不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その57

 本日も、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。

 予めお詫び:本裁判例は、LEX/DB(文献番号25448442)から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  大阪高裁平29・1・26〔全秦グループ事件・控訴審〕平28(ネ)2241(大阪地判平28・7・21〔同・第一審〕平27(ワ)2505(第1事件)、6189(第2事件))

筆者コメント:本件の当事者、紛争の経緯等の事実について控訴審がほぼ第一審を引用しているため、適宜、第一審の判決文も見ていきます。第一審と控訴審の判断は異なり、上告審では請求は棄却されているため、結論は、控訴審の判断を重視してみていきます。 構図としては、「控訴人全秦通商」 V.S. 「控訴人ソフィアら」(4社) ということかと思います。

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第1事件

控訴人(原審第1事件原告):①全秦通商株式会社(以下「控訴人全秦通商」
被控訴人(原審第2事件被告):②株式会社ワードシステム、③株式会社サンエステート、④株式会社ゼンシン

(順に、以下「被控訴人ワードシステム」「被控訴人サンエステート」「被控訴人ゼンシン」

  被控訴人ワードシステムと被控訴人サンエステートを併せて「被控訴人ワードシステムら」といい

  被控訴人ワードシステムらと被控訴人ゼンシンを併せて「被控訴人ら」という。)       
控訴人兼被控訴人(原審第1事件被告,同第2事件原告):⑤株式会社ソフィア、⑥全本金属興業株式会社、⑦株式会社全本、⑧日新開発株式会社(順に、以下「控訴人ソフィア」「控訴人全本金属興業」「控訴人全本」「控訴人日新開発」。これらを併せて「控訴人ソフィアら」という。)

 

■事案の概要等 

 本件は、「控訴人全秦通商」が、「控訴人全秦通商」の商品等表示として需要者の間に広く認識されている本件各表示と同一又は類似する標章及びドメイン名を使用する「控訴人ソフィアら」に対し,不正競争防止法2条1項1号(ドメイン名の使用については選択的に同項13号)等に基づき、その使用の差止等求め(原審第1事件)、

 「控訴人ソフィア」らが、「被控訴人ら」(筆者念のため注:「控訴人全秦通商」は含まれません。)に対し,本件各表示は「控訴人全秦通商」及び「控訴人ソフィアら」の商品等表示として需要者の間に広く認識されているとして、不正競争防止法2条1項1号等に基づき「被控訴人ら」による本件表示1,2,4及び5の各標章の使用の差止めを求めた(原審第2事件)事案です。

 原審は「控訴人全秦通商」及び「控訴人ソフィアら」の請求をいずれも棄却したことから,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが控訴したのが本件です。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

 裁判所は「控訴人全秦通商の請求はいずれも理由がないが、控訴人ソフィアらの請求はいずれも理由があると判断する」とし、「その理由は,後記2のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の第3の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する」としているため、原判決「事実及び理由」中の第3の1及び2をここで抜粋(適宜筆者修正)します。

(筆者:別紙営業表示目録として、1「図形」、2「ZENSHIN GROUP」、3「人・夢・ネットワーク」、4「ゼンシングループ」、5「全秦グループ」あり。)


2.検討
 裁判所は以下のように認定し、判断しました。(
原審の「事実及び理由」中の第3の1及び2を引用しているため、本ブログでも以下引用(又は抜粋)することとし、適宜、控訴審における追加等を反映した。)。

 

1.争点1(本件各表示の表示主体)

