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マニュアル課 翻訳室

フリーランスで翻訳と翻訳レビューをやっています。
以前はマニュアルのテクニカルライティングもやっていましたが、今では翻訳専業です。

私は翻訳だけでなく、「レビューア」」の仕事もやっています。

某メーカーの翻訳レビューだったり、最近では翻訳会社の最終納品のQAのお仕事も頂いています。

いろいろな訳文を目にする機会があるのですが、多くの翻訳者に共通してみられる傾向がかなりあることに気が付きました。

そんなわけで、今回からこういう「気になる翻訳」について書いていきたいなと思います。

今回は、タイトルにあるように「文脈を無視した」訳文を見てみたいと思います。
例なので、原文は思いっきり単純な構造にしています。

"Click XXX to complete the registration."

このように、「to 不定詞」の命令文がマニュアルなどの文章にはよく出てきます。

なぜか、目にしたほとんどの翻訳者が、次のように訳しています。

「登録を完了するには、XXXをクリックします。」

もちろん、これで良い場合もあります。

登録だけでなく、他の操作の選択肢も考えられる場合はそうですね。たとえば、キャンセルとか。

でも、この文が出てきたのは、「登録する」という操作手順の一部。

つまり、「登録」は必ず行う操作なのに、「するには」はおかしいのでは?

という疑問を持ってしまうんです。私は。

ここは次のようになるべきでしょう。

「XXXをクリックして、登録を完了します。」

=> 次回に続く。

ここ最近、いいペースで仕事を仕上げられています。

量をこなすことに一生懸命になっていたのか、納品後に単純ミスがあることに気付きました。

しかも致命的です。

あってはならない、と自覚していることなのに。

それは、

数字や日付の誤りです。

翻訳者はたいてい持っている、QA用のチェックツールを使っているのですが、
もちろん原文と訳文の数字の不一致に関するチェックもできます。

それも一応やるんですが、見落としていました。

原文と訳文で少しでも異なるとチェックで拾われるので、うっとおしくてざっとしかみなかったのです。

たとえば、「原文:September、訳文:9月」だと、チェックに引っかかるんですね。

不一致なので。

こういうときには、「あーうっとおしい。はいはい」という感じてスルーしていました。

しかし!

そういう箇所で間違えてしまいました。しょぼん

いかん、いかん。

翻訳者としてあるまじき態度だ。

それからもう1件見つかりました。

怖くてもうチェックできませんでした。

これからは、きちんとチェックします。

ごめんなさい。m(_ _ )m




「○○○○ を活用するための ○個 のヒント」
こういう文を見かけました。原文には "tips" が使われているようです。

外国企業のHPがローカライズされたものには、こういうのがたくさんあります。
実際、マイクロソフトのランゲージポータルで"tip"を検索すると、訳語として「ヒント」が出ます。

自分だけかもしれませんが、この「ヒント」にすごーく違和感があるんですよね。
普通に生活していて、日本人がこういう使い方をするんだろうか。

自分が子供のころから耳にしていた「ヒント」には、たとえば、クイズのヒントのように、直接の答えではないけれども、それを暗示するような、示唆するような意味が含まれていました。

でも、上の文には、そのような意味は含まれているのかな~。
「○○○○」を活用する方法をこれから教えてくれるんだろうと、読む人は期待するだろうに、「ヒント」と言われると、何かもったいぶったような印象を持つのは私だけでしょうか?

「ヒント」を辞書で引いてみると、

(物事を解決したりわからせるための手掛かりとなる)暗示。示唆(大辞林より)

なっていました。やはり、「暗示。示唆」ですよね。つまり、「それとなく」かな?

"tip" を引いてみます。

useful piece of advice about how to do something ~ (Longman Activator)
(ちなみに、同義語は "advice")

また、COBUILDで引くと、

A tip is a useful piece of advice.

他にもあたってみる必要があるでしょうが、"tip" には、日本語の「ヒント」のように暗示や示唆を示す意味(indirect)があるのか疑問です。

では、英語の "hint" はどうでしょうか。

A hint is a suggestion about something that is made in an indirect way. (COBUILD)

となっています。ありますね、"indirect"。
ただし、最後から2番目の語義として、"tip" と同じような意味が載っていました。

A hint is a helpful piece of advice, usually about how to do something.

