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読んだらすぐに忘れる

とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。


作家で脚本家のアンソニー・ホロヴィッツが再びダニエル・ホーソーンとともに殺人事件の謎解きに挑む。



リチャード・プライスという著名な離婚専門弁護士が日曜の夜、自宅で何者かに殺害される。凶器は高級ワインのボトルで、頭をかち割られた後に、割れた瓶の破片で二度突き刺される。単純な殺人事件のように見えるのだが、血とワインにむせ返る現場の白い壁には、事件当時内装用に置かれていた緑のペンキで、犯人が書いたと思しき「182」という謎の数字が残されていた。わざわざメッセージを残した意図は何なのか? 不可解で、謎めいた殺人事件にはホーソーンが投入される。そして、彼の本を書くことを出版社と契約してしまったホロヴィッツさんもいやいや駆り出されることになる。



事件関係者や被害者の身辺を捜査しはじめると、殺害動機となりそうな人間ドラマが次々と浮上してくる。過去や現在にまつわる金銭、名誉、痴情、怨恨から誰も彼もが怪しく見えてくるのだが、作者は巧みに事件解決の手がかりを置いていく。一件無関係に見えるようなシーンや古典ミステリに対する愛着にも事件解決へのヒントが隠されている。ちょっとした言動や物証から隠された心の機微を解いていく作者の手腕は、本作でも十分に発揮されている。

例えば、軋轢事故で死ぬ男性が買った低俗エンタメ本からホーソーンが男の心情を読み解く場面などは感心する。犯人の意外性も良かったが、個人的には補遺に付された手紙の身勝手で悪意のある内容が印象的だった。一方で家族の身を案じているのに、もう一方で自分の不幸を呪うあまり周りの人間まで引きずり込んでやろうとする悪意が強烈だ。その結果、書き手の想像を超えた最悪の形で事が成就される。この手紙を書いた人物こそ事件の「真犯人」と言えるではないか。某有名古典ミステリにも通じる見事な設定だと思う。



今回もホロヴィッツさんは踏んだり蹴ったりな目にあう。ホーソーンを忌み嫌う威圧的な女性警部に内緒で情報をよこせと嫌がらせを受け苦しめられるし、自信ありの謎解きは大ハズレの上にホーソーンに利用され自尊心を傷つけられるし、最後には事件解決の場で前作同様に死にそうな目に合う。それでもホロヴィッツさんは、ホーソーンと一緒に行動せずにはいられない。ホロヴィッツさんも読者も殺人事件の謎と同じようにダニエル・ホーソーンという謎の男に魅了されてしまう。果たしてシリーズが進むうちに解明されるのか? 次回作への期待も膨らむ。



謎解きに力を入れていたイギリスミステリ作家たちが次々と物故していく中でホロヴィッツさんには伝統芸能の担い手として、これからも頑張って欲しいところ。でもこの人も六〇代後半なんだな。若く見えるけど。



今年もまたアンソニー・ホロヴィッツの翻訳シーズンに入りました。たまには喫茶店でケーキとコーヒーを食べながら、謎解きミステリをじっくり読みたいものです。本書はミステリ作家ホロヴィッツがワトソン役を務めるダニエル・ホーソーン・シリーズの一作目。



自らの葬儀の手配するのはさほど不自然なことではない。しかし、その手配の数時間後に本人が殺されたとしたら?
テレビドラマの脚本家で、YA向けスリラーシリーズを手掛けるアンソニー・ホロヴィッツはシャーロック・ホームズ物の新作『絹の家』を書き終え、一段落したところで、テレビドラマの現場で知り合った元刑事で今は難事件のコンサルをしているダニエル・ホーソーンから、自分がこれから捜査する資産家老婦人殺害事件の小説を書かないかと持ちかけられる。
独善的で遠慮のないホーソーンに苦手意識のあるホロヴィッツさん。しかし、まるで自分の死期を知っていたかのような行動をとった老婦人の謎が気になり、また作家としてのキャリアをもう一段上げるために彼の提案にのる。しかし執筆作業は難航。ホーソーンと反りの合わずイライラし、スピルバーグ、ピーター・ジャクソンとの仕事に穴を空けられた上に、終盤では命の危機にさらされる。


老婦人は、死ぬ前に不眠になるほど、いろいろな悩みがあった。大金を投資した演劇が大コケしたこと、かつて交通事故の因縁におびえ、可愛い飼い猫がいなくなったり、愛する息子のアメリカでの乱行の噂にこころ痛めていた。
そんな老婦人の葬式が始まり、柩が地中に埋められようとしたとき、不気味なイタズラが発動。やがて、血生臭い第二の殺人事件が起きる。


犯人当てにもいろいろある。
エラリー・クイーンのような消去法パズルもあれば、クリスティのような人間ドラマが織り成す因果の知恵の輪もある。ホロヴィッツの場合、後者になる。


