商標がある程度知られてくると、その商標を使用すれば信用が比較的容易に得られるため、他の商品分野、サービス分野、最近では、動画サイトで、商標の使用が展開されていきます。
また、最近では、自社のみならず提携会社や子会社等、分業・協業体制が広がりグループが形成されています。誰がどのように商標を使用しはじめるか、しかもヒットするか、リスク管理をして、商標に対する信用を保護する必要があります。
そうすると、商標登録出願時に、広めに商品又はサービスを指定する必要が出てきます。日本の商標法は登録主義です。決してこのようなリスク管理は悪いことではないです。
しかし、将来的に、登録商標を使用していなければ、第三者がその商標を使用したい場合、取消審判をかけることができるため、むやみに指定商品・役務の範囲は広げない方がよいとも言えます。
こういった悩ましさを感じる事案を今日は見ていきます。
東京高判平3・2・28〔POLA審決取消訴訟〕平成2(行ケ)48
(最高裁HP参照)
原告 リモネイラ コンパニー
被告 ポーラ化成工業株式会社外一名
1.経緯
原告は、商標登録第1710891号商標(以下「本件商標」という。)(J-Plat-Pat情報:こちら)(裁判所HP参照:こちら)について、「本件商標は、継続して三年以上、日本国内において、その指定商品のうち「果実」について使用されていない」と主張し、商標法50条1項に基づくいわゆる不使用取消審判(※)を特許庁に請求した。これに対し、本件商標の商標権者である被告は、使用証拠(裁判所HP参照:こちら)を提出し争ったため、同庁はこれを審理し、その結果、「本件審判請求の登録前三年以内に、日本国内において、本件商標の通常使用権者が、その指定商品のうち「果実」について本件商標の使用をしていた事実を認めることができる」とし、原告の請求を棄却した。
そこで、特許庁の判断を不服として提起されたのが本件である。
※参考条文:商標法50条について政府HP(こちら)より引用
第50条 継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
3 第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
<関連条文>
第38条
5 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。)の使用によるものであるときは、その商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。
2.当裁判所の判断
BLMコメント
商標法50条に基づく審判において、登録商標と同一の商標を使用している必要があります。この場合の「同一」性が問題となりますが、同法38条で「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。」と規定されており、完全一致という必要はありません。「社会的同一性」ってどの程度?と思われた方、目安ですが、特許庁HPのこちらの審判便覧に例が掲載されていますのでご参考に。
なお、商標実務を長くやってらっしゃる方は、商標法50条に、「社会的同一」の規定が入っていたはず!と思われる方も多いかも。同便覧によれば、「平成30年12月30日に「環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律」が施行されたことに伴い、法文の改正が行われ、…同条項から削除されたが、商§38⑤において引き続き維持されることが明記されたため、実質的な内容の変更はない。」とのことです。
裁判所は、まず、『本件商標と本件使用標章の同一性』(別紙図面一の登録商標と、別紙図面二の使用商標(右下)(こちら))について判断しています。社会的同一性の問題について検討しています。確かに見比べてみてください。感覚的には「同一?」かと聞かれると微妙です。裁判所も、登録商標と比べて、使用商標(標章)については、『小さく表示した図形の右側に大きな書体で「POLA」のローマ字を表示し、これらから二〇センチメートル以上も離れた紙帯の左上隅及び右下隅に「ポーラ」の片仮名を斜めに表示したものであるから、本件商標と本件使用標章が外観において酷似するとは到底いい難い。』としながら、以下のように判断しました。以下抜粋。
登録商標と使用商標(標章)の社会的同一性の判断について
『登録商標は、これを付する商品の具体的な性状に応じ、適宜に変更を加えて使用されるのがむしろ通常であるから、そのような変更が当該登録商標の有する独自の識別性に影響を与えていない限り、なお同一の範囲に属する標章と認識するのが、商品需要者あるいは取引者の通念というべきである。そして、商標の不使用を事由とする商標登録取消しの制度の存在理由(全く使用されていないような登録商標は、第三者の商標選択の余地を狭めるから、排他的な権利を与えておくべきでないとするのが、主たる理由と考えられる。)に鑑みると、登録商標と称呼及び観念を同じく外観も酷似する標章(これを、「社会通念上、登録商標と同一の標章」と称することもできよう。)の使用が、同条にいう「登録商標の使用」に該当すると解すべきことは当然であるが、それにとどまらず、登録商標の構成に変更が加えられたために外観が必ずしも登録商標と酷似するとはいえない標章であっても、構成の変更が、登録商標の構成において基本をなす部分を変更するものでなく、当該登録商標が有する独自の識別性に影響を与えない限度にとどまるものであるときは、その標章の使用をもって商標法五〇条にいう「登録商標の使用」に該当すると解して差支えないとするのが正当である(パリ条約第五条C(2)の規定を参照)。』
