【中野剛志】「TPP亡国論」の初歩的戦略ミス【日本包囲網?】 | 独立直観 BJ24649のブログ

独立直観 BJ24649のブログ

流行に浮かされずに独り立ち止まり、素朴に真っ直ぐに物事を観てみたい。
そういう想いのブログです。

 トランプ政権となり、アメリカがTPP交渉から離脱した。

 現在、TPPは日本が主導する格好だ。今回の閣僚会合では、わが国の茂木敏充経済再生担当大臣とベトナムのチャン・トゥアン・アイン商工相が共同議長を務めた。

 アメリカが主張していた項目は凍結される方針となり、凍結が明記された。

 

 

 

「TPP 高級事務レベル会合始まる」 NHKニュースウェブ2017年10月30日

https://goo.gl/iVgZYa

 

「TPP=環太平洋パートナーシップ協定の参加11か国による高級事務レベル会合が千葉県で始まり、日本政府の担当者は来月のAPEC=アジア太平洋経済協力会議に合わせた大筋合意に向けて最終段階に来ているとして、各国の歩み寄りを求めました。


TPP協定に参加する11か国の首席交渉官らによる高級事務レベル会合は、30日午後、1日までの3日間の日程で千葉県浦安市のホテルで始まりました。

首席交渉官らによる全体会合に先立って行われた作業チームの会合で、議長を務める日本政府の尾池首席交渉官代理は「議論も最終段階に来ている。柔軟性を持った建設的な議論をお願いしたい」と述べ、来月のAPEC=アジア太平洋経済協力会議にあわせた大筋合意に向けて各国の歩み寄りを求めました。

11か国は離脱したアメリカの主張に沿う形で盛り込まれた項目の一部を凍結させる方針で一致していますが、日本とともに議論を先導してきたニュージーランドの新政権が再交渉も辞さない構えを示すなどしています。

日本政府は再交渉になれば長期化が懸念されることから、議長国としてアメリカの将来的な復帰も視野に入れながら、凍結する項目の数を最小限に抑えるための絞り込み作業を主導し、大筋合意へ道筋をつけたい考えです。」

 

「TPP新協定を公表 米離脱で20項目の凍結など明記」 NHKニュースウェブ2017年11月11日

https://goo.gl/jxUT86

 

「TPP=環太平洋パートナーシップ協定の参加11か国が協定の発効で大筋合意したのを受けて、共同議長を務める茂木経済再生担当大臣らが記者会見して合意内容を発表しました。新たな協定には、アメリカの離脱を受けて20の項目の実施を先送りして「凍結」することや、6か国が国内手続きを終えると協定が発効することが明記されています。

TPP協定の参加11か国の閣僚会合で、離脱したアメリカを除いて協定を発効させることで大筋合意したのを受けて、共同議長を務める茂木経済再生担当大臣とベトナムのアイン商工相がベトナム中部のダナンで記者会見し、新たな協定を発表しました。

それによりますと、焦点となっていたアメリカの離脱を受けて実施を先送りする「凍結」項目は合わせて20で、医薬品の開発データの保護期間や著作権の保護期間など「知的財産」に関する項目が多く含まれています。

また、海外に進出した企業がその国の急な制度の変更などによって損害を受けた場合、国を相手取り国際的な仲裁機関に訴訟を起こすことができる「ISDS条項」と呼ばれる制度の一部なども凍結の対象となりました。日本政府の関係者は「こうした項目が凍結されることによる日本への影響は極めて限定的だ」と述べました。

11か国は、将来的にアメリカが復帰した際には、凍結を解除することで一致しており、協定には、アメリカの復帰が見込まれる場合やいずれかの締約国の要請がある場合などに、内容の見直しを行うことも明記されました。

また、協定の発効条件は参加国の半数以上に当たる6か国が国内手続きを終えることとしているほか、名称をTPPから「CPTPP」にするとしています。

共同記者会見で茂木大臣は、「極めて短期間で高い水準を維持したバランスの取れた内容になった。アメリカやほかのアジア・太平洋諸国、地域に対しても積極的なメッセージとなったのではないか」と述べ、意義を強調しました。

