日経新聞を読むとバカになる。
というか、「マスコミのプロパガンダを鵜呑みにすると事実認識を誤る」とでも表現したほうがよいだろうか。

社会的地位の高い人間ほど、マスコミ報道をそのまま信じてしまい認識を誤るようだが、なぜ企業にスポンサードされる新聞や雑誌が事実を報道すると思い込むのか、私には不思議でならない。
紙面に書いてあるのは、資本家を喜ばせるための広告でしかないのだ。

資本家が喜ぶことというのは、たいてい経済を悪化させる。
 

 

ユニクロ柳井氏の大きな錯誤

 

 

先日、ユニクロの創業者柳井氏がタイム誌の表紙を飾り、インタビューで「日本人は目を覚ませ!」と息巻いていたが、彼もまた日経新聞をはじめとするマスコミのプロパガンダの犠牲者であることが伺える。

 


ツイートでは文字数の関係上雑な表現になったが、より正しく表現するなら「ダメ経営者」と言うより、経営者としては有能かもしれないがマクロ経済の知識がまるでない大本営日経新聞の犠牲者といったところになるだろう。

記事から柳井氏の所感を抜粋する。

 

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日本の財政赤字問題や賃金が上昇していない状況、低い生産性についても「日本の公的債務はすでにGDPの264%に達して世界最高となっている、1990年から2019年にかけて、名目賃金(インフレ調整なし)は米国の145%と比べて4%しか上昇していない。生産性はG7の中で最下位で低迷している」

…日本政府に対し、1億2500万人の国民が気づかぬうちに大惨事に陥るのを防ぐため、金利引き上げ、給付金のカット、抜本的な規制の変更などの積極的な措置を講じるよう求めた。

…日本の遅れや欠点についても、「世界に進出してもっと積極的にならなければ、日本人に未来はない」

…「近年、現状に満足しきっている状況や保守的なリーダーシップ、熾烈な競争により、日本のブランドは遅れを取っている」とし、スタートアップ投資が米国ではGDPの0.64%、イスラエルでは2.61%であるのに対し、日本はわずか0.08%という点も指摘している。
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タイム誌の本文も確認したが、このヤフー記事の記述に齟齬はないようだ。
ヤフー記事では「給付金のカット」と訳されていた部分の原文は「Handouts」で、これは「施し」とか「バラマキ」とも訳せるだろう。

要約すると、冒頭のツイートに記述したように、柳井氏は30年の不況を、膨大な公的債務で借金漬けなのに、賃金も生産性も低いと分析し、その処方箋を利上げ、給付金(バラマキ)の削減、規制緩和とした。

まずツッコミが入れられるのは「膨大な公的債務で借金漬け」という認識だが、もちろんこれは正しくない。
国債とは、政府にとっては、返さなくてもよい負債だからだ。もちろん我々国民が返すものでもない。

ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマンはこう発する。

【参考】▼財務省「国の借金は、税金で返済していません」 ~国債を償還する必要はない
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12806259332.html

文章があまりに短くて彼の意図は正確にはわからないが、文脈を読み解くと、おそらく彼はこんな風に間違った理解を持っているのではないだろうか。

①国債を多発しても低賃金も低生産性も解決しない
②不景気で低賃金になったから、利上げすべきだ。
③政府債務が増えすぎて財政は崖っぷち。原因はバラマキ(給付金や社会保障?)のせいだから、バラマキをやめろ。
④賃金が低く、企業の生産性が低いのは規制が厳しいせいだから規制緩和すべき

一つ一つ何が間違っているのか指摘していこう。

 

 

 

①国債を多発しても低賃金も低生産性も解決しない


国債をたくさん発行しているはずなのに、賃金も伸びず経済成長しない理由は、ランダル・レイ教授の言葉を借りれば以下の通りとなる。

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レイ教授:日本は景気後退に直面した際には一時的かつ十分ではない財政刺激策を行い、景気が回復し始めると思われるときには必ず緊縮財政を行うという、ストップ・ゴー型の財政措置を一貫して選択してきた。
これを赤字と債務が大きすぎるという信念によって正当化した。
…日本が大きい赤字と債務を抱えているのは、積極的な財政政策をしたためではなく、積極的な財政政策をしなかったためである。

【参考】▼少子高齢化は問題じゃない。レイ教授に教わる日本の「Stop-Go-Stop政策(ドケチ財政)」
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12664539224.html
・・・・・・・


加えて、2001年以降の新規国債発行額を見ると、「日本は国債をたくさん発行してきた」という印象も逆転するだろう。
国債発行額を抑え、緊縮財政を行ってきたことが事実だ。




