不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その83

 本日は、使用許諾関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28032840)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  大阪地判平 9・11・27〔クラウンタクシー事件〕平6(ワ)6257 

本訴原告・反訴被告(原告(東住吉区))クラウンタクシー㈱
本訴原告 クラウンタクシー㈱
訴訟承継人・反訴被告(原告(旭区))クラウンタクシー
本訴被告・反訴原告(以下「被告」という。) クラウン無線事業協同組合

 

■事案の概要等 

 本件は、タクシー事業を営んでいた原告らが、協同組合員であった被告に対し、原告がタクシー事業について使用している「クラウン」及び「CROWN」の名称並びに王冠マークは、クラウンタクシーグループを形成する原告らの営業を示す営業表示として大阪府下の同業他社及びタクシー利用客の間で周知性を取得しており、被告が本件表示を使用することにより原告らの営業との混同を生じさせているから、被告の行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争に当たるなどと主張して、被告の名称中に「クラウン」の名称を使用することの差止め等を求めた事案です。

 

■当裁判所の判断

 裁判所は、認定事実等に基づき以下判断しました。

1.本件表示は、原告らの営業表示として大阪府下の同業他社及びタクシー利用客の間で周知性を取得しているか(争点1)
(1)判断基準等

 「不正競争防止法2条①項①号にいう営業表示がいわゆる周知性を獲得すべき人的範囲である「需要者」は、営業の種類に応じて、一般消費者又は取引業者、あるいはその両方ということになるが、原告(旭区)のタクシー事業及び原告(東住吉区)のタクシーチケット業務というタクシー関連事業については、同業他社が取引業者に当たると認めるに足りる証拠はなく、他に取引業者の存在について主張立証がないから、本件においては、一般消費者たるタクシー利用客の間における周知性を問題とすべきである」。

(2)本件に関する判断
 「原告(東住吉区)は、昭和39年12月21日に設立されて以来、一貫して「クラウンタクシー株式会社」の商号を使用し、タクシー車両にも本件表示を使用し続けてきたものであり、平成5年2月12日以降は、タクシーチケット業務を行うのみとなったものの原告(東住吉区)のタクシー事業の譲渡を受けた大阪クラウンタクシーがその直後に「クラウンタクシー株式会社」に商号を変更し本件表示を継続して使用し、これをニュークラウンタクシーから商号変更をした「石田興産株式会社」が吸収合併をし商号変更をして原告(旭区)となり現在に至っているというのであるから、原告らは、相当長期間にわたり本件表示を使用したきた」。「しかしながら、大阪地区におけるタクシー車両の台数は、現在、法人、個人を合わせて約2万5000台であるのに対し、原告らのタクシー保有台数は、最大に達した昭和46年2月の時点でも、原告(東住吉区)135台、ニュークラウンタクシー(原告(旭区))129台の合わせて264台であり、現在では原告(旭区)のみの135台であって、その大阪府下におけるタクシー車両全体の約0.5%を占めるにすぎず、タクシー利用客が路上で本件表示を付した原告らのタクシー車両を認知する確率は極めて低い」。「本件表示が大阪府下において原告らの営業表示として周知性を取得したというためには、相当な期間にわたり、相当な頻度で宣伝広告を行うことが必要である」。


(2)原告らの宣伝広告活動については、「ラジオ、テレビ、新聞による広告のうち、テレビ大阪については、昭和57年10月13日から平成5年3月31日までの間、スポット(平成3年4月以降は、毎日一回又は二回で、15秒間の「クラウンタクシー 新しい姿」と題するスポット)で広告したものであるが、ラジオ放送については、毎日放送ラジオにおける交通情報は、ほぼ毎日一回五秒間(六か月間のみ10秒間)という極めて短いもので、その広告の内容も明らかでなく、大阪放送ラジオ及び朝日放送ラジオのスポットは単発的、一時的なものであり、毎日新聞又は朝日新聞における「クラウン無線タクシー」の文字及び王冠マークを表示した新聞広告も、昭和54年8月から平成5年1月までの間、毎年二回又は三回であり(スポーツニッポンは平成2年3月24日の一回)、そのスペースも大きいものとはいえない」。「ポケットカレンダー、卓上日記式カレンダー、テレホンカード、パンフレットについては、これらがどのような範囲の人に対してどのような形で配布されたかが明らかでない」。「出版物における原告らに関する記事」は、「昭和57年9月1日財団法人大阪都市協会発行「大阪人」三六巻九号(「心うれしいタクシー会社」と題する短文)はどの程度の部数がどのような形で配布されたのか明らかでなく、昭和59年8月24日付毎日新聞…、昭和62年4月21日付日経産業新聞(大阪)…、平成元年11月30日付日本経済新聞(大阪)…、平成3年1月15日付毎日新聞(大阪)…、平成6年8月1日付朝日新聞(大阪)…等の記事の中で、原告らのタクシーにおけるサービスの内容について簡単に触れられているにすぎず、その他は、いずれもその記事内容からいわゆる業界紙(誌)であって、通常タクシー利用客が購読するものではない。


