経済の素人集団がその団体名に「経済」を冠してはいけません。

経団連は「日本経営団体連合会(経団連)」と名を変えれば、誰もが納得するんではないでしょうか。
これなら、「マクロ経済のことなんか知りまへん、ワイら経営者だけが儲かればええんや」とする経団連の本質とも合致します。

この人たちの専門は「マクロ経済」ではなく、あくまで「私企業の経営」ですので、公私混同してはいけません。

本稿では今回の経団連の提言のおバカさ加減にツッコミを入れていきますので、大企業経営者の皆さんがいかに無能で日本経済にとって有害であるのかを確認していってもらいたいと思います。

9月12日に、この経団連の「少子化対策の財源は、消費税を増税した税収で」とする驚天動地のおバカ提言が取りざたされ、バイラルメディアはおろか、主流メディアにまで批判される始末となりました。



若い人達の所得が少なくて結婚もできず少子化に繋がっているのに、その若者から所得を取り上げる消費増税を提言するなんて、本末転倒もいいとこです。

しかし経団連のおバカさ加減は、上記ニュース記事にあるような消費増税や法人減税に関わるものだけにとどまりません。
成長産業だけを優遇しようという「選択と集中」であったり、地方公共団体の業務の民営化などの提言も行っています。

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今回の経団連の提言は、「令和6年度税制改正に関する提言」と「2023年度規制改革要望」の二つに分かれており、メディアで話題となったのは前者のほうのみです。
https://www.keidanren.or.jp/policy/

これらをざっと読んでツッコミを入れていきましょう。
まずは「令和6年度税制改正に関する提言」から。

・・・・・・
令和6年度税制改正に関する提言
―持続的な成長と分配の実現に向けて―
2023年9月12日
一般社団法人 日本経済団体連合会
【概要】
https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/062_gaiyo.pdf
【本文】
https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/062_honbun.pdf
・・・・・・

【概要】から見ていきます。



令和6年度税制改正に関する提言【概要】(p.2) より
なんだか耳当たりの良い文言が並んでいますが、これらは殆どが「だまし絵」。詐欺師の手法そのものとなります。


(p.3) より
「Ⅱ.企業の持続的な成長に向けた税制」として「防衛力強化に係る財源は、本来、すべての個人、法人によって広く負担すべき」としながら、「法人税の負担増加…は慎重に検討していくべき」としています(笑)

じゃあ法人の税負担を上げないのだったら何で負担するのか?それは次の項「1.分厚い中間層の形成に向けた税制①」で高らかに宣言されています。


そう、消費税です。
「(中国との戦争に向けて)ぶ厚い中間層を作るため、子どもから老人まで国民全員が消費税で社会保障を負担しろ!」というわけですね。
(*常識ですが、消費税も法人税も目的税ではないので、その使途を決めることは出来ません)
頓珍漢すぎて何を言ってるんだかワケがわかりませんね。

「中国が攻めてくるのだから防衛は必要だ!」とおっしゃる方もいるでしょう。
しかしよく考えていただきたい。アメリカにけしかけられて隣国を挑発しまくって自滅の道を歩んだ国があります。
【参考】▼ウ露戦争に学ぶ「戦争の作り方」https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12778173321.html

安易にエスカレーションするかたちで軍事費を増やしてはいけませんし、それを支えるために子供や病人からも召し上げるなんてことはあってはいけません。

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さて、税制に関する提言の【本文】のほうも見ていきましょう。


[p.5]より
「GX、DX、スタートアップ等の重点分野に対して、官民が連携して国内投資を促進し、わが国企業の産業競争力を強化するとともに、成長の果実を適正に分配することで、「分厚い中間層」を形成していく」とのことです。

これらの分野に投資することは間違いではありません。しかし、供給サイド、しかもその一部だけに重点投資して供給能力を拡大したとして、そこから供給されるサービスをいったい誰が需要するのでしょうか?
需要する側の国民の賃金が上がらずインフレで苦しみ、購買力は低下しているのですよ。

4~6月期のGDPは前期比1.2%でしたが、設備投資も個人消費もマイナス国内需要は壊滅的でした。
https://www.sankei.com/article/20230908-WT6IHEEL4FMAXACFAFINBYEBRI/

 


また、7月の実質賃金は16カ月連続でマイナスでした。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-09-07/S0GCLMT1UM0W01

国民全体、特に低・中所得層の所得が増えなきゃどんなに良いサービスを提供しても消費されません
日本政府と経団連は、根本から経済理論を理解していないことがわかります。