今回の閣僚会合では、いったん大筋合意が確認されたものの、その後カナダが異論を唱え、予定されていた首脳会合が開催できない事態となり、11か国が足並みをそろえて協定を発効に導けるのか不安も残す結果となりました。


共同議長「各国の利益保てる合意」


TPP=環太平洋パートナーシップ協定の参加11か国が協定の発効で大筋合意に達したことを受けて、共同議長として茂木経済再生担当大臣とともに会見に臨んだベトナムのアイン商工相は、「高い自由化の水準を維持しながら、各国の利益を保てる合意となった。自由貿易を促進し、地域における経済協力を高める内容だ」と述べ、大筋合意の内容を評価しました。

そのうえで、アイン商工相は「アメリカが離脱したときは、TPPの枠組みを維持することは難しいと考えられていた。まだ完全に合意できていない点も残っているが、難しい部分はもう終わり、確実に新しい協定の実現に近づいている」と述べました。


経団連会長「戦略的な意義大きい」


経団連のサカキ原会長は「アメリカが離脱を表明して以来、日本政府が発揮してきたリーダーシップのたまものであり、心から歓迎する。内向き志向の政策や保護主義的な動きが世界的に広まることが懸念される中で、アジア太平洋地域にまたがる包括的で高水準の貿易投資に関するルール作りが前進することの戦略的な意義は大きい」というコメントを出しました。
(※木へんに神) 


農相「農林漁業者に説明尽くす」


TPP=環太平洋パートナーシップ協定の参加11か国が協定の発効で大筋合意したことについて、齋藤農林水産大臣は、「農林漁業者などの懸念と不安を払拭(ふっしょく)するため、合意内容についての説明を尽くすとともに経営安定対策を講じていきたい。また、国際競争力を強化し、農林水産業を成長産業とするための体質強化策を確実に実施していく考えだ」というコメントを出しました。


専門家「輸出拡大や関係強化に効果」


シンガポールのシンクタンク、「RSIS」のフィデル・ビネレスシニアアナリストは、シンガポールやベトナムなどTPPに参加するASEAN=東南アジア諸国連合の国々への影響について、「アメリカ市場へのアクセスはないが、高いレベルでの自由貿易の枠組みで合意できたため、日本をはじめとする参加国への輸出拡大や関係強化に効果がある」と話しています。

また、TPPから離脱したアメリカについては「ASEANにおける政治的、経済的な影響力が低下するおそれがある。多国間の枠組み作りは、日本や、RCEP=東アジア地域包括的経済連携に参加する中国がリードしている状況だ。ASEANはアメリカ以外の市場に活路を見いだそうとするため、中国はRCEPを通じてさらなる影響力をもてるようになる」と分析しています。」

 

 

 

 中野剛志「TPP亡国論」は、保守系の人々を反TPPに向かわせた重大な要因だ。

 では、中野は本書で何と言っていたのか。

 「日本はTPP交渉でルール作りを主導できない」「TPPは日本包囲網」と言っていたのだ。

 しかし、現実はそうではなかった。

 なお、以下の引用部分の後に中野は「交渉はアメリカ主導で進む」とも言っていて、この点でもハズれているのだが、さすがにアメリカのTPP交渉離脱まで予想しろというのは酷なので、この点は不問とする。

 問題なのは、「主導できない」とする理由の部分だ。

 

 

 

中野剛志 「TPP亡国論」 (集英社、2011年) 42~48ページ

 

▼日本はTPP交渉でルール作りを主導できない

 内閣官房の資料は、「TPPがアジア太平洋の新たな地域経済統合の枠組みとして発展していく可能性」があり、「TPPの下での貿易投資に関する先進的ルールが、今後、同地域の実質的基本ルールになる可能性」があると指摘しています。

 しかし、その可能性はかなり低いと言わざるを得ません。なぜなら、すでに述べたように、中国と韓国がTPPには参加しそうにないからです。その上、もし日本が参加しなければ、日中韓が参加しない貿易協定となります。それでは、アジア太平洋の新たな地域経済統合としての枠組みには発展せず、同地域での実質的基本ルールにもなり得ないでしょう。

