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 工業にとっての一次産品的な鉱物資源は、日常生活者には直接見えてこない分野けれど、国家の盛衰にとっては重要な意義を持っている。だから世界中の各国はこの分野に多くの力を注いでいるのである。2009年6月初版。

 

 

【疾風に吹かれた火のごとき中国の進出ぶり】
 中国は、かつてどの国々もなしえなかった戦略的速さで、アフリカ・南米・アフガニスタンなどを中心に世界中で資源開発を行っている。いっぽう、日本はというと、
 わが国の財政事情、民間企業の財務体質、意欲のいずれも、「疾きこと風のごとく、侵掠すること火のごとき」 中国に対抗できるような状態にないことは明白である。(p.60)
 兵法書の文言を 「風林火山」 という旗印にした戦国時代の武田信玄は、日本ではもう歴史上の遺物みたいなもので、数年間隔でNHKのドラマに登場するだけのオジちゃんである。現実の日本は、風の動きと火のパワーは停止して、もう 「静かなること林のごとく、動かざること山のごとし」 に徹しているらしい。
 しかし、武田信玄は、鉱物資源の開発をしていなかったわけではない。
   《参照》   『隠れたる日本霊性史』 菅田正昭 (たちばな出)
             【最後の猿楽的万能人・大久保長安】

 日本は、大陸棚の海洋資源の調査で、既に1年ほど前、沖縄近海の排他的経済水域内に、金鉱床などの資源を発見している。

 

 

【中国のアフリカ進出】
 アフリカの指導者たちは口をそろえて、「中国は決して、人権とか国連改革などはアジェンダとして取り上げない。経済のみ」 といって喜んでいる。(p.14)
 中国人を大量に送りこんで資源開発しながら、周辺住民との軋轢が生じたとしても、人権無視は両国トップの同意の上だから、世界が何と言おうがどうってことない。モラルレベルが等しい国どうし、いずれも露骨に国家内の経済格差を広げつつ、利権を与える者と受ける者だけが富かになろうというタイアップである。
   《参照》   『崩壊する中国 逃げ遅れる日本』 宮崎正弘 (KKベストセラーズ)
             【スーダン】
             【ナイジェリア】

 

 

【国際資源メジャー】
 リオ・ティント社による買収防衛策は、米オハイオ大学などの研究チームが2008年に発表した研究をおもい起させる。その研究内容とは、草食恐竜の肉食恐竜に対する防衛策である。草食恐竜は肉食恐竜に捕食されるのを防ぐために敵の三倍の速さで成長したそうだ。それは、角などの武器がないために、ひたすら敵より早く大きくなることで対抗したからだというのである。
 したがって、BHPビリトン社は凶暴な肉食恐竜ティラノサウルス、リオ・ティント社は、図体の大きい草食恐竜セイスモサウルスということか。(p.24-25)
 この2社は、この書籍の中で頻繁に登場してくるので書き出しておいた。
 なお、大型化のメリットは、体積に対する比表面積の小ささから寒冷化に対応しやすいという 「アレンの法則」 によっても説明されるけれど、環境温度の低下を経済に対応させると、世界的な需要の低迷ないし金融不安ということなのだろう。巨大企業がそれらに多少強いにしても、閾値を超えた(下回った)場合のサドンデス(突然死)は、衝撃的にやってくるものである。

 

 

【日本のブラジル鉱山会社の買収】
 2008年8月に、日本の鉄鋼大手連合に韓国のポスコ社が加わって、買収が成立したという。
 ブラジルの鉄鋼大手CNS社から、その傘下の鉄鉱石鉱山会社、ナザミ社の株式を40%取得することになった。 ・・・(中略)・・・ 。この案件の競争入札には、(インドの)アセロール・ミッタル社、中国そしてロシアまで参入してきた。
 鉄鉱石埋蔵量世界一のロシア、生産量で世界一の中国そして粗鋼生産量世界一で、自給率80%を目標とするアルセロール・ミッタルがそろって参戦してきたことは空恐ろしい。この争奪戦に日本勢が勝ちを占めたことの意味は大きい。この争奪戦で、外国勢が脱落したのはどうやら、金融危機拡大で資金調達の問題があったのではないかと推測されているが、そうだとすれば日本勢にとってはラッキーだったということか。
  しかし、この買収によっても、日本の権益つきの鉄鉱石は全輸入量の10%に過ぎない。
 この大連合でもう一つ評価すべきことは、やはり、資源に対してハングリーな韓国と共同だということである。鉄鉱石だけでなく、多くのメタル資源確保のために韓国と 「戦略的なパートナーシップ」 を組むことは今後とも模索すべき重要な戦略である。(p.128-129)
 北朝鮮の地下に眠る多くの資源は、おそらく中国に支配されることだろう。資源に乏しい韓国は、かつて百済が日本と手を結ぼうとしたように、同様な政策を打ち出さざるをえないのだろう。
 韓国のポスコ社は、戦後、新日鉄の技術力で作られた会社だから、この2社の海外戦略は、このブラジルの例以外でも大抵提携関係にある。日韓の鉄を巡る交流の歴史は古いのである。
   《参照》   戦後の、日本から韓国への援助のかずかず
            【韓国の経済発展を創出した日本】
   《参照》   日韓交流
            ■ 「釜山」と古代の日韓交流 ■
 たとえ、南北統一が実現しなくとも、鉄鉱石、石炭、ウラニウムなど資源飢餓感をもった韓国とのアライアンスによってバーゲニング・パワーをいっそう高めることができるはずだ。(p.146)

 

 

【オリマルジョンというレアメタルを含む有用資源】
 南米ベネズエラのオリノコ川沿いには、粘性の高いタールがある。オリノコタールと呼ばれるもので埋蔵量が2670億バーレルもあり、サウジアラビアの石油2580億バーレルより多い。 ・・・(中略)・・・ 。オリマルジョンという名前で出荷され、ヨーロッパその他の発電所で使われている。 ・・・(中略)・・・ 。このオリマルジョンの中にはバナジウムとニッケルが多く含まれているのである。したがって、発電用に燃やしたあとに残る廃棄物としての灰に中に入っているバナジウムとニッケルが回収できれば、あとの灰はセメント原料になる。
 まさにゼロエミッションであるばかりか貴重なレアメタル資源確保につながるわけだ。(p.172)
 この回収技術はすでに確立している。

 

 

【オリマルジョン火力発電所計画の取りやめ】
 関西電力は、オリマリジョンを燃料とする大規模発電所を和歌山県の御坊で建設を計画、2007年運転開始を目標に土地造成も始めていたが、突然取りやめになってしまった。電力需要の見直しによるものといわれているが、本当の理由は不明である。しかも、石炭火力発電よりCO2発生量が16%も低い燃料なのに。よいことずくめのことが実現しなかったことには何か政治的な力学を感じさせる。(p.173)
 この政治力学は、明らかにアメリカ絡みである。オリマルジョンを産出するベネズエラといえば、今や “反米” の急先鋒に立つチャベス大統領が指揮する国である。
   《参照》   『2009年断末魔の資本主義』 ラビ・バトラ あ・うん
               【中南米の新しい動き】
   《参照》   『暴走する国家 恐慌化する世界』 副島隆彦・佐藤優 日本文芸社 《上》
               【アメリカ処分案】

 重要なのは、親米だとか反米だとかいうことではない。世界環境にとって最も相応しいことを行えない世界中の権力者たちの国益重視の対立関係が問題なのである。
 多分、地球規模の異変が生じないことには、地球上に住む劣勢人類のこのような諸行は改まることがないのだろう。 
 
<了>