『カササギ殺人事件』もそうだったが本書もちょっとした手がかりから隠されていた人間ドラマが明らかになり、犯人があぶり出される。ミステリをよく読む人なら犯人がだれなのか、第二の殺人が起きたあたりで薄々見当がつきはじめるだろう。
その人が犯人であることをほのめかす写真も終盤でようやくでてくるので後だしじゃんけんな感じはする。シェイクスピアの引用や演劇に関する他愛ない会話は、手がかりとしてはパンチが弱い。
動かぬ証拠がないのが残念ではあるが、犯人が明らかになったあとのサスペンスの加速と嫉妬に狂う犯人の不気味さは見事。


ホーソーンという頭は切れるが、組織に馴染めない一匹狼のキャラクターは、ありがちな設定だ。意外と引き出しを沢山持っていることを小出しにしながら、シリーズをすすめていくうちに独自のキャラクター像を膨らませていくのだろう。現在は五作目まででている。原タイトルがword、sentence、line、twistと来ているから将来的にはparagraph、chapter、plot等と進み最後にはbookかnovelになるのかなと思ったが、新作は
Close to Deathなので、タイトルに統一感がなくなりつつある。




過去と現在を魅力的な謎と予想外のドラマで結ぶミシェル・ビュッシ。上巻下巻合わせて700ページ近くの大作だ。『恐るべき太陽』といい、本書といい、夏✕リゾート✕少女の公式は強い。




地中海に浮かぶフランスだがフランスではないリゾート地、コルシカ島を舞台にした半世紀にわたる物語。
1989年8月、コルシカ島。父親の実家に家族4人で訪れたクロチルドは、兄や同世代の男女の一夏の恋模様を横目で見ながら、年上の漁師に恋心を抱く。しかし、楽しいバカンスはある日一転する。一家の乗った車が崖から転落し、運転していた父と、母、兄が亡くなってしまう。九死に一生を得たクロチルドは、母方の祖父母にひきとられ以降コルシカ島に行くことはなかった。
悲劇から27年後の2016年8月。弁護士となったクロチルドは夫、娘と伴に久しぶりにコルシカ島にバカンスで訪れる。そこへ一通の手紙が届く。それは死んだ母の筆跡で、母と自分以外知るはずのない事柄が書かれていた。長年封印してきた謎に向き合うべく、27年前の転落事故や当時のことを知る人を訪ね、調べ始めたクロチルド。やがて彼女の身辺で不可解なことが相次いで起きはじめる。



物語は大人になったクロチルドの視点、子供時代のクロチルドの日記、そしてそのクロチルドの昔の日記を読む謎の第三者の視点が交互に変わりながら進行する。隠されていた家族のスキャンダルや関係者の様々な感情が露わになる展開は、読み応えあり、ページを繰る手がもどかしくなる。


ミステリとしても相変わらず達者。
死んだ母親は生きているのか? 転落事故は本当にただの事故だったのか? 魅力的な謎を軸に、謎の人物の魔の手が迫るサスペンスや巧みな筆致による誤導も冴えている。特にある人物を容疑の圏外に押しやる手際の良さには感服した。同時にそのトリックを仕掛けた人物の気持ちを考えるとやるせない。(それにしても何でクロチルドは電話番号知ってたのかね)


閉鎖的な島で起きた悲劇的な過ちと事件の苦い真相が明らかになってもドラマは続く。ラストは更に27年後の2043年の姿が描かれる。時は死をもたらす無慈悲な殺人者かもしれないが、実りや成熟ももたらしてくれる。祖父カサニュが語った「絶対の富」を晩年のクロチルドが手にしているように思え、後味は清々しい。大満足。

ちなみに、個人的に多いツボだったのはティム・バートンの初期作品『ビートルジュース』『グラン・ブルー』の話題があがっていたこと。超懐かしい。特に前者は西川のりおの吹き替え版をレンタルビデオで見まくったな。また見たくなった。


本書はミシェル・ビュッシが2020年に出版した長編。アガサ・クリスティ作品のオマージュになっている。



画家ポール・ゴーギャンや歌手ジャック・ブレルが愛した南太平洋仏領ポリネシアの観光地、ヒバオア島。

人口2000人程度のこの小さな島で人気ベストセラー作家ピエール=イヴ・フランソワが指導する創作ワークショップが開催される。

約3万2000人の応募から運良く選ばれた五人の作家志望の女性とその家族は、謎めいた精霊の石像ティキたちが見守るペンション〈恐るべき太陽〉荘に集まる。

作家から小説の課題が出され、各人が取り組むなか、当の作家が姿を消し、参加者の一人が殺される。

島には捜査機関がないため、警察の到着まで何人かは素人探偵よろしく活発に動きまわり、ワークショップの裏に隠された思惑や島民たちの秘密のドラマを暴いていく。

そして、犯人も負けじと活発に動き、参加者たちを殺していく。

果たして、生き残るのは誰か? そして、犯人は誰なのか?