『これを本件についてみると、別紙二の紙帯のほぼ中央下端に表示されている図形は、本件商標の図形と全く同一の形状である。また、同紙帯のほぼ中央下端に表示されている図形の右に表示されているローマ字も、書体こそ異にするが、本件商標のローマ字部分と全く同一の構成であり、もとより同一の称呼を生ずる。そして、本件商標の識別性が、図形と各文字部分のそれぞれに存すると解されること、及び、本件商標の構成において基本をなすのが特徴的な図形であることは前述のとおりであるから、本件使用標章のうち、図形及びローマ字が近接して表示されている部分には、登録商標の識別性が明確に維持されているというべきである。…』
BLMコメント
判決文の原被告の主張部分から引用すると、原告は、『被告らの主張によれば、本件使用標章が表示されている紙帯は、訪問販売によって特定の需要者から注文された商品をその需要者に配送する段階で、初めて商品を収納した箱に付されるというのであるから、紙帯を付された商品が、不特定の需要者を対象とする流通過程に乗ることはないことになる(換言すれば、需要者は、訪問販売のカタログ等によって購入すべき商品を注文するのであって、本件使用標章を見て商品を識別したり出所を確認したり品質を信頼したりするのではない。)。そうすると、本件使用標章は、訪問販売のサービスが何人の業務に係るかを示すいわゆるサービスマークではあり得ても、商品の彼比識別など商標の本質的機能を全く果たしていないから、識別標識ではない』などと主張しました。(下線BLM)
これに対し、被告らは『被告らは、化粧品の訪問販売で著名なポーラサークルを構成する会社であり、同じくポーラサークルの属する株式会社ポーラ化粧品本舗、及び、株式会社テイショク(現在は、商号を「株式会社ミヒロ食品」に変更)に対して、本件商標の通常使用権を許諾している。そして、株式会社ポーラ化粧品本舗は昭和六二年六月ころから果実の販売も行っており、顧客から果実の注文を受けると、サークルの配送センターの役割を負担する株式会社テイショクに指示し、株式会社テイショクが産地に発送を指示することによって、産地から株式会社ポーラ化粧品本舗の支店ないし営業所に果実が届く。そこで、株式会社ポーラ化粧品本舗の支店ないし営業所は、果実を収納した箱の上面から左右の面にかけて、ポーラサークルの商品であることを示す包装用の紙帯(別紙二)を掛けた上、顧客に配送するのである』などと反論しています。(下線BLM)
要するに、原告は、商品「果実」の使用ではなく、サービスの使用なんではないかという趣旨の主張であり、被告ら(商標権者)は、いやいや商品「果実」に対し使用しているのだと言っているんだと思います。
そこで裁判所は以下のように判示し、本件商標の「果実」への使用を認め、商標法第五〇条の規定により取り消すことはできないとした審決の認定及び判断を支持し、原告の請求を棄却しました。
商標的使用(識別力を発揮する使用)か否かの判断について
『本件使用標章が本件商標と同一の範囲に属する標章と理解できる以上、被告らが主張するような別紙二の紙帯の使用態様、すなわち、本件商標の指定商品である「果実」を収納した箱に、本件使用標章を付した紙帯を掛けて顧客に配送する行為が、商標法第五〇条第二項所定の「指定商品についての登録商標の使用」に該当することは明らかである。』
『この点について、原告は、「被告らが主張するような態様で使用される本件使用標章は、商品の彼比識別など商標の本質的機能を全く果たしておらず、識別標識ではないから、登録商標をその指定商品に使用するものといえない」と主張する。 なるほど、商標権の侵害の成否を論ずるときは、第三者による登録商標の使用が識別標識としての使用でなければ登録商標の本質的機能は何ら損なわれないのであるから、商標権の侵害が成立するためには第三者が登録商標を識別標識として使用したことを要するといい得る。』
『しかしながら、商標の不使用を事由とする商標登録取消しを論ずるときには、「前述のような制度の存在理由に鑑みても、商標法第五〇条所定の登録商標の使用」は、商標がその指定商品について何らかの態様で使用されておれば十分であって、識別標識としての使用(すなわち、商品の彼比識別など商標の本質的機能を果たす態様の使用)に限定しなければならぬ理由は、全く考えられない。 それゆえ、本件使用標章を被告らが主張するような態様で使用することが、識別標識としての使用に該当するか否かはさて措き、「指定商品についての使用」に該当することは前述のとおりである…。』
BLMコメント
裁判所は、本件商標について『「ポーラ」が全国的な規模で化粧品の訪問販売業務を行っているものの称呼であり、また、本件商標中の図形が右「ポーラ」のマークとして需要者の間に広く認識されていることは、当裁判所に顕著な事実である。』とも述べているので、上記の裁判所の判断を一般に参考にしてよいのか迷うところです。
しかし、裁判所の判断の趣旨としては、登録商標と使用商標が社会的同一で、指定商品の「果実」に使用しているなら、不使用とは言えないと判断しても全く問題なし!ということでしょうから、「ポーラ」のような周知商標(但し化粧品分野)でなくとも、一つの参考になる判断かと思います。
ただ、商標権者らの使用状況を見ていくと、「ポーラ」を一定のグループの標識と見るなら、そのグループに対する識別する標識として機能しているようにも思います。グループの中の果実の提供をしている者の使用を管理統制している商標権者という位置づけで考えるなら、商標的使用を認めてもいい事例とも思います。
by BLM
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