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 長いこと台湾に滞在しその食生活にやや疑問を感じつつ、古書買い置き書架に入っていたこの本を手にとってみた。学生時代、人間改造法としての密教に興味を持っていた頃以来、人間に関する様々な部分にまで言及された食の総合的な著作を読むのは久しぶりである。人体に関する秘教的な内容も所々にきちんと記述されている。
 食事と心・健康は強い相関関係があることは経験的に誰でも分かることだけれど、引いては社会全体にも関与する極めて大切なことである。1998年8月初版。

 

 

【日本食の世界展開を押し進めてきた人々】
 40年近く、マクロビオティックを展開してきた私たちには、なぜ西洋医学が病気の原因としての食に目を向けず、命そのものを見ようとしないのか、不思議でなりません。
 そのマクロビオティックは私の恩師である桜沢如一(さくらざわゆきかず)が、率先して欧米社会から全世界に広めてきたものです。その教えを継ぐ者の一人として、最近の欧米社会におけるマクロビオティックの浸透ぶりは喜ばしいかぎりです。(p.6-7)
   《参照》   『人間塾』 船井幸雄 (ビジネス社)
           【アメリカで一番知られた日本人】

 桜沢如一先生とは、日本よりも外国でのほうが有名な方だという。「フランスを救う日本人」 としてフランスの週刊誌で連載で紹介されたこともあり、アレキシス・カレルの 『人間、この未知なるもの』 の訳者でもあったという。現在この本は、渡部昇一先生の訳で出ているけれど、このカレルの本にかつて一度も接したことのない人って、基本的に人生を見る視点において、反りが合わないというか、違っているのである。
 マクロビオティックという英語で言われると、なんだか意味不明だけれど、基本的には近代化以前の日本人の食生活そのもののことである。今日の世界では、寿司などの普及により日本食ブームが起こっているけれど、単なるブームではなく、著者などの地道な活動が科学的裏付けをえて、深く浸透してきているのである。

 

 

【欧米流食生活、弊害の認識】
 ファーストフードを食べて育った若者たちは、背が伸びた分、立っている、あるいはちゃんと坐るという当たり前のことができなくなっているのです。その理由は、ひと言でいえば砂糖類のとりすぎ、およびその裏返しの関係にあるミネラル不足によって、自然にそのような姿勢をとるのです。(p.24)
 伝統的な食体系から離れて、動物性食品と言ったものが増え、動物性蛋白、動物性脂肪の摂取量が増え始めるという食物の変遷につれて、アメリカ社会にはいわゆる退行性疾患といわれる心臓病やガン、アレルギーなどが多くなっていきました。と同時に、社会犯罪といわれるものがどんどん増えていったのです。そして家庭内の不和が増え、家庭が崩壊していくという世の中の変化を見ていくことによって、現代社会にひろがりつつある人間の肉体的・精神的退化と社会的混乱が、急激に変化した食物と深く関わっているということも分かりました。
 ここに欧米社会の悩みと問題があるのですが、それを真似して急速に欧米に近づいているのが、戦後の日本であり、アジア諸国なのです。(p.63)
 アメリカでは1977年に、従来の欧米型食生活が成人病の増加をもたらしているとの反省から、穀物採食を中心とした食事への移行を打ち出した 「アメリカの食事目標(マクガバン・レポート)」 によって、アメリカ人の食生活は大きく変わっているのですが、それを推進する原動力となったのが、マクロビオティックだったのです。(p.44-45)
 肉食に偏った食事や、大量生産によってミネラルの抜け落ちたジャンクフードによる食生活が、健康や社会にもたらす弊害に気付いた欧米では、経済的に余裕のある人々からマクロビオティックが浸透している。
 ところが、欧米流の食生活を取り入れて、美食病といわれる癌の発生率が欧米並みになった日本では、それほど浸透していない。それでもって、アメリカ資本の保険会社とガン保険の契約をしつつ、日本人本来のマクロビオティックを忘れて美食にうつつを抜かしているといのだから、日本人とは驚異的に愚かな人種である。

 

 

【マクロビオティックをとりいれたリッツ・カールトン】
 日本ではほとんど話題になりませんでしたが、1995年6月から、世界的に有名なホテルチェーン 「ザ・リッツ・カールトン」 の全ホテルにマクロビオティック食のメニューが導入されました。
 そのきっかけとなったのは、私どものところに健康指導を求めてくる病人の中に、末期ガンで医者にも見放されたリッツ・カールトンのホルスト・シュルツ社長がいたことでした。(p.86)
 世界中から集まったそれぞれの国の料理を代表するシェフたちも、拒否的どころか美味しい料理ができることに大そう満足したという。そりゃあそうでしょう、基本的な日本食なのですから。
 下記リンクは、リッツ・カールトンの支配人が著したビジネス書だけれど、正しい食事を提供するホテルだからこそ、正しい精神性を示しているともいえるだろう。

 

 