同じ[p.5]では「成長を確かな軌道に乗せるよう、企業による設備投資、無形資産・人への投資を後押しする税制措置を果敢に講じるべき」と言っていますが、これは、「賃上げした企業にはちょっと税制優遇する」といった程度の話で、これはいままで同じことをやってきて失敗してきた方策です。
10年以上失敗し続けているのに、そこからまるで学んでいないのはどういうわけでしょうか?
https://diamond.jp/articles/-/287780

これも上述した供給サイド偏重の経済対策の話と同じく、需要サイドに購買力がなく消費が増えないのだから企業も儲からず、ちょっとばかし減税のインセンティブをつけようが、賃上げなどできるわけもないということです。

需要不足なばかりか、中小企業には経団連系企業のような元請け大企業からの「値下げの圧力」も賃上げができない理由にあげられています。
https://newspicks.com/news/340410/body/

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[p.7]では、「防衛力強化は、国民や企業の安全を確保する基盤であり、その財源については、安定的な確保に向け、本来、すべての個人、法人によって広く負担すべきである」としつつ、「わが国の法人実効税率は主要先進国の中では依然として高い水準にあり…慎重に検討していくべき」と、法人税を上げさせない向きで言い訳しています。

日本の法人税は、大企業にとっては分社化等で赤字にすることによって徴税逃れが可能であり、そもそもの仕組みとして法人税率を少しばかり上下させてもたいして影響はありません。
加えて、「財源は、本来、すべての個人、法人によって広く負担すべき」という税の基本原則「応能負担」を無視した謎論理にも閉口させられます。


上記[p.8] では米国の支援額(インフレ削減法の3690億ドル)について触れていますが、この日米の投資額の差は圧倒的です。
この日本と米国のコロナ禍以降の補正予算額を簡易的に比較したのが下図です。


詳細: https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12801166308.html

とにかく、日本は支出額がショボ過ぎて「お話にならない」わけです。

例えばDX関連、半導体投資に関していえば、米中の投資額に比べ桁違いに少ないこともわかっており、まさに、始める前から終わっています。

 


経団連は、ショボ過ぎてまるで効果のない税制優遇ではなく、年間100兆円規模の財政支出を政府に提言すべきでしょう。

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続く[p.9]では「GX分野を中心に、DXや経済安全保障等の観点を踏まえつつ、戦略的に重要な物資の国内生産等に対する投資を促進するための新たな税制措置を創設すべきである」としていますが、相変わらずの「選択と集中」と「税制の優遇」では「失われた30年」から脱することができないことは既に説明した通りです。

「経済安全保障」というのなら、冷遇される農業や漁業等の第一次産業、つまり食糧安全保障分野にもしっかりと政府に支出、助成させるべきで、生産性の低い業界ほど支援し、購買力と供給力を共に支えることが重要です。
ところが、日本政府は真逆の政策を進め、日本経済を破壊しようとさえしています。そしてそれを後押ししているのが経団連という構図になります。

農業・漁業従事者の9割は売上1000万円以下の免税事業者です。インボイスで10%課税すると多くが潰れ、供給能力が著しく毀損することは明らかです。

 

インボイス導入で廃業を予定する社は、4割(40.9%)にものぼります。

画像は「9.4 STOP!インボイス 緊急提言記者会見」より

欧米のグリーン政策には、必ず農業・漁業の支援策も盛り込まれていますが、日本のそれは殆ど無視しています。

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経産省の官僚は、経団連系企業に天下り先を斡旋してもらうため、経団連系企業にのみ政府支出の矛先を向かわせるような事業を常態化させています。
経団連側は官僚の天下り先を確保する代わりに「産業政策助成金」等と名付けられた汚職マネーを受けることで、経産官僚とWINWINの関係性を保っています。
https://www.asahi.com/articles/ASQ5D5WZNQ5DULFA00F.html

この癒着構造を念頭に置きつつ、経団連の提言と経産省の方針を照らし合わせると見えてくるものがあります。

下記画像は昨年に公表された経産省・産構審の報告書です。


産業構造審議会・経済産業政策新機軸部会 中間整理(2022年6月)[p.8]
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/20220613_1.pdf

わりと良い感じですよね。
しかし、上記[p.8]に続いて、[p.13]の「(2)ビジョン実現に向けた政策の基本的な考え方」には、「具体的には、成長分野への投資や人的資本投資を進める大胆な政策が必要であり、このため、グリーン、デジタルなどの社会課題の解決が未来の成長の種にもなるとの考え方の下、政府も民間も一歩前に出て投資を拡大していくことが重要である」とあります。

ここで気づくことが、上記画像の[p.8]で言っていた「ミッション志向」や「大規模・長期・計画的」が、いつのまにか「成長分野への投資」、つまり「選択と集中」方式にすり替わっていることです(笑)

お題目だけを見栄え良くし、見た目の良さげな商品を並べていても、実際はただの毒饅頭。経団連の提言としっかり重なってきませんか?

