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 副題にあるとおり “なぜ、我々は「志」 を抱いて生きるのか” について記述されている。
 240頁にわたる本だけれど、読みやすく、主旨が伝わりやすいよう、詩のように書かれている。通常の文章形式であれば100頁程度だろう。
 若者向けに書かれた本なのだけれど、著者の他のビジネス書の中にも記述されていることなので、リンクさせておいた。

 

 

【志】
 “志” という漢字は “士の心” と分解できる。 “士” の自覚なき人では、真正の “志” をもてないのだろう。では “士” とは、いかなる人物を指すのだろうか。

   《参照》  『あなたの「死にがい」は何ですか?』 草柳大蔵 福武書店
            【 「士」 なのか 「民」 なのか】

 

 

【死を忘れた時】
 我々が「死」 を忘れ、
 「不安」 と 「緊張」 から逃れた瞬間に、
 やってくるのは、不思議なことに、
 「安心」 と 「平穏」 ではない。
 「安逸」 と 「弛緩」 がやってくる。 (p.91-92)
 死と聞くと、不安に思い緊張する人が多いらしい。そういう人にはこの記述が分かりやすいのかもしれない。
 「死計」 という言葉があるけれど、これは著者が記述しているようなマイナス面を回避するためにこそ、先人たちが考え出した言葉だった。 “死生観” に通ずるのであろう。
 人間は、後がない状況におかれていないと精神は弛緩する。物に恵まれ豊かで快適な生活空間に生きている現代人は、よほど心して生きていないと、人生の意味などどうでもよくなってしまうのではないだろうか。だから、そのような環境下で生きる現代の若者たちを危惧する著者のような方が、若者たちのために、このような本を著してくれている。
   《参照》  『あなたの「死にがい」は何ですか?』 草柳大蔵 福武書店
            【『葉隠』の「常住死身 】
             ~【希薄になった 「死計」 】

 

 

【「生きる」 から 「生き切る」 へ】
 「生きる」 ではなく 「生き切る」。
 この 「切る」 という言葉に込められた思いがある。

 「悔いが無い」 という思い。

 ・・・(中略)・・・

 この 「生き切る」 という生き方を突き詰めていくと、
 かならず、その生き方が凝縮されていく。

 「この一日」 を生き切る覚悟から
 「この一瞬」 を行ききる覚悟へ    (p.98-98)
 「死生観」 も 「志」 という言葉も、結局のところ、 “現在” からさらに “今” へと収斂してゆくのである。この一点にフォーカスすることで、生の炎は燃え上がり、後悔など生じようも無い人生を完遂できるということである。
 過去は無い。
 未来も無い。

 あるのは、永遠に続く、いまだけだ。

 いまを生きよ。
 いまを生き切れ。   (p.105)
 これは、日本人が古来から尊んできた、実に基本的かつ根本的な生き方である。
 神道ではこれを 「中今の思想」 と呼んでいる。
 家に帰ってきたとき、日本人なら誰でも言っている「ただいま(唯今)」とは、このことである。
   《参照》   『どこまでも強運』  深見東州  たちばな出版
              【神道の風土】

 

 

【人生の意味・仕事の意味】
 旅人が石切り職人に出会って、何をしているのですか? と聞いたところ、一人の職人は、「このいまいましい石を切るために、悪戦苦闘しているのさ」 と答え、もう一人は、「いま、私は、多くの人々の心の安らぎの場となるすばらしい教会をつくっているのです」 と答えた。
 この寓話を聞いて、君は、何を感じるだろうか。
 この寓話は、大切なことを、我々に教えてくれる。

 どのような仕事をしているか。
 それが、我々の 「仕事の価値」 を定めるのではない。

 その仕事の彼方に、何を見つめているか。
 それが、我々の 「仕事の価値」 を定める。 (p.143)
 
 最澄の 『国宝論』 は、これと同じことを言っている。
 「一隅を照らす、これ国宝なり」

 たとえ、この世の中の片隅を照らす、ささやかな仕事でも、
 その仕事に心を込めて取り組むならば、
 それは、国の宝と呼ぶべき、尊い仕事である。 (p.146)
  《参照》  『なぜ、働くのか』 田坂広志 PHP研究所
         【「仕事の思想」の第二の原点:「一隅を照らす、これ国宝なり」】

 

 

【人生の意味】
 『夜と霧』 の作者・フランクルの言葉として以下の文章が紹介されている。
 自分の人生の 「意味」 は、何か。
 あなたは、人生に、その 「意味」 を問うべきではない。
 そうではい。
 人生が、あなたに、「意味」 を問うている。
 あなたは、「人生」 から、深く問いかけられている。
 あなたの人生の 「意味」 は、何か。
 その問いを、問いかけられている。  (p.170-171)
 あなたは、人生劇場を客席から眺める観客ではない。
 あなたは、生まれた時から人生劇場の舞台に立っている。
 しかもエキストラなどではなく “主人公” として。

 

 

  田坂広志著の読書記録

     『未来を拓く君たちへ』

     『未来の見える階段』

     『これから働き方はどう変わるのか』

     『複雑系の経営』

     『創発型ミドルの時代』

     『なぜ、働くのか』

 

<了>