創業当初、僕も個人事業主の時はすべて一人ですから気が楽でした。人が増えてくるとやっかいなことが多くなります。誰それと誰それが仲が悪いとか、辞めるとか辞めないとか、誰と誰は付き合ってるだの......どうでもいいですね。

 

企業は人が増えただけでは十分な成果を出すことができません。寄せ集めは組織、チームとはいいません。集合体(グループ)と言います。ただの個人事業主の集まりのようなものです。

この集合体から組織へ、寄せ集めからチームへまとめあげるためには、いったい何が必要なのでしょうか。

 

組織論では、組織構造論というものがあります。適切な階層の設計、ルールやマニュアルの整備です。しかし、役職をつけて、人を管理させようとしてもなかなかうまくいかないというお悩みは尽きません。管理職が人を育てない、管理職そのものが育たないなどの相談が後を絶ちません。組織化、チームとして機能をさせるのに、絶対にはずしてはならないポイントが3つあります。

 

 

1、権限責任一致の原則

その社員に与えられた権限とは、決裁上限であったり、決定権です。権限移譲されていればされるほど、判断のスピードが速く、顧客や時流に上手に対応ができます。この権限が大きくなれば、当然ながら負う責任も大きくなるという考えです。至極まっとうですね。

 

僕はこの2ポイントからさらに3ポイントで組織を捉えています。

責任=権限=義務

 

責任と権限だけでは仕事の設計が難しくなります。わかりやすいのは社長です。当然オーナー社長ですから、すべての権限を持っていますし、利害関係者(ステークホルダー)、いわゆる顧客や金融機関、社員に対してすべての責任を持っています。では、仕事の義務はないのかと問われれば違います。社長の仕事とは、という定義、いわゆる義務を明確にすることで、公平性や透明性を獲得することができます。

 

これは部課長のみならず、一般社員にもあてはめて、

・責任の範疇(その社員が関与する範囲)

・権限(その社員が決められること)

・義務(その社員が果たす業務)

これらを設計することが求められます。

 

 

2、指揮命令系統の整備

課長に指示を受けた業務を遂行中、ちょっとまったが部長から入る。

このような経験をしたことはないでしょうか。僕は営業マン時代、複数の先輩上司から様々なことを言われて混乱したことがあります。せーr数の学校が全国で展開している若手向けの教育研修でも「人によって言ってることが違う。どうしたらいいでしょうか」新卒社員から同様のことがよく相談されます。

 

1で説明した権限の中には、指示命令することも含まれます。好ましいのは直下の部下に対してのみの指示命令です。下の権限者の頭をとおり越すことは、一般社員が課長に話を通さず、部長に報告をするようなものです。通り越された対象者は立場もなくなりますし、なにより指示を拝命した部下が混乱します。

 

これは役職の職務、責務設定が不明確ですと起きる問題です。主任は指揮命令者なのか、係長は指揮命令者なのか、などを公式化することで、諸問題が解決できます。

 

 

3、情報共有

情報共有とは、横軸のコミュニケーションです。部署内のコミュニケーションであり、部署を超えたコミュニケーションでもあります。僕たちは昨日より今日、今日より明日へと生産性を高めていかなければなりません。生産性を向上させていく要因は様々ありますが、ひとつに体験や経験の共有です。自分一人で体験経験したノウハウ(情報や知識)だけで仕事をすすめるより、多人数で積み重ねたほうが成果の総和は大きくなります。ただ、これではただの足し算です。組織やチームは人がいることで相乗効果を狙います。ですから、お互いの体験経験したノウハウを交換することで、さらに成果の総和が大きくなります。

 

社内コミュニケーションが大事とよく言われて、イベントや飲み会などを積極に開催される企業様もいらっしゃいます。それはそれで良いと思いますが、もっとも効率的なのは会議やミーティングです。

一般的な会議やミーティングは、ただの報告会、または上司のお説教会になりがちです。生産性を高めるためには、各自が手に入れることができたノウハウを共有するべきです。

 

効果的な会議やミーティング手法については機会をみつけてまたお話いたします。

 

