1987年にVHSでリリースされた名作ライブの待望のDVD化です。
まず特記せねばならないのは、とにかく画質が汚いこと。
これは残念でしょうがない。ヴィデオの方が断然画質が良いのです。
どうしてこういう粗雑な仕事をするのか、制作会社の神経を疑うところです。
しかし、それでも、この作品は観る価値があり、
昔ながらの黒人音楽の持つ現代性、楽しさ、
圧倒的なパワーを感じ取るのに恰好の教科書のような作品です。

この時60才を既に越え、
貫禄十分のB.Bキングと彼のビッグバンドがホストとなって、
目も眩むような豪華ゲスト達を迎え入れる趣向のライブ映像です。
グラディス・ナイト、エタ・ジェームス、チャカ・カーン、
アルバート・キング、ビリー・オーシャン、
彼ら新旧のソウル/ブルースのスター達と、
Dr.ジョン、ポール・バタフィールド、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、
エリック・クラプトン、フィル・コリンズと言った、
こちらもビッグネーム揃いの白人ミュージシャン。
彼らが全員参加で大ジャムセッションを繰り広げたり、
意表を衝く組み合わせで息の合った掛け合いを演じたりするのです。
このヴィデオが20才の私に与えた衝撃は、決定的なものだったと思います。

私の知る限り、
この人を越える女性ヴォーカルはいないと思えるグラディス・ナイトの
「Please Send Me Someone To Love」の情感や、
エタ・ジェームスとDr.ジョンが真ん丸な身体を揺すりつつ、
映画のワンシーンのような切ないデュオを披露する
「I"d Rather Go Blind」など、何回繰り返し観たことでしょう。

私の最初のハーモニカヒーロー、ポール・バタフィールドは、
このライブから数日後にオーヴァードーズにより帰らぬ人となりました。
エルモア・ジェームスの名作「The Sky is Crying」における
ポールのハーモニカとヴォーカルは圧巻で、
白人によるブルース表現の一つの到達を感じさせる感動的なパフォーマンスです。

海賊版並の粗悪な画質ですが以上のように、十分楽しめます。
我慢できない人は今すぐどうぞ。
いつか、オリジナルマスターからとった
然るべき画質のものが出ると信じられる人は
待ってみるのも一つの手だと思います。


「Picture This」「Sports」「Fore」など、
80年代に何枚もの超弩級ヒットアルバムを放ち、
シングルヒットも連発したヒューイ・ルイス&ザ・ニュース。
一時期は至る所で彼らの音楽が流れているという状態でした。
私の音楽遍歴の中で、彼らが中心を占めたことはありません。
それでもレコードは持っていましたし、よく聴きました。
美しいコーラスワーク、誰でも口ずさめる作曲術、
シンセサイザーやホーンを有効活用した重厚なアレンジ・・・。
彼らのサウンドこそがアメリカン・ロックなのだという説得力がありました。
人気者の宿命というか、
彼らをして典型的な商業主義的ポップロックと揶揄する人も沢山いました。
しかし彼らはそんな軽薄なバンドではありません。
ブルース、ドゥワップ、R&Bをルーツとするヒューイ達のサウンドは、
ポップな装いの中にも、自分たちを育てた黒人音楽への敬意に満ちています。
「Four Chords & Several Years Ago」は
1994年発表の彼らの原点回帰とも言うべきカバーアルバムです。
古典的名曲の数々をさらっとやってみした、という風情で、
出来れば小さな箱でこのセットを演奏する
彼らのライブを観てみたいと思わせる佳作です。
「Going Down Slow」はリトル・ウォルターのヴァージョンに忠実なアレンジで、
ヒューイのハーモニカも冴えています。
迫力あるヴォーカルばかり評価されがちですが、
この人のハーモニカの腕前は相当なものです。
彼のハーモニカを全面フィーチャーしたブルースアルバムを
聴いてみたい!
私はかねてよりそう願っています。



