そうは言ってみたものの、会社への帰り道は気が重かった。
取引希望の話は、重要得意先の偉い方が仲介してこられたものだった。なので、その方の面子を配慮し、取引を断るに際しては、珍しく慎重に理論武装し、社内で根回しし、「取引をしないことが正しい」というコンセンサスを何とか作り上げていた。
だから、皮肉なことに、取引を行うなら、自分が作り上げた社内コンセンサスを自ら否定し、決定を覆さないといけなくなった。えらいこっちゃなぁ・・・苦労してダイエットしたのに、元の体型に戻れって言われたような気分やなぁ・・・う~ん、どないしょ?
いろいろ考えた結果、ここは緩やかに変化するしかないという結論に達した。前に進んでいた電車が急に後ろ向きに走り出したら乗客はビックリするだろう。だから、ブーメランのように、少しずつ方向を変えて元に戻ればええんや。まぁ、やるだけやってみよう。
それからの一週間、「ひょっとすると、私の考え方は間違っていたかも・・・」と社内で首を傾げ、「こういう考え方もありますよね」とこれまでとは異なる解釈を関係者に示し、少しずつ、少しずつ、Uターンを始めた。
最初は、「どうしたの?この間は取引絶対不可、って自信たっぷりだったじゃない」と言っていた上司が、少しずつ理解を示してくれるようになった。なるほど、繰り返し伝えるというのは効果があるんや。女性もこうして口説けば良かった(笑)
そして、何とか、「取引をしてみるのも面白いかも」という合意を社内で取り付けた私は、やっと頑固親父さんに電話を入れることができたのだ。
「お取引が可能になりそうです」。
喜んで貰えたのは言うまでもない。
しかし、立派だったのは頑固親父さんの方だ。彼は社内の反対や心配を押し切り、商品開発に時間とお金を掛けて下さった。そして、その商品は市場で大きな話題になり、結局、それを推進した私まで褒められたのだ。
「頑固親父さんは、私に恥を掻かせてはいけない、と頑張って下さったのだ」
私は直感した。そのとき押しが強くて頑固そうな顔ではなく、強固な意志と不屈の精神を併わせ持った頑固親父さんの凛々しい顔が目に浮かんだ。