かの有名な山本五十六の言葉にも「任せてやらねば人は育たず」とあります。人を育てるには仕事を任せることが一番だと思っている管理職も多いはずです。しかし本当に仕事を任せることが、部下の成長につながり、業績につながるのでしょうか。
僕が営業マン時代のことです。そこそこ売れていた僕は、基本的には上司の干渉がない状態で仕事をしていました。週に一回の売上見込みの報告だけで、上司と会話をすることがほとんどありませんでした。「浅井はほっておいても大丈夫だろう」という上司の認識だったのでしょう。
詳細は省きますが、ある時にお客様から「訴えてやる!」と言われたことがあります。とんでもない大クレームを起こしてしまいました。怠慢ではなく純粋に知識不足による失敗です。この時の僕の心情としては、辛いから辞めたい......逃げ出したい……でした。自分のため、会社のため、お客様のために一生懸命に頑張っているのに、なんでこんな不幸な境遇を味合わなければならないんだと嘆きました。
“任せる”というのは一見して聞こえはいいですが、部下にとって酷な状況を作り出してしまうということを理解しておく必要があります。
任せるはある意味パワハラです。
その業務の理解度、スキルが不足している社員に対して仕事を任せると、部下には多大な負荷が掛かります。任せることが本当に成長、成果につながるのなら、今すぐ社員を社長にすればいいんです。しかし、その状況下で耐え抜いて成果を出せる部下が一体何人いるのでしょうか。
任せていい部下、任せてはいけない部下、任せ方には工夫が必要です。
1.新人層や仕事の能力がまだまだ足らない部下に対してのアプローチ
不動産会社に入社した初日に、研修なるものがありました。電話帳一冊を投げられて、これで売上つくれ!と言われたことがあります。修行こそ研修だというのがその会社の言い分でした。しかしなんと言って電話をするべきかがわからず、ものすごくストレスを感じたことを今でも覚えています。
仕事のレベルがまだまだ高くない層には仕事を任せてはいけません。初めての業務、初めてのシチュエーション、経験値の少ない状況で自己判断するというのは多大なストレスになります。弊社の若手向け研修の受講生からよく聞くのが「何をしたらいいのかわからない」「何がわからないのかもわからない」です。習うより慣れろと言う言葉がありますが、若手には慣れる前に習うがもっとも成長を促進させます。できないことができるようになる喜びを最優先とします。考えろは時代錯誤です。効率が悪い。
具体的な指示を与える、指示型マネージメントが有効です。
2.ある程度仕事を経験し、遜色なく業務がこなせる部下に対するアプローチ
1年目は手探りで、2年目で季節変動も含めた年間の動きを理解し、3年目で自分なりの工夫が始まると僕は考えています。おおよそ、3年目以降の社員はある程度の業務を経験し、特別なことがない限り自分で仕事を完結できるようになるはずです。かといって、3年目部下に仕事を任せてはいけません。新人層ほど細かな指示、プロセスに口をはさむ必要はありませんが、フレーム掛けが大切になります。
その仕事、業務の目的は何か。なにを、いつまでに、どれくらいやる必要がるのか。そして注意事項は何か。おのずとどうすればよいのかを考えるようになります。逆にこのタイミングで指示が細かすぎると、自分で考えなくなるようになってしまいます。
マラソンで例えると、1の部下には走り方、2の部下には目標タイムを授けるようなものです。
3.能力も経験も十分な部下に対するアプローチ
あなたと同じ、もしくはあなた以上のプレイヤーとしての成果を出せる部下には、口出しはほぼ無用です。ほぼというところがミソです。基本的に口出しはしませんが、成果への進捗は注視します。進捗の遅れがある際に、どのような改善を図るのかを確認します。もちろん必要に応じて、軌道修正のヒントを提供します。
意思決定はその権限の範囲でさせることが重要です。そのほうがスピーディですし、責任を持ってくれます。その際の注意点としては、部下が意思決定したことにイチャモンをつけないことです。なんのための権限移譲なのかわからなくなります。
部下の能力に応じた仕事の振り方ですが、3パターンとも共通しているのが、丸投げで任せてはいけないということがお分かりいただけると思います。
冒頭でも引用した山本五十六の言葉をもう一度。“やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず”
任せる前に、まず充分に教えろ!