物語は探偵役というべき二人の人物の日記や視点、事件を自分の視点から描く作家の卵の原稿が入れ子になりながら進む。

毎回「叙述」に工夫を凝らしているビュッシだが本書でも巧みな仕掛けが施されている。処々で小さな違和感を覚え、気持ち悪いなと思いながら読んでいたが、最後にちゃんと理由が明かされる。読み返してみると「あー、そういうことか」と巧みな伏線の数々に膝を打つ。

作家の卵は、読者を騙すつもりはないと書かいているが、確かにその通りなのだ。少なくとも原稿が書かれた時点では、作家の卵は一ミリも読者を騙すつもりがない。ところが、読者はいつの間にか罠にはまってしまう。

ただ、人が殺されているのに悠長に原稿書くなんてちょっと余裕こきすぎな気がする。クローズドサークルのサスペンスを期待して読むと肩透かしをくらうかもしれない。



テクニック面もさることながら、見事なノワールサスペンスになっているところもいい。開放的なポリネシアのイケナイ太陽に当たり過ぎると人間は、歯止めが利かなくなってしまうようだ。剥き出しの性欲、才能への嫉妬、一線を越えるなし崩しの狂気が陰惨な連続殺人を生み出してしまう。ラストの犯人の告白は背筋が寒くなると同時に憐れになる。

しかし、ビュッシは湿っぽいだけの終わり方はしない。死んだ者にも、生き残った者にもハッピーな結末を用意している。


インディアナポリスに事務所を構える私立探偵アルバート・サムスンが暇を持て余していたところ、突然事務所を訪れた少女から生物学上の父親捜しを依頼される。資産家の一人娘エロイーズ・クリスタルは、学校の授業で自分の血液型がA型であることを知り、O型の母親とB型の父親との間には生まれてこないことに気づき愕然とすると同時に、両親の仲が世間一般とは違う不穏な関係になっているのは自分に原因あるのではないかと不安になっていた。サムスンはそんな悩める少女の為に一肌脱ぎ、父親捜しをすることになるのだが、それは醜悪な過去を暴き、サムソンの身にも危険が迫る事件に発展する。


主人公に好感を抱かせることが作家にとって大切なミッションだ。その点、リューインは一作目から成功している。バツイチ、子持ち(母親の方についていった)で、うだつはちょっと上がらないが優しく、誠実で、芯があり、非凡なひらめきで事件を推理するオジサン、アルバート・サムスンという存在は、読んでいてほとんどの読者が好感を覚えるのではないかと思う。いわゆる「ネオ・ハードボイルド」の特異だらけの探偵たちのなかで際立って「平凡」なのでかえって異彩をはなっているといった評が昔あったようだが、私の感覚からするとサムスンは「平凡」というより「好感が持てる人」というのが正解なような気がする。まあ、好きで読んでいるシリーズ物の探偵役は「好感が持てる人」だからこそ読み続けているのだが・・・。


『A型の女』は謎解きミステリとしてもよくできており、サムスンが最初の命題であるエロイーズの「生物学上の父」を探すことが誤りだと気づき、正しい問いをした瞬間に、クリスタル家の謎が氷解する。隠されていた歪んだ過去が掘り起こされ、ラストに向かって畳みかけるような展開が見事だ。


こういうミステリを読むと心が痛くなる。学生の頃に読むのと中年になったときに読むのとでは感じ方が異なる。医学がどれだけ進歩しても、子供を授かるかどうかは運次第。父親の遺言が呪いとなって子供を産まなくてはと思いつめる女性の心情を思うとつらい。遺産相続の為にどうしても子供が必要だった夫婦は、秘密の手段を講じることになるのだが、それが不妊に苦しみ心に大きな穴があいてしまった女を狂気に駆り立てることになる。リューインは、ロスマクの小説を読んで『A型の女』の構想を思いついたそうだが、この悲劇的な展開はなるほど、ロスマクっぽい。


文庫版『内なる敵』の解説では、そのロス・マクドナルド、マーガレット・ミラー夫妻とリューイン夫妻の交遊の一端が記されている。


直木賞受賞の話題作。

本書はインタビュー調の連作短編形式になっている。著者は、フリーランス時代にビジネス雑誌で老舗企業からベンチャー企業まで多くの経営者へのインタビュー取材する仕事をされたようで、本書でその経験が活かされているそうだ。

芸人のリズミカルな語り、武士の生真面目な語り、女形のくだけた語りなど、書き分けが巧みで惹き込まれる。人情味溢れ、ミステリ的仕掛けもある時代小説の逸品だった。



江戸・木挽町。睦月の戌の刻、雪の積もった芝居小屋、森田座の裏である仇討事件が起きる。

振袖を身にまとい唐傘を差した若い娘に、手下を連れた大柄で屈強な博徒がちょっかいを出そうとする。ところが娘が振袖を脱ぎ捨てると現れたのは白装束の小柄な若衆。堂々と伊納菊之助と名乗り、父の仇と刀を振り上げる。傍からは博徒に分があるように見えた。ところが、鮮やかな身のこなしと太刀さばきで、若武者は本懐をとげる。

真っ白な雪と装束は血飛沫に染まり、若武者は仇の首級を抱えて夜の闇に消えていく。

仇討ちが芝居小屋の近くであったことから目撃者が多く、忽ちこのジャイアントキリングな仇討ちの話は江戸中に広まる。

二年後、仇討ちの記憶も薄れた頃に、森田座に若い武士がやって来て、仇討ちの目撃者を訪れて事件の話を聞かせて欲しいという。

吉原に生まれた元幇間の木戸芸者、武士の子でありながら芝居の世界に入った立師、衣装係を兼任する年増の女形、子供を亡くした木彫り職人夫婦、恵まれた境遇を捨て、筋書になった旗本の次男坊......。彼らは、菊之助との関わりについて話しながら、ひょんなことから「芝居」に関わるようになった自分の人生も若い武士に語り聞かせる。



