秋は謎解きの季節 | 読んだらすぐに忘れる

読んだらすぐに忘れる

とりとめもない感想を備忘記録的に書いています。



今年もまたアンソニー・ホロヴィッツの翻訳シーズンに入りました。たまには喫茶店でケーキとコーヒーを食べながら、謎解きミステリをじっくり読みたいものです。本書はミステリ作家ホロヴィッツがワトソン役を務めるダニエル・ホーソーン・シリーズの一作目。



自らの葬儀の手配するのはさほど不自然なことではない。しかし、その手配の数時間後に本人が殺されたとしたら?
テレビドラマの脚本家で、YA向けスリラーシリーズを手掛けるアンソニー・ホロヴィッツはシャーロック・ホームズ物の新作『絹の家』を書き終え、一段落したところで、テレビドラマの現場で知り合った元刑事で今は難事件のコンサルをしているダニエル・ホーソーンから、自分がこれから捜査する資産家老婦人殺害事件の小説を書かないかと持ちかけられる。
独善的で遠慮のないホーソーンに苦手意識のあるホロヴィッツさん。しかし、まるで自分の死期を知っていたかのような行動をとった老婦人の謎が気になり、また作家としてのキャリアをもう一段上げるために彼の提案にのる。しかし執筆作業は難航。ホーソーンと反りの合わずイライラし、スピルバーグ、ピーター・ジャクソンとの仕事に穴を空けられた上に、終盤では命の危機にさらされる。


老婦人は、死ぬ前に不眠になるほど、いろいろな悩みがあった。大金を投資した演劇が大コケしたこと、かつて交通事故の因縁におびえ、可愛い飼い猫がいなくなったり、愛する息子のアメリカでの乱行の噂にこころ痛めていた。
そんな老婦人の葬式が始まり、柩が地中に埋められようとしたとき、不気味なイタズラが発動。やがて、血生臭い第二の殺人事件が起きる。


犯人当てにもいろいろある。
エラリー・クイーンのような消去法パズルもあれば、クリスティのような人間ドラマが織り成す因果の知恵の輪もある。ホロヴィッツの場合、後者になる。


『カササギ殺人事件』もそうだったが本書もちょっとした手がかりから隠されていた人間ドラマが明らかになり、犯人があぶり出される。ミステリをよく読む人なら犯人がだれなのか、第二の殺人が起きたあたりで薄々見当がつきはじめるだろう。
その人が犯人であることをほのめかす写真も終盤でようやくでてくるので後だしじゃんけんな感じはする。シェイクスピアの引用や演劇に関する他愛ない会話は、手がかりとしてはパンチが弱い。
動かぬ証拠がないのが残念ではあるが、犯人が明らかになったあとのサスペンスの加速と嫉妬に狂う犯人の不気味さは見事。


ホーソーンという頭は切れるが、組織に馴染めない一匹狼のキャラクターは、ありがちな設定だ。意外と引き出しを沢山持っていることを小出しにしながら、シリーズをすすめていくうちに独自のキャラクター像を膨らませていくのだろう。現在は五作目まででている。原タイトルがword、sentence、line、twistと来ているから将来的にはparagraph、chapter、plot等と進み最後にはbookかnovelになるのかなと思ったが、新作は
Close to Deathなので、タイトルに統一感がなくなりつつある。