浅井隆志

かの有名な山本五十六の言葉にも「任せてやらねば人は育たず」とあります。人を育てるには仕事を任せることが一番だと思っている管理職も多いはずです。しかし本当に仕事を任せることが、部下の成長につながり、業績につながるのでしょうか。

 

僕が営業マン時代のことです。そこそこ売れていた僕は、基本的には上司の干渉がない状態で仕事をしていました。週に一回の売上見込みの報告だけで、上司と会話をすることがほとんどありませんでした。「浅井はほっておいても大丈夫だろう」という上司の認識だったのでしょう。

詳細は省きますが、ある時にお客様から「訴えてやる!」と言われたことがあります。とんでもない大クレームを起こしてしまいました。怠慢ではなく純粋に知識不足による失敗です。この時の僕の心情としては、辛いから辞めたい......逃げ出したい……でした。自分のため、会社のため、お客様のために一生懸命に頑張っているのに、なんでこんな不幸な境遇を味合わなければならないんだと嘆きました。

“任せる”というのは一見して聞こえはいいですが、部下にとって酷な状況を作り出してしまうということを理解しておく必要があります。

 

任せるはある意味パワハラです。

その業務の理解度、スキルが不足している社員に対して仕事を任せると、部下には多大な負荷が掛かります。任せることが本当に成長、成果につながるのなら、今すぐ社員を社長にすればいいんです。しかし、その状況下で耐え抜いて成果を出せる部下が一体何人いるのでしょうか。

 

任せていい部下、任せてはいけない部下、任せ方には工夫が必要です。

 

1.新人層や仕事の能力がまだまだ足らない部下に対してのアプローチ

不動産会社に入社した初日に、研修なるものがありました。電話帳一冊を投げられて、これで売上つくれ!と言われたことがあります。修行こそ研修だというのがその会社の言い分でした。しかしなんと言って電話をするべきかがわからず、ものすごくストレスを感じたことを今でも覚えています。

 

仕事のレベルがまだまだ高くない層には仕事を任せてはいけません。初めての業務、初めてのシチュエーション、経験値の少ない状況で自己判断するというのは多大なストレスになります。弊社の若手向け研修の受講生からよく聞くのが「何をしたらいいのかわからない」「何がわからないのかもわからない」です。習うより慣れろと言う言葉がありますが、若手には慣れる前に習うがもっとも成長を促進させます。できないことができるようになる喜びを最優先とします。考えろは時代錯誤です。効率が悪い。

具体的な指示を与える、指示型マネージメントが有効です。

 

2.ある程度仕事を経験し、遜色なく業務がこなせる部下に対するアプローチ

1年目は手探りで、2年目で季節変動も含めた年間の動きを理解し、3年目で自分なりの工夫が始まると僕は考えています。おおよそ、3年目以降の社員はある程度の業務を経験し、特別なことがない限り自分で仕事を完結できるようになるはずです。かといって、3年目部下に仕事を任せてはいけません。新人層ほど細かな指示、プロセスに口をはさむ必要はありませんが、フレーム掛けが大切になります。

 

その仕事、業務の目的は何か。なにを、いつまでに、どれくらいやる必要がるのか。そして注意事項は何か。おのずとどうすればよいのかを考えるようになります。逆にこのタイミングで指示が細かすぎると、自分で考えなくなるようになってしまいます。

 

マラソンで例えると、1の部下には走り方、2の部下には目標タイムを授けるようなものです。

 

3.能力も経験も十分な部下に対するアプローチ

あなたと同じ、もしくはあなた以上のプレイヤーとしての成果を出せる部下には、口出しはほぼ無用です。ほぼというところがミソです。基本的に口出しはしませんが、成果への進捗は注視します。進捗の遅れがある際に、どのような改善を図るのかを確認します。もちろん必要に応じて、軌道修正のヒントを提供します。

意思決定はその権限の範囲でさせることが重要です。そのほうがスピーディですし、責任を持ってくれます。その際の注意点としては、部下が意思決定したことにイチャモンをつけないことです。なんのための権限移譲なのかわからなくなります。

 

 

部下の能力に応じた仕事の振り方ですが、3パターンとも共通しているのが、丸投げで任せてはいけないということがお分かりいただけると思います。

冒頭でも引用した山本五十六の言葉をもう一度。“やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず”

 

任せる前に、まず充分に教えろ!