なぜタイトルが「あだ討ち」になっているのか? 森田座の人たちは何を隠しているのか? なぜ聞き手は、目撃者の生い立ちを尋ねるミッションを与えられたのか? すべての疑問がラストで明かされ胸がすく。



本書を読んでいて真っ先に思い浮かんだのはシェイクスピアの喜劇『お気に召すまま』。

不思議な魔力を秘めたアーデンの森がギスギスした骨肉争いを喜劇へ転換したように、浮世の疲れた人々の心を癒し、失意を慰める魔力のある木挽町の芝居小屋が、生い立ちも身分も違う者たちを同じ「徒」として結びつけ、血なまぐさい仇討ちを素敵なあだ討ちに転換する。


昨年、日本で『黒き荒野の果て』が話題になっていた時、海外では本書が主要な各ミステリ賞にノミネートされ、二年連続でマカヴィティ賞、アンソニー賞、バリー賞の三賞受賞で話題となった。古典的な復讐の物語に人種や性的マイノリティーへの差別や偏見など現代的なテーマを盛り込まれた犯罪小説だ。




ギャングのアイク・ランドルフは殺人罪の刑期を終え出所後、家族の為に堅気になる。黒人の前科持ちに対する世間の冷たい視線にも耐え、造園業者として地道に努力し、小さいながらも会社の経営者になった。しかし、一人息子と価値観の違いから疎遠になっていく。

ある日、警察から息子のアイゼイアがパートナーのデレクと一緒に殺害された事を告げられる。

アイクは息子の棺桶を埋める時、息子がゲイであることを受け入れ、和解しなかったことを悔いる。そして、彼の横には同じく息子を拒絶してきた事を悔いる酒浸りの白人がいた。

バディ・リーはゲイである息子デレクを理解できなかったが、貧乏でろくでなし揃いの家系の中から立派な料理研究家になった息子を誇りに思っていた。身体の不調から自分の命が長くないことを悟った彼は、警察の進まない捜査に業を煮やし、自分の命にかけて犯人を探す事を誓う。

そしてアイクも息子たちの墓が破壊されたことで、堪忍袋の緒が切れ、封印していた獣性を解き放つ。

愛する息子に対する悔恨、殺した連中に対する憤怒、かつて裏社会で生きてきた過去が、肌の色も立場も異なる二人の親父を結びつける。

そして、二人は自分の中にある価値観、世間の偏見、凶悪なバイカーギャング、悪辣卑劣なエスタブリッシュメントに立ち向かうことになる。




控えめに言っても最高。歴史に残る傑作だと思っている。

LGBTQを題材にしたミステリは今までもあったが、本書以上のものを知らない。主人公側にも犯人側にもLGBTQが切実に結びついており、真相に深く絡んでいる。

また、最初はいがみ合う白人と黒人の親父二人が、最高のバディとなっていく過程も面白い。

文章もいい。コスビーのようなゴツいおっさんからよくまあ、繊細で詩的な表現がでてくるなと感心する。(これも偏見だな、ごめんなさい)人生を水銀の川と例えたり、引き裂かれるような哀しみを頬を刻むカミソリの涙と表現したり、素晴らしい。

翻訳者の加賀山さんが『ミスティック・リバー』を訳した時のような感情の震えを感じたと書いているが、私の中でもコスビーはデニス・ルヘインと肩を並べる程、重要な存在になった。




もう一つ本作で印象的なのが、西部劇が取り入れられていること。本書はノワールより西部劇の文脈で見た方が良い気がする。

終盤、二人の華麗な「死の舞踏」は、間違いなく名作西部劇へのオマージュだ。『ワイルドバンチ』『ローンレンジャー』『明日に向って撃て!』など作中で言及されているので、コスビーが西部劇を意識しているのがわかる。

もしかしたら、有色人種やLGBTQの人を巡るアメリカの反応を開拓時代に見立てているのかなと思ったりする。

ストレートの白人でないなら、背後に気をつけるに越したことはない古いアメリカとゲイの「夫夫」が代理母出産で子供をつくり、育児している新しいアメリカが最前線でダイナミックにぶつかりありあう。





激しい戦闘の後、アイクが息子たちの墓碑に向かって、いい父親にはなれなかったが、いい祖父になることを一生懸命努力すると宣言するシーンは、泣けてくる。

かわいい孫たちの世代に禍根を残さない親父たちの決意と祈りが胸に来る。


扶桑社海外文庫編集部が「お待たせしました、お待たせし過ぎたかもしれません」と自社WEBサイトに広告を出したら、社内ガイドライン違反で削除されてしまったという本書。