 裁判所(控訴審)は、「ア 本件各表示が平成3年に控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらを構成員とする「全秦グループ」のヴィジュアル・アイデンティティーとして発表されて以来平成24年1月頃まで「全秦グループ」の宣伝広告活動において使用され,その頃には,岡山県,鳥取県及び島根県において不正競争防止法2条1項1号の商品等表示(営業表示)として周知性を獲得し,その周知性が現在まで維持されていること,本件各表示が控訴人全秦通商の営業表示であることは,当事者間に争いがない。
 このことを前提に,控訴人全秦通商は,本件各表示の主体は当初から控訴人全秦通商のみであり,そうでないとしても,控訴人ソフィアらが平成24年2月に「全秦グループ」から脱退したことにより,控訴人全秦通商の控訴人ソフィアらに対する本件各表示の使用許諾がなくなったから,控訴人ソフィアらは,周知性を獲得した本件各表示の主体ではなく,本件各表示は,控訴人ソフィアらにとって不正競争防止法2条1項1号の「他人の」営業表示であると主張する。
 これに対し,控訴人ソフィアらは,控訴人ソフィアらも控訴人全秦通商と共に当初から本件各表示の主体であり,控訴人全秦通商から本件各表示の使用許諾を受けているのではないから,控訴人全秦通商と控訴人ソフィアらがグループ関係を解消した後も周知性を獲得した本件各表示の主体であり,控訴人ソフィアらにとって本件各表示は「他人の」営業表示ではないと主張する。」とし、これに対し以下のように認定し、判断しました。

 

(1)判断基準

 不正競争防止法2条1項1号において,「他人の」周知営業表示と同一又は類似の表示を使用する行為を不正競争と規定するのは,営業主体の信用が化体した周知営業表示を第三者が使用することにより,その信用にフリーライドすることを防止する趣旨である。そして,同号の「他人」には,周知営業表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することができるようなグループも含まれるものと解される(最高裁昭和59年5月29日判決・昭和56年(オ)第1166号参照)

(2)本件に関する判断
 昭和50年にP1が始めたパチンコ店事業を昭和60年に法人化して設立された原告,昭和40年に創業され昭和61年に法人化して設立された被告全本金属,昭和60年代に設立された被告ソフィア被告全本及び被告日新開発は,いずれの会社も兄弟4人及びその家族を株主あるいは実質的な株主とし、これらの兄弟4人及びその家族の一族からなるP家で実質的に支配されている会社であり、しかもP1が原告の取締役を解任されてその代表取締役の地位を失った平成24年2月10日までは,兄弟4人の長男であるP1が全ての会社の代表取締役を務め,弟3人やP1の家族がそれぞれに役員を務めるなどしていた」から、「会社相互の事業の関連性や法人同士の株式の相互保有による資本関係はないものの社会通念上,グループとして捉えられる一体的な関係があった」といえる。⇒控訴審いずれも経営理念を同じくするP家の家業を担う会社であるという共通の性格を有していたものと認められる」に改める。


 そして「認定のとおり、平成3年には,P1が,そのような関係にある原告及び被告らを「全秦グループ」と称して、これを表すVIシステムを導入し、本件各表示を、岡山県,鳥取県及び島根県における新聞やテレビにおける広告で使用してきたことにより,遅くとも平成24年1月頃までには、岡山県、鳥取県及び島根県の一般消費者間において、原告及び被告らが「全秦グループ」を構成する会社として広く認識されていくと共に,それらの会社の宣伝広告、店舗あるいは社屋自体で使用される本件各表示が原告及び被告らで構成される「全秦グループ」を表示するものとしても,広く認識されていたものと認められる」。

⇒控訴審「そのような共通の性格を有する控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらを,企業活動を通じて社会に貢献し,利益を地域社会に還元するという経営理念の下,多角的な事業を展開する「全秦グループ」と称する企業グループであるとし,「全秦グループ」及びその構成員のイメージを効果的に表現し,対外的にアピールするためのヴィジュアル・アイデンティティーとして本件各表示を作成し,これを

