益田宏美名義の最後のシングル。活動緩慢期ということでコンサートもなく、この歌が公の場で歌われたのは、さだまさしさんとの『ふたりのビッグショー』くらいしかないのではないか。しかし、「愛するキモチ!」の時に少し触れたように、それまでの宏美さんの歌にはあまり見られなかった内容を持つ、味わい深い楽曲である。

 

 

 この曲を初めて聴いた時、内容は置いておいて、メロディーラインがやや覚えにくい、歌いにくいと感じた。もちろん宏美さんは難なく歌っておられるし、すぐに聴き慣れてしまったのだが。そう感じた理由は、メロディーが凝った作りになっている、というと聞こえはいいが、実はやや不自然なところがあるように思うのだ。5度や6度の跳躍も多く、音の上がり下がりが激しい。また、ことば一つひとつが持っているイントネーションやストレスに反するメロディー付けが、跳躍を伴って多用されるため、そのような印象を持つのではないか。「♪どんな未来待ち受けて/長い夜を迎える時にも」「♪ Life is future,Life is all」あたりを口ずさんでみていただきたい。私の言わんとしていることを解っていただけると思う。

 

 もちろん、どの楽曲でも必ずしもことばのイントネーションに忠実にメロディー付けしているわけではない。だが、私の大阪の友人で作曲をする人がいるのだが、彼は曲を書く時は、「アクセント辞典」と首っ引きだそうだ。ふだん大阪弁を使っており、標準語のイントネーションがわからないのは、作曲する上でハンデだと言っていた。

 

 しかし、そのような瑣末なことはこの楽曲の真価をいささかも傷つけるものではないだろう。松本礼児さんの何気ない日常の視点から描いた人間愛溢れる詩に、穂口先生の温かく懐かしい雰囲気を纏ったメロディー。それを宏美さんが優しく明るく、かつ高らかに「Life is love,Life is future,Life is all」と歌い切る。まさに人生讃歌、人間讃歌である。間奏ほか随所で入ってくるソプラノサックスの音色もこの曲に彩りを添えている。

 

 忙しい日常の中で、駅の改札を抜ける時、季節の花に足を止めた時、何でもない標識や看板などを見た時、ふとこの歌のフレーズが頭に浮かび、和むことがある。最近また胸の傷むニュースがあった。「♪ みんないとしい旅人/同じ時生きているのね/(略)/負けないで/さぁ愛する人のもとへ」誰もがこの歌のような気持ちになれたら、こんな悲しい出来事は起こらないのに、としみじみ思う。

 

(1993. 7.21 シングル)