  記憶のダイナミクスには、何に関心を払っているのかという志向性が重要な役割を果たしていて・・。
梅田  志向性がすべての始まりなんだ。
茂木  そう僕は思っています。特にネット時代においてはそこが非常にクリティカルです。サーチ・アンド・チョイスのチョイスの場面で、どういう志向性を持てるか、ということが大事だという気がするんですよね。(p.107-108) 
 サーチの段階で既に検索用語を選択しているのに加えて、志向性というマグネットに吸いつけられる内容が記憶のダイナミズムを成り立たせている。これは多量な情報を処理しなければならない仕事をしている人ならよくわかるだろう。
 志向性が薄れると選択するのもおっくうになるものだけれど、それって「選択無限」のこの時代にあっては、「生きた屍」になっちゃってるのと同じようなものである。
 志向性は意志の派生であるけれど、意志の実態は、電子・陽子・中性子という場合の陽子であり、それは正の電荷をもつ核であるからこそ電子を従えたダイナミックな体系を成立させているのである。太陽系に当て嵌めたら意志は太陽である。太陽が貧弱だったらそもそも太陽系は存在しないだろう。太陽を国旗にもつ日本人がフニャフニャだと世界はグチャグチャになる。日本人ひとり一人の意志が弱いと人生も世界も定まらない。

 

 

【ネットへのアクセスは基本的人権】
茂木  最近日本だと、ワーキングプアといって、たとえば年収200万円で家計を支えなくちゃいけないような人がクローズアップされていますが、どんな貧しい人でもネットへのアクセスは保障されるべきだと思う。だって、ネットにアクセスできなかったら、いまどき何もできないですよ。求職もできない、情報も集められない。ネットへのアクセスって、いまや基本的人権の一つだという気さえする。それこそ、ホームレスの人にネットへのアクセスを保証するソーシャル・プロジャクトをやるべきだと思います。(p.131)
 ハローワークだけではなく、各地方都市の公的施設に、一般に開放された端末がどれほど設置されているのだろうか。しかし、40代以上のひきこもりというか閉じこもり世代の中には、案外「インターネットなんて全然知らないし、知りたいとも思わない」と言っている人も若干いる。おそらくネックは接続費用だろう。公的にネットアクセスが保証されて全ての家庭にPCが提供されるようになることは、あるのだろうか? 殆ど意味もない様な土木工事に費やす莫大な費用があるなら、全世帯ネット化なんて簡単にできるだろうに。