控訴審「一般消費者その他控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが営む各事業の需要者の間」


なお,原告及び被告らが事業上の関係がなく,また顧客となる需要者も共通しているわけではないのに,このような一体となった宣伝広告活動をしてきたのは,前記認定の広告や会社案内にも記載されているように,原告の事業であるパチンコ店等のレジャー産業だけでなく,「全秦グループ」を構成する他の事業等を含め,「全秦グループ」としての事業活動は様々な分野に及び,そのことを通じて地域社会に貢献しているとのイメージを前面に打ち出すことによって,P家の支配する会社全体のイメージを上げようとしたからであると認められるから,原告及び被告らそれぞれの事業規模に大きな差があり,また周知性獲得の貢献についても同様であるとしても,上記のような意味において,「全秦グループ」は,周知営業表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束していたものとして評価できる
 したがって,上記認定した平成24年1月頃までに周知となったと認められる本件各表示は,その当時においては,原告のみならず被告らも並んで,その主体であると認めるのが相当である。

⇒控訴審「したがって,平成24年1月頃までに周知性を獲得した「全秦グループ」の本件各表示の主体は,その当時においては,同グループの構成員であった控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらであったと認められる。


「これに対して原告及び第2事件被告らは,本件各表示による宣伝広告活動の費用負担をしたのが原告であること,「ゼンシン」という称呼を含む商号を有するのは原告のみであることや,その企業規模などの点で「全秦グループ」内では原告が中核企業であることから,本件各表示の主体は原告のみであるように主張するが,本件各表示の周知性が上記のような経緯で形成された以上平成24年1月当時の主体は,「全秦グループ」を構成する被告らを含む各社全てであるというべきである」。

⇒控訴審「本件各表示の制作費及びこれを使用した」

⇒控訴審「本件各表示は、同一の経営理念の下でP家の家業を担っている控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが,その経営理念に基づき多角的な事業を展開する企業集団であることを対外的に宣伝し,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの企業イメージを高めるために制作され,「全秦グループ」の宣伝広告活動に用いられてきた(これに対応して,同宣伝広告活動に接した取引者需要者も,本件各表示は,控訴人全秦通商の主たる目的であるパチンコ店,書店の経営等に限らず,控訴人ソフィアらの行っている事業を含めた多角的な事業に用いられている営業表示であると認識したものと認められる。)ことにより周知性を獲得したものであるから


「また,原告及び第2事件被告らは,P1が作成させた平成24年2月9日付けの「VI移譲と商標使用許諾に関する契約書」において,本件各表示等が原告から全功へ移譲する旨が契約目的となっていたことから,P1には本件各表示が原告のみに帰属する認識が「⇒控訴審「あったとも主張する。しかし,上記契約書…においては,本件表示1及び2等は控訴人全秦通商及び控訴人全秦通商が所属するゼンシングループの所有するものであるとされ(1条),控訴人全秦通商のみを所有主体としているのではないこと,上記契約書は,その作成の前後の経緯からして,控訴人全秦通商の経営から排除されることを察知したP1が,本件各表示を控訴人ソフィアら及び全功を構成員とする「ゼンシングループ」の表示として独占的に使用できるようにするために作成したものであると認められるところ,譲渡の主体を控訴人全秦通商のみとすれば同目的は達成できること(控訴人ソフィアらは引き続き本件各表示を使用する予定であったのだから,これを譲渡する必要はない。)からすると,上記契約書をもって,P1が本件各表示が控訴人全秦通商のみに帰属すると認識していたと認めることはできない。

 

