2006年のアルバム『Natural』のオープニングを飾る楽曲である。その頃、私はAmazonの宏美さんのアルバムのレビューや、Wikipediaの宏美さんのページなどに、密かに執筆(?)していた。今回この「愛するキモチ!」を取り上げるに当たって、当時書いた『Natural』のレビューを読み直してみた。今読み直しても、我ながら深く納得してしまった(笑)。

 

 「根底に流れる人間賛歌!」と題して、アルバム全体を概観し、その後数曲を取り上げて述べた後、この「愛するキモチ!」に若干の行数を割いているので、当時のレビューをそのまま引用してみる。

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 だが、出色の出来はオープニングの「愛するキモチ!」。初めて聴いた時からノックアウトされ、聴けば聴くほどほかの曲の印象がかすんでしまうほど。田村武也がこれまで岩崎に提供した曲でも、あまりポップスでは歌われない世界観を彼独自の包容力と高揚感を持って作り上げていたが、今回の「愛するキモチ!」は文明批判、戦争反対といったメッセージも含んでいる。でもそれが、全く説教臭くも押し付けがましくもない。それは、普遍的な人類愛が根底に流れているからではないだろうか。音楽的にも爽やかな高揚感があり、西脇のアレンジも冴える。

 

 それを、岩崎が見事に歌い切っている。歌詞の通り手を広げ、太陽を浴び、笑顔で、前向きな歌声を聴かせてくれる。本当に涙が出るくらい元気をもらえる歌だ。この1曲だけでもこのアルバムを聴く価値がある。

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 宏美さんのデビューから20代の頃は、どうしても恋愛や青春をテーマとした楽曲が多かった。その後妊娠や出産を契機に家族愛を歌って来られた。30代半ばのシングル「Life」の頃から、ポツリ、ポツリと人間愛のような大きな愛を徐々に歌われるようになってきたように思う。その延長上に、シングルだけでも「朝が来るまで」「シアワセノカケラ」「いのちの理由」といった名曲が誕生している。

 

 ではこの「愛するキモチ!」を、音楽的な面から見てみよう。構成は、イントロ-A-A’-B-C-C’-間奏-A’-B-C-C’-D-C-C’’-アウトロ、となっている。2コーラス終わって、初めて登場する「♪ 争いのなかで今〜」の部分が大サビ(D)のような役目を果たし、その後サビ(Cメロ)が繰り返される。ありがちなタイプである。しかし、サビの部分にわれわれの心をくすぐる仕掛けがあるのだ。

 

 それは、サビの「♪ そして/手を広げ 太陽を身体に浴びて〜」の部分のコード進行である。ヒットポップスの王道、カノンコードに極めて近いコード進行をしているのだ。カノンコードとは、「パッヘルベルのカノン」の心安らぐ和音進行の、ベースラインを下降型(階名で、ド-シ-ラ-ソ-ファ-ミ-レ-ソ)に変えたもの。代表的なヒット曲は、

・翼をください 

・負けないで 

・勇気100%

・さくら(独唱)

・Tomorrow

・クリスマス・イブ 

・愛は勝つ 

・木綿のハンカチーフ 

・さくらんぼ

等々、いくらでも見つかる。やっぱり、カノンコードは気持ちよいのだ。

 

 その王道パターンを5回繰り返しておいて、ラスト6回目(C’’)だけ、絶妙にいじっている。まず歌い出しの3つの四分音符の「♪ きっと」だけ、音程がオクターブ上がってメロディーもコード進行も、緊張感を伴ったものに差し替えられる。さらに、「♪ 百年も千年も 変わらないのは〜」の部分は、メロディーはそのままに、コード進行を全く変えているのだ。ベースラインも、それまで5回、カノンコードの鉄則通り1音ずつの下降型を繰り返していたが、最後の1回だけ、半音階で下降するのだ。5回同じ王道パターンを繰り返した後だけに、この不安定なコード進行がまたたまらなく快感。そして「♪ 愛するキモチ〜」のバックのキメのリズムで、曲の終わりを悟るのだ。

 

 

 私は、この「愛するキモチ!」を混声合唱用に編曲し、ある合唱団で発表したことがある。Dメロ後の最後のサビには、手話振りをつけた。前向きな歌詞に手話がピッタリで、歌っているメンバーの表情が一様に笑顔になったのを、昨日のことのように思い出す。

 

(2006.2.22 アルバム『Natural』収録)