三日坊主を恐れない -15ページ目

旅は道づれ

アスワンのクレオパトラホテルに到着し、

約束の40LEを払ったりなんかしていると、

ホテルのロビーから慌てふためいたヒゲのオッチャンが

走り出てきた。


軽くパニック状態のオッチャンがのたまうことには、


「電気系統のトラブルがあって、

今日は、このホテル泊まれなくなってしまいました。

つきましては、私どものホテル“マルハバホテル”に

部屋を用意してますので、このままタクシーで移動してください」


ですって…



なんですとーっっ!!



故障だからさ、別に人的なミスではないけどさ、

本当に、なんでここまで一事が万事うまくいかないことだらけなのさ。

クレオパトラホテルは、今回の旅行で泊まるホテルの中で、

一番リッチなホテルのはずで、楽しみにしていたのに…。


まあ、そんなこと言っても仕方がないので、

状況をU子ちゃんに説明する…って



ワーッ なにー?!



大変驚いたことに、U子ちゃんがタクシーのオッチャンから

40LEを奪い返していた。


タクシーのオッチャンも、

マルハバホテルのオッチャンも、

私も、

当のU子ちゃん本人までも、

その行動に目を丸くして驚いた。

そして、ハッとして、みんなで笑った。


このときの、

「いや~ もう驚いちゃったよ~」

というタクシーのオッチャンの反応がまた、

いちいち愛らしいから場が和む。


とはいえ、確かにあくどい運転手なら、

マルハバホテルに着いた途端に、

「クレオパトラホテルからマルハバホテルまでは別料金」

とか言いかねないので、U子ちゃんの行動には一理ある。

こういうハッキリと、迅速に行動を起こせるところが、

私にはないところであり、今回の旅行でも大変助けられた。


お互いにないところを補い合い、助け合ってトラブルを乗り切る。

一人旅も好きだけど、

トラブル満載のエジプトは、やっぱり道づれがいて良かったわ。




アスワン・ヤン車タクシーの正体

「えっ ヤン車?」



料金交渉を終えた私たちが乗せられたクルマは、

白い大型セダンで、ダッシュボードにはシロクマ風毛皮、

ココナッツ臭が漂い、どう見ても正規のタクシーではなさそうだった。

しかも、冷房なくて窓全開。めちゃくちゃ暑い。


でも、運転するオッチャンは良いヤツだった。


エジプト人は基本的に、人なつっこくてユーモラス。

熾烈な料金交渉を終えた後も、

なんとなく憎めないキャラの人が多い。


このオッチャンも例外ではなく、

車内での会話の大半が営業トークなのにも関わらず、

ぜんぜん嫌な気分にはならなかった。



「アスワンの観光にタクシー必要だろ。

40LEでいいよ。

ついでに、明日の空港までも40LEでいいよ」


「うーん…明日の空港まではお願いしたいけど、

今日の観光はいらないや」


「観光コースはね、オベリスク、イシス神殿、

アスワン・ハイ・ダム…

あっ ハイ・ダム知ってる?」


「知ってるけど、観光はいらないってば」


「そうか、そうか」


「……。」


「……。」


「ところで、この後の観光にタクシーはどう?」


「だーかーらー。

明日の送迎は必要だけど、今日の観光はいらないの」


「そうだった、そうだった。

で、今日は何するの?」


「ファルーカに乗って、のんびりしようかと思ってる」


「そりゃあ、いいね。

じゃあ、良いキャプテンを紹介するよ」


「え…別にいいよ」


「あ、そうなの?

じゃあ、オベリスクとイシス神殿とアスワン・ハイ……」


「だーかーらー…」



もはや冗談交じりなのか、自分のしつこさに自分で呆れちゃうのか、

言いながらオッチャン自身も笑っちゃってるところが、また憎めない。



だから、翌朝8:30に迎えに来たオッチャンが

なんとなく無愛想で、不機嫌なオーラを出していたときには

ちょっと驚いた。

ちょっと警戒した。

クルマが走り出しても、ほとんどしゃべらず、

本当にこの人は、昨日と同じ人なんだろうかと思った。



その謎が解けたのは、空港にかなり近づいてからのこと。


「ハイ・ダム知ってる?」


「知ってるよ」


「実はオレ、あそこで働いててさ。

朝からひと働きしてきたから、すげぇ眠いんだよね」


「マジですかー!?」



正規のタクシーではないとは思ったけど、まさか兼業とは。

車内に飾ってあった2人の子供の写真。

彼らを育てるために、お父さんがんばってるのね。

50LEから、頑として譲らなかった姿勢にも、ちょっと納得。


この後も何度もタクシーに乗ったけど、

彼のタクシーが一番楽しかったように思う。



タクシー交渉タイトルマッチ第一戦

アブシンベルの感動を胸に、到着したのはアスワン空港。

同じ飛行機に乗っていた9割以上の乗客はツアー客のため、

到着するなり、みんな大型バスに消えていった。



さて。

こちとら、初のタクシー交渉である。



ラクダの運賃を交渉しなければいけないのは

まだ理解できるとして、

タクシーに乗るのもいちいち交渉しなけりゃならないなんて

まったく不便で、スリリングで、エキサイティングな国だ。


『地球の歩き方』によると、

アスワンの空港から市内までの相場は25LE。

それでは、目標25LE、許容30LEで、がんばってみよう。



ファイッ!


※青コーナー:タクシーのオッチャン

  赤コーナー:我々



「どこまで行きたいの?」


「クレオパトラホテル。知ってる?」


「ああ、もちろん」


「いくら?」



「50LE」



「えーっ 高ーいっっ!!」


「高くないよ。ぜんぜん普通だよ」



これがまた、本当に「ぜんぜん普通だ」という顔を

見事なまでに装ってくれるんだ。

うっかり、自分が無理言ってるような気分になってしまう。



「いやいや、絶対高いって」


「じゃあ、いくらならいいんだ」


「20LE」


「ムリムリ」


「もー!じゃあ、30LE」


「いや、だから50LEだって」


「30LEっ!」


「あのね、アスワンはルクソールと違って市内まで遠いんだよ。

それだけガソリン代もかかるんだから、絶対50LE」



もう、暑いし、疲れてるし、戦う気力は下がる一方。

おまけに、空港にいたタクシーは、

この交渉相手のを含めて2~3台。

他に交通手段はないんだから、すっかり立場は弱い。



「OK、OK、もうわかったよ、わかりましたよ」


「そうか、よかった」



「40LEで、ね」



「は~…わかったよ。40LEね(苦笑)」




と、まあ、こんな具合に20分くらい押し問答をしていただろうか。

目標価格も許容価格も大幅にオーバーしてはいるが、

頑として譲らなかったオッチャン相手に、10LEは負けさせたから、

第一戦にしてはがんばったということにしておこう。


さ、ホテルに向かおうよ。





【プチ役立つ情報】

・ルクソールで知り合った一人旅の日本人女子、A美は、

アスワン空港にて、欧米人の2人組みと相乗りで交渉に臨んだが、

結果は、45LE。

どうやら、日本人だから、ふっかけられているわけでも、

女の子2人組みだからなめられているわけでもないみたい。