◆控訴審判決で以下に変更

「オ 平成24年2月,控訴人全秦通商と控訴人ソフィアらは,「全秦グループ」として結束して企業イメージを向上させるために宣伝広告活動を行う関係を解消したものの,その頃までに獲得された本件各表示の周知性が現在まで維持されていることは,当事者間に争いがない。そして,平成24年2月以降,控訴人全秦通商は,被控訴人ワードシステムが新たに「全秦グループ」に加わったなどとして,控訴人全秦通商及び被控訴人ワードシステムらほかを構成員とする「全秦グループ」を従前の「全秦グループ」と同一性,連続性のあるものとして本件表示1ないし5を使用して宣伝広告しており,他方,控訴人ソフィアらも,従前の「全秦グループ」を再編成した「ゼンシングループ」を構成しているとして被告標章1,3,4及び6を使用して宣伝広告している。このように,本件各営業表示は,平成24年2月以降も控訴人全秦通商も控訴人ソフィアらも使用を続けており,これらの宣伝広告に接している取引者需要者が,本件各表示を控訴人全秦通商のみの営業表示として認識するに至ったとは認められない
カ 控訴人全秦通商及び被控訴人らは,控訴人ソフィアらが本件各表示を使用していたのは,控訴人全秦通商の使用許諾に基づくものであり,同使用許諾には控訴人全秦通商とのグループ関係解消の解除条件が黙示的に付されていたとして,平成24年2月の同グループ関係解消によって使用許諾がなくなったから,控訴人ソフィアらが営業表示として本件各表示を使用することはできず,本件各表示の主体として不正競争防止法上の権利を行使することも許されないと主張する。
 確かに,控訴人全秦通商は,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらを構成員とする「全秦グループ」内で売上げ,従業員数及び店舗数が最も多く,P家の家業の中心であり,本件各表示の制作費やこれを用いた宣伝広告費を負担し,グループ名の一部である「全秦」並びに本件表示2,4及び5の称呼「ゼンシン」と同じ称呼を含む商号を冠し,一般大衆向けの事業を展開している関係上,本件各表示を使用した「全秦グループ」の宣伝広告活動の効果を最も強く受けるという意味において,「全秦グループ」における中心的存在であるといえるものの,例えば,発注者とその下請・孫請といった特定の事業者を中心とする事業上の一定の繋がりのある企業から成るグループにおける発注者のように,グループの存立に不可欠の存在というわけではない。そして,本件各表示は,同一の経営理念の下でP家の家業を担っている控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが,その経営理念に基づき多角的な事業を展開する企業集団であることを対外的に宣伝し,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの企業イメージを高める目的で控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの5社の合意(その代表者であるP1の意思)に基づき制作され(甲3),そのとおりに宣伝広告活動において使用されていたものであることからすると,本件各表示は,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアら5社の相互の合意に基づき使用が開始されたものであって,控訴人全秦通商が控訴人ソフィアらに対して使用を許諾したものとは認められないし,控訴人全秦通商と控訴人ソフィアらのグループ関係が解消されたときには控訴人ソフィアらが本件各表示を使用することができないとの合意があったと認めることもできない(なお,本件各表示が上記の趣旨で制作され,使用を開始されたことからすると,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらを構成員とする「全秦グループ」と別個独立のグループ及びその構成員の営業表示として本件各表示を使用することは許されないとするのが上記5社の合意の趣旨であると解されるが,控訴人ソフィアらが現在本件表示1等をその営業表示として使用している「ゼンシングループ」は,上記「全秦グループ」5社のうち4社が所属し,同4社の代表者は,上記グループ関係解消までその5社の代表者であったP1が務めており,その経営理念も上記「全秦グループ」が掲げていたものと同一であることからすると,上記「ゼンシングループ」は,上記「全秦グループ」の一部であり,本件各表示が象徴する上記「全秦グループ」とは別個独立のグループないしその構成員であるとは認められないから,上記合意に基づいても,控訴人ソフィアらによる本件各表示の使用が禁じられるものではない。)。
キ したがって,本件各表示は,現在においても,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの周知営業表示であると認めることができ,控訴人ソフィアらにとって,これが不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の」営業表示に当たるということはできない。
ク 控訴人全秦通商は,控訴人ソフィアらが本件各表示を使用するのは全功による別件判決の執行逃れであると主張する。しかし,控訴人ソフィアらは,全功設立前から本件各表示を使用し,その周知性を獲得した主体であるから,全功が別件訴訟において敗訴したといった控訴人全秦通商が指摘する事情を踏まえても,控訴人ソフィアらによる本件各表示の使用が実質的には全功による使用であると認めることはできず,控訴人全秦通商の上記主張は,採用することができない。」


2.争点2(被告らによる被告標章8の使用のおそれの有無及び本件表示1と被告標章8の類否)
 (省略)
 

3.争点3(被告らによるドメイン名「zenshin.gr.jp」使用による不正競争の成否)