書店員にジロジロ見られながら購入。


ミネソタ州のとある町、フォーリー・テラキューズは幸せな家庭生活を送っていた。しかし彼には小さな秘密があった。それはポルノサイトの動画でセンズリこくこと。愛情深い夫であり、幼い娘の素晴らしい父親もパソコンの前ではオナ猿と化してしまう。
ある日、家族の目を盗んでアクセスしたポルノ掲示板に大ニュースが。憧れのポルノスター主演の映画撮影がフォーリーの住む町の墓場で行われ、汁男優を募集していたのだ。
家族に知られたら終わりだが、あの女優にbukkakeる機会を逃す手はない! 勇んで参加したものの、フォーリーを待ち受けていたのは、楽しい撮影現場ではなくゾンビの襲撃だった。
60人近くいた汁男優仲間もあれよあれよと喰われ、ゾンビは町に溢れ大混乱に。辛くも生き残ったフォーンは愛する妻子の元へと帰りはじめる。しかし、帰り道は前途多難。町では形を潜めていたカニバリスト達が混乱に乗じてゾンビに混じって住人たちを喰い始めようとしていた。
果たして、フォーンは無事にマイホームに帰ることができるのか?


ほとばしる精液、飛び散る血飛沫、はじける狂気に、溢れ出す涙……。おバカとエログロがハチャメチャに押し寄せる、予想に違わぬゲテモノ。もう何も言えねぇ。良い子は絶対に読んではいけません。
ネクロ、カニバ、ギャングバング等おぞましいものがこれでもかと並ぶが、割とさらさらっと書いているので不快感はあまりない。


作者のジョー・ネッターは小説だけでなくホラー映画制作、俳優、脚本を手掛ける、頭のてっぺんから足の先までホラーにどっぷり浸かった人で、アメリカB級ホラー映画界では有名な方のようだ。邦訳刊行に際し、コメントまで寄せている。


「タイトルからも推察できるでしょうが、わたしは、本書がようやく故郷に帰ってきたという思いでいっぱいです」


ナイスですね。ノリの良い方のように見受けます。日本のアダルトビデオで始まった「ぶっかけ」が、世界のbukkakeになり、こんな異形で逆輸入されるとは……。


フォーンは九死に一生を得、家に帰ることができるのだが、最大の危機に直面する。死臭漂う終末な状況に至っても男女のすれ違いは命取り。男性の性欲と愛情の考え方と女性のそれはまったく違うものだということを認識していないと、どえらい目にあうのだ。ふざけた内容の割にはラストでしんみりさせられます。
テラキューズ家は最終的にこの危機を乗り越える訳だが、どう乗り越えたのか? 気になる人はレジへGO。人目が気になる人はKindleで読んじゃおう。

某書評サイトでSunday Times 100 Best Crime Novels and Thrillers since 1945の翻訳状況をリスト化したものを掲載していたが、サイトが閉鎖するのでこちらに残すことにした。

