本記事は前回の続きだ。前回はユニクロ柳井氏のような経営者たちがマスコミの誤った経済報道に騙された結果、トンチンカンな処方箋を提示しているだろうことを指摘した。

 

【目次】
①日経「国を誤る積極財政の声」
②国の借金は、税金で返済されていない
③「需給ギャップ」というデタラメ指標
④経済安保と連合発表の「賃上げ」の実態
⑤日経「企業を淘汰すれば生産性が上がる」
⑥日経「投資減税で設備投資額が増えた」
⑦日経「消費減税すれば人口減少社会の財源が失われる」

今回は、実際の日経の記事から引用し、間違いを指摘していこう。

 

 

①日経「国を誤る積極財政の声」
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日経新聞「国を誤る積極財政の声」
大機小機 2023年10月14日
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75272270T11C23A0EN8000/
【抜粋】
…自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が近年の税収増を念頭に、消費税減税や大規模財政出動を提言した。
このグループは、日本の財政状況は破綻寸前とか、国債は国民の納税で返済すべきだ、などの常識は誤りだ、という趣旨の考え方を明らかにしている。

…日本経済は需要不足で財政出動すべき状況なのだろうか。日銀推計などでみると、いまはほぼ需給が均衡した状態だ。

…今春闘で明確になったように勤労者の賃金が上がり始めた。中国の労働力に依存してきた企業がサプライチェーン見直しなどの理由で国内回帰に動いている。労働需給がタイトになってきた

…本紙は9月下旬、企業の労働分配率はほぼ半世紀ぶりの低さだと報じた。賃上げ困難な企業は淘汰されざるを得まい。こうして経済全体の生産性が上昇する。

…沈滞していた企業の設備投資も、本社などの調査によると約30年ぶりに活発に動き出す気配だ。
…温暖化をはじめ差し迫った地球課題に向けた技術革新競争はこれからだ。岸田文雄政権はこの分野で大型の投資減税策を打ち出しているが、長期的視点に立った適切な政策選択だといえよう。

…将来人口が減少し高齢化が進む中で持続可能な社会保障制度をいかに構築するか。ただでさえ先進国最悪の財政状況で、財源をどう確保するのか。
「税は国家なり」ともいう。目先の選挙対策で恒久財源であるべき消費税を減税すれば、国家の大計を誤ることになろう。
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経済クラスタなら、上記がほぼ全て間違っていることがわかるだろう。本当に酷い認識だ。
この駄文に一つ一つツッコミを入れていこう。

 

 

②国の借金は、税金で返済されていない
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日経:
…自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が近年の税収増を念頭に、消費税減税や大規模財政出動を提言した。
このグループは、日本の財政状況は破綻寸前とか、国債は国民の納税で返済すべきだ、などの常識は誤りだ、という趣旨の考え方を明らかにしている。
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政府負債(国債)は、国民が納税で返済すべきものでもなく、政府でさえも実際に返済していない。
自民党の積極財政議連に言われるまでもなく、財政学の常識だ。




【参考】▼財務省「国の借金は、税金で返済していません」 ~国債を償還する必要はない
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12806259332.html

 

 

③「需給ギャップ」というデタラメ指標
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日経:
…日本経済は需要不足で財政出動すべき状況なのだろうか。日銀推計などでみると、いまはほぼ需給が均衡した状態だ。
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日経は「需給が均衡した状態」としているが、完全に誤っている。

内閣府や日銀が公表している「需給ギャップ(GDPギャップ)」ははっきり言ってデタラメだ。
下図のように、双方の指標が大きな開きがあることからもわかるように、算出方法によって数値が異なる、極めていい加減なものなのだ。



さらにこの二つの指標は竹中平蔵工作員が導入した「平均概念」に基づいている。
「平均概念」がいかに実態を表さないのか(必ず数値が低く出る)は、れいわ新選組の櫛渕議員が端的に説明してくれている。


