イメージ 1

 著者はバリバリの社会人なのに、この本には、宗教家が書いた本であるかのような雰囲気がある。
 それ故にこそ良書であると、私は思う。

 

 

【「仕事の思想」の「三つの原点」】
「死生観」 とは、「生死」 という深みにおいて観ることです。
「世界観」 とは、「世界」 という広さにおいて観ることです。
「歴史観」 とは、「歴史」 という流れにおいて観ることです。  (p.19) (p.130)
 冒頭付近にこのポイントが書かれているのであるが、これだけで分かった気になって読まない人というのは、畢竟するに 「縁なき衆生」 なのである。そうでないならば、自らの教養のなさを 「そんなことか・・・」 という言葉で露骨に表現していながら、それに気づけていない、かなり重症の愚者なのであろう。

 

 

【「仕事の思想」の「第一の原点」 : 「死生観」】
過去に優れた仕事を成し遂げてきた経営者は、
やはり深い 「覚悟」 と 「思想」 を持っています。
そして、その多くは、若き日に、
「生死」 の深みを見つめる体験を得ています。 (p.20)
つまり 「死生観」 を深めて生きる覚悟と思想を持たねばならないと述べている。
 「死生観」 と 「生死観」 は違う。死を見据えて生の意味を見出すのが 「死生観」 である。このような生き方は、草柳大蔵さんが書いていた。「死計」 という内容と全く同じことである。
   《参照》  『あなたの「死にがい」は何ですか?』 草柳大蔵 福武書店
 現在は高齢となっている優れた経営者達は、「投獄」、「戦争」、「大病」などで 「死生観」 を確立していた。しかし、平和の続いている現代という時代に生きている我々は、「死生観」 を確立しにくい。その場合の具体策を知りたい人は、この本を買って読めばいい。

 

 

【「仕事の思想」の第二の原点 : 「一隅を照らす、これ国宝なり」】
最澄の言葉に、「一隅を照らす、これ国宝なり」 という言葉があります。
我々が使命感を持って取り組む仕事は、必ずしも大きな仕事である必要はない。
一人の人間がどれほど大きな仕事に取り組むかは、天が定めることです。
我々がなすべきは、まず、日々の仕事に心を込めて取り組むこと。
そのことによって、「良き仕事」 を残すことです。
 この文章に続いて、以下の記述である。
しかし、そのとき大切なことがある。
それは、心の中で、何を観ているかです。
たとえ 「小さな仕事」 であろうとも、
心は「大きな世界」を見ている。
そのことが大切なのです。
だから、「世界」 という広さにおいて観る。
そこが、「仕事の思想」 の第二の原点です。
 Act locally think globally. と言う標語のようによく語られる一文があるが、この一文を補強するのに、最澄の言葉、「一隅を照らす、これ国宝なり」 は最適である。

 

 

【「仕事の思想」の第三の原点 : 人類はどこへ向かおうとしているのか】
いま人類が直面している 「情報革命」。 (p.117)
では、「情報革命」 の本質は何か。
それは 「情報民主主義」 の革命です。 (p.118)
 歴史的な流れの中でこの 「情報民主主義」 を書いている本に、アルビン・トフラーの 『第三の波』 という本がある。
また、例えば、「知識資本主義」。 
それは、「ナレッジ」 と呼ばれる高度な 「知識」 こそが、
最大の 「資源」 であり、「資本」 であり、「価値」 となる時代です。  (p.120)
 この記述内容を著者に思いつかせた原書籍は、おそらく堺屋太一さんの 『知価革命』 であろう。
 著者は、「情報民主主義」、「知識資本主義」 という2つの用語で 「歴史観」 を定めているわけではない。
これまでの 「人類の歴史」 を学ぶだけではなく、
その深奥に 「人間の意味」 を問うことです。
 過去・現在・未来が一直線上に並ぶのであるならば、未来予測は容易である。しかし、人類のエネルギー消費量を一つの指標としてみただけでも、一直線上どころか指数曲線的推移となっているのは周知のことである。
 経済予測でも、ノーベル経済学賞を受賞した鋭才2人が運用していたファンドが潰れた事例もあるし、近年の未来予測は誰がやっても絶対確実といえない。そんな現在世界状況だからこそ、著者は、「人間の意味」 という基本的な問いに戻ることが大切であると考えているのであろう。

 

 

【知性とは】
いま世の中の多くに方々が、こう思っています。
「知性」 とは、「答えを見つける力」 である。
しかし、そうではありません。
それは、「問い続ける力」 です。
答えのない問いを、問い続ける力です。 (p.153)


生涯をかけて問い続けても、答えなど得られぬ問いを、
それでも問い続ける力。 (p.155)
 著者は、実践ビジネスを含んで、広範な領域の本をいくつも著している。著者は、現在56歳の方であるから、先輩ビジネスマンや宗教家の著作の多くを読んで、自分なりに咀嚼してこの本を書いていることがよく分かる。答えのないビジネスの世界に生きている人々は、答えを求めて常に努力しているのである。
 答えのある受験勉強を終えた大学生は、答えがないのが普通である現実世界へ向けてテイク・オフするために、できるだけ早い時期に、この著者の本を読んでおいたほうがいいと思う。
 
 

  田坂広志著の読書記録

     『未来を拓く君たちへ』

     『未来の見える階段』

     『これから働き方はどう変わるのか』

     『複雑系の経営』

     『創発型ミドルの時代』

     『なぜ、働くのか』

<了>