 内閣官房の資料は、「TPP交渉への参画を通じ、できるだけ我が国に有利なルールを作り」と指摘しています。確かに、ゲームに参加しなければ、ルール作りもさせてはもらえないでしょう。しかし、日本がTPPに参加して自国に有利になるようにルール作りを主導できる可能性は、ほとんどありません。それは、TPP交渉参加国の顔ぶれを見ればわかります。

 そもそも、国際ルールの策定の場では、利害や国内事情を共有する国と連携しなければ、交渉を有利に進められません。多数派工作は、外交戦略の初歩です。ところがTPP交渉参加国の中には、日本と同じような利害や国内事情を有する国はなく、連携できそうな相手がまったく見当たらないのです。

 まず、アメリカ以外の参加国は、日本とは違い、外需依存度が極めて高い「小国」ばかりです。しかも、次章で詳しく解説しますが、アメリカも輸出の拡大を望んでおり、これ以上、輸入を増やすつもりはありませんし、そうするための政策手段ももっています。つまり、TPP交渉参加国すべてが、今や輸出依存国なのです。

 また、特異な通商国家であるシンガポールを除くすべての国が、一次産品(鉱物資源や農産品)輸出国です。マレーシア、ベトナム、チリなど、低賃金の労働力を武器にできる発展途上国も少なくありません。

 こうした中で、日本だけが一次産品輸出国ではなく、工業製品輸出国です。また、国内市場の大きい先進国として、他の参加国から労働力や農産品の輸入を期待されています。しかし、日本は深刻なデフレ不況にあるため、低賃金の外国人労働者を受け入れるメリットはありません。そんなことをしたら、賃金がさらに下落し、デフレが悪化し、失業者は増えてしまいます。そして農業については国際競争力が脆弱であるのは言うまでもありません。日本の置かれている経済状況だけが、TPP交渉に参加している国々とは際だって異なるのです。それどころか、むしろ利害は相反すると言ってよいでしょう。

 さて、日本は、いったいどこの国々と連携して多数派を形成し、自国に有利なTPPのルール作りを誘導することができるというのでしょうか。できるわけがありません。

 しかも、TPPのルールは、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ブルネイによるP4がベースとなるものと考えられています。つまり、P4が今後のルール作りを制約するのであり、白地から策定されるわけではありません。そのようなハンディキャップを背負って、外需依存度の高い小国と一次産品輸出国を相手に、日本に有利なルールを作ろうというのは、あまりにも無謀というものです。

 

▼TPPは日本包囲網

 先ほど、TPPは、GDPのシェアで見ると実質的に日米FTAだと述べました。日本とアメリカ以外の国のGDPは、ごくわずかです。しかし、国際的なルール作りにおける一国の発言権は、経済力の大きさを必ずしも反映しません。ブルネイもチリもベトナムも、一国としての発言権を有しています。そして、TPPのルールが、自国の利益になるように働きかけます。これらの国々は、アメリカと声をそろえて農産品の市場の開放を求める一方で、自国の国内市場も開きはしますが、その市場規模は極めて小さいのです。

 TPP交渉参加国の実質的な輸出先は、アメリカと日本しかありません。そしてアメリカの輸出先は、ほぼ日本だけであり、日本の輸出先も、ほぼアメリカだけです。しかし、そのアメリカには、次章で見るように、輸入を増やす気は毛頭ないのです。

 このような関係からは、次のような状況が生まれ易くなると想像できます。まず、アメリカ以外の交渉参加国は、アメリカとの交渉が難航した場合、代わりに日本への輸出の拡大を目指すことになるでしょう。そしてアメリカの狙いも日本市場です。アメリカがごねれば、その時点で、全ての交渉参加国が日本市場をターゲットにするのです。

 ですから、私がアメリカなら、他の交渉参加国に対してさんざんごねた後で、こうもちかけるでしょう。「我々との交渉では譲歩してくれ。その代わりに、我々が日本市場をこじ開けるから、一緒にやらないか」。こうして、アメリカ主導の下、全交渉参加国が、日本に不利なルール作りを支持することになるのです。要するに、TPPのルール作りは、参加各国の経済構造から生まれた政治力学によって、アメリカ主導で進むように仕組まれているということなのです。