つまり、
英語では、tip も hint も、"advice" と同じ意味で使われることがある。
ただし、hint には、indirect の意味を含む用法もある。tip にはない。
これに対し、日本語の「ヒント」には暗示や示唆の意味がある。

例文のような「ヒント」の使い方は市民権を得ていて、自分が知らないだけかもしれません。
確かにこの「ヒント」の使い方はよく目にします。でも、特に翻訳文書によく見られる印象がありますね。少なくとも、日本語で書き起こすときにこんな使い方はしないなと思います(自分は)。

異論のある方もいるでしょうが、自分だったら、最初の例文の"tip"は「ヒント」ではなく、「秘訣、コツ、ポイント、ノウハウ」などと訳しますね。
ポストエディットって知っていますか?略してPEと呼ばれます。
要は、機械翻訳を経た文章を編集して訳文として完成させる作業のことです。
最近、この手の仕事を打診されることが多くなってきました。

企業はとにかく翻訳にコストを掛けたくないというのが本音なのではないでしょうか。
Tradosの利用を前提とした傾斜料金はよく知られていますが、とうとうPEで済まそうという時代の流れに入ってきているようです。

PEの料金は安いのです。
通常の翻訳料金の半額です。
ソースクライアント、翻訳会社ともに、通常翻訳に比べ倍の処理速度が実現できると思っているようです。

が、そんなことは決してありません。
翻訳はそんなに甘いものではないと思うのです。

はっきり言って機械翻訳の訳文は使い物になりません。
機械翻訳を経たものでも、用語集の用語が完全に適用されていればまだよいほうです。
用語集に反する用語などが適用されていると、機械翻訳された文の要素を部品として利用することもできないわけです。

私なんか、機械翻訳の文をすべて消去して、訳文を新規で作ります。
原文と機械翻訳を見比べて修正するって、結構時間がかかるんです。
うまくない翻訳者のチェックをしているのと同じですからね。
それだったら、自分で訳しなおしたほうが早いんです。

原文を読むということは、その時点で訳文が頭の中で出てくるものなんです。
ふつう、プロの翻訳者であれば。
PEの作業では、原文を読み、機械翻訳を読み、差分を見つけ、パッチとなる部品を考え、修正し、という数多くのプロセスを経ることになります。

しかも、ソースクライアントからは「修正しすぎない」よう指示されることがあります。つまり、修正しすぎると後々、訳文を再利用できなくなる、という理屈です。

そうすると、どうなるか。
文脈を無視した訳文ができあがります。
普通に翻訳したら、絶対にそうならないのに。
残念ですね。
Insightといっても、車の名前ではありません。

ホワイトペーパーなどの翻訳でよくでてきます。IT 翻訳者にはなじみのある単語ですよね。

皆さんは、どう訳していますか?

辞書やクライアントからの用語集では、ほとんど「洞察」「識見」「見識」などとなっています。

自分はどうも、この「洞察」がしっくりこないんですよね。「見識」はまあわかりますが。
これは、自分の語彙力のなさにも関係しているので、私の意見が正しいというわけではありません。
単なる意見としてとらえてください。

いつもどうすべきか、頭を使います。

たとえば、"share these insights with your colleagues"というフレーズなら、どうでしょう?

直訳で「洞察(見識)を共有する」になります。

悩みますね~。少し硬いんですよね。

原語の "Insight" をCOBUILDで引くと、"If someone has insight, they are able to understand complex situations."や "If you gain insight or an insight into a complex situation or problem, you gain an accurate and deep understanding of it." のような説明があります。

どうやら"complex situation"がキーのようですね。
つまり、「複雑な状況を正確に詳細に理解すること」という意味のようです。

そうすると、先ほどの例の訳は「正確で詳細な情報を共有する」と訳したいところです。
実際は、クライアントの指定に従わざるを得ませんし、これが必ずしも正解ではありません。