人は、他人をみるとき、往々にして外見に惑わされてしまう。
ボロをまとっているもの、汚らしいもの、やんごとなき理由により犯罪を犯してしまったもの(一方的な悪意ではなく)、そんな人たちに関して、冷たい視線を送ってしまう。
もちろん他人であれば仕方ない部分もあるんだけど・・
でも、ここまで極端な例を持ち出さなくても、
大体外見で判断してしまいますよね。
かっこいいとかかわいいとか、笑顔がいいとか、スタイルがいいとか。
でも、きっとその人の”本当”は心の中にあるんですよね。
その心の部分を理解できるかどうか。
全人類の永遠の課題なのかもしれませんね。
この映画の主人公ジュリエット・ビノシュ演じるマダムは、
はずみで犯罪を犯してしまった男に献身的な視線を注ぎます。
たしかに、犯罪は犯した。
でもそれはこの人の”本当”の心ではない。
それをマダムは敏感に感じ取っていきます。
マダムには厳格な、サンピエール島の主ジャンという夫がいます。
囚人との交流はタブー視されうるものです。
ですが、ジャンは妻の気持ちを察してか、この二人の交流を静かに見守っていきます。
この3者の”本当”の心は、限りなく純粋なものなんだと思います。
二人を見守るジャンの姿にとても心を打たれます。
でも、こんな日々は長く続かない。
彼らを悲劇が襲うことになります。
囚人を処刑するために、ギロチンがフランス本土より届けられる。
そして・・・
愛という言葉では陳腐になりすぎてしまいますが、
このラストをみて、痛々しいまでに、愛という感情の熱さ、力強さを感じてしまいました。
こんな形の愛もあるんでしょう。
パトリス・ルコントが描いた至上の愛の姿がここにあります。
ちなみに、現在のタイトルは『サンピエールの未亡人』
原題:LA VEUVE DE SAINT-PIERRE。
VEUVE には未亡人という意味もありますが、ギロチンという意味もあるそうです。
この比喩が、この映画の何たるかをあらわしているような気がします。
映画の結末にもつながるヒントにもなります。
ラストについては多くは語りません。
ただ、おそらくは、人を心で愛する最高の形が描かれています。
名匠の描く、愛の姿。
ぜひご覧になってみてください。
このブログは再録です。
パトリス・ルコント監督作品をご紹介しています。
(初投稿:2005/11/12、再投稿:2006/6/29)