 TPPの交渉に参加したとたん、日本は、アメリカが主導する外需依存国・一次産品輸出国の連合軍に、完全に包囲されるでしょう。日本と同様に工業品輸出国である韓国は、それが分かっているからこそ、TPPではなく、アメリカとの二国間の交渉で勝負できる米韓FTAを選択しているのです。

 内閣官房の資料は、「逆にTPPに参加しなければ、日本抜きでアジア太平洋の実質的な貿易・投資のルール作りが進む可能性」などと書いて、危機感を煽っています。しかし、繰り返しますが日本だけではなく、中国も韓国も「抜き」なのです。

 逆に、中国と韓国がTPPに参加してから、その後で日本が参加した方が、日本に有利なルール作りが進む可能性がより高くなるというものです。中国は例によって、強力な外交力を発揮して、TPPに数々の例外措置を設けさせ、TPPのルールをよく言えば柔軟に、悪く言えば骨抜きにしてしまうでしょう。そうなれば、日本に有利なルール作りの余地が出てくるかもしれません。さらに韓国は、同じ工業製品輸出国として、日本と連携してくれる可能性がないとも限りません。

 いずれにせよ、日本だけで、アメリカを先頭にした多くの農産品輸出国を相手にするよりは、中国と韓国がいてくれた方が、形勢が少しはましになるでしょう。TPPに早期に参加しない方が、かえってルールが有利になる可能性が出てくるということです。」

 

 

 

 

 

 今になって見てみると、なんとも馬鹿馬鹿しい。

 当時、これが保守系の人たちの間で真正保守の正論としてまかり通り、TPPの恐怖が煽られていた。

 確かに、ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領となり、アメリカがTPP交渉から離脱するなど、当時は予測不可能だった。

 しかし、中野は、わが国がTPP交渉で負ける理由として、「多数派工作」ができないということを挙げている。

 そして、中野に従えば、アメリカ一国が離脱したところで、わが国が少数派であるということは変わらない。アメリカ以外の経済力は必ずしも大きくないが、中野自身、「国際的なルール作りにおける一国の発言権は、経済力の大きさを必ずしも反映しません。」と念入りに述べている。

 とすれば、アメリカ離脱後もわが国はTPP交渉参加国にフルボッコにされ、ルール作りを主導するどころか発言権すらないはずである。

 ところが、現実はそうなっていない

 2年前(アメリカ離脱前)にTPP交渉の大筋合意に達した時も、自民党の示した「重要5項目」は(わが国の利益になっているかどうかは別にして)守られた(https://goo.gl/uCvjLz)。

 アメリカ抜きの今回、わが国が交渉を主導した。交渉の進め方に強引なところがあったためか、カナダが難色を示し、一時は大筋合意が危ぶまれたが、最終的には大筋合意に到ることとなった。アメリカの主張していた項目は凍結された。

 つまり、こういうことではないか。

 中野は「多数派工作は、外交戦略の初歩です。」と言うが、彼自身が初歩で誤認を犯していると。経済産業省の官僚であるにもかかわらず。

 

 

 

「【TPP】 日本、強引な交渉が裏目に…首脳会合お流れに」 産経ニュース2017年11月10日

https://goo.gl/1BHiiL

 

「 TPP参加11カ国が10日、当初予定した首脳間の大筋合意を持ち越したことで、多国間交渉の難しさが改めて露呈した。12カ国による現協定の交渉長期化が米国の離脱に結びついた反省から、日本は実質半年の短期決戦で交渉をまとめたとみられたが、強引な交渉手法が裏目に出た可能性がある。
(後略)」

 

「経済再生相 TPP 11か国で協定発効 大筋合意を再確認」 NHKニュースウェブ2017年11月11日

https://goo.gl/eMzNeZ

 

TPP=環太平洋パートナーシップ協定の参加11か国は、日本時間の10日夜から閣僚会合を改めて開き、茂木経済再生担当大臣は、11か国で協定を発効させることで大筋合意したことを再確認したと説明しました。茂木大臣は、首脳会合の開催は日程の都合で見送られるとしたうえで、共同議長を務めるベトナムのアイン商工相とともに、11日記者会見して、合意内容を発表する考えを示しました。