デモクラシータイムス出演時の櫛渕氏の発言

真の意味での「需給ギャップ」はこうなる。


これが日経が「需給が均衡している」と評した我が国の実態だ。


ご覧の通りG7で一人負け状態。我が国だけがコロナ前に戻っていない。
需給が均衡していたなら少なくともコロナ前のGDPを上回っていないといけない。

結局、日銀・内閣府公表のデタラメ「需給ギャップ」に基づいた「需要が供給を逼迫しインフレになりそうだから支出や減税をすべきではない」という認識はまったくの誤りであり、デマンドプル・インフレにもなり様がないということだ。

 

 

④経済安保と連合発表の「賃上げ」の実態
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日経:
…今春闘で明確になったように勤労者の賃金が上がり始めた。中国の労働力に依存してきた企業がサプライチェーン見直しなどの理由で国内回帰に動いている労働需給がタイトになってきた。
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賃金が上がり始めたことは確かだが、その実情は楽観視できるものではない。
実質賃金は18カ月連続で減少しており、物価の上昇に比して賃金は上がっていない。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231107/k10014248921000.html

加えて、マスコミが賃上げや春闘の話題の際によく使用する「連合」公表の賃上げの数値にもトリックがあることを指摘しておこう。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA04D8A0U3A700C2000000/
上図は連合傘下の組合に加盟している企業だけの集計だ。日本の組合組織率は16%程度(https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0701_01.html)しかなく、そのうちの連合傘下のみのごくわずかな対象の数値ということになる。
つまり零細企業の賃上げ率などは反映されないのだ。

また、日経いわく「企業がサプライチェーン見直しなどの理由で国内回帰に動いている」とのことだが、本当だろうか。
下図のような劇ショボ経済安保政策で国内回帰が進むとは思えない。

【参考】▼メイドイン・ジャパンを政府が買え! ~れいわ新選組の「インフレ対策」こそが正しい③
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12749628590.html

日経が褒めたたえる岸田の経済安保政策は、バイデンの経済安保政策と比べて金額で10分の1レベルである。


▼米国1036兆、日本101兆 財政支出額(コロナ禍以降) 
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12801166308.html

半導体に限ってはアメリカの30分の1規模で、まさに始める前から終わっているのが岸田の経済安保である。


コロナ禍からの復帰過程にあり人手不足ではあるが、それは賃金が足りないことも同時に意味する。
https://news.mynavi.jp/article/20230219-2595039/
https://www.persol-group.co.jp/service/business/article/337/

 

 

⑤日経「企業を淘汰すれば生産性が上がる」
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日経:
…本紙は9月下旬、企業の労働分配率はほぼ半世紀ぶりの低さだと報じた。賃上げ困難な企業は淘汰されざるを得まい。こうして経済全体の生産性が上昇する。
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不況が拡がり、倒産件数が増えている。
10月の企業倒産数は、19カ月連続増(商工リサーチ)となった。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023110900859&g=eco
人材確保のための賃上げを迫られる一方、円安や物価高が重い負担となり、全産業で倒産件数が前年を上回ったという。

倒産した企業業種は建設や卸売り、製造業が多かったようだが(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/tousan/index.htm)、下図は休廃業の多かった業種となり詳細にデータがある。
日経に言わせると、建設や卸売り、製造業が倒産し、旅行代理店業や化粧品卸売業、新聞小売業などは休廃業が増え、淘汰されたので生産性が高まったということだ。
バカじゃなかろうか。

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p230106.pdf

日経の記者の脳内では、業績が悪く生産性が低い中小企業が淘汰されればスケールメリットが効いて生産性が上がるというお馴染みのロジックが正当化されているようだ。
しかし、大企業の生産性が高いのは、生産性の低い仕事を中小企業に押しつけ、その上澄みを大企業がかすめ取っているからに他ならない。
生産効率の悪い仕事を引き受ける中小企業がいなくなったら、一体誰がその仕事を請け負うのだろうか。
https://newspicks.com/news/340410/body/

また、日経記者の脳内では、淘汰され失業者となった人達が失業した次の日には生産性の高い大企業に再就職できるとでも設定されているらしい。
そんなことが起こり様もないことは、社会人であれば誰もがわかるだろう。