(3)以上によれば「仮にタクシー業界、すなわち同業他社の間において、本件表示が原告らの営業表示として知られているとしても、右認定程度の宣伝広告、出版物における掲載では、原告ら主張の平成5年2月12日の時点はもちろん、現在においても、未だタクシー利用客の間において周知性を取得したとは認められない」。

 「原告らは、原告(旭区)は、末尾添付の「得意先住所録」記載のとおり多数の官庁や一部上場企業を含む顧客を有していると主張するが、これらが原告(旭区)の顧客であると認めるに足りる証拠がなく、そもそも原告らがどのような基準で「顧客」あるいは「得意先」と称しているのか明らかでないから、これをもって、本件表示が周知性を取得していることの証左とすることはできない」。「そうすると、本件表示が原告らの営業表示として大阪府下において周知性を取得していることを前提に、被告に対し、被告の名称中に「クラウン」の名称を使用することの差止め、タクシーの表示、タクシーチケットの表示及びタクシー無線などタクシー事業について本件表示を使用することの差止め、被告の法人登記中の名称の抹消登記手続、及び被告の行為が不正競争防止法2条1項1号にいう不正競争に該当することを理由に損害賠償を求める原告らの請求は…その余の点について判断するまでもなく、理由がない」。
 

2.原告らは昭和48年に被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾し、右使用許諾には原告らの被告に対する支配関係等がなくなることを解除条件とする黙示的な付款が存在し、右解除条件が成就したものであるか(争点2)
 裁判所は、認定事実に基づき、以下のように判断しました。
(1)「被告が昭和48年9月28日にその名称を設立当時の「共栄旅客自動車協同組合」から「クラウン無線事業協同組合」に変更したのは、原告ら(原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシー)が、被告並びに毎日交通及び高槻交通との間において、被告の名義で無線局免許を取得するが、右無線は原告ら固有の無線として、原告らのみが管理、使用し、他の被告組合員である毎日交通及び高槻交通はこれを一切使用しないことを合意するとともに、そのことを対外的に明らかにするため被告の名称に原告らの営業表示である「クラウン」の名称を取入れることとし、このことについて毎日交通及び高槻交通の同意を得たものであるから、原告らは、被告の名称変更に際し、被告に対し原告らの営業表示である「クラウン」の名称を使用することを許諾した」。

 

(2)被告は「被告の名称については原告らは何らの法的権利を有していないのであり、原告らの使用許諾に基づいて名称中に「クラウン」の名称を使用することになったものではないと主張するが、昭和48年当時、原告(東住吉区)は設立から約9年、ニュークラウンタクシーは商号変更から約7年を経過して、タクシーの保有台数もそれぞれ135台、129台に達していたのであって、「クラウン」の名称を含む本件表示は…未だ原告らの営業表示として不正競争防止法2条1項1号のいわゆる周知性を取得していたとまではいえないものの、一定の信用が付着していたことは明らかであり、右のような被告の名称変更の理由は、被告名義で取得する本件無線を原告らのみが管理、使用することを対外的に明らかにすること以外には考えられないのであるから、原告らが「クラウン」の名称について法的権利を有しないことは、何ら右認定を妨げるものではない。
 

(3)「右のような被告の名称変更の経緯、理由に照らすと、原告らが被告に「クラウン」の名称を使用することを許諾したのは、原告らが、被告名義で取得された本件無線は原告ら固有の無線として、原告らのみが管理、使用し、他の組合員はこれを使用しないということが前提となっていたのであるから、原告らと被告との間においては、少なくとも原告らが被告を脱退するなどして本件無線を使用しなくなったときは、原告らが被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾した前提となるべき関係が消滅したものとして、右許諾の効力を消滅させ、被告は以後「クラウン」の名称を使用しないものとする合意が、黙示的に成立していたものと解するのが相当というべきである。すなわち、原告らの被告に対する「クラウン」の名称の使用許諾には、原告らが被告を脱退するなどして本件無線を使用しなくなることを解除条件とし、右解除条件が成就したときは被告は以後「クラウン」の名称を使用しないとの合意が伴っていた」