TPP=環太平洋パートナーシップ協定の参加11か国は、日本時間の9日の夜からベトナム中部のダナンで開いた閣僚会合で、離脱したアメリカを除く形で協定を発効させることで大筋合意し、首脳会合を開いて合意を正式に確認することにしていました。

しかし、10日開かれる予定だった首脳会合の直前に行われた、安倍総理大臣とカナダのトルドー首相の会談で、トルドー首相が、首脳レベルで合意を確認できる段階にないという考えを示し、首脳会合は延期されました。

これを受けて、11か国は日本時間の10日夜から11日未明にかけて、改めて閣僚会合を開き、およそ5時間にわたって対応を協議しました。

会合の後、共同議長を務める茂木経済再生担当大臣は記者団に対し、「合意した内容に間違いがないことを再確認した。カナダもこの合意について『トップの了解を取っている』という話だった」と述べ、11か国で協定を発効させることで大筋合意したことを再確認したと説明しました。

そのうえで、茂木大臣は、首脳会合の開催は、首脳らの日程の都合上、困難だとして、見送られることを明らかにしたうえで、共同議長を務めるベトナムのアイン商工相とともに、11日記者会見して、合意内容や閣僚声明を発表する考えを示しました。

茂木大臣は、カナダ側の意図について、「大筋合意の段階では、最終局面で『支持する』と明確に述べており、事情はよく分からないが、今回は、細かい文章の表現まですべて含めてこれで間違いないと確認した」と述べました。」

 

 

 

 上記「TPP亡国論」引用部分にいろいろとツっこみどころはあるとは思うが、「中国も韓国も「抜き」」、とりわけ中国抜きの点を問題視している点に違和感をおぼえる人は多いのではないか。

 今となっては、TPPには、中国の「一帯一路」との勢力争いという構図を見て取ることができる。

 安倍総理大臣も、平成25(2013)年3月15日、TPP交渉参加表明時に、TPPがRCEPやFTAAPの「たたき台」になると述べており、アジア・太平洋地域の貿易協定の主導権争いを念頭に置いていることが窺える(https://goo.gl/9ht18B)。

 中野の言うとおりにTPPに参加しないとすると、TPPの規模が小さくなることもさることながら、アジア・太平洋地域の貿易協定作りにおいて日中韓FTAの比重が大きくなり、この方が中国を利するのではないか(ちなみに、三橋貴明ブログを「日中韓FTA」で検索すると、第二次安倍内閣発足以降、言及がない。https://goo.gl/ZrJ6Pb)。

 もっとも、中国はTPP参加への意欲を示したこともあり、TPPと中国との関係はわかりにくいところではある(今では中国がTPPに参加する気配は感じられないが)。ただし、中国がTPP参加へ前向きになったきっかけは、日本のTPP交渉参加にあったという点には留意する必要があろう(浜田宏一「アベノミクスとTPPが創る日本」(講談社、2013年)130~133ページ)。中野の言うように、「中国と韓国がTPPに参加してから、その後で日本が参加」するという流れではない。

 

 

 

高橋洋一 「日本の解き方 安倍政権vs習政権は第2幕突入 日本の国益にならない中国「一帯一路」、対抗のカギは自由貿易圏 」 zakzak2017年10月31日

https://goo.gl/y5ekJm

 

「 日本では、衆院選での与党勝利で、安倍晋三政権が継続されるが、中国では習近平政権の2期目が始動する。

 

 中国共産党は、最高規則「党規約」の改正や最高指導部メンバーなどの重要事項を決め、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を行動指針として明記することになった。「習近平思想」という簡潔な文言ではなかったものの、「習近平」という名前が入ったことで、「毛沢東」や「トウ小平」と並ぶ権威となった。

 中国は共産党の一党独裁で、共産党規約は憲法より上位の「最高規範」である。そこに個人思想を入れるとは驚きだ。そのうち、中国に進出している外国企業の定款に「習思想を取り入れろ」という指導があってもおかしくない。今の日本の憲法議論で、既に存在している自衛隊の法的位置付けを憲法に盛り込むことと全く次元の違う話であるとわかるだろう。

