3日間降り続いた大雨で、被害を受けられた方にまずお見舞いを申し上げたい。特に熱海市伊豆山の土石流で行方不明になられた方の一刻も早い救出をお祈りし、犠牲になられた方には心からお悔やみを申し上げます。

 

 

 昨日、約2ヶ月半ぶりに宏美さんのコンサートツアー『太陽が笑ってる』に参加することができた。会場は神奈川県民ホール。恨みの雨も午後には上がり、無事にコンサートは開催された。県民ホールは観客を半数に減らし、両隣には人はいるものの、前後にはいない一列おきという対応であった。

 

 呉、小平に次ぐまだ3本目のコンサートで、もちろんネタバレは厳禁である。ただ、宏美さんの喉の調子はとてもいいようにお見受けしたし、歌詞飛びのヒヤリハットもなかった。私も宏美さんの歌から、たくさんのエネルギーをいただいた。アンコール終了後、恒例の撮影自由の時間に私が撮った写真を載せておこう。もっとも、技術もないしスマホで撮ったのでたいした写真ではないが…。😅💦まだの方は、是非お出かけください!

 

2021/07/03 神奈川県民ホールにて

 

 さて、今日取り上げる「思い出さないで」は、島崎恵子さん(1973)がオリジナル。作詞・作曲が中山大三郎さん、編曲が青木望さん。その後ブレンダ・リーさん(1975)、うつみ宮土理さん(1977)とカバーされてきたバラードの名曲である。それぞれに魅力があるので、ご紹介しておこう。

 

 

 

 

 お聴きいただいてお判りと思うが、宏美盤はオリジナルと同じ青木さんのアレンジで、島崎盤が一番近い雰囲気である。

 

 そして皆さまよくご存知の通り、宏美さん初の洋楽カバー集『恋人たち』でレコーディングされた。オリジナル曲の「恋人たち」が1曲目、邦楽カバー「思い出さないで」がラストに配され、洋楽9曲をサンドイッチする形になっているが、何故このようになったのかは、宏美さんご本人も「思い出せない」ようだ。不思議な構成だが、2曲とも全く違和感なくこのアルバムに溶け込んでいる。

 

 

 「思い出さないで」は、リリース当時から宏美さんもお気に入りの曲であったようだ。『宏美』(1979)、『シンフォニー』(1980)、『岩崎宏美のすべて』(1981)と、何度もベスト盤やライブ盤に収録されている。

 

 それが、ミリオンヒットとなった「聖母たちのララバイ」に続く曲としてシングルカットされたのだ。決め手となったのは、当時入院療養中だった宏美さんのディレクター・飯田久彦氏の、「この曲を聴いて、とても心が休まった」という発言を受けて、と当時ご本人が語っている。日にちがハッキリしないが、まだ体調が充分に回復していない飯田さんが『ザ・ベストテン』のスタジオにお越しになり、宏美さんが涙ぐんだシーンをご記憶の方もあろう。

 

 その後の「思い出さないで」発売までの経緯を、時系列で整理しておこう。

 

8/21〜22 NTV『24時間テレビ』パーソナリティを務める

8/26 TBS『ザ・ベストテン』を急性声帯炎のため欠席

8/29 新宿厚生年金会館コンサート アンコールで「思い出さないで」をニューシングルとして披露。編曲は『恋人たち』収録のものと同様

8/30 CX『夜のヒットスタジオ』に出演。オープニングのメドレーで、真田広之さんから「美しい声を傷めてちょっと心配なマドンナ」と紹介されている。宏美さんは「TVの国からキラキラ」を歌い、松本伊代さんにバトンタッチ。美しいススキの穂が揺れる中、「思い出さないで」を別のアレンジで歌う

9/21 「思い出さないで/メラニーに」リリース。『恋人たち』の時と同じカラオケを使用、ボーカルだけ録り直したバージョン

 

 私は、夜ヒットで演奏されたものが、シングルのために新たにアレンジされたものとその時は思った。新鮮で、また以前のバージョンよりもスケール感も増し、気に入っていた。ところが、シングルが発売されたところ、以前と同じトラックを使用しており、肩透かしを食らったような気がしたことを覚えている。

 

 では、あのアレンジは何だったのか?次に思ったのは、急きょこの曲を宏美さん側の希望で歌うことになったため(衣装が「聖母たちのララバイ」のものであり、その可能性は高いと私は睨んでいる)、譜面が間に合わず、どなたか以前歌われた方の譜面を流用したのではないか、ということだ。当時はもちろんYouTubeなどもなく、島崎盤もうつみ盤もまだ聴いたことがなかったし、ましてブレンダ盤は存在すら知らなかった。

 

 その後、このお三方のバージョンを聴いて、いずれの編曲でもないことが明らかになった。この「夜ヒット・ススキバージョン」の謎、どなたかご存知の方、是非ご教示ください!一度しか披露されなかったこのアレンジ、私は大好きである。アップ主さんに感謝して、ご紹介しよう。

 

 

 また、この「思い出さないで」のシングルカットに関して、当時「オリコン・ウィークリー」誌上でこれも議論になったのを覚えている。「飯田氏が心が安らぐと言ったのも解る、いい曲には違いない。でも、『聖母…』に続くシングルとしてはインパクトが…」という論調が多かったような気がする。

 

 だが私は、その時に宏美さんが「良い曲だ、歌いたい」という想いを大事にしたことが、長い目で見た時に正解だった、という気がしてならない。たしかに、セールス的には大きな成功には繋がらなかったかも知れない。だが、先のYouTubeのコメント欄でも、この曲の素晴らしさや宏美さんの歌唱について、絶賛の言葉が並んでいる。記録よりも記憶に残る名曲、名唱と言って良いだろう。

 

 発表から40年以上を経過しても色褪せず、宏美さんも時折り歌ってくださるこの「思い出さないで」。これからも一回一回、大切に聴いていきたい。

 

(1979.3.9 アルバム『恋人たち』収録)