29枚目のシングル「思い出さないで」のカップリング曲である。Wikipediaによれば、メラニー(Melanie, Mélanie)とは、英語圏、フランス語、ドイツ語圏の女性名である。「英辞郎」には、ギリシャ語の「黒」が語源で、黒髪の少女にふさわしい名前とされる、とある。この曲もそこまでイメージされていたのかどうか。

 

 宏美さんのオリジナルで具体的な個人を指さない人名が入っている歌は、他には「ケン待っててあげる」「麗しのカトリーヌ」「さよなら夏のリサ」「ジェシカ」等がある。

 

 また、部分的ではなく全編を通じて男歌というのも、宏美さんのオリジナルでは珍しいのではないか。「花のことづけ」「名前のない花」等があるが、いずれも一人称は「ぼく」で、この歌のような「俺」は他に思い当たらない。僅かに「ザ・マン」の「俺」が思い浮かぶが、それはあくまで女歌の一部である。

 

 作詞:福田一三、作曲:長部正太、編曲:清水信之。福田さんは、チェウニさんなどに提供した楽曲があるが、寡作なのかネットにも情報が少ない。長部さんは米国を中心に活躍する音楽家で、ピアノトリオを結成しCDも出している人らしい。清水さんは同時期の宏美さんのアルバム曲をいくつか手がけていて、お馴染みの方である。

 

 A面の「思い出さないで」は、ご案内の通り元々はカバー曲なので、作家陣も全く違う。歌詞世界は、達観したような恋愛観・人生観の漂うA面、場末の飲み屋で歌う恋多き女を待っている男が想いを吐露するB面。「思い出さないで」はメジャーでスケールの大きなバラード、「メラニーに」はマイナーでエイトビートのハッキリした曲調と、音楽的にも好対照を為す。

 

 

 「メラニーに」は、楽曲構成としては、ワンコーラスは A-A-B-A とシンプルな作りになっているが、コード進行フェチ(笑)の私としては、見逃せない部分がある。それは「♪ メラニーに/俺からの メッセージ」のところだ。サビ前に2回繰り返す時は、

Gm - - - - - - - Dm - - - 

だが、サビ後の3回目は、

Gm - - - A7 - - - Dm - - - 

と変更している。

 

 このことによって、メロディーの「♪ の〜」と伸ばす音が-9thに当たり、緊張感を持った全く別の響きになるのだ。是非聴き直してみていただきたい。

 

 「俺」からメラニーへのメッセージは、三度目に至って切実さを増し、叶わぬ夢と知りつつ伝え続ける「愛してる」「待っている」の言葉が、よりいっそう侘しく響くのである。

 

(1982.9.21 シングル「思い出さないで」B面)