不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その52

 本日も、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例を見ていきます。

 予めお詫び:本裁判例は、LEX/DB(文献番号28062017)から引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  大阪高裁平13・9・27〔和田八事件・控訴審〕平12(ネ)3740(大阪地裁平成12・10・12〔同・第一審〕平10(ワ)9655)

控訴人(1審被告) 和田八物産株式会社
同代表者代表取締役 A
被控訴人(1審原告) 和田八蒲鉾製造株式会社
同代表者代表取締役 B

 

■事案の概要等 

 本件は、「和田八蒲鉾」又は「かまぼこの和田八」の名称を使用して蒲鉾等を製造、販売する原告株式会社が、「和田八物産株式会社」の商号を使用して蒲鉾等を製造、販売する被告株式会社に対し、被告商号中の「和田八」の部分は原告の営業表示と類似し、原告の営業と混同を生じさせるおそれがあると主張して、不正競争防止法2条1項1号等に基づき表示等の使用の差止めを求めた事案です。第一審では、一部が認容されたため、控訴人(一審被告)が控訴した事案が本件です。

 

◆前提事実
(1)原告の設立等:Cの創業になる株式会社和田八は,Cが個人で営業していた和田八蒲鉾店を,昭和27年5月に法人化したもので,当初,「株式会社和田八蒲鉾店」という商号であったが,Cの死亡後,昭和48年7月に現在の商号となった(以下,便宜上「株式会社和田八」)。原告は,株式会社和田八の製造部門を独立させたもので,昭和51年11月6日設立。蒲鉾,練製品その他食料品の製造,販売を主たる業務内容とし,「和田八蒲鉾」又は「かまぼこの和田八」の名称を使用して蒲鉾及び天ぷらを製造,販売(以下「原告商品」)。
(2)被告の設立等:被告は、当時、株式会社和田八の代表取締役であったD(Dは,株式会社和田八の創業者であるCの長男で、同社代表取締役に就任)が、知人と共に、昭和48年8月13日に設立。当初、雑貨の輸入,販売を主たる業務内容とし、その後十数年にわたり休業後,平成3年9月ころ食料品の製造、販売を主たる業務内容とする営業を再開。原告商品の販売を行っていたが,平成9年12月以降,蒲鉾及び天ぷらを自ら製造し,販売(以下「被告商品」)。
(3)原告の商標権:原告は,原判決別紙原告商標権目録1及び2-1~3記載の商標権を有している。
(4)被告の行為:被告は、「和田八物産株式会社」の商号を使用して営業活動を行うとともに,原判決別紙被告標章目録1及び2-1~3記載の標章を被告商品・その包装等に使用。
(5)被告の商標権:被告は、被告商標権を有している。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字筆者)

Ⅰ.不正競争防止法2条1項1号に基づく請求について

1.原告の営業表示及び原告商標2の周知性
 裁判所は、第一審判断を支持し、「原告の営業表示である「和田八」及び原告の商品表示である原告商標2は,昭和50年代後半から昭和60年代前半までの間に,少なくとも大阪府,京都府,兵庫県,奈良県,滋賀県及び和歌山県において,周知性を獲得したと認めることができる」と判断しました。


2.被告商号の使用の差止めについて

(1)原告の周知営業表示である「和田八」と被告商号との類似性,混同のおそれについて
 裁判所は、第一審判断を支持し、被告商号の「和田八物産株式会社」は,原告の周知営業表示である「和田八」と類似しており、混同のおそれがあると判断しました。
 そして、以下補足説明を加えました。
 「被告は、原告の営業表示の「和田八」は、営業主体の和田氏の「和田」に、末広がりで縁起が良いとされる漢数字の「八」を付加したものにすぎず、むしろ、「物産」という営業内容を付加することにより,識別力を有しているというべきであると主張する」が、「「和田」という文字と「八」という文字が結びつく必然性はなく,上記各文字が一体となった「和田八」に識別力を認めるべきで」、「「和田八」をもって要部であると認めるのが相当」で、そうすると、「「物産」が付加することのみによって,その類似性を否定することはできない」。


