財務省の御用学者として知られるご高名な土居丈朗さんが投票日直前に、日経新聞で古典的な財政破綻デマを繰り広げてらっしゃいました。

毎度お伝えしているようにバラモン様のデマは、自殺者を増やしたり、植松被告のような凶悪な犯罪を生み出す可能性が高いので、デマが発せられるたびに厳しく反論し、糾弾しなければいけません。

選挙中のバラモン様によるバラマキ批判・財政破綻デマの記事は数多あるものの、今回はもっとも権威のある土居教授の記事に反論しておこうと思います。
言論空間にアーカイブを残しておくことは大事ですからね。

彼らの稚拙な言論は、私のようなマクロ経済学初学者でも簡単に論破できるものですので、皆さんにもケーススタディーとしてもご利用いただけるかと思います。

さて、高卒に完全論破される大学教授シリーズです。

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▼ 与野党の「バラマキ」に警鐘
慶応義塾大学教授 土居丈朗  2021年10月30 日経
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO77102970Z21C21A0MY6000/

31日投開票の衆院選を前に、1つの論考が経済論壇に一石を投じた。財務事務次官の矢野康治氏(文芸春秋11月号)は与野党から出される政策論を「バラマキ合戦」と断じ、国家財政の窮状を訴えた。その後、この論考に対して賛否両論が出された。

あまたあって全ては紹介できないが、批判する側からは、国債が累増しても日銀が買い入れて保有すれば財政破綻は起きないとか、金利が成長率よりも低ければ政府債務の国内総生産(GDP)比は上昇せず破綻しない、といった主張が出た。

日銀が買い入れれば国債金利は上がりにくい。国債買い入れの見合いで大量の通貨が発行された。デフレ脱却を目指し量的緩和をしており、これが奏功して将来デフレから脱却すれば、大量の通貨はインフレ要因となる。それでも金利を抑えようと日銀が国債を買い入れれば、インフレを助長する。そのインフレによって、矢野氏の言うように大きな負担が国民にのしかかる。
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ひょっとしたらこの人はいまだに日銀当座預金の存在を知らないのではないでしょうか…。
まず、量的金融緩和によって国債を買うマネーは「通貨」ではなく「準備預金」ですよ。
その準備預金は銀行間取引でしか流通させることができないので、各民間銀行の持つ日銀当座預金に積まれることになります。
つまり通貨として実体経済市場(預金・貸出市場)に表出することはないので、モノの取引によって生じる物価の変動とは殆ど関係ありません。



量的金融緩和のスタート時には、好景気になるという期待を誘因することによって消費を促し、物価に働きかけるというクルーグマン風の論理があり、当初は多少は効いたところはあったでしょうが、消費増税や緊縮財政によりいわゆる「出オチ」状態となり、2014年以降は殆ど大きな効果を及ぼしませんでした。

よって、土居氏が言っている「金利を抑えようと日銀が国債を買い入れれば、インフレを助長する。そのインフレによって、矢野氏の言うように大きな負担が国民にのしかかる」ということは、ほぼほぼ起こり得ません。
それにそもそもアコモデーション(金融調整)には、異次元の量的金融緩和で金利を低廉に抑えるために使用したような沢山の準備預金は必要のないものです。

嘘だと思うのなら国債金利とマネタリーベース発行量の推移を比較してください。殆ど相関性もないですから。

慶應大学の経済学部教授で、財務省・財政制度審議会の委員を務める権威ある人物がこのような情報弱者っぷりを恥ずかしげもなく披露するというのは愕然としますよね。

 

 

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【土居丈朗さん】

金利が成長率より低ければ、政府債務のGDP比の分母の増え方が大きいから、この比率が低下しうる。しかし財政赤字が一定より大きければ、分子の政府債務が大きく増えて、金利が成長率より低くてもこの比率は上昇する。この点は経済理論の立ち位置の問題ではなく、加減乗除の結果であり異論の余地はない、と矢野氏は説く。
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ドーマー条件は「国債金利が名目GDP成長率以下であれば赤字支出できる」という主流派の理論です。
私たち非主流派は「金利が少々高かろうが低かろうが支出できる」と考えていますが、あえて主流派のこの論理を採用したとしても納得のゆく論理展開をすることは可能です。

