時間にして2時間ほどで手術は終わり、個室に移送された。

 

とにかく寝ていたので、この日は自分がどういう状況なのか?

今、どうなっているのかが全く分からなかった。

ただ一つ言えることは、体が動かないということ。

動かそうと思えば動くのかもしれない、でも動くと違和感しかない。

気持が悪くて動かそうとも思わなかった。

 

それもそのはず、ボクの体はたくさんの管、チューブと何かの線だらけだった

数日後、友人に(オレはユーチューバーじゃなくて

管チューバーになった)とかしょーもないことをラインした。

冗談にもなってない。。。

たぶんその時は頭に違和感があったのだろうと思う。

結局上を向いていることしかできない状態だった。

 

寝て、起きるの繰り返し。

眠りが浅かったのかもしれない。

夢と現実の区別が全くつかないようなリアルな夢を見ては

目が覚めて夢だったと気づく。

職場で人と話したりする夢。

痛くて誰かに八つ当たりしている自分の夢。

実にいろいろな夢を見たがそのほとんどが職場がらみだった。

それが実にリアルで自分でもどっちが現実なのかわからないという状態が

3、4日ほど続いた。

 

目が覚めれば上を向いて寝ているはずなのに、

体が床を向いて寝ている。

横を見るとテレビがある台が変な方向を向いている。

間違いなくベッドからたくさんの管と線が付いたまま床にたたきつけられる!

そう思っても体が動かない。

でも床に落ちないようにベッドに体が固定されている。

そんな感覚は初めてだった。

起き上がることもできないまま、夕方になり先生が言った。

(たぶん、明日が一番つらいと思います

痛み止めはいろいろあるので心配せず、ナースコールを鳴らしてください)

と。そんなに痛いのか。。。。。

 

恐怖と不安しかないまま、1日が終わろうとしていた。

 

(オレ、本当に手術したんだ・・・)

そんな気持ちがやっと出てきた。

体は床を向いたままだった。

「・・・さ~ん、起きてください、終わりましたよ」

 

確か、夢の中でそんな言葉を聞いた気がする。

 

「bossさ~ん、起きて下さ~い」

 

まただ。

 

誰かがボクに呼びかけている。

 

さっき手術室に入った。

丸くなる猫のような格好で麻酔をされた。

その後、眠くないので

「全然来ないな」

と言ったら先生が口に何かを被せて

「深呼吸してください」

と言われて3回ぐらい深呼吸したまでは覚えている。

 

そしたら冒頭の呼びかけ。

そして目が少し開いた。

明るい日差しが天井に差し込んでいる。

(どこだ?何があった?)

なんて考えていた。

 

「目が開きましたよ」

なんて声がする。

誰に言っているんだ・・・・・

するとそににはお袋と妹がいたような気がする。

 

何でもいい。

頭も含め全身がぼやけている。

何か言われた気がするが、それには答えなかった。

(どうやら生きていたようだ)

少し安心した、そしてまた目を閉じた。

 

後日、主治医に聞いた話では数か月前にボクと全く同じ症状の

60代の男性が入院して、手術をしたらしいが、その方は亡くなりました、と。

 

ぞっとした。

そういう病気だったと改めて思い知った。

本当に命を懸けた手術だった。

生きててよかった

そんなの、昔ボーナスをもらう時と、大変な仕事の後の友人たちとの打ち上げの時

ぐらいしか言ったことはない。しかも冗談で。

 

今回ばかりは本気で思った。

そして日が経つにつれ、その思いは強くなっていった。

決して大袈裟な話じゃない。

本当にそう思った、今もそう思っている。

 

~閑話休題~

病室に連れて行ってもらった。

個室だった。

何か言われた気がする。

でも覚えていない。

ボクが言ったのは

「生きてるんですね、オレ」

と。

ナースが微笑みながら

「生きてますよ~」

と答えてくれた。

本当に生きているんだと思ったのはこの時だった。

 

とにかく何も考えずに横になっていたかった。

太陽が一番高い所へ昇ったようだ。

でもその冬の空を見ることもなく、ボクは寝ていた。

手術室に入ってから2時間以上経っていた。

 

何とか見つかった4か所の病院。

 

救急隊員の方が尋ねる

「4か所ありますが、どこにしますか?」

と。

 

この痛みを何とかしてくれるならどこでもいい!

と思ったが、まず夜間救急センターは外してください!と。

応急処置しかできないため。

 

次に近くの病院に聞いてくれました。

ところが受け入れ拒否

最後に残った病院。

「少し遠くなりますがいいですか?」

と。

もうそこしかないし、それほど遠くもないしタクシーで帰宅できる範囲。

「お願いします!」

 

すぐに搬送先は決まりました。

 

到着すると医師、看護師さんが入り口で待っていてくれました。

自力歩行が困難なぐらいになっていたのでストレッチャーのまま救急室へ。

すぐに点滴、PCR含む検査が始まりました。

 

改めて先生がお腹を触る。

押しても離しても痛いのは変わらず。

救急隊員の方が車内で言っていた

「腹膜炎の疑いあり」

そのままでした。

採血、レントゲン、CTなどの後病室に行きました。

 

朝になり、多少痛みは和らいだもののまだ痛い(そりゃそうだ)

先生が巡回に来てくれました。

お腹を触って

「痛かったでしょ?」

「はい」

「血液の何とかの数値が高いです。それから。。。。」

何かいろいろ言われたけど覚えていない。

その日の午後、先生がまた来ました。

 

「明日手術の予約を取りました、手術です」

何を言われたのか。。。手術?そんなにひどいの?

