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 1998年から7年間パークハイアット東京でGMを経験し、2006年からザ・ペニンシュラ東京のGMとして準備のため再来日し、翌年開業を果たした方の著作。2007年9月初版。
< 台湾・元智大学図書館 にあった本 >

 

 

【「お花見」 にて】
 以前、家族で新宿御苑に出かけ、芝にシートを敷いて 「お花見」 を楽しみました。・・・(中略)・・・。「お花見」 を楽しむ日本の人々は、他者の邪魔をせず、争わず、互いに善意溢れる行動をとっていました。このとき、私は 「日本人は他人に親切にするという感覚が自然に備わっているのだ」 と実感できたのです。(p.29)
 “他者の邪魔をせず、争わず” なんて、われわれ日本人からすれば当然のことだけれど、外国人はこの秩序だった様子に驚くのである。
 チャンちゃんの経験だけれど、韓国人が 「お花見」 の様子を見ていて、「信じられない」 と言ったから、「何が?」 と訊いたら、「韓国だったら、あっちこっちでケンカが起きている」 と言っていたのである。
 日本人にとっては普通の生き方が、外国人から見れば、既にホスピタリティの領域に入っているということなのである。
   《参照》   『「見えない資産」の大国・日本』 大塚文雄・Rモース・日下公人 (祥伝社) 《前編》
            【日本人が自覚せぬ日本の 「インタンジブルス」 】

 

 

【人を大切に扱う姿勢】
 「ホスピタリティ」 については、・・・(中略)・・・、ここでは 「お客様や目上の人を大切に扱う姿勢」 と解釈してください。ホテル業に携わる者にとっては、けっして見逃せない点です。
 日本語で言う 「おもてなし」 の精神の基盤に、「他人に親切にする自然な感覚」 があることは疑いようもありません。だからこそ日本人のサービスに対する意識は非常に高く、「お客様」 は世界でも例を見ないほどの大切な存在として遇されるようになったのです。(p.30)
 日本人の中には、「他人に親切にする自然な感覚」 の延長線上に 「お客様や目上の人を大切に扱う姿勢」 というホスピタリティがあるといっている。
 「他人に親切にする自然な感覚」 とは、「他人を見下したり、軽蔑したり、軽んずるのとは反対側の感覚」 である。つまり 「不軽」 = 「敬」 の態度だろう。
 略奪経済を源とする階級社会を創出している日本以外の国々では、このような自然なホスピタリティはなかなか見られないのである。
 日本人のおもてなしの心は、ゲームソフトや製品の造りの中にも生かされている。
    《参照》  『ゲームニクスとは何か』 サイトウ・アキヒロ (幻冬舎)
            【日本のおもてなしの文化】

 

 

【行為の背景にある 「考え」 や 「気持ち」 が重要】
 西洋人はホテルを製品として捉え、ハード面を重視する傾向があるのに対し、日本人は目に見えにくいソフト面を優先する傾向にあるのです。
 この西洋人と日本人との 「違い」 について、私なりに考えて見ました。行きついた結論は、日本人のお客様にとってサービスそのものと同時に、サービス行為の背景にある 「考え」 や 「気持ち」 が重要性を持つということです。(p.44)
 西洋人は新聞を読むという目的が達せられればいいのであって、新聞がどう置かれていようが問題にしない。つまり機能的に満たされれば快なのである。
 しかし、ドアの下から滑り込ませてある新聞がまがって置かれていたというだけで、日本人のお客様は、それをなした人の 「気持ち」 を感じ取ってしまう。

 

 

【「カイゼン」 の哲学】
 西洋の品質管理は、一連の 「達成基準」 や 「規格」 を設定し、ミスをなくすように努めるものであって、基準を達成すれば品質管理は終了します。・・・(中略)・・・。
 しかし、日本の 「カイゼン」 には、そもそも 「基準」 や 「規格」 がありません。パーフェクト状態も、究極の基準も存在しないという考え方です。つねに向上を旨とするホテル経営にとって、これほど有益な哲学はないと言っていいでしょう。(p.49)
 トヨタ自動車の製造方法として用いられてきた “改善” は、今日、経営学の世界では常識的な用語となっているけれど、日本人自身がこの優れた哲学を、優れていると自覚していない。
    《参照》  『国家の正体』 日下公人 (KKベストセラーズ)
            【トヨタはなぜ強いのか?】