Huey Lewis&The News「Four Chords & Several Years Ago」
オルネラ・ヴァノーニはイタリアを代表するポップシンガーです。
圧倒的な存在感を持つ声と自在な表現力を誇る実力派です。
このアルバムは二人のブラジル音楽の巨匠、トッキーニョ、
ヴィニシウス・ヂ・モライスと組んで作り上げた1976年発表の傑作です。
ここに収められている「Samba Della Rosa」は、日本でも、
人気DJが編集したミックスCD(テープ)シリーズに取り上げられましたので、
意外と若い人にも知られているかも知れません。
私はクラブシーンには何のゆかりも思い入れもないのですが、
人から貰ってこのテープは所有していました。
ペドラーズなども収められていてなかなかよく出来たオムニバスでしたが、
「Samba Della Rosa」が大好きだった私は、こればっかり聴いていました。
一時期は一晩中聴いていられるほどに耽溺していたものです。
哀愁と歓喜の感情が交互にボサのリズムからあふれ出してくるような、
グルーヴィーな名曲です。

50年代から活躍し、60年代にその知名度を不動のものにした
エヴァリー・ブラザーズ。
月日は流れ、今やドンもフィルも70を越えました。
どちらが主旋律か判らなくなるような完璧なコーラスワークと
美しいメロディで一世を風靡した彼らは、
ビートルズ、サイモン&ガーファンクル、ビーチボーイズら、
後に出てくる巨大な才能たちをも虜にし、絶大な影響を与えました。
このアルバムは同じように彼らに大きな影響を受けた
ポール・ロスチャイルドとジョン・セバスチャンがプロデュースした
彼らの名盤です。スプーナー・オールダム、ワディ・ワクテル他、
錚々たるメンバーが、嬉々としてバックを申し出て、渋くて泥臭く、
叙情味もたっぷりの素晴らしい演奏を聴かせてくれます。

タイトル曲はジョン・セバスチャン作です。
おそらくは彼の最高傑作だろうと私は思っています。
シンプルなメロディですが、歌詞の深みと相俟って
その完成度は凄まじく、永遠に歌い継がれるべき名曲といえるでしょう。

生きることは寂しいこと。だからこそ物語は生まれるのだ。
一人一人の人生に一つ一つの物語…。
そういう歌です。
どうでも良いことでしょうが、作者のジョン、
そして素晴らしい歌唱でこの曲を歴史に残したドンとフィルに敬意を込めて、
この歌は私の涙腺に直に訴えてくる数少ないロックの一つだと、
ここに白状しておきます。


16才の私に衝撃を与え、
結果的にその後の人生に大きな影響を及ぼした一枚です。
映画のサウンドトラックとしては名作中の名作と言えるでしょう。
映画そのものは中学に入り立ての頃劇場で観て、
楽しい作品として深く記憶していました。
しかし音楽を楽しむという感覚ではありませんでした。
私の場合、洋楽に目覚めるのがちょっと遅い子供だったのです。
この作品を純粋にブルースとして聴くかどうか、
は議論の対象になるところでしょう。
ジャンルとしてのブルース(典型として3コード、12小節)は
ロバート・ジョンソンのクラシック「Sweet Home Chicago」の他、
殆ど収録されていません。ゲスト出演のレイ・チャールズ、
キャブ・キャロウェイは勿論ブルースを歌っても超一流の歌手ですが、
レイはソウル、キャブはジャイブというイメージが強い。
そもそもブルース・ブラザーズ・バンドの面々も、
マット・マーフィーを除いては、スティーブ・クロッパーも
ダック・ダンもブルースと言うよりは、
ソウルの創生期の中心的存在だった名職人です。
でも、それが良いのです。広くソウルもR&Bもファンクもジャイヴも
ひっくるめて黒人音楽の総体を「ブルース」と称する感覚は伸びやかで、清々しい。
アメリカが建国から掲げる「自由」について私は、
ある根深い懐疑を抜きにしては受け止められませんが、
この映画そしてサントラからは自由の感触、
その息吹みたいなものが確かに伝わります。ざらざらしていて、
抜き差しならない我々の日常に食い込んで来る、そういう誘惑としての自由。
アメリカの黒人音楽だけが勝ち得た至上の芸術的感動としての、自由。