アトキンソン氏への反論シリーズ4回目。最終回となります。

その①では、アトキンソン氏の「日本は税負担が小さいため、減税しても効果はない」という論理に対し、国民負担率(租税+社保料等)と生活費の高さの面から減税しても効果はあると反論しました。
また、朴勝俊教授にこてんぱんに論破されたアトキンソン氏が「政府支出を増やしても、必ずしも労働生産性が上がるとはかぎらない」と言い出しましたが、当然、労働分配率が下がれば稀にそうなります。

逆に労働生産性を上げても給料やGDPが変わらい(むしろ減る)ことも多いのだから、「労働生産性が高まれば給料やGDPも上がる」として、労働生産性を上げることを目標にするのは間違いで、「政府支出・労働分配率・給料・GDPが上がれば労働生産性も高まる」ことが正しいという向きで反論しました。

その②では、アトキンソン氏が「生産性=労働生産性×労働参加率」という意味不明な定義を持ち出したので、この方程式の妥当性が低いことを指摘しました。
また、「労働生産性の低い医療・介護分野に支出しても全体の労働生産性は下がる場合がある」との高齢者を見捨てる主張には、医療・介護分野のような低生産性・低所得分野に支出して、労働者の給料を上げるべく支えることこそが経済成長につながると反論しました。
さらに、「債務比率が高くなると、政府支出しても経済成長しない」とした「経済成長しないから、債務比率が高くなる」という逆の経路を考えない論理には、IMF・サマーズ教授・レイ教授の論説を引用し、反論しました。

その③では、アトキンソン氏の「世界的には、政府支出と生産性の間に相関関係はない」とする詐欺グラフを看破し、回帰分析のグラフを示しながら「政府支出を増やせば労働生産性もあがる(OECD+BRICS系国44カ国のなかで例外は3カ国のみ)」との結論を得ました。

そして今回が最終回です。
続けます。


 

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アトキンソン氏:
逆に、政府支出ではなく、国の税収比率と生産性の間により強い相関関係が認められます。さまざまな論文でも確認できますが、生産性が高い国では税収が豊富で、国がそれを活用しているという因果関係があると考えるのが適切だと思います。

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「国の税収比率と生産性の間により強い相関関係が認められる」とのことですが、初耳です。

もちろんこの場合の「生産性」とは標準的な労働生産性(GDP÷就労者数)のことですよね?
アトキンソン流の「生産性=労働生産性×労働参加率」は意味が通りませんので、このわけのわからない定義を使用するのは勘弁願いたいです。

 

本シリーズのその③で結論を得たように、政府支出額と労働生産性には高い相関性があります。

多くの国がPay-Go的な感覚(税収の範囲で支出する)で財政運営を行っているため、おそらく政府支出額と税収にもそれなりの相関性はあるでしょう。(自国通貨建て国債を有さない国であればなおさらです)

しかしこの場合、相関性のある政府支出額にさらに税収という変数が追加されるわけですから、相関関係はより薄れていくのではないかと考えられます。

アトキンソン氏はだいぶデタラメを言っていると推測されますが、ここでは細かく分析することは控えましょう。

 

 

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アトキンソン氏
さらに分析をすると、生産性・労働生産性ともっとも強い相関関係にあるのは財政黒字です。この結論は、反対意見3で紹介した論文にも書かれています。
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「生産性・労働生産性ともっとも強い相関関係にあるのは財政黒字」であるとのことですが、労働生産性の世界ランキングで10位に入っている米国、イタリア、フランスは財政赤字が常態化してますけども…。

 

 

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アトキンソン氏:
経済学の世界では、景気が悪化しているときには政府が支出を短期的に増やして、デフレスパイラルに陥るのを防ぐ役割を担うべきという意見は当然で、これに否定的な意見を出す人はいません。

一方、1990年までは、中・長期的には、政府支出そのものが経済成長に悪影響を及ぼすということもコンセンサスになっていました。この結論も、しっかりとした統計分析を基に得られた結果でしたので、総論としては反論する余地がありませんでした。

しかし、1990年にハーバード大学のBarro教授が発表した論文により、議論の流れが一変しました。

その論文では、政府支出が経済成長に貢献しないことを統計的に分解して考察しています。
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まず、「景気が悪化しているときには政府が支出を”短期的に増やす”ことは当然」とレイ曲線を描かせるべく、ミスリードを行っていますね。
前提として恒常的な政府支出があって、そのうえで景気後退局面には景気刺激策として政府支出する、という向きでなければ景気は安定しません。
不景気の時に短期的に支出を増やし、景気が上向いたら緊縮するという向きでは逆に景気が悪化し、余計な債務も累積します。

また、「1990年にハーバード大学のBarro教授が発表した論文により、議論の流れが一変しました。」とあたかも比較的新しく発見されたかのように語っていますが、「バローの中立命題」は70年代から言われていたことで、その元ネタの「リカードの等価定理」は古典派の話ですよ。
つまり、これらは「金・ドル本位制」や「金本位制」が前提になっていた時代の話というです。