まず、先日のブログでも説明しましたが、赤字支出で債務を増やすと「債務対GDP比」は改善します。
例えば、100兆円赤字支出する(債務を増やす)ということはイコール100兆円ぶんGDPが増えることを意味するので、下記のような式になります。

出典:まねーじめんとさん  (*政府債務を2000兆円、GDPを1000兆円と簡略して仮定した)

土居氏は「財政赤字が一定より大きければ、分子の政府債務が大きく増えて、金利が成長率より低くてもこの(債務対GDP)比率は上昇する」と言っていますが、ちょっと何を言ってるのかわかりません。
例えば100兆円赤字支出して、GDPが80兆円しか増えないなんてことは、太陽が西から昇るレベルであり得ません。
こんなに簡単な算数がわからないというのは一体どういうことなんでしょうか。
乗数効果が1以下になるクラウディングアウト的な状況を想定しているのでしょうか。

実際に、コロナ対策費を637兆円も出したアメリカが財政赤字・債務対GDP比を減少させて、PB黒字目標を掲げケチりにケチって29兆円しか出さなかった日本が財政赤字・債務対GDP比を拡大させる見込みである事実をしっかりと見るべきです。

加えて、ドーマー条件についてですが、土居教授はドーマー条件の有効性をも否定しています。

しかし、以下のように世界のトップクラスの経済学者が口を揃えてその有効性を認めているので、これは矢野財務次官と土居教授は世界のメインストリームの潮流から置いてけぼりになっていることを意味します。
そのことにも気づけない情弱っぷりには心底同情してしまいますね。

▼ IMF、FRB、ECB、米財務省のトップが「金利が成長率以下なら赤字支出できる」と言ってる事実
https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12671038773.html

 

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【土居丈朗さん】
慶応義塾大学准教授の小幡績氏(東洋経済オンライン10月16日)は、矢野氏の論考は主張というよりは事実であり99%は正しいが、1%は間違っていると論じている。日本財政は「このままでは破綻する」のではなく、「必ず破綻する」のだと断じる。小幡氏は、景気が良くても低金利でも借金は増え続けてきたし、今後、人口は減り続けて高齢化は進み、借金返済の条件は悪くなる一方だと指摘している。
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小幡氏はバラモン・オールスターの中でも最もレベルが低いのであまり触れたくないんですが、一応復習のためにも反論しておきます。

財務省自身が認めているように「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」ことが事実です。
また、麻生元財務大臣やグリーンスパン元FRB議長も言っているように「政府負債は日銀が刷って返せばいい。簡単だろ?」で論破終了です。

最近では米下院予算委員長のヤ―マス議員や、ライシュ元労働長官も以下のように発しています。



 


債務対GDP比が悪化するのは赤字支出が少なかったからで、その指標が悪化したからといってケチっていたのでは余計にGDPの低下を招きます。

「日本は景気後退に直面した際には一時的かつ十分ではない財政刺激策を行い、景気が回復し始めると思われるときには必ず緊縮財政を行うという、ストップ・ゴー型の財政措置を一貫して選択してきた。これを赤字と債務が大きすぎるという信念によって正当化した。[中略]日本が大きい赤字と債務を抱えているのは、積極的な財政政策をしたためではなく、積極的な財政政策をしなかったためである」とは、MMT派のランダル・レイ教授の言葉です。

 【参考】▼少子高齢化は問題じゃない。レイ教授に教わる日本の「Stop-Go-Stop政策(ドケチ財政)」
   https://ameblo.jp/cargoofficial/entry-12664539224.html


また、下図のようにGDP成長率と労働人口減少には何の相関性もありませんので、本当に自己実現的予言が成就し、どうしようもなくなるくらい人口が減少する前に経済を安定させなければなりません。


(上図はCreateCommonsさんと私cargoが作りました)

慶応義塾大学准教授の小幡績氏ももうちょっと勉強されたほうがよろしいかと思いますよ。

 

 

