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 先んじて映画を見ていたわけでもないし、書評を通じてストーリーの概要を知っていたのでもないから、ロジック探しを意図して、前半部では、鍵になりそうな個所をチェックしながら読んでいたのであるけれど、それらは悉く外れていた。凄い構想である。
 恐らく、『リング』 を最初に読んだ時点で、高山竜司という登場人物の牽引力から 『らせん』 そして 『ループ』 へと繋がるキーマンらしきことを予感していた人は少なからずいたことだろう。私がそうである。けれど、その高山竜司の3作品全編への関与の仕方は、いかなる読者の想像をも超えていたのではないだろうか。
 あまりにも予想外だと、「凄い」 とか 「うーん」 とかの感嘆する言葉すら思い浮かばないものである。

 

 

【ループ】
 超高速スーパーコンピューター内部に、現実には存在しない、3次元の仮想空間を作り上げ、その空間を 『ループ』 と名づけた。 (p.136)
 科学者たちが集まって作った 「ループ」 という地球人類全体の仮想空間に関するこの付近の記述だけ切り離して読んでも、読み物としてはかなり興味深い。
 「そして、予感はみごとに的中しました。ループという生命世界全体がガン化し始めて言ったのです・・・」
 ・・・中略・・・。
 「ループの生命界は、同一の遺伝子のみに占められ、多様性をなくし、滅亡の道を辿ったのです」 (p.136)
 ストーリーの中ではループ界がガンウィルスの流出地なのであるけれど、その紐付け根拠として以下のように構想されている。
 転移性ヒトガンウィルスを構成する9つの遺伝子の塩基数が、すべて2のN乗の3倍個というのも奇妙な偶然である。2進法で計算するコンピューターが発生源であると暗示するかのようだ。(p.226)

 

 

【浅川が1週間後に死がなかった訳】
 ビデオを見た後、1週間経過しても死がなかった唯一の例外男性である浅川に関して、 『リング』 や 『らせん』 では、その根拠を示していなかったはずである。この 『ループ』 の中に初めて謎解きが書かれている。
 『リング』 は読んでしまった読者の力を借りて、さまざまな媒体へと変化するはずだった。排卵日にその媒体と接触した女性は妊娠してヤマムラサダコを産み、それ以外に生き残るのは、増殖に手を貸した者だけだ。(p.245-246)
 記者であった浅川は事件の経過を認めた 『リング』 と題する文章を残し、これが出版社に勤務していた兄の手によって出版されることによって増殖(精子のばら蒔き)を可能にしていた、というわけである。

 

 

【主催者】
 高山竜司は、 『リング』 の最後の部分で死んでいる。この死の直前の様子のこと・・・、
 上位概念(ループ界)とのアクセスがなされたと知るや、タカヤマは自分の願望を口にする。
 「おれをそちらの世界へ連れていってくれ」
 ・・・中略・・・・
 願望は、一見子供じみているけれども、同じ願いを持つだけに馨には十分納得できるものであった。世界をデザインした神がいるとしたら、神の世界に赴いて事実を直に聞き出したくもなる。
 さて、ループ界においては、電話の直後、タカヤマは死ぬことになる。ディスプレイはタカヤマの死を観察していた。ループを操るオペレーターのひとりは、馨と同じように、タカヤマが願望を口にするのを聞いたはずである。(p.262)
 タカヤマと馨は、同じ意識、同じ肉体を有する一卵性双生児のような生命体として、ループ界と現実界を繋いでいる。しかし、二人の意志的な選択行動ですら、 “ループ界の主催者(=神?)であるエリオット” という人物の筋書き通りに動かされていた、ということになる。つまり ”紙芝居” ならぬ “神芝居” だったという構成である。
 さて、このようなストーリー構成を、単なる一作家のアイデアというだけで済ますことができるのであろうか? 神霊界を語る人の著作を読んだことがあるのだけれど、その同じ世界を、鈴木光司という作家は、作家の視点でこのように捉えて表現したのではないだろうか、と思えて仕方がない。
 アメリカは、現に、機神界(鬼神界ではない)を操る国家なのである。全てをマザーコンピュータの管理下に置こうとする企みは、この機神界の写しとして行われているのであり、アメリカに隷属する日本人政治家などの力で、日本神霊界の意向は極度に封殺されてきたらしい。
 政治や経済といった現実界に先行して、米・機神界 vs 日本・神霊界 の抗争があるなどと言っても、誰も本気にはしないのであろうけれど、まっとうな霊能者さんたちは、このことに尽力しているらしいのである。世界の未来は、スーパー霊能者さんのみならず卓抜な科学者や作家のイメージによって、先んじて捉えられているのは間違いないことである。

            【+α:ネットの仮想空間に気持ちを向けない】

   《参照》  『これでいいのだ! ヘンタイでいいのだ!』 松久正×光一 (VOICE) 《後編》

            【AIと人間】

   《参照》  『神界からの神通力』 深見東州 (たちばな出版) 《後編》

            【霊界と現界は表裏一体】

 

 

【希望】
 ガン化したループ界が転位してしまっている現実界であるけれど、これを改善できる可能性が示唆されているのが、僅かながらも救いである。
 ループは、生命樹がガン化を始めるきっかけのところに戻り、半年前に再始動された。それ以前でも以降でもなく、ばら撒かれた災厄を克服すべき絶妙のタイミングで、高山竜司は降臨したのである。この先、何もしないでいれば、ループは同じ道を辿ってガン化してしまうだろう。自らの力で滞っていた水の流れを変え、新しく歴史を築いていかなければならない。そうすれば、以前住んでいた世界もまた多様性を取り戻せるはずだ。(p.364)
 様々な面においてアメリカ化してしまっている現在の日本および世界であっても、ばら撒かれた災厄を克服し、まだ日本本来(それぞれの国本来)の多様性を取り戻せるよ、という希望として、この文章を読み替えたいところである。
 
 

  鈴木光司・著の読書記録

     『ループ』

     『らせん』

     『リング』

     『なぜ勉強するのか?』

 

<了>