 (省略)


4.争点5(第1事件の差止請求等の成否)

(省略)

 

5.争点4(被控訴人らによる本件各表示の使用の有無)

以下控訴審。
「ア 全秦通商本社ビルに掲げられた本件看板について
 本件看板が設置されている全秦通商本社ビルは,本件看板が設置された頃は控訴人全秦通商が所有し,現在は,控訴人全秦通商の代表取締役であるP2が所有し,控訴人全秦通商に一棟貸しされていると認められるから…,本件看板は控訴人全秦通商が設置し,管理しているものと推認されるところ,被控訴人らがその設置,管理に関与していると認めるに足りる証拠はなく,控訴人ソフィアらが指摘する全秦通商本社ビルの入口の表示…から,被控訴人らが控訴人全秦通商とともに本件看板を掲げているとか,本件看板による宣伝広告の主体としてこれに関与しているものと推認することはできず,他にこの事実を認めるに足りる事情はない。 したがって,被控訴人らが本件看板によって本件表示1を使用していると認めることはできない。
イ 新聞広告について
 控訴人ソフィアらは,被控訴人らが,…新聞広告によって本件表示1,2,4及び5を使用していると主張する。
(ア)まず…の新聞広告は,その内容及び体裁からして,控訴人全秦通商,被控訴人ワードシステムらが主体となり,控訴人全秦通商を主力企業とする,控訴人全秦通商,被控訴人ワードシステムら及び山陽ゴルフ倶楽部から成る「全秦グループ」及び各構成員を宣伝するものであることが明らかであるから,右肩に配された本件表示2及び本文に記載した本件表示5は,控訴人全秦通商及び被控訴人ワードシステムらが共同して使用しているものと認められる。
(イ)次に…新聞広告は,「ゼンシングループは関連企業とともに,さらなる飛躍を目指します。」と記載し,被控訴人ゼンシン及び控訴人全秦通商を大きなフォントで表示する一方,被控訴人ワードシステムら及び山陽ゴルフ倶楽部を小さなフォントで表示している部分に着目すると,被控訴人ワードシステムらは,「ゼンシングループ」の関連企業として掲載されているかのように受け取れなくもない。しかし,本文において,「全秦グループ」について「株式会社ゼンシンを中核企業とし,アミューズメント,IT・ビジネス情報,ゴルフ事業等,ビジネスフィールドが充実してまいりました」として,被控訴人ワードシステムのコンピュータ関連事業を「全秦グループ」の事業として紹介していること,この新聞広告に先立つ同オの新聞広告では被控訴人ワードシステムらも「全秦グループ」の構成員として紹介されていることからすると,同クの新聞広告も,被控訴人ゼンシン,控訴人全秦通商及び被控訴人ワードシステムらが主体となって,被控訴人ゼンシンを中核とし,その他3社及び控訴人全秦通商の一部門である山陽ゴルフ倶楽部を構成員とする「全秦グループ」及びその構成員を宣伝するものであると認められる。したがって,同クの新聞広告の右肩に配された本件表示1及び2並びに本文に記載された本件表示4及び5は,被控訴人ゼンシン,控訴人全秦通商及び被控訴人ワードシステムらが共同して使用しているものと認められる」。

 

6.争点6(控訴人ソフィアらの差止請求の成否)
「ア …被控訴人らは,本件表示1,2,4及び5を使用していると認められるところ,本件各表示は,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの周知営業表示であり,被控訴人らが本件表示1,2,4及び5をその営業上使用することによって,需要者が,被控訴人らと控訴人ソフィアらが同一の経営理念に基づき連携,協力しながらP家の家業を営む同一の企業グループに属する関係があるものと誤信するおそれ(広義の混同のおそれ)があり,控訴人ソフィアらはこれによって営業上の利益を侵害されるおそれがあると認められるから,控訴人ソフィアらによる被控訴人らに対する不正競争防止法2条1項1号,3条に基づく本件表示1,2,4及び5の使用の差止請求は理由がある
イ 被控訴人ゼンシンは,純粋持ち株会社である被控訴人ゼンシンによる本件各表示の使用は,事業会社である控訴人全秦通商による使用と同視できるから不正競争行為に当たらないと主張する。しかし,純粋持ち株会社であっても事業会社と別個独立の法人格であるから,不正競争防止法2条1項1号の適用上,当然に純粋持ち株会社による使用を事業会社による使用と同視することはできず,被控訴人ゼンシンの上記主張は失当である。」