邦訳がないのは未訳。出版社又はレーベルは比較的なじみのあるものをいれている。最初に掲載した時からいくつか翻訳されているので、いつか全部訳されたらいいなと思う。


<戦後ミステリ100選>
Mercy by Jussi Adler-Olsen
『特捜部Q 檻の中の女』ユッシ・エーズラ・オールスン(ハヤカワ文庫)
The Man with the Golden Arm by Nelson Algren
『黄金の腕』ネルソン・オルグレン(ハヤカワ文庫)
Absolute Power by David Baldacci
『目撃』(『黙殺』)デイヴィッド・バルダッチ(徳間文庫)
The Deadly Percheron by John Franklin Bardin
『死を呼ぶペルシュロン』ジョン・フランクリン・バーディン(晶文社ミステリ)
Blacklands by Belinda Bauer
『ブラックランズ』ベリンダ・バウワー(小学館文庫)
Dodgers by Bill Beverly
『東の果て、夜へ』ビル・ビバリー(ハヤカワ文庫)
Dogstar Rising by Parker Bilal
未訳 パーカー・ビラル
The Asphalt Jungle by WR Burnett
『アスファルトジャングル』W・R・バーネット (雄鶏社)
August Heat by Andrea Camilleri
未訳 アンドレア・カミッレーリ
(ハルキ文庫で訳されたモンタルバーノ警部シリーズ)
Thus Was Adonis Murdered by Sarah Caudwell
『かくてアドニスは殺された』サラ・コードウェル(ハヤカワミステリ)
Frozen Moment by Camilla Ceder
未訳 カミラ・セダー
The Long Goodbye by Raymond Chandler
『ロング・グッドバイ』レイモンド・チャンドラー(ハヤカワ文庫)
Killing Floor by Lee Child
『キリング・フロアー』リー・チャイルド(講談社文庫)
Sparkling Cyanide by Agatha Christie
『忘られぬ死』アガサ・クリスティ(ハヤカワ文庫)
The Hunt for Red October by Tom Clancy
『レッドオクトバーを追え』トム・クランシー(文春文庫)
Blue Lightning by Ann Cleeves
『青雷の光る秋』アン・クリーブス(創元推理文庫)
About the Author by John Colapinto
『著者略歴』ジョン・コラピント(ハヤカワ文庫)
The Manchurian Candidate by Richard Condon
『影なき狙撃者』リチャード・コンドン(ハヤカワ文庫)
The Last Coyote by Michael Connelly
『ラスト・コヨーテ』マイクル・コナリー(扶桑社ミステリー)
The Andromeda Strain by Michael Crichton
『アンドロメダ病原体』マイケル・クライトン(ハヤカワ文庫)
The Moving Toyshop by Edmund Crispin
『消えた玩具屋』エドマンド・クリスピン(ハヤカワ文庫)
Kolymsky Heights by Lionel Davidson
『極北が呼ぶ』ライオネル・デヴィッドソン(文春文庫)
The Ipcress File by Len Deighton
『イプクレス・ファイル』レン・デイトン(ハヤカワ文庫)
Ratking by Michael Dibdin
『ラットキング』マイケル・ディブディン(新潮文庫)
The Pledge by Friedrich Durrenmatt
『約束』フリードリッヒ・デュレンマット(ハヤカワ文庫)
The Name of the Rose by Umberto Eco
『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ(東京創元社)
LA Confidential by James Ellroy
『LAコンフィデンシャル』ジェイムズ・エルロイ(文春文庫)
City of Veils by Zoe Ferraris
未訳 ゾーイ・フェラリス
Casino Royale by Ian Fleming
『カジノ・ロワイヤル』イアン・フレミング(創元推理文庫)
Gone Girl by Gillian Flynn
『ゴーン・ガール』ギリアン・フリン(小学館文庫)
The Day of the Jackal by Frederick Forsyth
『ジャッカルの日』フレデリック・フォーサイス(角川文庫)
The Cuckoo’s Calling by Robert Galbraith
『カッコウの呼び声』ロバート・ガルブレイス(講談社)
The Bellini Card by Jason Goodwin
未訳 ジェイソン・グッドウィン
(『イスタンブールの群狼』から始まるオスマン帝国 ヤシム・シリーズの一冊)
The Third Man by Graham Greene
『第三の男』グレアム・グリーン(ハヤカワ文庫)
A Time to Kill by John Grisham
『評決のとき』ジョン・グリシャム(新潮文庫)
Little Face by Sophie Hannah
未訳 ソフィー・ハナ
(ポアロの新作かいている人は別のシリーズも書いてるのね)
Death Notice by Zhou Haohui
『死亡通知書 暗黒者』周浩暉(ハヤカワミステリ)
With a Bare Bodkin by Cyril Hare
『ただひと突きの・・・』シリル・ヘアー(ハヤカワミステリ)
The Lost Man by Jane Harper
未訳 ジェイン・ハーパー
(『渇きと偽り』の作家の単発サスペンス)
Fatherland by Robert Harris
『ファーザーランド』ロバート・ハリス(文春文庫)
The Silence of the Lambs by Thomas Harris
『羊たちの沈黙』トマス・ハリス(新潮文庫)
The Girl on the Train by Paula Hawkins
『ガール・オン・ザ・トレイン』ポーラ・ホーキンズ(講談社文庫)
London Rules by Mick Herron
未訳 ミック・ヘロン
(窓際のスパイシリーズ)
Tourist Season by Carl Hiaasen
『殺意のシーズン』カール・ハイアセン(扶桑社ミステリー)
The Talented Mr Ripley by Patricia Highsmith
『太陽がいっぱい』パトリシア・ハイスミス(河出文庫)
Cotton Comes to Harlem by Chester Himes
『ロールスロイスに銀の銃』チェスター・ハイムズ
(墓掘りジョーンズと棺桶エド・シリーズ)
Ghostman by Roger Hobbs
『ゴーストマン 時限紙幣』ロジャー・ホッブズ(文春文庫)
Miss Smilla's Feeling for Snow by Peter Hoeg
『スミラの雪の感覚』ペーター・ホゥ(新潮社)
Magpie Murders by Anthony Horowitz
『カササギ殺人事件』アンソニー・ホロヴィッツ(創元推理文庫)