「中・長期的には、政府支出そのものが経済成長に悪影響を及ぼすことは1990年までコンセンサスだった」「政府支出が経済成長に貢献しないことを統計的に考察」という文に関しても、これは現在のような変動相場制で不換通貨を採用する先進国が存在しなかったブレトン・ウッズ体制(ドルと金を準備通貨とする金為替本位‐固定相場制)の時の名残により、財政的制約やクラウドアウトを心配していただけだと思いますよ。
兌換通貨は発行量にそれなりに制限があるので、赤字支出を心配して人々が支出しなくなる恐れがありましたが、不換通貨はその制限がありませんからね。(それでも政府の赤字を心配して自らの支出を抑える庶民などいただろうか?笑)
いったい、いつまで昭和の理論を信じているのでしょうか。

 

 

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アトキンソン氏:
「生産的政府支出」とは民間企業の生産性に影響を与え、経済成長に貢献する支出を言います。その中には、インフラ投資や教育が含まれます。「非生産的政府支出」とは、簡単に言えば、社会保障費のような「移転的支出」を指します。
(中略)
高所得経済の場合「非生産的政府支出」の構成比を1%ポイント下げて「生産的政府支出」を増やすと、経済成長率が0.05%上がる効果があることが確認されています。逆に、「非生産的政府支出」の比率が高くなることは、経済成長にマイナスの影響が出ることも明らかにされています。
(中略)
計算のうえでは、日本の「生産的政府支出」はGDPに対して約10%しかなく、先進国平均の24.4%、途上国の20.3%に比べても大幅に低い水準です。これが日本の経済が成長しない原因の1つでしょう。別の言い方をすると、日本は社会保障費の負担によって、経済成長の可能性が奪われているとも言えるのです。
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出所: 松尾匡教授の講演資料から 立命館大学橋本貴彦教授のデータ

社会保障への支出は「非生産的政府支出」で経済成長に寄与しないとしていますが、上図が示す通り、介護が公共事業より雇用者所得の拡大効果が高いとするデータもあります。
何度も言うけど、この分野の労働生産性が低いのは給料・営業利益が低いことが原因なのだから、政府支出を増やして給料・営業利益(労働生産性)を上げれば良いだけです。(労働生産性を上げること自体を目標にするのは愚策ですが)

仮にアトキンソン氏の言う通りだったとしても、「非生産的政府支出」分野であると見做される介護や社会福祉を切り捨てるというのでしょうか。完全に頭イッちゃってますね。
民間で儲からない分野、例えば道路や橋などのインフラ、教育・保育・介護等の社会保障関連、郵便や鉄道、水道などを含めた社会的共通資本にこそ公的分野がしっかりと支出して事業を運営していくべきなのです。この公的資本分野の運営が赤字になったとしてもどうでもいいことですが、逆に言うと賃金や利益が少ないのだからそこに支出できる財政的スペースがあるというだけでしかありません。
なんでもかんでも採算性で捉え、規制緩和・民営化を進めようとするのが、バカなネオリベの思考回路ですね。

では、なぜアトキンソン氏が「生産性の比較的高い分野にだけ」は公共投資を許すのか。それは生産性の低い弱者を切り捨て、上澄みの成長分野のみをM&Aして企業価値を高め、自身の金儲けとしたいからではないのですか。

それにしてもこんなに理論的にもグダグダな人をブレーンとするスガーリンの認知能力ってのはいったいどうなってるんですかね。


以上で、アトキンソン氏への反論は終了ですが、日本政府がとんでもない事業をやっていることもお知らせします。

▼ 厚労省: 労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137393.html



読んで字のごとく「労働生産性を向上させた事業所には助成金をあげる」という事業です。

企業が労働生産性を向上させるには、おおまかに利益(人件費等を含めた粗利)を上げるか、原材料費や外注費用などをコストカットするか、もしくは就労者数を減らすかです。
企業が営業利益を上げるためだけに努力すれば良いですが、就労者を減らしたり外注費をコストカットしてもその効果を得ることができます。

就労者数を減らすことを奨励する「厚生労働省」って一体何なんですかね?
「就労者数を減らす」「外注費を減らす」ことによって労働生産性を上げるのならば、それは完璧な「合成の誤謬」であり、デフレ促進政策ですよ。
外注費を減らせば、その会社は利益が上がるでしょう。でもその費用を減らされた取引先は?

政府自らがデフレ促進政策を進めるなんて、本当に愚かでしかありません。
労働生産性を上げるのは、企業努力によるコストカットなんかよりも、政府が適所に支出できているかどうかが大事ですよ。
政府は、自分達の責任を放棄して、民間に転嫁してはいけません。勘違いしてはいけません。


本日も長文にお付き合いいただきありがとうございました。

また次回に。

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