 しかも、習氏の次の指導者と目される人物は、今回の最高指導部メンバーからは見えてこない。つまり、習氏の独裁による共産党独裁が当面続くのだ。

 こうしたことまで平気でやる独裁国家の中国と、日本はどのように対峙(たいじ)すべきだろうか。

 政治的な独裁は、自由で分権を基調とする資本主義経済とは長期的には相いれないことは、ノーベル経済学賞学者であるミルトン・フリードマン氏が50年以上も前に喝破した。

 ここ10年のスパンで見れば、中国は経済成長している。もっとも、筆者の見立てでは、脱工業化に達する前に消費経済に移行して、1人あたりの所得が低いうちには高い成長率を維持できるものの、先進国の壁を越えられない、よく見られる開発経済の典型例になるとにらんでいる。それが正しければ、次の10年スパンで成長が行き詰まる可能性が高い。」

 

https://goo.gl/YhoJAX

 

「 もっとも、中国もこの点を認識しているようであり、国外に活路を見いだそうとしている。それが、アジアインフラ投資銀行(AIIB)をてことする「一帯一路」構想だ。中国の指導による経済圏を国外に広めようとするものだ。この経済圏は、先進国の自由貿易圏とは違ったルールに基づくもので、日本にとっては国益にならない。

 これに対抗するためには、自由貿易圏が必要になってくる。自由貿易圏の自由主義と、中国が指導する貿易圏の規制主義では、どちらの経済パフォーマンスがいいのか。自由主義には欠陥もあるが、それを補正すれば長期的には優れている。資本主義と社会主義の間の体制間競争で、欠陥はあるが長期的な経済パフォーマンスで資本主義が優れていたのと同じである。

 中国に対抗する日本の動きはすでに出てきている。安倍政権は、日米豪印の4カ国で戦略対話を行い、自由貿易を推進する予定だ。

 これまでの歴史を見ると、まず自由貿易圏を形成して、その後に安全保障の関係で、より緊密になっていくという流れだ。つまりこれは、新たな体制間競争の幕開けだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)」

 

遠藤誉 「TPPに「実需」戦略で対抗する中国 TPP vs China AIIBや一帯一路という「実需」、および二国間FTA等のカードが中国にはある」 ニューズウィーク日本版2015年10月8日

https://goo.gl/h5iNiW

 

「 TPP大筋合意に対して、中国はAIIBや一帯一路という「実需」および二国間の自由貿易協定FTA等で対抗しようとしている。「あれは部長級の合意に過ぎないと」と、TPPの最終的実現性にも疑問を呈している。

 

■ 中国は「TPPは対中国の経済包囲網」と認識している

 

「 中国はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を中国に対する経済包囲網だと位置づけ、早くからAIIB(アジアインフラ投資銀行)や一帯一路(21世紀の陸と海の新シルクロード経済ベルトと経済ロード)を用意して、日米などによる経済包囲網形成を阻止しようとした。

(後略)」

 

 

 

 「TPP亡国論」の韓国についての記述が、これまた妙だ。

 上で引用したとおり、中野は、韓国は「完全に包囲され」ないように米韓FTAを選択したと述べている。

 その前の部分で、中野は、TPPよりも米韓FTAの方が有利だから韓国は後者を選択したとし、仮に韓国がTPPに参加するならそれは「戦略ミス」だと述べている。

 

 

 

中野「TPP亡国論」35,36ページ

 

「(TPP参加について)韓国については、どうでしょう。韓国はアメリカとのFTAに合意しています。韓国は、複数国間による急進的な自由貿易協定であるTPPよりも、二国間で交渉するFTAの方が有利であると考えており、それゆえTPPではなく、米韓FTAを選択しているのです。ですから、韓国もTPPには参加しそうにないと考えてよいでしょう。もっとも、仮に韓国がTPPへの参加をきめたとしても、それは韓国が大きな戦略ミスをしたというにすぎず、日本が追従しなくてはならない理由にはなりませんが。」

 

 

 

 「TPP亡国論」が出版されたのは平成23(2011)年3月だが、同年10月、中野はこう述べる。

 

 

 

中野剛志「米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 「TPP亡国論」著者が最後の警告!」ダイヤモンド・オンライン2011年10月24日

https://goo.gl/XMNL1

 