人々が職を失い苦しんでいても「生産性が上がるので淘汰されてもしかたない」と考えるのが日経のサイコパスおじさん達だ。
マクロ経済以前に幼稚園からやり直すべきだろう。

生産性に関しては、過去に散々論じてきたのでぜひ参考にしてもらいたい。

【参考】▼菅政権の「中小企業淘汰」政策 まとめ(保存版リンク集)
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12673250506.html

 

 

⑥日経「投資減税で設備投資額が増えた」
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…沈滞していた企業の設備投資も、本社などの調査によると約30年ぶりに活発に動き出す気配だ。
…温暖化をはじめ差し迫った地球課題に向けた技術革新競争はこれからだ。岸田文雄政権はこの分野で大型の投資減税策を打ち出しているが、長期的視点に立った適切な政策選択だといえよう。
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設備投資に関してだが、コロナ前を取り戻したに過ぎないと言える。

まずは下図をご覧いただきたい。


https://www.dlri.co.jp/report/macro/241192.html

大企業に限っての増減率は下図の通り。

https://www.dbj.jp/investigate/equip/national/detail.html

上の二つの図では設備投資額が激増しているように見えるが、23年は予想値(計画値)だ。
実際は、23年4~6月期、および7~9月期の設備投資額は、ともに2期連続の減少となった。
上図では23年予想が右肩上がりに出ているが、実際にはより低くなり、結局はコロナ前に戻る程度にしか回復しないだろうということだ。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023111501193&g=cyr

日経新聞が褒めたたえる岸田の投資減税は、結局いままでやってきた施策と変わりない。
これは、賃金を上げた企業にはちょっとだけ法人減税するといったものだが、効果を発揮したとは言えない。
https://diamond.jp/articles/-/287780

【参考】▼経団連のおバカ提言に反論します。
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12820394084.html

 

 

⑦日経「消費減税すれば人口減少社会の財源が失われる」
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…将来人口が減少し高齢化が進む中で持続可能な社会保障制度をいかに構築するか。ただでさえ先進国最悪の財政状況で、財源をどう確保するのか
「税は国家なり」ともいう。目先の選挙対策で恒久財源であるべき消費税を減税すれば、国家の大計を誤ることになろう。
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日経新聞いわく「消費税は恒久財源」とのことだが、不況でも、そして病人や子供からも搾り取る消費税は破滅的な税制である。
これは欧州のVATの性質とは大きく異なる。租税の応能負担原則から大きく逸脱し、ビルトインスタビライザーを破壊するものだ。

また、消費税収は社会保障財源にはほとんど使われていないため、減税によって財源がなくなるというのも与太話でしかない。
下図の内容は参院の財政金融委員会で財務官僚が事実であることを認めている。


個人消費は、GDPの6割を占める日本経済のエンジンであるため、消費を温めることこそが経済安定のための常道である。
しかし目下の消費支出は7ヵ月連続マイナスだ。消費を後押しするには消費減税が直球の答えとなる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA06BRO0W3A101C2000000/


景気対策としての消費減税は世界の常識だ。

上は10%増税直前のノーベル経済学者たちの警告。


そして日経は、消費税をより多く取って緊縮財政により財政を健全化させようという認識のようだが、バカも休み休み言ってほしい。

米国の元財務長官・ハーバード大学学長のローレンス・サマーズやその他の実証データでも「債務を減らそうと努力すれば努力するほど、逆に債務が増える」ことが示唆されている。これも世界の常識だ。
 

これまで検証してきたように、日経新聞の言うことはほぼ全てが間違いであった。
書いてあることの90%が間違ってるというのは、ドラえもんで言うとのび太のテストの答案用紙レベルのゴミだということだ。

こんな便所紙新聞を真剣に読むとバカになるとこは言うまでもない。

マスコミというものは、スポンサーである資本家のための提灯を持つためにのみ存在している。

皆さんも、周りで日経新聞で読んだデマ知識をもとにご高説を垂れているような人がいたら「かわいそうな人」だと同情してやってほしい。


以上。

cargo