経産省は「大規模・長期・計画的なミッション志向で投資する!」という「錦の御旗」を掲げながら、実際にやってることは「一部の優良企業、高生産性分野にだけ投資する」ことであり、それを経団連がさらに悪用し、見事に「公金横領スキーム」とも言うべき循環フローを構築しているのだと言えます。

この「錦の御旗」の悪用が、いかに悪質かと言うと、経産省資料において引用・参考元となっているマリアナ・マッツカート教授の経済理論とまるでかけ離れたものになっている点です。

マリアナ・マッツカートについても触れておきます。
経産省と経団連の悪事の元ネタとなっていますので、極めて重要です。

マッツカートは、イギリス、イタリア、スコットランド、スウェーデン、フィンランド、南アなどの国々のほか、世界経済フォーラムや欧州委員会、WHO、OECDなどの国際機関でも経済顧問を務める、超売れっ子の経済学者です。

https://onl.la/GNkYCLw
ベストセラーとなった「企業家としての国家(The Entrepreneurial State)2013」は、アマゾンやアップル、フェイスブックなどのビッグテックや、インターネットやスマートフォンなどの技術は、すべて(アメリカ)政府により公共投資され発展していたことを証明した書籍で、それまで漠然と「民間の投資がイノベーションを起こすのだから民営化を進めよう」と考えられていた神話が間違いだったことを証明することとなり、これが各国の政策立案者の心を鷲掴みにしました。

マッツカートの2017年の論文「Public financing of innovation(イノベーションにおける公共投資)」では、直接的かつ広範な公共による資金投入が市場の形成とイノベーションに繋がったことを明らかにしたほか、「ミッション指向」の公共投資を、特にGxやDxに拡充することが金融バブルなどの景気循環リスクへのショックアブゾーバーとなるといったアイデアが語られています。
https://www.ecb.europa.eu/pub/conferences/shared/pdf/20170626_ecb_forum/Mazzucato_SINTRA_Paper.pdf

しかし、これに目をつけたおバカな経団連系の御用学者や、天下りに脳内を支配された経産省の反日官僚らが、「我が意を得たり!」としてチェリーピッキングした結果、マッツカートのロジックは真逆の方向に歪められてしまいました
無残にも「成長分野にだけ投資したら経済成長するんや!」と「選択と集中」型の政策に魔改造されてしまったのです。

当のマッツカートは、逆に「一部の大企業にだけ投資をしてはいけない」との向きでクサビを打ち込んでいます。
マッツカートと、我らがMMT派のL.ランダル・レイ教授との共著論文から引用しましょう。
・・・・・・・
経済における資本発展のためのファイナンス: ケインズ、シュンペーター、ミンスキーの融合(Financing the Capital Development of the Economy: A Keynes-Schumpeter-Minsky Synthesis)
マリアナ・マッツカート、L.ランダル・レイ (2015)
https://www.levyinstitute.org/pubs/wp_837.pdf

経済成長は「スマート」(イノベーション主導)であるだけでなく、「インクルーシブ」(欧州委員会の2020年産業戦略やOECDの2010年イノベーション戦略などの成長戦略が目標としているもの)であるために、雇用を促進し不平等をもたらさない成長でなければならない。
本論文の主要な目的は、このように金融の役割を再考し、議論することである。すなわち、イノベーション主導の成長と完全雇用の両方を生み出すために、金融をそれ自体ではなく「実体経済」に役立つように再構築する方法についてである。
そのためには、ケインズ、ミンスキー、シュンペーターの考え方をまとめるとともに、公的部門が停滞した市場の失敗を修正する以上の役割を果たす(Stiglitz 1989)と理解する必要がある。[p.7]
・・・・・・・

また、2013年のレイとマッツカートの共同論文についてのインタビューでは、「R&D(研究開発)の費用が高価であるため大企業に集中してしまっています。中小企業をこそ公共投資で支えるべきです」、「銀行の投資が実体経済のイノベーションや経済インフラの構築ではなく投機的なものになっていて、金融不安定化に繋がっています」と論じています。
「Mazzucato and Wray: Making Finance Work for Innovation」 https://www.youtube.com/watch?v=QLuQB4zybRk