 

【日本人客が “発明” したホテルのサーピス】
 日本人のお客様は、その品質意識によって従来のホテルのあり方を変えました。日本人が大量に海外旅行するようになった結果、ホテルのサービスに変化が現れたのです。これは意外に知られていない事実です。(p.54)
 歯ブラシ、スリッパ、ジュエリートレイなどだという。
 そのうち、日本人高齢者の意向も反映されて、入れ歯トレイとか、大人用紙おむつなどもアメニティーの中に追加されるようになるのかもしれない。後者は冗談で書いているのではない。高齢者にとって、少量であれ無自覚に失禁してしまう生理的状況は、本当に外出する意欲を奪うものなのだという。もしも持参するのを忘れてしまった場合、ホテルに備えがあればたいそう喜ばれることだろう。

 

 

【外資系ラグジュアリー(高級)ホテル東京進出の理由】
 近年、日本に外資系のホテルが多数進出したのは、海外で宿泊体験した日本人が、このようなホテルが日本にもあるなら泊まってみたいという意見が多くなったからだという。
 そして、政府の外資系企業に対する規制緩和に、東京の地価下落という進出しやすい因子も重なった。
 さらに、欧米では、利用者がビジネス客主体なので週末は空いてしまうけれど、日本では週末に観光宿泊する人が多く、収益率が大きいのだと言う。(p.72 p.82)

 ついでに書いておくなら、ラクジュアリーホテルの宿泊料金って、1泊6万円前後である。我々庶民にとっては 「ありえなぁ~~い」 って思う額だけれど、日本も立派に格差社会となっている証拠なわけです。

 

 

【親しみやすさと前向きな姿勢】
 外資系ホテルが導入した 「エンパワーメント」 が日本人のお客様の目に新鮮に映ったことは前述しましたが、その結果 「柔軟」 なサービスは 「フレンドリー」 であることも体現しました。つまり二者は表裏一体なのです。
 お客様は、スタッフの親しみやすさと前向きな姿勢を高く評価します。(p.122-123)
 2度、3度とホテルに足を運ぶお客様のほとんどは、クリスタルシャンデリアがあるからではなく、たとえば 「フレンドリーなハウスメイドが、なくしたイヤリングを探すのを手伝ってくれたから」 を理由に挙げます。(p.206)
 截然とした役割分担ではサービスにならない、ということである。
 エンパワーメントとは、役割分担の境をなくして個人の作業権限領域を拡張するということである。責任分業形態の弊害に気づいた欧米の用語だけれど、そんなことなら日本の企業は、サービス業に限らず昔から普通にやっているだろう。
 誰かが休んでも大丈夫なように、日本企業は最初から複数の領域を経験させることで、会社全体の作業効率が下がらないようにしているのであるし、上からの指示などなくても日本人なら普通にやることである。

 

 

【TEAMとマネージャー】
 「TEAM」 という頭文字をご存知でしょうか。古くから経営学の本で使われていますが 「Together Everyone Achieves More」、つまり 「個々人がみんな一緒になって頑張れば、もっと達成できる」 という意味です。 (p.133)
 GMの立場である著者は、高みから管理するような考え方をもっていない。非常に日本人的な考え方が随所に記述されている。
 マネージャー職にある者はひとりだけではありませんし、名前だけ知られているものの、現場にはまったく姿を見せないマネージャーもいました。
 しかし、1日に激務の終わりに、マネージャーが現場に顔を出し、「よくやってくれた。ありがとう」 と労をねぎらってくれる。あるいはその場に残り、後片付けを手伝ってくれる。また、時には家庭の様子などを尋ねてくれる。そんなちょっとした 「アクセスのしやすさ」 と 「人間味」 が、スタッフ全員に大きな影響を与えることに疑いの余地はありません。(p.138)
 ホテルのGMというのは、人数的には中小企業の経営者と同じような立場のはずである。相互に学べる部分がある。
     《参照》  『中小企業経営者はカリスマ性を磨け! 深見所長講演録12』 (菱研)
             【指導力秘伝その1】