『往復書簡』
宝石たちの1000物語人に歴史があるように、宝石にもそれぞれの物語がある。1000文字に収められた最も短いショートショート。1000の宝石たちの煌めき。それは宝石の小宇宙。男と女の物語は星の数ほどあります。そしてそれぞれの物語は切なく哀しく、時には可笑しく愚かしく。アンコール特集:シリーズー1第17回《クリスタル・ハーキマー/crystal・herkimer》『往復書簡』時代遅れと人は笑うかも知れない。でも私たちは、手紙のやり取りをするようになった。ケータイメールなどで自分の気持ちを伝えるには、あまりにも軽すぎる。手紙を自筆で書き、封筒に入れ封をする。そして表に切手を貼りポストに投函する。何日かして相手から手紙が届く。時間はかかるかも知れないが、もう相手に届いたかな、いつ返事が来るかな、などと想像するだけで、相手に対する想いが募ってくる。しかも相手の自筆であれば尚更、愛おしい想いが募るのだ。私たちは、こんな時代遅れの往復書簡を通じてお互いの気持ちを確かめあい、時々の逢瀬を充実させていった。でも或る日その行為は突然に断ち切られてしまったのだ。彼が高速道路を運転中に事故に巻き込まれ、突然私の前から永遠に姿を消してしまった。私はなにも考えられなかった。どうして良いか解らなかった。何日も何日も泣いて過ごした。母親は心配して私が実家に戻るように進めたが、私は彼と過ごした土地を離れる気にはなれなかった。人生とは何と残酷なものなのか。私たちはなにも悪いことをしていない。それなのに何故私たちの幸せを奪ってしまったのか。ある雨の朝、往復書簡の入った手文庫の奥に厚手の手紙があったことに気がついた。この手紙は自分の記憶にないものだ。気になって開けてみると、パラフィンにくるまれた、真っ白い透明な石が出てきた。封筒には消印がない。でも確かに彼の筆跡だ。いつもは何枚にも渡る手紙が、これはたったの一枚。そして一言。“君にも知らせず、そっと手文庫の奥にこの手紙を忍ばせました。ちょっと驚かせてあげようと思ってのことです。いつか君がこの手紙を開け、そしてこの宝石を目にした時、君はどんな感想を持つだろうか。この宝石はハーキマーダイヤという宝石です。でもダイヤモンドではありません。普通の水晶の仲間です。私はこの純粋無垢な透明感が好きで、ある人から譲り受けました。ダイヤモンドよりは価値はないかも知れないけれど、ダイヤモンドよりも透明感がある、と思いませんか。私たちはこのハーキマーのように、いつも純粋無垢で生きていきたいなと思っているのです。この殺伐とした世の中で、私たちのような生き方は、どこまで受け入れてもらえるか解りませんが、精一杯生きていこうと思います。いつまでも君と一緒に。そして来年生まれる私たちの子供と共に明るい家庭を築きたい”。私は溢れ出る涙を拭おうとしませんでした。“あなた!!!”