マッツカート/レイ論文にある「『欧州委員会の2020年産業戦略』のような『インクルーシブ』」とは、例えばジェトロの報告に「欧州新産業戦略では、化石燃料に依存する地域や産業に、移行に必要な技術的および助言的支援を提供するための『公正な移行プラットフォーム』の立ち上げなどの政策が含まれた」とあるように、グリーン・ニューディールの提唱者たちがテーマとする「公正な移行(Just Transition)」のこととなります。
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/389d30ebaafe0851.html

マッツカートやレイはグリーン・ニューディーラーです。
GNDの目的は、環境や経済的に脆弱な地域や人々を支援し発展させることであり、簡単には、「弱い人を助けると経済発展し、より強い国になる」というものです。
経団連や経産省が目指す「一部の成長産業だけに投資して我田引水する」などといった悪意に満ちた目論見とは真逆のインクルーシブな経済理論が根底にあります。

マッツカートの理論は、弱い人や中小企業を公共投資で助け、下部構造をしっかり支えることで、成長企業がイノベーションを起こすことができるといったものです。

もし本稿を見ている経団連や経産省関係者がいたとしたら、自分達の行いを恥じてほしいです。
キミ達のやっていることは欺瞞に満ちているどころか、悪意の塊であり、日本経済を破壊する政策です。今すぐ反日行為をやめなさいと言いたいです。

経団連の提言「令和6年度税制改正に関する提言」[p.14]には「経済成長の担い手となる企業の裾野を広げ、さらなるイノベーションの創出を推進していくには、革新的な技術やアイデアを有するスタートアップを育成するとあります。

スタートアップ企業を育成することに異論はありませんが、我田引水しないでスタートアップ企業以外の人たちも支援しろや、ということです。

一部の優良そうに見える企業や生産性の高い大企業だけに投資・減税し、また規制緩和すれば、経済が良くなって下層部にもその利益がしたたり落ちるとする考えは、「トリクルダウン」そのものですよ。
アメリカの大統領にさえ完全否定されてるのに、まだやるんですか?


ケインズは「一国の資本発展がカジノ経済の副産物となる懸念」を抱いていました(マッツカート/レイ,2015)が、経産省や経団連の人たちは目先の金と利権に目がくらんでしまい、我田引水するべく愚かな「選択と集中」に拘泥しているのす。

ソース:ネットの拾いもの

経団連は、売り上げ1000万円以下の事業者に対する10%増税となる「インボイス」も、自身とお仲間の利益には無関係として粛々と進めていくようです。[p.31]
小規模零細事業者が潰れることで経済全体が悪くなることには想像が及んでいません。


[p.35]では、「税は、広く国民全体が受益する公的サービスの費用を賄うための財源である」としていますので、弱い事業者を潰してもたった2500億のインボイス税収を吸い上げることが必要であると考えており、また財源や税制について大きな勘違いをしていることがわかります。
そして、[p.33]にある「Ⅲ.サステイナブルな経済社会の実現に向けた税制」、「1.分厚い中間層の形成に向けた税制」、「次元の異なる少子化対策」の財源として、消費税については、広く全世代の国民全体が負担すること、生涯所得に対して比例的で長期的には公平であること、財源として安定的であることなどの特徴により、社会保障財源としての重要性が高く、中長期的な視点からは、その引上げは有力な選択肢の1つである[p.36]としています。

何を言ってるんだか理解できる人はいないのではないでしょうか?(笑)
要するに、これは「分厚い中間層をつくり、サステイナブル社会を実現し、少子化を解決するために、消費増税で若い人の所得を奪ってやる!」ということですよ。
おそらくこれを書いている担当者本人もワケがわからなくなっているのではないしょうか。

上記にある「生涯所得に対して比例的で長期的には公平」の意味もわかりません。
低所得者と高所得者の所得が生涯をかけて同比率で移行していったとしたら、低所得者の痛税感は変わりませんし、限界消費性向も変わらないでしょう。
それともまさか低所得者がいずれ高所得者に成り上がるとでも想定しているのでしょうか?ご冗談を(笑)
彼らが「税の応能負担原則」を理解していないからこそ、この体たらくなんですよ。


さて、長文になったので続きは次回に続けましょう。
次回は「2023年度規制改革要望」についてです。
悪の秘密結社「経団連」の正体を暴いていきます。

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