 

(4)「原告らは、右使用許諾には、原告らと被告の間に支配・従属の関係、親子会社的な関係、タクシー事業を補完する関係、原告らのグループの一員として行動すべき関係などが原告らの責めに帰すべからざる事由により消滅したときには被告はもはや「クラウン」の名称を使用することができないという黙示的な合意、すなわち右のような関係が消滅することを解除条件とするという付款があったと主張するところ、支配・従属の関係などの語は必ずしも適切でない感がないではないが、右説示した趣旨をいうものとして採用することができる」。
 

(5)①「平成三年のタクシー運賃値上げを巡って原告らと三菱五社との間に軋轢が生じ、その過程で出ていたニュークラウンタクシーの営業権の三菱五社への譲渡の話を平成4年1月に原告(東住吉区)が断」り、「原告らないし石田と三菱五社ないし笹井との関係が悪化し」、「三菱五社は…自らも権利行使ができると主張し、三菱五社のタクシー60台に本件無線を基地局とした陸上移動局を開設しようとし…原告らは、大阪地方裁判所に対し、本件無線局免許の変更・廃止に関する行為を行ってはならないとの仮処分を申し立て、更に、三菱五社のオーナー笹井がその代表理事である被告は、原告らの強い反対を押し切って、…の四回にわたって、被告の事務所所在地を大阪市から守口市(三菱五社の本社)に、名称を「クラウン無線事業協同組合」から「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の決議を繰り返し…近畿運輸局長に対し定款変更の認可を申請し…認可を得たにもかかわらず、事務所所在地を守口市に、名称を「大阪ハイタク事業協同組合」に変更する旨の登記手続をせず、放置し、かえって…通常総会において名称を元の「クラウン無線事業協同組合」に変更する旨の定款変更決議をし…近畿運輸局長に対し、その旨の定款変更の認可を申請」(未認可)。②原告らは、大阪地裁に被告の総会における事務所所在地及び名称変更の定款変更決議の不存在確認等の訴訟を提起し…被告に対し脱退する旨通告し脱退の効力が生じ、③原告らは「クラウンタクシーグループ無線共同配車組合」を結成し(同年五月一八日に名称を「クラウン無線配車組合」に変更)、呼出名称を「クラウン」とする無線基地局及び陸上移動局の免許を取得し、タクシー無線事業を開始した。
 

(6)したがって「原告らは、新たに結成したクラウン無線配車組合の取得した無線免許に基づく無線局を使用して自社タクシーの無線配車を行っており、本件無線は被告を脱退したことにより全く使用しなくなったものであり、その脱退の経緯に徴すれば、原告らの脱退について原告らの責めに帰すべき事由があるともいえない」。「原告らの被告に対する「クラウン」の名称の使用許諾に伴っていた解除条件が成就したといわなければならない」。「原告らの被告に対する「クラウン」の名称の使用許諾の効力が解除条件の成就により失われたものであり、被告は以後「クラウン」の名称の使用をやめなければならない義務を負う」。
 

(7)「そうすると、原告らは、前記使用許諾契約の終了に基づき、被告に対し、「クラウン」の名称を使用しないよう求めることができる」。「昭和48年9月28日に被告に対し「クラウン」の名称の使用を解除条件付で許諾したのは、原告(東住吉区)及びニュークラウンタクシーであるところ、原告(東住吉区)は、平成5年2月12日に大阪クラウンタクシーにタクシー事業を譲渡したものの、現在まで一貫してその法人格に変更はなく、ニュークラウンタクシーは、同日に堺ニュークラウンタクシーにタクシー事業を譲渡し、同年5月25日に商号を「石田興産株式会社」に変更し、平成6年11月21日、大阪クラウンタクシーから商号変更した「クラウンタクシー株式会社」を吸収合併すると同時に商号を「クラウンタクシー株式会社」に変更した(これが原告(旭区)である。)ものの、法人格に変更はないから、原告(東住吉区)及び原告(旭区)は、いずれも、被告に対する前記「クラウン」の名称の使用許諾契約の終了に基づき、「クラウン」の名称を使用しないよう求めることのできる地位にある」。したがって「被告に対し、被告の名称中に「クラウン」の名称を使用しないこと、タクシー無線事業について「クラウン」の名称を使用しないことを求め、…法人登記中「クラウン無線事業協同組合」なる名称の抹消登記手続を求める原告らの請求は理由がある」。
 なお「原告らが本件表示を使用するについて「クラウン」等の名称や標章について多くの権利を有しているトヨタ自動車株式会社の許諾を得ていないことを指摘するが…原告(東住吉区)は、本件表示を使用するについてトヨタ自動車株式会社の関連会社と考えられる大阪トヨペット株式会社の口頭による許諾を受けている(同社から、タクシー営業権の買収資金の一部の融資を受け、タクシー車両に「クラ」と「ウン」の間に王冠マークを挟んだ表示をするための塗装用金型まで贈られている」から、本件表示の使用について原告らがトヨタ自動車株式会社の許諾を受けていないからといって、被告に対し右契約終了に基づく使用差止めの請求ができなくなるとする根拠は存しない」。


