「・・・さ~ん、起きてください、終わりましたよ」

 

確か、夢の中でそんな言葉を聞いた気がする。

 

「bossさ~ん、起きて下さ~い」

 

まただ。

 

誰かがボクに呼びかけている。

 

さっき手術室に入った。

丸くなる猫のような格好で麻酔をされた。

その後、眠くないので

「全然来ないな」

と言ったら先生が口に何かを被せて

「深呼吸してください」

と言われて3回ぐらい深呼吸したまでは覚えている。

 

そしたら冒頭の呼びかけ。

そして目が少し開いた。

明るい日差しが天井に差し込んでいる。

(どこだ?何があった?)

なんて考えていた。

 

「目が開きましたよ」

なんて声がする。

誰に言っているんだ・・・・・

するとそににはお袋と妹がいたような気がする。

 

何でもいい。

頭も含め全身がぼやけている。

何か言われた気がするが、それには答えなかった。

(どうやら生きていたようだ)

少し安心した、そしてまた目を閉じた。

 

後日、主治医に聞いた話では数か月前にボクと全く同じ症状の

60代の男性が入院して、手術をしたらしいが、その方は亡くなりました、と。

 

ぞっとした。

そういう病気だったと改めて思い知った。

本当に命を懸けた手術だった。

生きててよかった

そんなの、昔ボーナスをもらう時と、大変な仕事の後の友人たちとの打ち上げの時

ぐらいしか言ったことはない。しかも冗談で。

 

今回ばかりは本気で思った。

そして日が経つにつれ、その思いは強くなっていった。

決して大袈裟な話じゃない。

本当にそう思った、今もそう思っている。

 

~閑話休題~

病室に連れて行ってもらった。

個室だった。

何か言われた気がする。

でも覚えていない。

ボクが言ったのは

「生きてるんですね、オレ」

と。

ナースが微笑みながら

「生きてますよ~」

と答えてくれた。

本当に生きているんだと思ったのはこの時だった。

 

とにかく何も考えずに横になっていたかった。

太陽が一番高い所へ昇ったようだ。

でもその冬の空を見ることもなく、ボクは寝ていた。

手術室に入ってから2時間以上経っていた。