前回の続きとなります。

今回はグラフが一杯になってしまいました。


今回はこちらのアトキンソン氏の記事の続きからになります。

日本人の知らない経済政策「PGSを増やせ!」
衝撃の事実!途上国の半分しかない日本のPGS
  デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長 
  2021/03/24 
https://toyokeizai.net/articles/-/417254
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アトキンソン氏:
〇反対意見4:今までの日本政府の支出による経済成長の効果はないのでは

日本では1990年代から政府支出が大きく膨らんでいます。GDPに対する政府支出は、近年では1990年が最低で13.5%でしたが、2012年には20.3%まで膨らんでいます。しかし、1990年代から、日本が失われた時代に入って抜け出せなくなっているのは、ご存じの通りです。結果として、GDPに対する政府の借金は世界一になりました。

1990年代の日本政府は、「そのうち経済は回復する」という期待を抱いていたのか、先行投資というより現状維持のため、大きな支出を繰り返しました。何度も税率を下げ、個人消費を喚起しようとしましたが、結局実現できませんでした。

支出を増やした場合でも、生産性の向上が狙いではなく、どちらかといえば既得権益を守ることにのみに注力していました。生産性の向上ができない企業でも生き残れるよう、需要創出のためだけに支出を繰り返していたような印象を持っています。
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政府債務増加の理由は先述したレイ曲線の話で補完できるでしょう。
赤字支出が多すぎたのではなく、少なすぎたから成長による税収増が達成できず、余計な債務が積みあがったのです。

また、アトキンソン氏は「生産性の向上ができない企業でも生き残れるよう、需要創出のためだけに支出を繰り返していた」と「ゾンビ企業淘汰論」を述べていますが、90年代のバブル崩壊後に不良債権ではないものを不良債権だと挙げ連ね、銀行や企業を破綻に追い込み、ひいてはデフレ不況の引き金をひいたのがアトキンソン氏自身だと言えることを省みていただき、その犯罪的行為を詭弁で誤魔化さないでいただきたいと思います。

 

 

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アトキンソン氏:
〇反対意見5:世界的には、政府支出と生産性の間に相関関係はない

世界186カ国のデータを見ると、政府支出と生産性の間に相関関係はほとんど認められません。先進国に絞って見ても同じです。

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「政府支出と生産性の間に殆ど相関関係がない」は疑問がありますね。
政府支出とGDPの変化率には90%程度の正の相関関係があるので、そのGDPから導き出される労働生産性に政府支出との相関関係がまったくないとは考えられません。
明らかになんかおかしいことを言ってると感じますので、以下に政府支出と労働生産性の相関関係を示す回帰分析をしていきます。

まず、政府総支出とGDPの関係を確認いただきたいと思います。


グラフ作成:朴勝俊教授

加えて、日本の名目GDPと労働生産性の関係も確認してください。



グラフ作成:cargo

上の二つの図からもGDP・政府支出・労働生産性がある程度連動していそうなことがわかると思います。
労働生産性は[GDP÷就労者数]であり、GDPから導き出すので、GDPと相関性があって当然ですが、政府支出のほうはどうなのかという問いになります。

ひょっとして、アトキンソン氏が示したグラフの「生産性」とは、まさかアトキンソン流の意味不明な定義[生産性=労働生産性×労働参加率]のことではないかと疑いましたが、そんなめんどくさい計算するわけがないと思い、アトキンソン氏のグラフを良く見たら[縦軸:生産性、横軸:政府支出額対GDP比]となっていました。

[政府支出額対GDP比]は、[政府支出額÷GDP]なので、そりゃ政府支出額をGDPで割るかたちで別の変数を追加したら、GDPとの相関性が薄れていくのは当たり前ですよね。

また、この[政府支出額対GDP比]は、前回のブログでも指摘したように「単年ではあまり意味があるとは思えない」数値です。

またまたネオリベの皆さん特有のグラフを使った詐欺の匂いがプンプン臭いますね。
ここに彼のグラフを使ったトリックがあります。

こちらのサイトでは、IMFのデータから[政府支出額対GDP比]の2019年の順位を[キリバス、ツバル、ナウル、リビア、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、ドミニカ、フランス、フィンランド、ベルギー…]としていますけど、これが何か意味のあるデータに見えますでしょうか?

