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 買い置きしてある古書の棚の中からポヨヨ~ンとこの本を選び出した。1997年初版のこの本を読むのは初めてだけれど、大学時代に読んでいたいくつかのニューエイジ・サイエンス系統の書籍(上掲の写真)が言及されていたので、懐かしみつつ読んでいた。

 

 

【「経営」と「現代科学」の「知」】
 あとがきに、以下のように書かれている。
 そもそも、時代の最先端を走っているのは「経営」であり、「現代科学」は、その歩みを遅れて追いかけているに過ぎない。それが著者の認識である。 (p.216)
 ・・・中略・・・。
 それゆえ、本書は、現代科学の最先端の「複雑系」という理論を、「経営」に応用することを試みたものではない。
 試みたことは、その逆である。
 本書は、「経営」 の世界に古くからある知恵によって、現在の「複雑系」というキーワードを読み解こうとした試みである。

いま、経営者こそが「知」を語るべき時代なのである。 (p.217-218)
 この記述は、読書傾向バラバラの私が、一番 “おもしろい” と感じているジャンルが、ビジネス関係であることの必然性を示してもいる。

 

 

【「機械的世界観」と「要素還元主義」】
 近代科学は、これまで、「要素還元主義」(reductionism) と呼ばれる方法を採ってきた。それは、まず、研究の対象を細かい要素に還元し、それぞれの要素を詳しく「分析」した後、これらを「総合」することによって、対象の全体像を理解するという方法である。すなわち、「分析」と「総合」とは、この近代科学の「要素還元主義」を支える基本的な認識手法であった。そして、この「要素還元主義」とは、世界を “巨大な機械” とみなす「機械的世界観」とともに、近代科学の「デカルト的パラダイム」を支える二つの柱であった。(p.31)
 この認識手法の限界は、「総合」という手法が、「分析」した結果の “足し合わせ” 以上の内容を獲得していないことにある。だから、『還元主義を超えて』とか『ホロン革命』などの著作が必然の結果として登場してきたのである。

 

 

【「複雑系の知」】
 「要素還元主義」は、還元された要素単位の「単純系」を解析する手法。故に、未来に対して「結果」を定めようとする。これに対して、「複雑系の知」は「未来は開放系である」 という思想に元づいている。
 「未来」とは、文字どおり「未だ来たらず」であり、その「結果」は誰も定めておらず、何も定まっていない。それが「複雑系の知」が我々に教える重要なメッセージにほかならない。
 それゆえ、「複雑系の知」により生まれてくる新しい経済学は、これまでの伝統的経済学のように「市場の均衡」を論じるものではなく、むしろ「市場の進化」を論じるものとなるだろう。 (p.53-54)
 従来の経済学は、「予定調和」などと均衡を前提とするから予測もできたけれど、現在の世界経済は予測不能といわれている。強靭な知性で世界経済を分析している 大前研一さんでも、「見えない大陸」という言葉でそれを語っていた。
 「複雑系」とは、「進化系」と言うにほぼ等しい。どう進化するのか・・・がキーである。

 

 

【「自己組織化」というプロセス 】
 自然や生命、社会や市場には、「個の自発性」が「全体の秩序」を自然に生み出すという創発的な特性があるが、これは言葉を換えれば、この「世界」に、「自己組織化」( self organization ) のプロセスが存在しているということにほかならない。(p.54)
 「組織設計」をするのではなく、「自己組織化」のプロセスにゆだねるのが最適解に近いことになる。トップダウンとかボトムアップといった人為は極力排して、与えられた契機による「自己組織化」によって落ち着く処が最も相応しいことになる。


【散逸構想理論】
 イリヤ・プリゴジンは、その散逸構想理論の中で、平衡状態においては、マクロの挙動がミクロの挙動を支配するが、非平衡状態においては、ミクロのゆらぎがマクロの挙動を支配する」 と述べている。その理由は、非平衡状態においては、現象を支配する「法則」が、極めて「非線形性」の強いものとなるからである。(p.86)
 現在の世界のあらゆる環境は、「非平衡状態」 化しつつある。故に、「ミクロのゆらぎがマクロの挙動を支配する」 傾向が大きくなっている。(この傾向は、一般的に、蝶々の羽ばたきが台風をひきおこすという例えで、“バタフライ効果” と言われている) 個人が世界に対して影響力を持てる時代になっているということである。
 ビル・ゲイツの例などが分かりやすい。大企業の側からすれば、規模や総合力に依存していても安泰ではない、ということ。大企業とて、コア・コンピタンス(核心的競争力)をもっていなければ、ベンチャーに敗れてしまう時代である。
 ミクロ(個人)のゆらぎを効果的に大きくするために、著者は、「共鳴力」という言葉を使って、以下のようにまとめている。
 「組織の総合力」ではない、「個人の共鳴力」である。 (p.102)
 

 

【「マスメディア戦略」の進化:CI から PI へ】
 これから企業が消費者に対して共有すべき情報のうち、最も大切なのは、「商品情報」 や「価格情報」などの消費者にとって便利な情報ではない。・・・中略・・・。
 これからの時代に、企業が消費者に対して共有すべき最も大切な情報は、何よりもその企業が、いかなる社会的価値をめざしているかという「企業理念」であり、「企業ビジョン」ある。・・・中略・・・。
 そして、経営者自らが、個性ある言葉で消費者に語りかける時代が始まっているのである。時代のキーワードは、CI(コーポレート・アイデンティティ)からPI(プレジデント・アイデンティティ)へと変わってきている。
 いま、消費者に語るべき「言葉」を持っているか、語るべき「哲学と思想」をもっているか。そのことを、経営者は、自らに深く問う必要がある。(p.78)
 組織によって設計されたCI よりも、個人によって共鳴されるPI といえるだろう。