毎週の部門長会議では、営業部の売上が悪いと社長からどやされる。営業会議で部下に発破をかけるも、うんともすんとも言わない。部下がやらないからノルマ達成のために自分で売上をつくる。営業で忙しいにも関わらず、部下はクレームも持ってくる。しかもホウレンソウがないから、対応もすぐにできない。それをまた上司に報告すると、しこたま怒られる。だから、部下の悪い報告は隠すようになり、部下に成果の期待をしなくなる。数字が足らないのに、部下が突然やめるという。
どうして俺に協力しないんだ!!!!と、叫ぶこともしばしば。なにを隠そう、僕が初めて管理職になった時の日常でした。

管理職への出世は僕の自己顕示欲を満たしてくれましたが、とても給料に見合うものではありませんした。部下の売上も面倒みないといけない。部下のクレームも処理をしないといけない。だからといって、部署の売上が上がっても僕の給料に反映されない。
正直、プレイヤーとして働いているほうが楽だし、収入もいい。費用対効果がいいと感じていました。だから部下に対して、いつもイライラしていたように思います。

管理職の仕事は、部下の成果を管理し、仕事をしているかを監視し、そして発破をかける。部下の成長のために仕事は教えない。これが管理職の仕事だと思っていました。


一向に上がらない成果、辞めていく部下が後を絶たない状況下で、僕はある考え方を思い出しました。

「フィードバック(成果や反応、結果)はすべて自身がつくりだすもの」

売れない営業マン時代は、売れない理由をいつも誰かのせいにしていました。景気が悪い、うちの商材は高い、ライバルは販促物が充実している、などなど悪いフィードバックは誰かのせい、良いフィードバックは自分でした。
そうではなく、売れるのも売れないのもすべては自分が原因であるという考え方が正しい。もう少し丁寧に言えば、そう思うことによって自分が成長できると気づきました。それが僕の営業成績を大逆転させた考えでした。

マネージメントも同じく、「部下の成果、反応はすべて上司である自分次第」という考えに至ることができました。
管理職の責務は、自分のチームの成果を出すこと。そして、そのチームの成果はどのような事情があっても、自分のせいである。でも、これって、不幸ですよね。なんでこんな大変な仕事を引き受けなければいけないのかと。それでもがんばれた理由は、「課長についていきます!」という稀な部下がいてくれたから他なりません。

管理職は大変つらい仕事です。めちゃめちゃ忙しいし、やっかいなことばかりです。しかしながら、管理職でしか味わえない喜びも間違いなくあります。


そもそも仕事のやりがいとはなんでしょうか。僕は3つに集約できると考えています。

・報酬 ・認められる喜び ・自己成長する喜び

報酬は生きる上で不可欠な生活の糧です。最低限を賄うことができるようになれば、欲しいものを手に入れることもできますし、おいしいものもたくさん食べられるようになります。大切な家族を守ることもできますし、旅行など思い出を作ることもできます。

お客様から認められる、上司や同僚から認められる、部下から慕われるなど、必要とされるというのは、とても嬉しいことですよね。仕事でまわりに良い影響を与えられるようになれば、仕事がさらに楽しくなるのは間違いありません。

できないことができるようになる、いわゆる成長実感も仕事の喜びです。自分だけでなく、できなかった社員ができるようになる成長を見守れるのも管理職の仕事の喜びです。


「浅井課長のおかげで契約が取れました!」
なにより部下と手に手を取り合って達成感を味わえたことが、管理職の意義、やりがいに気づけた瞬間でした。


管理職になるとこの3つの喜びが増大します。もちろん責任も義務も伴いますから喜びだけが増えるわけではありません。管理職ならではの不幸を、腹を据えて背負えば、きっと今までにない喜びを味わうことができます。

損して徳とれ あとですべて返ってくる