 


https://theworldict.com/rankings/government-revenue-expenditure-gdp-rate/

ある年の[政府支出額対GDP比]を出しても殆ど意味がなく、それを労働生産性と比べてもまったく意味はないですよ。
意味があるのは、[政府支出額の伸び率と労働生産性の伸び率の推移]を10年とか20年で時間軸をとって比べるというようなやり方でしょう。
もしくは[政府支出額対GDPの伸び率と労働生産性の伸び率の推移]を10年とか20年で時間軸をとって比べると、何かわかるかもしれませんが、ある単年だけを切り取って「相関関係がない!」と言うのは、ちょっとまともな知性のある人間の思考とは思えない方法です。


ということで、1999~2019年までの20年間のOECD各国の「労働生産性変化率と政府支出額対GDP比変化率」、また、「労働生産性変化率と政府支出額変化率」を調べてみました。
回帰分析すると以下のようになりました。



「20年間の労働生産性変化率と政府支出額対GDP比の変化率」の相関係数はマイナス0.1で相関性は、√0.101 = 0.318です。…相関関係がまったくないことが示されてしまいました。
「20年間の労働生産性変化率と政府支出額の変化率」の相関性は√0.1618 = 0.402。 これでは相関関係が若干弱いですね…。


しかしよく考えてください。
発展途上国のほうが人口増加・就労者増加率が高く、また給与の増加、そして機械化等による労働生産性向上にも伸びしろがあります。
なにより、インフレ傾向にあり、政府支出額(名目)も爆伸びしたりしますので、大きなブレが見込まれるでしょう。

片や、先進国は就労者数もあまり変わらず、給与の増加・機械化等による生産性向上も伸びしろがなく、物価も安定していますす。

この20年の発展途上国の労働生産性伸び率は軒並み125~230%くらい、対して先進国は100~120%くらいです。
この両極を並べてしまったら、結果が分散してしまうように感じます。


そこで、G7だけで比較してみることにします。



相関性が0.497(=√0.2467)にまで高まりました。
まあ政府支出後に民間企業が需要し、経済に波及し、国全体の就労者の給料額や営業利益等が上がり、労働生産性が高まる、という経路を考えれば変数が無数にあるので、このような結果になるのかもしれません。
政府支出とGDPの関係の場合は、政府が支出するとその分GDPが増え、また定石として乗数効果でも加わるので、相関関係は歴然です。


上記をふまえて、日本・アメリカ・ドイツ・イギリスの労働生産性、実質GDP、政府総支出額の各年の伸び方も見てみることにします。


注:IMFのWEOでは、米国だけ2000年以前のデータが欠損していたので、米国だけ2001年からの18年間です。

なかなか相関が高そうですね。

これを回帰分析してみましょう。
政府総支出額と労働生産性だけ比較しました。



相関が非常に高まったことが見て取れると思います。

このグラフを見て、「労働生産性が向上したから政府支出額が伸びた」なんて言う人がもしいたとしたら、完全に頭イッちゃってます。
他界した頭脳をぜひ現世に引き戻してほしいです。

「お母さんからお金を貰って参考書を買ったら2学期の成績がよくなった」のです。
「2学期の成績が良くなったから3か月前に戻ってお母さんにお金を貰った」なんてタイムスリップはできません。

回帰分析では因果関係は示せませんが、政府支出額、平均給与、GDP、労働生産性などの相関関係を考えれば、おのずと因果関係は決まってきます。

ちなみにですが、日本だけが相関が0.533(=√0.284)と低いのは、あまりにも政府支出額が少なすぎて、労働生産性との間のブレが大きく出てしまったからだと考えられます。世界一のドケチ国家の弊害は大きいですね。
アメリカは20年間で政府総支出を220%、イギリスは244%、ドイツでさえ157%も増やしているなか、日本だけが111%と激ショボですので、そのような結果になることは必然でしょう。

