ドーマーあるあるを早く言いたかったのでまとめました。
( https://www.youtube.com/watch?v=HO7DL3_MF7w )
国会での質疑やいろんなやり取りを見ていて、なんとももどかしい思いをするのが、我々のような反緊縮派が「MMTではこう言っている」なんてことを例示した時に、相手の反応がいまいち良くないってことなんですね。 

デマ量産装置の日経新聞や各大本営マスコミの皆さんのおかげもあり、MMTが「どーせ異端の学者が社会の隅っこで言ってる暴論だよね」という扱いになってるのです。

学術的に真摯な姿勢を忘れるのは田中〇臣先生の18番ですが、世の中のみんながそんな風になってしまうのは科学の発展のためにも良くないですよね。

だから「MMTではこう言ってる」ではなく、「主流派学者はこんな風に(MMTっぽいことを)言ってる」とできれば、権威の傘を着ることもできて便利なんだけどなあと思っていました。

そこで、私はあることに気づきました。


以下のレトリックは、ぜひ皆さんにも使ってほしいと思い、この記事を書きます。


私がこのことに深く気づかされたのは、こちらの件。


そういえば、19年5月のブランシャールの「r < g」の話を軸にした積極財政への開眼以降、殆どの主流学者がドーマー条件に拘っていることに気づきました。

ドーマー条件(1940年代に発案)は「国債金利が名目GDP成長率以下であれば赤字支出できる」というもので、実は解釈に諸説があるのですが、単純に、「ウサギとカメの追いかけっこ」を想像するとわかりやすいと思います。
利払い費をカメ、成長率をウサギと想定すれば、金利を低く保てば、絶対にカメがウサギに追いつくことはない、つまり利払い費の膨張が経済成長率(≒インフレ率)以下であれば、利払い費を圧縮できるので、亀がウサギに追いつく間は赤字支出をできるという理論になります。
もちろん、この場合、ウサギは昼寝なんかしちゃダメですけど。

金利を低く保ち利払い費を抑えながら、経済成長していれば、利払いの負担は軽くなっていくということです。
また、例えば年間のインフレ率が3%なら、利払い費も3%づつ圧縮されていきますので、なおさら負担は軽くなりますよね。

例えば下の財務省資料を見ると、ここ20年くらいの利払い費はおよそ8兆円で推移していることがわかります。(注:この表の金利が何を指すのかは不明)
いっぽうで、GDPは2000年に535兆、2019年は561兆円と若干伸びていますので、発散可能と言えるでしょう。


https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/005.pdf

ちなみにファーマンのやつは変形ドーマー条件と言えるもので、「実質金利(名目金利ーインフレ率)÷成長率<1」であれば赤字支出できるということとなりますが、まあ似たようなものです。
(*訂正: ファーマンの式は「Real Net Interest/GDP<1%」なので、「実質利払い費/実質GDP<1%」でした。ずっと脳内でInterest Rateと自動変換してしまっていました。ドーマー条件の亜種とは言い難いですが、「低金利であれば」という条件の亜種となります。 )


勿論、PKやMMT、つまり内生的貨幣供給論や機能的財政論の視点で見たら、利払い費が高かろうがなんだろうが政府が国債を発行しその利払い費分を補えば問題ないので、ドーマー条件なんてどうでも良い話なのですが、私は昨今の海外の報道を鑑みるに、主流派学者がこれにやたらとこだわっていることに気づいたということです。

そこで、主流派学者たちのドーマー条件に関わる発言を集めて、なんとなくスペクトル化してみました。



「まじか?」と思うでしょ?
しっかりと上記のスペクトル図を見てください。
「ドーマー条件という大きな壁」を超えたところに、ここ10年くらいのIMF、FRB、ECB、米財務省、世銀のトップが名を連ねています。ガチなんですよ。

事実として、この殆どの海外有名学者が、直近2年以内に「金利が低いうちは赤字支出できる」、「金利が成長率以下なら赤字支出できる」という向きで発言しています。
ピケティとマンキューは「大きな壁」を超える発言はしていませんが、おおむね財政出動が必要だという立場ですし、ピケティは「経済成長・インフレで債務を圧縮できる」という立場なので殆ど壁を越えていると言ってもいいと思います。

加えていうなら、ブランシャールとラインハート以外の「大きな壁」を超えた人たちは、「金利は政策変数である」とほぼ確信を持っていると見受けられます

だって例えば今年の3月、4月に起こった事実として、FRBが「金利を2%以下におさえる」と言ったらその通りになるし、日銀が「0,25%以下に抑える」と言ったらその通りになるんだから、事実として認めるしかないでしょう。




