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 この作品は、 『リング』 の続編なのであるけれど、最初から 『リング』 ~ 『らせん』 ~ 『ループ』 という全体構想があって書かれたものではないという。それにしては、あまりに見事なつながりである。 『リング』 よりさらに面白い。特に終盤近くになったら最高である。
 『リング』 の初版は91年。 『らせん』 は95年である。15~20年も前の作品を今頃読んで面白いと言っている私は、絶望的なほどに時流に乗り遅れている。

 

 

【意志の力でDNA配列を変える】
 共通の意志をもったDNAの集合体が、血液に混じった疑似天然痘ウィルスに影響を与え、ある “言葉” を挿入した。しかも、疑似天然痘ウィルスにだけ言葉を挿入した事実は、竜司の読みの深さと才能を感じさせる。(p.211)
 竜司は、死の瞬間、ある思いを込めていた。それがこれである。MUTATION(突然変異) という単語が読み取れるように、天然痘ウィルスのDNA配列を変えておいた。
 意志の力でDNA配列を変えることができるという想定は、案外ありうるのではないだろうかと素人の私などは思いやすい。SFホラー小説だからといって、この想定が果たして科学的か否かという吟味を素通りさせてしまわなくても、案外これは “100%論外の想定” とは言えないはずである。
 竜司が意図的に伝えた単語は、このMUTATION の他に RING である。
 続編の 『らせん』 の中で初めて前編の 『リング』 というタイトルが重要な連結用語として出てくる。数字で178136。数字をアルファベットに置き換えるという単純なコード変換で、 “178136” は “RING” になる。

 

 

【ひとつのDNAに統一されれば・・・】
 「ひとつのDNAに統一されれば、個体差はまったくなくなる。すべて同じ体型、能力や美醜の差もない。愛する者への執着もなく、戦争どころか喧嘩も起こらない。生と死を超越した、絶対平和の平等な世界。死はもはや恐るるに足らず。なあ、おまえたちは、それを望んでいたんじゃねえのか」 (p.396)
 エントロピーの法則のターミナルである “熱的死(熱的平衡)” を、DNAの領域にまで展開して考えれば、まさにこの記述のようになる。強烈な問いかけである・・・・・。
 
 さらなる続編である 『ループ』 に続く。
 
 
<了>