3.被告の行為は不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争に該当し、あるいは被告の一連の行為、本訴における応訴、反訴の提起は不法行為を構成するか否か、被告が原告らに対して賠償すべき損害の額いかん(争点3)
(1)「前記事実によれば、被告は、原告らの解除条件付使用許諾により「クラウン」の名称の使用を許諾されたものであり、その解除条件の成就により使用許諾契約の終了を理由に「クラウン」の名称の使用をやめなければならない義務を負っているにもかかわらず,その義務の履行をせず、その他被告の行為は、単に契約終了に基づく義務の不履行というにとどまらず、不法行為と評価することのできる」。
(2)原告ら代表者の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告らは共同して本訴の提起・追行、反訴に対する応訴を原告ら訴訟代理人に委任し、弁護士費用として三〇〇万円を支払うことを約したことが認められるところ、そのうち、原告らそれぞれについて四〇万円は右不法行為と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
(3)したがって、被告に対し、不法行為を理由に損害賠償を求める請求は、原告らそれぞれにつき四〇万円の限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。

 

4.原告らの被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起は、不法行為を構成するか(争点4)
 「被告は、原告らの本訴提起をもって被告に対する不法行為を構成する旨主張するが、本訴の提起が不法行為を構成しないことは、以上の説示から明らかである。したがって、被告の原告らに対する反訴請求が理由のないことは明らかである」。
 

■結論
 よって、原告らの被告に対する本訴請求は、使用許諾契約の終了に基づき、被告の名称中に「クラウン」の名称を使用しないこと、タクシー無線事業について「クラウン」の名称を使用しないこと、昭和48年10月23日…法人登記中「クラウン無線事業協同組合」なる名称の抹消登記手続を求める原告らの予備的請求を認容し、損害賠償請求については原告らそれぞれについて四〇万円(及び遅延損害金)の支払を求める限度で認容し、その余(不正競争防止法2条1項1号、3条に基づく主位的請求、右認容額を超える損害賠償請求)を棄却することとし、反訴請求を棄却する」。

 

■BLM感想等 

 本件は、被告の行為が不法行為を構成するほどのものだったからだと思いますが、不正競争防止法2条1項1号の周知性が認められないにもかかわらず、その表示主体を形成する者が商号を変え、吸収合併する等して組織の形態をかえてきたものの同一性を認め、表示主体を認定し、使用許諾者としての地位を有することを認め、当事者の契約で解決したということですね。商標権もなく、営業表示の周知性も認められないにもかかわらず、関係者間では契約を認め、かつ、解除を認めています。

 すなわち「右のような被告の名称変更の経緯、理由に照らすと、原告らが被告に「クラウン」の名称を使用することを許諾したのは、原告らが、被告名義で取得された本件無線は原告ら固有の無線として、原告らのみが管理、使用し、他の組合員はこれを使用しないということが前提となっていたのであるから、原告らと被告との間においては、少なくとも原告らが被告を脱退するなどして本件無線を使用しなくなったときは、原告らが被告に対し「クラウン」の名称の使用を許諾した前提となるべき関係が消滅したものとして、右許諾の効力を消滅させ、被告は以後「クラウン」の名称を使用しないものとする合意が、黙示的に成立していたものと解するのが相当というべきである。すなわち、原告らの被告に対する「クラウン」の名称の使用許諾には、原告らが被告を脱退するなどして本件無線を使用しなくなることを解除条件とし、右解除条件が成就したときは被告は以後「クラウン」の名称を使用しないとの合意が伴っていた」(下線筆者)というわけです。

 解除条件を付したとする解釈は、和田八事件フロインドリーブ事件全秦グループ事件にも出てきました。これらの事案と併せて本件まだまだ考えていきたいと思います。

 

By BLM

 

 

 

 

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