(2)自己の氏名の使用について
 ①判断基準

 「不正競争防止法11条1項2号は、同法2条1項1号の不正競争に関し,「自己の氏名」を不正の目的でなく使用する場合を適用除外としているが,この趣旨は人が自己の氏名を使用することには人格権的な側面があることに配慮したものであるから,「自己の氏名」とは自然人の氏名をいい,法人の商号は含まれない」。

 ②本件に関する判断

 裁判所は、被告に適用はないと判断しました。


(3)先使用の抗弁について
 ①判断基準

 「不正競争防止法11条1項3号は,同法2条1項1号の不正競争に関し,「他人の商品等表示が需要者の間に広く認識される前からその商品等表示と同一若しくは類似の商品等表示を使用する者」について,差止請求等の規定の適用除外を定めている」。

 同号「が先使用を適用除外としたのは、特定の商品等表示が周知性を獲得する以前からそれと同一又は類似の商品等表示を使用している者に対し、その後に他人の商品等表示が周知になったからといってその表示の使用を禁止したのでは、法的安定性を欠き、先使用者との公平を害する」からで「この趣旨に照らせば、長期にわたり、自己の営業表示又は商品表示を使用しなかったにもかかわらず、周知表示の存在を知りながら、これと類似する自己の表示を使用することは、同号の「不正の目的」を有する」。

 ②本件に関する判断

 裁判所は「「和田八」の表示が原告らの営業表示として周知性を獲得するに至ったのが,早くても昭和50年代後半であると認められ」、「被告の設立は昭和48年であるから,被告は「和田八」の表示が周知性を獲得する前に自己の商号を使用していた」が、「問題となる表示が自己の商号である場合、営業を再開するに際し、自己の商号を変更しなかったからといって、直ちに、「不正の目的」があるといえるかについては疑問の余地もあるが、少なくとも、商号を商品表示、営業表示として使用する場合において、その商品を製造、販売することによって営業を開始したのが、他人の表示が周知性を獲得した後であり、他人の表示との類似性を認識した上、これを上記の商品表示、営業表示として使用した場合には,不正の目的を有すると評価されてもやむを得ない」。「そうすると,被告が,17年間もの長期の休業の後,被告の当初の事業目的にはなく,原告の事業と競合する内容の事業を始めるに当たり,被告商号を,その事業に係る商品表示,営業表示として使用することは許されず,不正競争防止法11条1項3号の適用はない」。