 

■結論

 控訴審は「以上によれば,控訴人全秦通商の請求は,いずれも理由がないから棄却すべきであり,控訴人ソフィアらの請求は,いずれも理由があるから認容すべきである」と判断しました。 
 

■BLM感想等

 本件では、争点1の本件各表示の表示主体について積極的に判断されています。

 この点、これまで、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見てきましたが、創業者らか兄弟姉妹、そのまた子孫がどのように一貫して表示を使用し、その主体として信用を承継してきたか、いずれの者(ら)が本家筋で、いずれの者(ら)が分家筋なのか、主従が定める裁判例が多いように思いました。 これに対し、本件は、「控訴人全秦通称」だけでなく、株式会社ソフィアら(他に、全本金属興業株式会社、株式会社全本、日新開発株式会社含む)等も創業者P1が中心となって設立し、企業グループを形成している、控訴審判決によれば「本件各表示は、同一の経営理念の下でP家の家業を担っている控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらが,その経営理念に基づき多角的な事業を展開する企業集団であることを対外的に宣伝し,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの企業イメージを高めるために制作され,「全秦グループ」の宣伝広告活動に用いられてきた(これに対応して,同宣伝広告活動に接した取引者需要者も,本件各表示は,控訴人全秦通商の主たる目的であるパチンコ店,書店の経営等に限らず,控訴人ソフィアらの行っている事業を含めた多角的な事業に用いられている営業表示であると認識したものと認められる。)ことにより周知性を獲得したものであるから」、「平成24年1月当時の主体は,「全秦グループ」を構成する被告らを含む各社全てである」と判断されています。すなわち、本件で、原告(P3が代表取締役)と別れて、控訴人ソフィアらが別途独自に差止請求をすることについて、控訴審は、「本件各表示は,控訴人全秦通商及び控訴人ソフィアらの周知営業表示であり,被控訴人らが本件表示1,2,4及び5をその営業上使用することによって,需要者が,被控訴人らと控訴人ソフィアらが同一の経営理念に基づき連携,協力しながらP家の家業を営む同一の企業グループに属する関係があるものと誤信するおそれ(広義の混同のおそれ)があり,控訴人ソフィアらはこれによって営業上の利益を侵害されるおそれがあると認められるから,控訴人ソフィアらによる被控訴人らに対する不正競争防止法2条1項1号,3条に基づく本件表示1,2,4及び5の使用の差止請求は理由がある」と判断しています。これは、グループの本家筋ともとれる原告抜きで、グループを主体とする表示に係る差止請求を認めている点で興味深いです。不正競争防止法2条1項1号の「他人性」の学説において類型化される「系列企業」のグループ(例えば、三菱グループ等)の扱いと共通する(使用許諾の例とは異なる)ものと考えられます。

 なお、本件は、創業者P1がそのグループを支配する地位を追われ、兄弟たちによって本件各表示の使用について差止請求された事例であるところ、もし、兄弟たちが、創業者P1に取締役等の地位を追われ、P1が他の兄弟たちの使用を制限すべく権利行使していたなら、認められたかもしれません。

 

念のためお詫び:控訴審判決は、第一審判決を引用し、部分的に、追加、削除などするもので、とても読みにくいです。まあ、判決文とはこんなものなのでしょうが。ということで、BLMにて、第一審判決に控訴審の判決を一部埋め込んでみましたが、埋め込み箇所を間違えていたら申し訳ありません。ですので、裁判例は、できるだけ原本にあたってみてください。ほっこりひらめき電球

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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