なぜそんなに自信があるのかって?
次のグラフをご覧ください。  



欧州から2国、BRICsから2国、他の発展途上国から2国をチョイスしました。

一目瞭然ですね。

いずれも相関は0.9以上。
「政府総支出額と労働生産性には、強い相関関係がある」
これが結論です。


(*中国の数値がなにやら人為的に見えないこともないですが、ロシアやブラジルの決定係数を出してもトレンドは同じですので、ここは見えなかったことにします。笑)

さらに加えると、この回帰分析から言えることは「政府支出額の伸び率が高いほうが、労働生産性もわりと伸びる傾向にある」ということじゃないでしょうか。(但し、下記で言及するように例外も3カ国ありました)
政府支出額の伸びが大きいと、より経済成長するんですからそれなりには連動しますかね。

もし「労働生産性の向上が経済成長のエンジンだ」と言うなら、例えば先進国では労働生産性は20年で100~120%程度しか伸びていないのに、GDPが2倍にもなっている理由はなんでしょうか?
そんなに乗数効果があるんですかね?

最後に、極めつけですが、この20年間で日本より労働生産性伸び率の低かった国の、名目GDPの伸び率をご覧いただきましょう。



こちらも一目瞭然です。

労働生産性が上がろうが下がろうが、経済成長にはあんまり関係ないのですよ。

 (上述したように労働生産性と政府支出・GDPは相関関係にあるけど、それだけではないということです)
そればかりか、政府総支出の伸びこそが、名目GDPの決定要因になっていることもわかります。


政府支出を投じた結果、企業が潤い営業利益や給料が伸び、GDPや労働生産性が上がる。
基本的にはこの順番です。


アトキンソン氏は成長戦略会議で「労働生産性を伸ばせばGDPが上がる」なんてバカげたことを言ってないで、普通に政府支出を伸ばすよう提言しましょう。
あなたの日本破壊工作は、全てまるっとお見通しです。


以上、アトキンソン氏による「世界的には、政府支出と生産性の間に相関関係はない」とする結論は、完全な間違いであることが立証されました。

アトキンソン氏が「単年のグラフ」を使い、「政府支出額対GDP比」を用いたのは、上記のような事実を覆い隠すためだったのだと考えられます。
ネオリベの皆さん特有の詐欺グラフに騙されないようにしたいものです。


さて、またまた長文になってしまいましたので、「アトキンソン氏への反論」の続きは次回・最終回にまとめます。

では、皆さま、ごきげんよう。

長文、ご覧いただきありがとうございました。


cargo


 

【追記】

 

相関関係が怪しい国も出しておきます。

OECD37か国+BRICS系7か国を全て調べてみたところ、相関関係が若干薄かったのが日本、ノルウェー、ギリシャ。
相関性がまったくなかったのがイタリア、メキシコ、ルクセンブルグの3カ国でした。
そのほかの国の相関は相当高いです。



ギリシャはソブリン債務危機・財政破綻騒ぎのあった2008年から悪化しているので、理由は明快です。

乱高下が激しいのは失業者が激増したり人口流出によって、労働生産性が上がったことなどが理由ではないかと考えられます。

イタリアはだいぶ謎なんだけど、政府支出もGDPも1.5倍以上に伸びているのに、労働生産性がどんどん沈没している。債務対GDP比も高いので、ひょっとしたら日本と同様にレイ曲線の経路を歩んでいるのかもしれません。

【さらに追記】
小川製作所さんの分析で明らかになったのだけど、イタリアと日本は給与が上がらない(日本はむしろ下がっている)ことが、労働生産性が下がっている(日本は伸び悩んでいる)ことの最大の原因のようです。

スタート地点は97年。 他の国は給与もGDPも上がっているのに、日本とイタリアは…。

メキシコも同じく謎なんだけど、リーマンショックあたりで低下し、その後は相関性は高いので、例外的に数値がブレてしまったというだけでしょう。

ルクセンブルグはもともと労働生産性が世界2位の高さで伸びしろが少ないから伸び悩んだのかと思いました。
1970年[79 059] →1999年[144775] →2019年[142659]という変化率なので、たぶんそうなのだろうと。
なお、世界一位のアイルランドはこの20年で二倍ほどになっています。