In a Lonely Place by Dorothy Hughes
『孤独な場所で』ドロシー・ヒューズ(ハヤカワミステリ)
No Way Out by Cara Hunter
未訳 カーラ・ハンター
(アダム・ファウリー警部補シリーズ、映像化予定)
Strange Shores by Arnaldur Indridason
未訳 アーナルデュル・インドリダソン
(エーレンデュル捜査官シリーズ)
Unnatural Causes by PD James
『不自然な死体』P・D・ジェイムズ(ハヤカワ文庫)
The Lady in the Car with Glasses and a Gun by Sebastien Japrisot
『新車の中の女』セバスチャン・ジャプリゾ(創元推理文庫)
The Darkness by Ragnar Jonasson
『闇という名の娘 THE DARKNESS』ラグナル・ヨナソン(小学館文庫)
March Violets by Phillip Kerr
『偽りの街』フィリップ・カー(新潮文庫)
Out by Natsuo Kirino
『OUT』桐野夏生(講談社文庫)
The Bottoms by Joe R Lansdale
『ボトムズ』ジョー・R・ランズデール(ハヤカワ文庫)
The Girl with the Dragon Tattoo by Stieg Larsson
『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥの女』スティーグ・ラーソン(ハヤカワ文庫)
The Spy Who Came in from the Cold by John le Carre
『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ(ハヤカワ文庫)
Alex by Pierre Lemaitre
『その女アレックス』ピエール・ルメートル(文春文庫)
Acqua Alta by Donna Leon
未訳 ドナ・レオン
(サントリーミステリー大賞の人?)
Get Shorty by Elmore Leonard
『ゲット・ショーティ』エルモア・レナード(角川文庫)
Jack’s Return Home by Ted Lewis
『ゲット・カーター』テッド・ルイス(扶桑社ミステリ―)
The Company by Robert Littell
『ザ・カンパニー CIA』ロバート・リテル(柏艪舎)
Black Water Rising by Attica Locke
『黒き水のうねり』アッティカ・ロック(ハヤカワ文庫)
The Bourne Identity by Robert Ludlum
『暗殺者』ロバート・ラドラム(新潮文庫)
The Zebra-Striped Hearse by Ross Macdonald
『縞模様の霊柩車』ロス・マクドナルド(ハヤカワ文庫)
Faceless Killers by Henning Mankell
『殺人者の顔』へニング・マンケル(創元推理文庫)
The Weight of Blood by Laura McHugh
未訳 ローラ・マクヒュー
Thirteen Hours by Deon Meyer
未訳 デオン・マイヤー
Beast in View by Margaret Millar
『狙った獣』マーガレット・ミラー(創元推理文庫)
Sanctum by Denise Mina
未訳 デニーズ・ミーナ
(ハヤカワミステリで一冊だけ訳されている)
The Frozen Dead by Bernard Minier
『氷結』ベルナール・ミニエ(ハーパーBOOKS)
Devil in a Blue Dress by Walter Mosley
『ブルー・ドレスの女』ウォルター・モズリイ(ハヤカワ文庫)
Smoke and Ashes by Abir Mukherjee
『阿片窟の死』アビール・ムケルジー(ハヤカワミステリ)
The Snowman by Jo Nesbo
『スノーマン』ジョー・ネスボ(集英社文庫)
Hardball by Sara Paretsky
『ミッドナイト・ララバイ』サラ・パレツキー(ハヤカワ文庫)
Metzger’s Dog by Thomas Perry
『メッツガーの犬』トマス・ペリー(文春文庫)
The Godfather by Mario Puzo
『ゴッドファーザー』マリオ・プーゾォ(ハヤカワ文庫)
Hide and Seek by Ian Rankin
『影と陰』イアン・ランキン(ハヤカワ文庫)
The Invisible Guardian by Dolores Redondo
『バサジャウンの影』ドロレス・トレンド(ハヤカワミステリ)
The Keys to the Street by Ruth Rendell
『街への鍵』ルース・レンデル(ハヤカワミステリ)
Heartstone by CJ Sansom
未訳 C・J・サンソム
(チューダー王朝弁護士シャードレイクシリーズ)
Last Seen in Massilia by Steven Saylor
未訳 スティーヴン・セイラー
Harry's Game by Gerald Seymour
『暗殺者のゲーム』 ジェラルド・シーモア(ハヤカワ文庫)
A Book of Scars by William Shaw
未訳 ウィリアム・ショー
The Silence of the Sea by Yrsa Sigurdardottir
未訳 イルサ・シグルザルドッティル
(『魔女遊戯』の女性弁護士トーラシリーズ。意外に多いなアイスランドの作家)
Maigret and the Headless Corpse by Georges Simenon
『メグレと首無し死体』ジョルジュ・シムノン(河出文庫)
Point Blank by Richard Stark
『悪党パーカー/人狩り』リチャード・スターク(ハヤカワ文庫)
The Secret History by Donna Tartt
『黙約』(『シークレットヒストリー』)ドナ・タート(新潮文庫、扶桑社ミステリー)
Bleeding Heart Square by Andrew Taylor
未訳 アンドリュー・テイラー 
The Franchise Affair by Josephine Tey
『フランチャイズ事件』ジョゼフィン・テイ(ハヤカワミステリ)
The Killer Inside Me by Jim Thompson
『おれの中の殺し屋』ジム・トンプソン(扶桑社ミステリー)
Presumed Innocent by Scott Turow
『推定無罪』スコット・トゥロー(文春文庫)
Ghost Riders of Ordebec by Fred Vargas
未訳 フレッド・ヴァルガス
(アダムスベルグ署長シリーズ)
A Fatal inversion by Barbara Vine
『運命の倒置法』バーバラ・ヴァイン(角川文庫)
The Collini Case by Ferdinand von Schirach
『コリーニ事件』フェルディナント・フォン・シーラッハ(創元推理文庫)
The Border by Don Winslow
『ザ・ボーダー』ドン・ウィンズロウ(ハーパーBOOKS)
Six Four by Hideo Yokoyama
『64』横山秀夫(文春文庫)