金利が政策変数であることは国債売買、プライマリーマーケットの機構を考えればそりゃそうだとわかります(ケルトンの「財政赤字の神話」参照)。

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彼らの変節に対する大きなきっかけになった事件が2つあります。
まず、2019年1月のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員による「政府は予算のバランスをとる必要はなく、むしろ財政黑字は経済に悪影響を与える、とするMMTこそ絶対に議論すべきだ」とする発言に対し、主流学者のおっさん達が、この小娘の出鼻をくじいてやろうと一斉にロジハラ攻撃をしたことで、次いで2020年初頭からのコロナ危機となるでしょう。

結局のところ、AOCの発言を受けて「フリーランチはない!」なんて言ってた主流学者たちがこの2年で見事にこぞって変節したのです。

財務省の財政制度審議会が2019年4月17日にまとめてくれていますが、以下の通り、この当時はMMTに脊髄反射した主流学者たちの批判の嵐です。(ド緊縮の財務省はMMTに恐れをなし、批判のためにこういう発言集を作りました)





例えば、この財制審資料のクルーグマンの2019年2月12日の発言を抜き出し、2020年4月1日、パンデミック後のクルーグマンの発言と比べてみましょう。
原文: https://www.nytimes.com/2019/02/12/opinion/whats-wrong-with-functional-finance-wonkish.html


 

君子は豹変すwww
どんだけ手のひら返しとんねんという具合です。
「ドーマー条件」に関する言及もよく観察してくださいね。
認識が180度変わっています。

ドーマー条件は、コロナ禍の不況時であろうと平時であろうと「金利が名目成長率以下であれば」という条件が成り立つので、本来ならクルーグマンの変節するきっかけとしてコロナ禍があったとしてもなかったとしても、普遍であるはずです。この10年間の金利は、前掲したように「名目金利が名目成長率以下」でしたよ。
ところがクルーグマンは、19年中にどんどん利下げされるのを見て、僅か1年でくるっと手のひらを返しました。
まさに「君子は豹変す」です。
自説に間違いがあったのならスパッと変節すれば良いので、このことは評価に値します。

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こういうことを、MMTerのモズラーやランダル・レイは、何年も前からショーペンハウアーを引用するかたちで以下のように予想していました。

MMTは3つの段階を経るだろう:
まず、馬鹿にされる。 
第二に、激しく反対される。 
第三に、それが自明のものだと認められる。 
MMTの教義の多くは、すでに第三段階に入っている。
元批評家達は現在、それらを「最初から知っていた」と主張している。
                                      ー  L・ランダル・レイ

全てはMMTerの手のひらの上で起こったことだったのかもしれません。
財制審の資料にあった2019年2~4月の主流学者たちの批判発言は、まさに上記の「第一段階」にあったのです。


他の主流学者たちの変節後の発言も少しまとめてみましょう。





「世界は変わった」だの「パラダイムシフト」だの、今さら何を言ってるんだこいつらは?とPK/MMTerなら思うでしょうが、好意的に受け取ってください。
超有名主流学者が、2歩、3歩とMMTに寄って来たのです。

浜田さんは「MMTの専売特許じゃない、ブランシャールやドラギも同じことを言ってる!」という向きで、レイとモズラーの言う「MMT批判者のあゆむ三段階」における第3段階目の「最初から知ってた」の段階にいることもわかります。

当のドラギはおそらく既に「金利さえも関係ねえ」って感じで、MMTにより近づいている感じがしますね。

19年の9月には「MMTにもオープンになるべき( https://twitter.com/cargojp/status/1176329654270976001 )」と言ってますから、ひょっとしたらクルーグマンより進化してるのかもしれません。


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クルーグマンやサマーズなんか実は何年も前にこう言っています。




サマーズらはちゃんとわかっているんだけど、2年前はMMTのセンセーショナルなレトリックに脊髄反射で反応していただけだということなんでしょうかね。
しかもサマーズは、財制審資料にあるように2019年3月4日には「フリーランチはない!」と怒っていたのに、2014年の10月6日には「フリーランチはある!」と豪語していたのだから、笑ってしまいます。(*公共インフラ投資以外は乗数効果が低いという認識なのかもしれませんけど)

クルーグマン、サマーズ、イエレン、スティグリッツあたりのここ数年の発言を追ってみると、PK/MMTにどんどん近づいてきていることがわかります。

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さて、本ブログで、私が何を言いたいのか。

主流派がどんどんMMTに近づいてきていることも言いたいことの一つですが、やはり、「低金利であれば赤字支出できる」と世界の有名学者がこぞって発し、認めているということでしょうか。

特に、低金利が10年以上続いている日本ではなおさら支出できる余地がありますので、政策立案者に対して「もっと金を出せ」と圧力をかけることができます

しかも「金利は政策変数」であり、完全にコントロールできるのですから、まったく恐れる必要はありません。


野党議員の反緊縮派にも、ぜひこのレトリックを使ってほしいです。

財務省官僚や自民党内閣は絶対に「金利が政策変数」であることを認めず、「財政への信認が揺らげば金利は暴騰する」と返してきますので、今後はそれを論破していけばよいだけですね。


本日も長文におつきあいくださりありがとうございました。

また次回!

cargo