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 「見えない資産」 = インタンジブル(intangible)  という言葉を巡って、目に見えない日本の価値を再認識しようとする内容の著作。良書である。

 

 

【日本経済の成功を支えてきたものの一つ】
モース : 日本では、社会に思いやりの心が生きています。この心は見えないところで日本経済の成功を支えてきたものだと思います。日本は世界の中でもいちばん進んだ文化大国だと断言できます。しかし、ある意味で先進国ではありません。進んだ技術をもっているし、生活水準はトップクラスですが、それを他の国が真似することは難しい。(p.31)
 他の国が真似できないから序列のつけようがなく 「先進国」 という言葉が使えない。おもしろい表現である。
モース : 「先進」 という言葉は、もはや意味がありません。GDPで中国に追い越されて、日本は三位になるといって騒ぐ人もいますが、そんな序列も無意味です。(p.31)
 

【日本人が自覚せぬ日本の 「インタンジブルス」 】
日下 : 日本人には見えないが、海外からは見えている資産がたくさんある。日本人はこれを資産と思わないところが不思議である。われわれには常識で、全人類共通だと思っている。だから自慢することもないし、説明することもない。
 列記すれば 「礼儀正しい」 「相手のことを思いやる」 「争いにならないように折り合いをつけて暮らす」 「そういう価値観を全員が共有している」 といったようなことである。これもまた日本の 「インタンジブルス」 なのである。
 日本人は、これらを空気や水のような存在だと思っているが、向こうからは手に入れたくれもどうにもならない、たいへんな 「資産」 である。(p.112)

 

 

【トップダウンで死滅する 「インタンジブル」 】
大塚 : アメリカはボトムアップによる全員参加型ではなく、上が決めて、標準化をして、命令すると、下は言われたとおりに動く。日本の場合、上は曖昧で、何となく指示すると、下が一生懸命になって、その方向に向かってみんなで作り上げていくというプロセスがあると思います、
 つまり作業現場に存在する有形無形の知恵が集積される。それが日本の 「インタンジブル」 ですが、アメリカの場合は強力なトップダウン経営のために 「インタンジブル」 が放置され、経営資源になりませんでした。(p.69)
 トップダウンのコマンドチェーン方式では、途中の誰かが創意工夫して万が一失敗したら、工夫したものが罰せられるだけである。つまり、トップダウンのコマンドチェーン方式は、人間は命ぜられた通り機械のように働け、ということになるから、現場から知恵の集積など生じっこないのである。

 

 

【マニュアル】
大塚 : 日本ではマニュアルを当事者たちが参加して作ります。だから本人達がためらわずに改善できる。つまり日本のマニュアルは、作ったときが、よりよくなるためのスタートなのです。アメリカ型のマニュアルは作った瞬間から劣化が始まっているわけです。
日下 : 日本マクドナルドを創業した藤田田さんは 「日本マクドナルドでもビジネスのやり方は日々進歩する。それを本社に教えるのだから、日本側に対しても料金を払いなさい」 と主張した。
 それを悪辣商法のように書いた新聞もありましたが、売り上げの3%を藤田商店が取ることになった。もともと、アメリカのマクドナルド本社は 「6%払え」 と言っていたのですが、3%ずつ分け合う形になった。(p.129)
 アメリカ式のトップダウンで示された標準化マニュアルは、現場にそれ以上の成長をもたらさない。
 日本人には創意工夫する知恵があるから、マニュアルですら改善してより良きものにしてゆく。
 しかし、日本の中でも改善を良しとしない連中がいる。 「前例がない」 と平気でのたまい対応しようとしない公務員くらい 「愚かさ」 を墨守しているところはない。今日のような絶えざる時代変化状況の中にあるという自覚があるなら、「前例がない」 などという発言は思いもつかないはずである。怠惰に胡坐をかいて尻をまくっているのが公務員というものなのだろう。
 名古屋市長の給与待遇改善議案を否決した名古屋市議の年収は1500万円だとか・・・。 「前例がない」 事に関しては 「改善」 など飛んでもないことなのだろう。
 国民の実態とはかけ離れた財を貪り、民の実態に配慮する意志なき無神経議員が集う都市など、全て海底に沈めてしまいたくなる。

 

 

【日本の 「インタンジブルス」 が強みを発揮する製造業】
 機械化・標準化まででできる製品なら、日本から工作機械を購入すればどの国でも生産可能である。しかし、いまや製造業は高度化し、単なる機械化・標準化の域を越えている。
大塚 : 製造業はさらに高度化します。具体的には、魅力的で高品質な製品を、必要な量を即座に生産できることが求められます。
 これは 「インタンジブルス」 を常識として身につけている日本人、日本社会、日本企業にとって得意中の得意なことです、
 それに早く気づくことが、今、きわめて重要です。もはや日本では製造業はやっていけないという悲観論を唱える識者もいますが、とんでもない話です。
 国際的に日本が強いのは 「インタンジブルス」 がふんだんにある製造業です。今後もその強さを拠り所として国際社会で存在感を示していけると思っています。(p.141)
 東芝は、おそらく多様な電化製品に内蔵させうる次世代型の半導体を、数年以内に販売開始することだろう。台湾・韓国いずれのメーカーも、日本の後ろという定位置に戻るはずである。

 

 

【中国の製造業】
日下 : 日本は明治時代、多くのお雇い外国人から軍事も学問も教わりました。しかし、自分たちで何でもできるようになろうと自助努力した。この態度の有無が、日本と中国の違いです。
 日本は 「インタンジブルス」 を尊敬して、お雇い外国人に高給を払ったので自習に努めましたが、中国人は払わずに盗むから日本には追いつくだけで追い越せません。(p.146-147)
 故に、中国は、標準化で可能な中級品製造国家というのが行き着くべき定位置になる、と日下さんは以前からいろんな著作の中で書いている。