そんなことを思った気がします。

でももうそれしか助かる方法はないようです。

覚悟は決まりました。

「はい、お願いします。」

 

その日の夜は痛くて何度もナースコールをして痛み止めを点滴していただきました。

明けて10時。

手術室へ向かいました。

 

経験したことのない病気、痛み、手術。

未経験の入院生活が始まりました。

 

 

とにかく退院して仕事にも復帰した。

 

それからは調子が良くて、すぐにお腹を壊すボクがそれもない。

毎日楽しく1か月が過ぎた。

 

いよいよ人生初の内視鏡検査が近づいてきた。

 

前々日から食べるものに気を付け、食べ過ぎないように。

この日は研修もあり、やっと一つ資格を取ることができた。

 

前日。

朝から食べるものが決められている。

そして夕食を食べたら1回目の下剤だ。

 

元々お腹の弱いボクは下剤なんて飲む必要がなかったし、大丈夫か?

量を減らそうか?とか考えたが、やはり言われた通り、言われた分量を飲もう。

 

17時半ごろ夕食を終え、30分経った頃に下剤を作り飲み始める。

確か時間かけて飲むようになっていたかな?

 

やはり、と言うかすぐに強烈な便意。

急いでトイレへ。

繰り返すこと15回以上。。。

この時点で既に2時間弱。

何回トイレに行ったかを書き込むようになっていたが、回数なんて忘れた。

 

その後も2時間ほど続いたが、何回行っても色なんて変わらない。

そしてぴたっ!と止まった。

続いて強烈な腹痛が襲ってきた。

でもさっきまでの(お腹を壊した)痛みではなく

とてつもない違和感

のある腹痛。

何が何だかわからない痛みと違和感。

とにかく横になって様子を見るとこに。

お腹が痛くて唸ったのは何十年ぶりか。

中学生のころ、盲腸をやって腹膜炎をおこしかけ、その後腸閉塞をやった時の

痛みに似ていた。

夜中、日付が変わろうとしている頃に我慢ができず、ジーパンに履き替えた。

息が荒くなるのを堪えながら119番。

とにかく外に出て待つことにしたが、寒空の中お腹を壊したような腹痛はない。

 

救急車が到着。

急いで乗り込み、すぐに体温や血圧、Spo2などを測りながら

救急隊員さんの質問に答えるが、痛くてまともに答えられないことも。

30分ぐらいだろうか、あちこち探してやっと4か所の病院を見つけた。

日曜日から月曜日になっていた。

 

 

本当に苦しい中、何とか土日を耐えて、

月曜日に地元ではここしかない!という消化器科へ行きました。

 

とにかく何とかならないものかと、それだけを考えて行きました。

 

待ち人数は4人。

ボクは5人目でした。

 

ここの消化器科は初めてで。。。

あれ、わかるんだけどもう少し何とかならないものか。

初診の場合、バインダーに挟んだ紙を渡され何やかんや質問攻めに

筆記で回答していき、それを受付に渡して名前が呼ばれるまで数十分待つ。

 

この間にも患者としては(早く!早く!!)

と思っているのです。

とにかく呼んでもらって、先生に口頭で言うことはできないものか?

 

この日は早くて数分後には名前を呼ばれて診察室へ。

症状を伝えると

(ちょっとお腹診ましょう)

と言われ、ベッドに。

とにかくどこを触っても痛い!しかない。

その後、レントゲンを撮り再び診察。

 

はっきり言って今すぐにでも無理矢理入院させたいぐらいです!

 

と、先生。

 

こちらとしては

(自分は何の病気なのか?そもそも病気なのか?病気だとしたら病名は?)

という思いしかなく。。。

 

医師から告げられた病名はボクの知らないものでした。

 

結腸憩室炎、及び腹膜炎

 

(入院させたいが、うちは設備もないし仕事もあるだろう)

という先生は

(明日から一週間、毎日同じ時間に点滴をしに通院するように!)

と。

 

すぐに診断書を書いてもらい、職場に報告に行きました。

その辺は寛大な職場。

あっさり1週間の休みが認められました。

それから毎日ほぼ同じ時間に点滴に通いました。

一回の点滴に約3時間。

午前中いっぱいかかりましたが、楽になるのだから。。。

と思い、やり切りました。

しかし土日、祝日もあり実際は4日間くらいでした。

その4日間で、あんなに痛かったお腹は全く痛くなくなりました。

4日目の終わりに先生から言われたのが

 

(この際だから内視鏡検査をしましょうか?)

 

今までやったこともない内視鏡検査。

12月の最初の週にやることが決定し、いろいろ渡され持ち帰りました。

その中には前日の食事、下剤、当日の下剤等が含まれていました。

 

消化器科を受診して一週間後、ボクは仕事に復帰。

何事もなかったように普通に仕事をしました。

腹痛も全くなし。

 

(これで完治だ!)

 

と思って毎日今までのように楽しく仕事をしていたのでした。

 

ところが世の中、そんなに甘くはなかったのです。