実践から得た教訓を伝える | チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

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この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

今回は実践を経て得た教訓を部下や後輩に伝える

ケースの紹介です。

 

画期的な低燃費を実現したマツダのエンジンSKYACTIVE。 

その開発を主導した人見光夫氏の話は、

NHKプロジェクトXでも取り上げられました。

 

以下は同氏の著書、『答えは必ずある』からの引用です。

エンジニアである人見氏が、技術開発の現場実践を通じて

得た発見を語っている一節を引いて、事例化してみました。

 

書籍内に現れる文章も、

https://ameblo.jp/c-b-collaboration/entry-12848082621.html

の“五段展開”に切り分けてみることが出来ます。

 

ですが

同書の先行するパートで<Context>が共有されているので、

以下はBefore 以降の部分と、解釈頂くのがいいと思います。

 

引用した部分は、

高性能のエンジンを開発しようと奮闘する人見氏らが、

理論上解決困難なトルク問題に直面しているシーンです。

 

<Before>

ここで考えたのは、圧縮比を上げれば上げるほどどんどんトルクが下がるといっても、まさか反対に回るようにはならないだろう、どこかで止まるはずだ、その時のトルクはどの程度になるかやってみよう、ということだった。

そこで担当者を呼んで「圧縮比15でどれくらい性能が出るかテストしてみてくれ」と頼んだ。そんなことをしたら激しいノッキングが出て壊れると思ったのか、かなり不可解な顔をされたのを覚えている。

 

<GONG>

準備の時間がかかったが、テスト結果を見て想像したどおりであったことがわかった。それまで言われていた程にトルクは落ちていなかった。落ち方が少なかったのだ。これで、これを次世代の技術の中心に据えられるという手応えを得ることができた。うれしかった。一人でワクワクして家に帰り、とても美味しいビールを飲んだと記憶している。  

 

<After>

当時から一緒に仕事をしていたY氏たちが、その後トルクの低下が抑えられた要因を調べてくれて、点火前に低温酸化反応という本格的燃焼の前の予備反応のようなものが起きたことが理由だとわかった。 いずれにしてもトルクの低下率が低かったので、これはいけるなという感触を得た瞬間であり、そう何度も味わえない喜びを感じたものである。

 

<Message>

ここで圧縮比をこれまでどおり1づつあげるというやり方をしていたら、SKYACTIVは決して成功しなかっただろうと思う。1づつあげれば圧縮比13ぐらいまでは確実に大きくトルクが低下する。だから14や15と上げれば、もう手に負えないほど低下してしまうと容易に予想できるため誰もやろうとしなかったのだ。

そうではなく思い切って誰もやったことがないと思われる高圧縮比からテストしたからこそ発見できた現象だ。みんなと同じやり方で少しずつ変化させていたのでは、他人より早く新しい発見をすることはできない。誰もまた見ていない世界にいち早く踏み込むことである。大きく振ってみる―これは今も教訓として身についていることだ。

 

Stp

 

四要素 https://ameblo.jp/c-b-collaboration/entry-12848660453.html

ですが、

 

①   キャラクターはコンテキストと同様、先行部分で

語られており、上記には記述はありません。とはいえ、

エンジニアとして思案を巡らしている姿は、

“反対に回るようにはならないだろう、どこかで

止まるはずだ、その時のトルクはどの程度になるか

やってみよう“

の表現に現れています。

 

②   GONG前後の感情の動きは、

“激しいノッキングが出て壊れると思ったのか、かなり

不可解な顔をされたのを…“ の場面と、

“一人でワクワクして家に帰り、とても美味しいビールを…”

のコントラストに、よく表れていますね。

 

③   エンジニアらしい淡々とした記述ですが、

“言われていた程にトルクは落ちていなかった。落ち方が

少なかったのだ。これで、これを次世代の技術の中心に

据えられるという手応えを得ることができた。”

という記述には、壁を乗り越えた爽快感を感じます。

 

④   “担当者を呼んで「圧縮比15でどれくらい性能が出るか

テストしてみてくれ…激しいノッキングが出て壊れると

思ったのか、かなり不可解な顔をされたのを…“という

やり取りは、緊迫感の伴ったリアリティーが感じられます。

 

この「物語」のメッセージは勿論、末尾で述べられている、

“大きく振ってみよ”という「姿勢」、「考え方」です。

その考え方が単に概念として語られるのでなく、生身の人の

体験から語られるところに、強烈な説得力が出ている訳です。

 

実践から得た教訓や、実践内容そのものを部下や後輩に

“伝承”するケースは、当然ながら“聞き手”によって

語られる量や中身が変化します。 

このケースでも、実際の後輩エンジニアに向けたメッセージで

あれば、より詳細な段取りや作業手順が同時に語られても、

不思議はないでしょう。

 

 

実践的なアドバイスも、単にマニュアルや作業書で伝わるのと、

緊張や歓喜の伴う物語で伝えられるのでは、

伝わるものがまるで違って来ます。

 

まして、良く知る先輩や上司の思いや苦悩、試行錯誤の跡、

組織内で受けた支援や避難、感情のアップダウンなどと

共に伝わってくるならば、

 

情報は単なる伝聞情報の域を出て、

記憶に深く刻まれることは、容易に想像できるでしょう。

 

そしてそういう情報こそ、現代の組織が必要としている、

最も伝承価値の高いものだと、私は思います。