きちんとしたデータも見ずにマスコミの誘導に騙されてしまっているのが日本のトップ経営者の姿だ。


また生産性に関してだが、生産性は主に少ないインプットで多いアウトプットを創出できる度合のこととなる。
この生産性にはいくつもの種類があって、主に新聞等に使われるのは労働生産性[=付加価値÷労働者数(または時間あたり労働時間)]となる。
式の分子の付加価値には賃金も含まれるため、給料が上がればおのずと労働生産性も高まる
そう、企業経営者が従業員の給料を上げれば労働生産性が上がるのである。

また、生産性には「TFP(全要素生産性)」というものもあるが、これは需要の影響を加味せず、労働投入量と資本投入量のみから導き出す。

労働生産性とTFP双方に言えることは、政府が支出し適切な需要を創り出し好景気にすれば、生産性が上がるということだ。
無駄の削減や効率化、合理化、時短などでダイエットしても限界がある。

誤解を恐れず簡単に言えば、「国債を多発すれば、低賃金も低生産性も解決する」のである。

以下は政府支出(国債)を出せば出すほど労働生産性が上がるとするグラフとなる。



▼スガ首相のブレーンのアトキンソン氏に反論します。③ ~詐欺グラフを看破!
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12667976795.html

国債を発行し政府支出し、「需要を高めれば生産性が上がる」とは現財務長官のイエレンの発言である。

 

 

②不景気で低賃金になったから、利上げすべきだ


タイム誌の記事を読むと、柳井氏が低賃金の原因を低金利だと分析したような内容になっているが、ちょっと意味不明だし、彼がなぜ「利上げすべき」と言ったのか理由がよくわからない。
しかし、これがもし円安・インフレ是正のためであっても利上げすべきでないことは確実だ。

これはノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツ教授がしっかり説明してくれているので参考にしてもらいたい。
スティグリッツは、利上げすれば住宅・不動産関係の金利にまで影響を与え経済が滞るし、利上げの影響で資本家が消費者に価格転嫁を行い、逆にインフレが進むことすらありうるとし、処方箋として金融政策ではなく財政政策を提示した。

【参考】▼21世紀のインフレ対策(利上げしない!的を絞った財政支出!) まとめ
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12804291073.html

 

 

③政府債務が増えすぎた原因はバラマキ(給付金や社会保障?)のせいだから、バラマキをやめろ。


無駄な社会保障費などを削減して債務の縮減に勤めろということだろうが、これは間違っている。

米国の元財務長官・ハーバード大学学長のローレンス・サマーズやその他の実証データでも「債務を減らそうと努力すれば努力するほど、逆に債務が増える」ことが示唆されている。

 


これは、新自由主義者らが陥る基本的な罠だ。

 

 

④企業の生産性が低いのは規制が厳しいせいだから規制緩和すべき


これもまた新自由主義者が陥る典型的な誤解だ。
規制緩和して供給量を増やせば過当競争が始まりデフレ化圧力になるばかりか経済に悪影響をもたらすことは常識である。

たとえば、「大企業のために規制緩和してもトリクルダウンはしない」と元々ネオリベだったバイデンにさえ完全否定されている。



スティグリッツは規制緩和すると逆に需要を弱め、GDPを低下させうると説明する。
供給側を強化したからといって、困窮する国民の購買力が上がるわけではないし、モノが売れるわけでもないのだ。

【参考】▼経団連のおバカ提言に反論します。 その2
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12823231065.html


引用したヤフー記事の最後のほうの「スタートアップ投資が少ない」とする部分だけは正解なので、その点だけは評価したい。

上記の経団連記事にも書いたが、投資をしないから賃金も労働生産性も上がらないのだ。



しかしスタートアップ企業だけを支援したのでは唯のトリクルダウンになりかねないので、それだけではなく、全般に支援すべきだということも念押ししたい。

【参考】▼経団連のおバカ提言に反論します。
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12820394084.html


上述してきた柳井氏の誤解は、反緊縮派であれば、日経新聞や朝日新聞、週刊エコノミスト、プレジデントなどの紙面でウンザリするほど散見されてきた典型的な誤りだと気づくだろう。

大企業の経営者がいい年をして、このような典型的な誤りを持ち続けているのだから頭が痛いし、日本の将来が心配になる。
多くの人にはぜひ反面教師にしてもらいたい。

さて、次回は、実際の日経新聞の記述を正していく。
多くの場合の、経営者やビジネスパーソンが持つ誤解の源泉が「資本家の犬」であるマスコミだ。

ではまた次回。


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