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【土居丈朗さん】
昭和女子大学副学長の八代尚宏氏(週刊ダイヤモンド10月2日号)は、借金で支えられた日本の社会保障という不都合な真実に目を背けるなといさめる。新型コロナウイルス流行前から高齢化で増える社会保障支出と、賃金停滞で伸び悩む社会保険料とのギャップにより日本の社会保障収支の赤字は持続的に拡大を続けていると指摘。いかなる政策も財源の制約を無視しては成り立たないとの主張は的を射ている。

国債は60年かけて元本を返済する。今年30兆円を追加で借金すると、来年度以降毎年5000億円の返済が必要で、将来の政策余地を狭める。現在と将来の適切なバランスが欠かせない。
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まず昭和女子大学副学長の八代尚宏氏は「借金で支えられた日本の社会保障という不都合な真実」としていますが、政府負債は借金とは言えません。返さなくてよいものだからです。
不都合でも何でもなく、ただ政府の負債「国債」と日銀の負債「準備預金」が交換されているだけって状態です。
政府/日銀/民間を俯瞰したバランスシートで示すと下図のようになります。


(朴勝俊教授の図に、私が加筆しました)


統合政府とは政府と日銀のバランスシートを統合した概念です。
統合政府の負債である国債とマネーは、皆さんの資産です。

この状態をイエール大学名誉教授の浜田氏は以下のように表現しています。




統合政府の負債を償還して減らすということは、すなわち、私達民間の資産を減らすことになります。

そんなことをしたら、大不況になることは誰の目にも明らかです。

そうやってこの25年間の不況が作られてきたことに、土居氏や小幡氏、矢代氏は気づいていないということになります。

また、土居氏や矢代氏は、この世の中にはどこかに「財源の貯められた金庫」があると考えられていますが、事実はそうではありません。
財源は、政府が国債という負債、つまり貨幣を刷って支出するだけで生まれてきます。
このことを「信用貨幣論」と言います。

上記リンクをご覧いただければ、イングランド銀行などの記述から貨幣創造が無から行われることがわかります。

このことからも「いかなる政策も財源の制約を無視しては成り立たない」なんていう彼らの話がデマであることは簡単に確認できます。

また、土居氏は「国債は60年かけて元本を返済する」と言っていますが、それも誤解です。
国債はすべて事後的に日銀に買い取られ、特別会計の国債整理基金との間で借り換えを繰り返しゆっくりと消化されていきます。
借り換えをするための資金調達も国債発行によって行いますので、「60年かけて元本を償還」する必要もありません。
一般会計予算の支出の部にその借り換えのための費用が「償還費」とか「国債費」として計上されているので、見かけ上日本政府が償還しているように見えているだけです。
日本以外の先進国はこんな面倒な会計処理をしていませんので、一般会計予算に載せる必要もない償還費もしくは国債費(借り換え費用)を計上することで、土居さんのような情報弱者を生み出すこともありません。
詳細は、下記リンクで確認ください。

【参考】世界でも特異な国債60年償還ルールは廃止が当然 - 関西学院大学・朴勝俊教授
https://economicpolicy.jp/2020/02/25/1191/
 

以上です。
土居さんの記事の後半はとくに財政破綻デマとは関係がなかったので論評を割愛します。

それにしても、相変わらずヤバい認識をお持ちの方ですよね。
こんな人が慶応大学で教鞭をとり、財務省にも影響を持つんですから世も末です。

マスコミとは「心の底から日本に住む人々を憎んでいる」という感覚が共有され、利害が一致しているので、頻繁にこのようなデマ記事でプロパガンダするのでしょう。

彼らのプロパガンダには自殺者や困窮する人を増やし、植松被告のような凶悪な犯罪者を生み出す危険性をはらんでいますので、逐一、厳しく批判しなければなりません。

他にも原真人氏や小黒一正氏、経済同友会桜田氏、竹中平蔵氏などの悪質なネオリベのデマゴーグがいますので、皆さんもブログやYoutubeなんかでこき下ろしてもらいたいです。
このような悪意ある人間を嘲笑し、バカにすることで社会から駆逐していきましょう。

私たちは下記ツイのような人々を、土居氏らの悪質なデマから守る必要があります。




今回も最後までご覧いただきありがとうございました。
ではまた次回。

cargo