そうは言ってみたものの、会社への帰り道は気が重かった。


取引希望の話は、重要得意先の偉い方が仲介してこられたものだった。なので、その方の面子を配慮し、取引を断るに際しては、珍しく慎重に理論武装し、社内で根回しし、「取引をしないことが正しい」というコンセンサスを何とか作り上げていた。


だから、皮肉なことに、取引を行うなら、自分が作り上げた社内コンセンサスを自ら否定し、決定を覆さないといけなくなった。えらいこっちゃなぁ・・・苦労してダイエットしたのに、元の体型に戻れって言われたような気分やなぁ・・・う~ん、どないしょ?


いろいろ考えた結果、ここは緩やかに変化するしかないという結論に達した。前に進んでいた電車が急に後ろ向きに走り出したら乗客はビックリするだろう。だから、ブーメランのように、少しずつ方向を変えて元に戻ればええんや。まぁ、やるだけやってみよう。


それからの一週間、「ひょっとすると、私の考え方は間違っていたかも・・・」と社内で首を傾げ、「こういう考え方もありますよね」とこれまでとは異なる解釈を関係者に示し、少しずつ、少しずつ、Uターンを始めた。


最初は、「どうしたの?この間は取引絶対不可、って自信たっぷりだったじゃない」と言っていた上司が、少しずつ理解を示してくれるようになった。なるほど、繰り返し伝えるというのは効果があるんや。女性もこうして口説けば良かった(笑)


そして、何とか、「取引をしてみるのも面白いかも」という合意を社内で取り付けた私は、やっと頑固親父さんに電話を入れることができたのだ。

「お取引が可能になりそうです」。

喜んで貰えたのは言うまでもない。


しかし、立派だったのは頑固親父さんの方だ。彼は社内の反対や心配を押し切り、商品開発に時間とお金を掛けて下さった。そして、その商品は市場で大きな話題になり、結局、それを推進した私まで褒められたのだ。


「頑固親父さんは、私に恥を掻かせてはいけない、と頑張って下さったのだ」

私は直感した。そのとき押しが強くて頑固そうな顔ではなく、強固な意志と不屈の精神を併わせ持った頑固親父さんの凛々しい顔が目に浮かんだ。


さてさて、押しが強くて頑固そうな親父さんとの会話が続く。



 私 「・・・・・という訳で、お取引はできません」

相手 「良く分かりました。わざわざお越し頂き恐縮です」

 私 「とんでもありません。では失礼します」


と、言うことは言ったし、サッサと帰ろうとすると、


相手 「あの・・・失礼ですが、鼻が曲がってません?」

 私 「はぁ、実はラグビーで鼻を3回折ってるんです」

相手 「あぁ~(嬉しそうに)やっぱりそうだ、ラグビーなんだ」


と急に笑い出し、嬉しそうな声を出されるではないか。


 私 「えっ?ラグビーがどうかしましたか?」

相手 「いやね、私もラグビーやってたので、何か同じニオイがしたんですよ」

 私 「へぇ、そうなんですか、ポジションはどちらでした?」

相手 「スクラムハーフでした」

 私 「道理で。押しが強くてワガママなのが特徴ですもんね」

相手 「なになに、スクラムハーフってそんな嫌な性格ですか?」

 私 「先輩、同級生、後輩のスクラムハーフ、みんな友達いないですよ」


と、ここで大笑いとなった。


その後は、先程までの他人行儀な会話が嘘のような楽しいラグビー談話に花が咲き、気が付くと小一時間が経過していた。


押しが強くて頑固そうに見えていた顔が、今や、強固な意志と不屈の精神を持ち合わせた凛々しい顔に見えるではないか(笑)


 私 「では、ボチボチ失礼します」

相手 「そうですか、いやぁ、会えて嬉しかったです」

 私 「私もです。久し振りに笑いました」

相手 「今度、ご飯でも食べに行きましょうよ」

 私 「そうですね・・・あの、お取引できなくて、本当にすみません」

相手 「何を言ってるんですか、気にしない、気にしない」


ここで、私はついつい思っていたことを言ってしまう。


 私 「お取引・・・できた方が・・・本当は良いんですよね?」



(続く)

ラグビー仲間の為には全力を尽くさねばならない。


わざわざ口に出して言う人はいないが、相手がラガーマンだと分かると、不思議にみんな、「全力を尽くします」モードのスイッチが入るようだ。これには出身校とか年齢とかは全く関係ない。


新入社員のときに担当した取引先の社長が京大ラグビー部のご出身だった。私が同志社ラグビーの出身と知るや、回りも羨む特別扱い。ただ、こちらもそれが分かるので、大先輩に恥は掻かせられぬと大奮起。結果的には短期間にたくさんのことを学ばせて貰えたと思う。


そうそう、そもそも就職のとき、私は先輩のお世話になっている。もう時効だから良いと思うが、私より学業成績の良い同級生がどんどん振り落とされる中、私は最後まで居残ることができたのだが、彼らが持たず、私だけが持っていたのが「ラグビーの先輩」だった。怖いけど物凄く頼りになった(笑)


逆のケースもあった。


取引を希望される電話があったのだが、とにかく押しが強くて、私は気に入らない。ただ、丁重にお断りする必要があったので、その方の会社まで取引ができないというお詫びに上がった。お顔を拝見すると、電話での印象通り、押しが強そうで頑固な顔をされていたので、思わず吹き出しそうになった。



(続く)