 

 

ハリー・ホーレ・シリーズは何冊か読んでいるが、ようやくしっくりと楽しめる作品を読めたかなと。

アルコール中毒の破滅型、女性にもてるが関係は長く続かない。かなり優秀な刑事だが、一匹狼故にまわりとぎくしゃくしてしまう。

よくある主人公のキャラクターを詰め込んでみましたとみせつけられている気がして好きになれなかった。

作者曰く『ザ・バット』とタイを舞台にしたニ作目は、ホーレは主人公というより異文化での事件を見つめるカメラのような存在で描いていたとの事。また『ザ・バット』は下書き段階で知り合いの編集者に送ったらそのまま出版されてしまったそう(それはそれで凄いが……)。

なるほど、主人公に魅力があまりなかったのも納得。

 

一方、『コマドリの賭け』『ネメシス』『悪魔の星』のいわゆる<オスロ三部作>では、ハリーを取り巻く人間関係が充実してきて「カメラ」だったハリー・ホーレを一人の「人間」として肉付けしていく。

『コマドリ』は読めていないが、『ネメシス』から読むと『ザ・バット』とは違った素面のハリーが断然いい感じだが、『悪魔の星』ではまたアル中に逆戻りし、しかも警察官を辞めさせられる寸前までいってしまう。その原因となるのが同僚だった女性刑事の死で、それに深く関与する悪徳警官トム・ヴォーレルとの対決が『悪魔の星』で決着する。

事件を解決できない悔恨と空しさから酒に溺れ、愛する恋人、仕事、彼を気にする数すくない理解者と疎遠隔絶されていくが、どん底の底でも優秀な刑事であることには変わりなく、奇妙な猟奇殺人の捜査をすることになる。

 

休暇シーズンに起きた女性射殺事件。深い酩酊状態でもはや職務復帰すら危ういホーレも人手不足のため、やむなく狩りだされる。単なる痴情のもつれと思われる事件、しかし遺体に残された星形にカットされた赤いダイヤモンドと切断された指は儀式めいた不穏な印象を残す。殺人事件の担当から外れ、退職前の数週間を今度は失踪者の捜索にあてるホーレ。しかし、この失踪した女性の切断された指と星形の赤いダイヤモンドの指輪が警察に届けられるや事件は連続殺人事件へと切り替えられる。

『ザ・バット』でシリアルキラーを追い詰めた実績を買われ捜査に合流するホーレは宿敵トム・ヴォーレルと協力することになる。

「悪魔の星」と言われる逆さの五芒星を現場に残し、五本指を順番に切り落とし、いつかおきに殺人を行い、五芒星の頂点にあたる土地で犯行を行うその規則性をいち早く見ぬくホーレは、次の犯行現場を予測。捜査班は犯人を追い詰めようとする。一方で、トム・ヴォーレルは自分を追い詰めようとし、今は刑事を辞めさせられようとしているライバル、ホーレに自分の裏ビジネスの仲間になるよう圧力をかける。

やがて容疑者がつかまり、ヴォーレルへの回答期限と退職の期限が近づくなか、ホーレは容疑者とともに逃亡するという意外な行動にでる。

 

実は、この本を読む前にジョー・ネスボの講演会に行ってきた。

多彩な顔を持つネスボが一番しっくりきた職業は小説家という「語り部」だったと答えていたのが、印象的だった。『悪魔の星』では、彼の語り部ぶりは冒頭から始まっている。卵の味のする漆喰の来歴は、トム・ヴォーレルの来歴に重なり、低きに流れる水の様とホーレがバー<水面下>で自堕落な生活をおくる様に重なる。一見意味のなさそうな描写や背景が実は事件の内容と符号するような書かれ方をしており、こういう書き方を得意としたP・D・ジェイムズを思い出し、自分の中で突然、ネスボが好みの作家に変化した次第。

 

 

以下、ネタばらし。

 

 

そして、この「重なり」をもっと大きくしたのが、事件の真相。実は前作『ネメシス』のプロットと『悪魔の星』のプロットはよく似ている。骨格は同じだが、肉付けを変えたらどう見えるか試してみたのではないかと思う。「プロの強盗犯」と「シリアルキラー」の連続する犯行の影にかくれた野郎の嫉妬を暴くために自身も追われの身になりながら一発逆転のために奮闘する。

犯人が結構ユニークな奴で、痴情の星の芸術家のお下劣もここまでくると笑えてくる。変態がシリアルキラーのまねごとをするとこうなってしまう訳です。

 

 

さて7作目の『スノーマン』が映画化されるとのことで、おそらく興味をもって買う人も出てくるだろうが、

シリーズとしては確実に順番に読んだ方がいい。

6作目での同僚のハルヴォルセンと頼れる上司メッレルの死という重大なエピソードが、ネタばらし要素満載で語られるし、恋人ラケルとよりが戻りそうだったのに、なにがどうしたのか、もう修復不可能みたいだし、おまけに『ザ・バット』の犯人をばらしている。

『スノーマン』では今度こそ純粋なシリアルキラーを相手にホーレチームが奮闘する。

映画化の際は、犯人探しが主眼になるのだろうが、シリーズ常連のラケルとオレグが重要な要素となるので、

紆余曲折を経て別れてはいるが、完全に別れられない二人の背景をどう描いてくれるのか、楽しみではあります。

これも実は痴情の星が産み落とした怪物の話だったりする。