目的別「物語」メッセージの作り方。
4つ目です。
今回は“営業トーク“がテーマです。
商品やサービスの紹介にあたって、
性能やコストは敢えて焦点から外し、
創業者ストーリーを前面に出したアプローチの例です。
“正攻法”でない様に見えるかもしれませんが、
企業活動のパーパスへの注目度が高まっている昨今の
流れを鑑みると、今後はむしろ、
こうしたアプローチこそが
注目されるようになるのでは、と私には思えます。
今回も、
https://ameblo.jp/c-b-collaboration/entry-12848082621.html
の“五段展開”に切り分けられますが、
“いつ”、“どこで”、“どんなキャラクターの誰が”
を含む<Context>を、
レトリックの視点から分割した形になっています。
(以下では<Context1>,<Context2>としています。)
順に見ていきましょう。
(導入)
社会のバリアフリー化に取り組んでおられる貴社の取り組みの数々を、ホームページで拝見いたしました。実は是非ともご紹介したい人物がおり、今日はその人物の物語をお伝えすべくやってまいりました。
<Context1>
今から23年前、加藤というエンジニアの男が大阪の機械メーカーで働いておりました。
<Before>
彼は視覚障がい者だった自分の妹が就職差別にあったことをきっかけに、
<GONG>
会社を辞めて自ら機械加工の会社を興し、そこに妹や妹と同じ盲学校の卒業生らを雇って事業を進めていきました。事業は順調に拡大し、12年前にはアメリカの空調機メーカーを買収して、業務用機器の生産も手掛ける様になったのです。
<After>
現在岐阜にあるその会社の工場は、高い障がい者雇用率で厚労省からも表彰され、従業員の丁寧な仕事ぶりは、業界でも評判になっているものです。
<Context2>
工夫すれば個性が活かせる。皆で工夫すれば共に働く社会を創造できる。加藤が目指しているのは、まさにバリアフリーの職場です。
既にお気づきの通り、加藤は弊社の創業者であり、現在の会長です。そして今、貴社にご提案している店舗用の空調機器は、すべてこの岐阜工場にて製造されている機種です。
<Message>
先般カタログでご案内しましたが、この機種は消費電力が少ない、騒音も小さい等の特徴を持っております。とはいえ正直申せば、市場が飽和しているこの種の機種はどの製品も似たり寄ったりで、機能的に弊社が特別優れていると申し上げるつもりはありません。
従業員の丁寧な仕事ぶり、そこからくる安定した品質は、誰にも負けない自負がございます。そして貴社とは何より、ご一緒にバリアフリー社会を実現していくパートナー的関係でありたい、というのが、私たちの望んでいるものです。貴社向けの仕事と聞けば、工場の連中は大いに張り切っていい仕事をしてくれると思います。
貴社と一緒に未来を開いていきたい、という私たちの思い。受け止めて頂けたら嬉しいです。
Stp
四要素 https://ameblo.jp/c-b-collaboration/entry-12848660453.html
ですが、
① このケースでは、創業者である「加藤」のキャラクターが、
とても重要になります。
“当社の創業者である加藤は…”と、オーソドックスに
始める手は勿論ありますが、ここでは
「貴社の取り組みとつながるある人物」という形でまず紹介し、
ストーリーを語った後に“種明かし”という演出を
入れています。
② 文中に「加藤」の感情を示す表現は無いのですが、
“妹が受けた就職差別がきっかけで起業”し、
事業を拡大させた現在は、
“高い障がい者雇用率で厚労省からも表彰され…”という
展開の中に「加藤」の思いを滲ませています。
聞き手の共感を引き出すカギとなる部分です。
③ この事例は、営業マンがお客さんに向かって、
“一緒にやりましょう”と、迫る場面の描写であり、
その場の“語り手”の存在が、お客さんにとって
最重要の意味を持ちます。なので、最後の
“私たちの思い。受け止めて頂けたら嬉しい”と語る
局面の「語り手の姿、声」を焼きつけられるかどうか、
がキーです。
④ 以下の様な本音で語る姿勢が、心理的な距離を縮めて
くれるものと思います。
“正直申せば、市場が飽和しているこの種の機種はどの
製品も似たり寄ったりで、機能的に弊社が特別優れて
いると申し上げるつもりはありません。
従業員の丁寧な仕事ぶり、そこからくる安定した品質は、
誰にも負けない自負がございます。“
働く意味が重視されてきている昨今、
企業のパーパスや理念、グローバルイシュー等が現実の
意思決定場面で重視される傾向は、高まっています。
差別化が難しい商品・サービスなどの選定の際に、
“誰から買うか”、“誰と組むか”が、重みを増してくる為、
自社や自分自身を印象付けるストーリーの
意義は膨らんできていると心得ておくべきでしょう。
創業者のストーリーをはじめとして、組織内にある
様々なストーリーは、企業の目に見えない資産であり、
外部と新しい関係を構築する上でも、
しばしば武器として機能しうるものです。
「物語」の持つ力を十二分に理解し、
社内、社外の様々な場面で“活用”できる力を養うことは、
今後益々、必要になってくると感じています。