【食と心】
 本当は、犯罪を犯したならば、彼らをみんなヘルスセンターに入れて、そこで温泉につかって正しい食事をしながら講習を受けたり、体操をしたりして、1週間から1カ月、3カ月、6カ月と入れておくだけで綺麗な血液になり、すっかり正常な人間になってしまうのです。 ・・・(中略)・・・ 。
 要するに、刑法の刑罰制度はまったく必要がなくなるのです。さらに、現在の戦争を解決する方法というのは、結局は食べ物なのだということも分かってもらえるのではないでしょうか。
 例えば、中東というところでは非常に戦争が起こりやすい。あの暑い地域で、どんなものを食べているかというと、肉、動物性食品、多量の砂糖と香辛料、脂っぽいもの。そういたものを食べていたら、どんなことになるでしょうか?
 みんなカーッとなります。熱狂的、狂信的になります。ですから、あのへん一帯は食物を変えない限りは、常に戦乱が絶えることはないのです。(p.133-134)
 いまどきの学校には、校内に自動販売機などどこにでも置かれているのだろうけれど、教育サイドが、そこで売られている種類にまったく無関心というのであれば、それは生徒の心身育成など全く興味のない、杜撰な教育者の集団だということになる。
 

【原子転換】
 著者らはマクロビオティックを世界に広めて貢献しているだけではない。その次の段階まで踏まえている。
 サイクロトロンなどというド派手な機械を用いなければ出来ないと考えられていた “原子転換” が可能なのだという。
 原子転換に関する実験は、30年ほど前に桜沢先生が行ったことがあった他、私が実験したデータも公表していたため、 ・・・(中略)・・・ 、いろいろアドバイスして、実験で炭素が鉄に転換していることが確かめられています。 (p.150)
 さらに、実験をしているうちにいろいろとわかってきたのですが、出てきたものを分析してみますと、鉄だけではなしにニッケルやコバルトなど様々な金属が出てきます。(p.151)
 現在の世界では、中国が中心となって世界中の資源を押さえようと躍起になっているけれど、その上を行くのが日本人である。流石、というべきか。
   《参照》   『メタル・ストラテジー』 谷口正次 (東洋経済新報社)
 単なる原子転換で終わるものではない。これが実現すれば世界の産業構造は、ドラスティックに変わってしまうだろう。

 

 

【「遊ばざるもの食うべからず」】
 人間というのは働いて働いて一生懸命、努力しています。それは本質的にまちがっているのです。ともかく、楽しむということ、遊ぶということ。桜沢如一は 「遊ばざるもの食うべからず」 を信条としていましたが、この地球上で、霊的な人間としてお互い兄弟姉妹、もう敵も味方もなく、みんなが一緒に楽しく遊んでいく。すきなことをやっていくことなのです。それがマクロビオティックの目指す究極の世界なのです。(p.165)
 「なにを突飛な!」 と思うかもしれないけれど、この認識は、人類が霊的に進化し、安定した社会が実現した場合の “当然な認識” である。
 上述の “原子転換” などが実現し、今日既にあるロボットが労働をこなしてくれるようになれば、人間は強いて働く必要などなく、必然的に奪いあいや争いを起こす必要もなくなるのである。労働は3時間程度で十分であり、余った時間は、芸術活動や遊びを通じての創造に充てるというのが、人間本来の創造力を引き出すことにもなってゆく。
   《参照》   『1日3時間しか働かない国』 シルヴァーノ・アゴスティ (マガジンハウス)

 

 

【命の原理に基づいた数学】
 陰陽の理論に基づいた時間や空間の概念が記述されたあと、数学について以下のように記述されている。
 現代の数学は、1+2+3 あるいは 1+1+1 と、足してゆくことによって、無限に至るという考えかたです。
 それはあくまでも数を概念的に捉え、個々分割させた数字の羅列によって成り立っているわけですが、実際の宇宙全体、命の原理に基づいた数学というのは、それとは別のものなのです。
 そこでの1というのは、全体なのです。だからこそ、1が分化するのです。分化して2になり、2が4になり、4が8になり、無限に分化していくわけです。つまり、1が分化して無限になり、その分化したものが再び統合していくと1つになるのです。
 そのように、実際のものの考え方の根拠が変わってくれば、現在の科学も当然変わらざるをえないのです。(p.197-198)
 これは、 『易経』 だったか 『道徳経』 だったかの中に書かれている思想に基づいた記述なのだけれど、『博士の愛した数式』 という映画の中で(原作小説の中には無かったように記憶している)、博士が言っていた 「1は全体で美しい」 という命や宇宙の秩序までを包含した深い意味のセリフの説明でもある。
   《参照》   『星へのプレリュード』 佐治晴夫 黙出版
            【映画 : 『博士の愛した数式』 】
   《参照》   日本文化講座⑨ 【 日本神道と剣 】 <前編>
            □■□■□ 日本神道の根源となる 『剣の思想』 □■□■□