(4)使用許諾について
 裁判所は、「原告は,平成3年9月以降,被告が被告商号を使用して原告と同種の営業活動を行うことを承諾したが、この承諾は、被告が,原告商品の販売を行うなど、原告らのグループの一員である関係にあることが前提であり、原告が上記のグループ関係から離脱することを解除条件とするものであり、平成9年12月ころ、原告と被告との取引が途絶したことにより,上記条件が成就し,上記使用許諾は失効したと考える」とし、第一審判断を支持しました。以下の補足説明を加えました。
 ア「被告は、原告らとともに,株式会社和田八から暖簾分けがなされて設立され、仮に、そうでないとしても、平成5年2月ころ、原告から暖簾分けがなされたから、被告商号の使用について、原告の許諾を得る必要はなく、仮に、原告の許諾がなされたとしても,条件が付されることはあり得ないと主張する」。
 イ「しかし、被告は、昭和48年8月、当時、株式会社和田八の代表者であったDが中心となって設立されたものの、株式会社和田八自体は、被告の設立には関与しておらず、当初の営業の内容も株式会社和田八のものとは全く異な」り、「したがって、単に、被告が「和田八」を含む「和田八物産株式会社」を商号として設立されたというだけで、株式会社和田八から暖簾分けがなされたと認めることはできない」。
 ウ「被告は、現在の被告代表者が代表取締役に就任した平成3年9月以降,原告が製造した蒲鉾等の販売を行っていたが,タイのカンタン・コールド・ストレージ社や日本の大手水産会社から原料すり身を輸入し,これを原告に販売するようになり,その後,タイのトラン・シーフード社との間で生産委託契約を締結し,平成6年3月ころから,原料すり身や調理すり身のほかに,一部完成品をタイで製造し,これを輸入し,日本国内において販売していたこと,当時の原告代表者であったDは,上記の事実を承認していたことが認められる」。
 しかし「被告がタイで委託製造した完成品を日本国内で販売していた量の被告営業において占める割合は明確ではなく、その取扱量が被告の営業の中で目立つほどのものであったことを窺わせるような事情は存しない」。「そうすると,当時の原告代表者であるDが、タイにおける被告の上記行為を承認していたとしても、従前どおり、原告商品を仕入れ、これを被告独自のルートで販売していたことが、被告の営業の中心となっている以上,原告としては,被告の一部競業行為を認識しながらも,被告商号の使用許諾を維持していたとしても不合理とはいえないが,上記の原告商品の継続的商品供給契約が解除され,被告において,原告商品の販売と全く関係なく,原告との競業行為を行うに際し,被告の営業に「和田八」の表示が使用されることまでを許諾していたとは考えられずそのような状況に立ち至った場合に,被告商号の使用許諾が解除されることは当然というべきである」。
 「なお、Dは、平成7年6月に保有していた被告の株式を,現在の被告代表者に譲渡したことが認められるが」、「そのことによって、Dが被告の経営を完全に被告代表者に委ねたことが認められ」ても、「直ちに、原告や株式会社和田八において、被告に対し,被告が被告商号を使用して,原告と同種の営業を行うことを無条件に許容したとは限らない」。
 エ「被告は,Dは原告らのグループにおける中心人物であり,同人が被告の上記ウの行為を承認していたことからも,被告への暖簾分けがなされたことがいえると主張するが,必ずしも,Dが原告らのグループの中心人物であったとはいえない」。「Dは,株式会社和田八の創業者であるCの長男であり、株式会社和田八の代表取締役に就任したこと、原告の設立にあたっては、発起人となり、個人では筆頭株主であった」が,「昭和51年11月4日,株式会社和田八の代表取締役を辞任し,その直後設立された原告の役員には就任することはなかった。そして,昭和59年10月30日に原告の代表取締役に追加されたものの,原告らのグループにおける中心的存在であった株式会社和田八の取締役には平成8年7月30日まで就任せず,同社の代表権を有することはなかった。以上の状況に照らすと,平成5年2月当時,Dに,原告グループからの被告への暖簾分けを許諾するだけの権限があったといえるかどうか,疑問の余地がある」
 オ「以上によると,結局,原告の被告に対する被告商号の使用についての許諾に解除条件が存した旨の上記認定を左右するには足りない」。

 

(5)権利濫用について
 裁判所は、「被告は,原告が,被告に対して被告商号の使用を許諾してきたにもかかわらず,その使用差止めを求めることは権利の濫用であると主張する」のに対し、裁判所は「上記許諾は,解除条件が付されたものであり,その条件は,被告が原告らのグループから離脱した場合に使用許諾を解除するというものであり,条件自体に不合理な点はない」としました

 すなわち「被告が被告商号を使用して実質的な営業活動を再開したのは,「和田八」の表示が原告らの営業表示として周知性を獲得した後であり,それにもかかわらず被告商号の使用の中止を原告が求めなかったのは,被告が原告商品の販売を行っていたからで」、「にもかかわらず,被告が,原告商品の継続的商品供給契約が解除され,原告商品を販売することがなくなった上,原告の営業と競業する営業を開始した以上,前記解除条件の成就により,原告が,被告に対し,原告表示の周知地域内で被告商号の使用の差止めを求めたとしても,これを権利の濫用ということはできない」。また「被告が原告らのグループから離脱するに至った経緯をみても,原告が原告商品の卸売価格を一方的に値上げしてきた面があることは否定し得ないものの,原告としては採算上,他の取引先に対する価格に合わせるという面もあったこと(Dの生前は,同人の援助により,特に有利な取り扱いがなされていたが,同人の死後,特別な取扱いが廃止されたともいえる。),そもそもDの死亡によって原告及び株式会社和田八と被告との間の関係が疎遠になり,相互の信頼関係が希薄になっていたことが背景にあることからすれば,本件における原告による値上げとそれに続く解除が,被告商号の使用差止めの権利濫用を基礎づけるほど不当なものであるとはいえ」ない。


(6)被告商号の独立性について
 「被告は,設立当初から被告商号が現在の商号と同一であること,その時点では,未だ原告表示が周知性を獲得していなかったことを理由として,被告が被告商号を使用するに当たり,原告(当時は,株式会社和田八の製造部門であった。)から承諾を得る必要はないと主張する」が、裁判所は「確かに,その時点において,被告が原告の承諾を得る必要がなかったといえても,その後,原告が株式会社和田八から独立し,原告表示が周知性を獲得し,一方,被告は長期間にわたる休業の後,原告表示と類似し,混同のおそれのある被告商号を使用して営業を再開する場合は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する」と判断しました。そして「自己の氏名の使用や,先使用の抗弁が認められない以上,本来,被告が被告商号を使用することは許されず,原告から,被告商号の使用の差止めを求められることはやむを得ない」と判断しました。

 

■結論

 裁判所は、「不正競争防止法に基づき被告商号の使用の差止めを求める請求については,原判決を本判決主文第1項のとおり変更し,その余の請求については,控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する」としました。

 第1項とは「(1)控訴人は,大阪府,京都府,兵庫県,奈良県,滋賀県及び和歌山県において,「和田八物産株式会社」の商号中,「和田八」部分の表示を,控訴人の食料品,その包装又は控訴人の食料品を陳列している箱,看板及び暖簾に付する方法によって,あるいは控訴人の食料品に関する広告,定価表又は取引書類に付して展示し又は頒布する方法によって使用してはならない」という判決と、(2)原判決主文第一項にかかるその余の請求を棄却する旨の判決です。

 

■BLM感想等

 これまで見てきた血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例では、もともと創業者から受け継ぎ、形成されてきた主体から「離脱する」者と当該主体との関係で、紛争が起こる場合が多いと考えていたところ、本件では、まさに「離脱」という言葉を使っているため、この点、本ブログ筆者が考えていた点と合致するように思いました。

 すなわち、本件の裁判所は「原告は,平成3年9月以降,被告が被告商号を使用して原告と同種の営業活動を行うことを承諾したが、この承諾は、被告が,原告商品の販売を行うなど、原告らのグループの一員である関係にあることが前提であり、原告が上記のグループ関係から離脱することを解除条件とするものであり、平成9年12月ころ、原告と被告との取引が途絶したことにより,上記条件が成就し,上記使用許諾は失効したと考える」としており、かかる判断は汎用的に使えるのではないかと思います。

 本件は、これまで見てきた血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例とは、やや趣をことにしており、上記のように離脱した者が独自に周知性への貢献を果たしていることが認められない事例であり、判断は極めてシンプルになされているように思います。問題は、一審被告(控訴人)が、被告会社を設立したのが早い時期だったという点であり、長期間にわたる休業があった点です。この点、丸美屋食品工業事件のように、原・被告両社とも不正競争の目的が認められず又は周知性に貢献しているにも関わらず、戦災という自己の責任にないものによって営業を中断せざるを得ない場合でさえ、その表示に基づき差止請求が認められないところ、本件のような場合はなおさら、そのような休業期間を考慮すべきと考えます。

 

By BLM

 

 

 

 

 

 

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