「だが政府もTPP推進論者も、米韓FTAの具体的な内容について、一向に触れようとはしない。その理由は簡単で、米韓FTAは、韓国にとって極めて不利な結果に終わったからである。」

 

https://goo.gl/wX2Nmb

 

「これだけ自国の国益を米国に差し出したのだから、韓国大統領が米国に歓迎されるのも当然である。」

 

 

 

 米韓FTAの方が韓国に有利だったはずでは…。

 現在TPPを主導するわが国を見ると、TPP亡国論こそが「戦略ミス」だと思える。

 <追記>ちなみに、昨年、韓国はTPP参加に前向きな姿勢を示した(https://goo.gl/eRzLxu)。<追記ここまで>

 なお、「韓国にとって極めて不利な結果」というのもビミョーで、トランプ米大統領は韓国に有利だとして再交渉を求めており、ややこしいことになっている(トランプ大統領の経済の理解が正しいかどうかは話は別。https://goo.gl/nDq9E3)。 

 素朴に疑問なのだが、多国間協定よりも二国間協定の方が「急進的」になりやすいのではないか。

 多くの国が参加すればするほど、合意に達する点は限られてくるだろう。いったん合意された事項を変更することは難しくなるかもしれないが、急進的な内容にはなりにくいのではないか。他方で二国間交渉は交渉力の差が出やすいだろう。トランプ大統領は二国間交渉の方が「みずからの要求を通しやすい」と考え、TPP交渉を離脱した。

 「急進的」になることを問題視すればこそ、TPPよりもアメリカとの二国間交渉の方を警戒すべきだろうし、6日の日米首脳会談では日米FTAが取り沙汰されるのではないかという観測もあったが、日米FTAへの言及は避けられた。

 

 


 

「トランプ大統領訪日へ 経済や貿易の行方は」 NHKニュースウェブ2017年11月5日

https://goo.gl/wXLnn9

 

「アメリカのトランプ大統領は5日から日本を訪問します。日本側ではトランプ大統領が貿易赤字の削減を重視していることから、2国間の貿易協定の交渉を求めてくるのではないかと懸念する声も出ています。

 

米貿易赤字 日本は中国に次いで2番


日本との間の貿易赤字を問題視しているトランプ政権は、牛肉などの農業分野や自動車の分野などで、日本市場の開放を求めています。

アメリカ商務省によりますと、アメリカの去年の貿易赤字は5022億ドル(およそ57兆円)に上ります。国別の赤字の規模は、中国が最も多く3470億ドル(およそ39兆円)。日本は2番目に多い689億ドル(7兆8000億円)で、赤字の規模は中国のおよそ5分の1です。

一方、財務省によりますと、日本が工場の建設などでアメリカにどれだけ投資しているかを示す「対米直接投資」の残高は、去年の年末の時点でおよそ4540億ドル(53兆1842億円)に達しています。

日本政府としては、貿易摩擦が激しかった1980年代や90年代とは状況が大きく変わり、今は中国との間の貿易赤字が圧倒的に多く、日本は自動車工場の建設などでアメリカで多くの雇用を生み出していることなどをアメリカに丁寧に説明する考えです。


トランプ政権閣僚からは厳しい発言


トランプ大統領をはじめ、ロス商務長官、それにライトハイザー通商代表らトランプ政権の閣僚は、日本との間の貿易赤字や自動車などの輸出入について厳しい発言を繰り返してきました。

トランプ大統領は、大統領就任前のことし1月5日、トヨタ自動車がメキシコに工場を建設する計画をツイッターで批判。アメリカ国内に工場を作らないのならば、高い関税を払うべきだなどと書き込みました。名指しで批判されたトヨタ自動車は、向こう5年でアメリカ国内に1兆円以上の投資をする計画を明らかにし、まずアメリカ南部ケンタッキー州の工場設備の更新で、およそ1500億円の投資を発表しました。

また、トランプ大統領の就任直後に行われたアメリカの企業の幹部などとの会合では、日本の自動車市場について「日本は販売を難しくさせている。しかし、日本はアメリカでたくさんの自動車を売っている。この問題は協議しなければならない。これは公平ではない」と批判しました。

トランプ政権の閣僚では、貿易政策を担うロス商務長官が日本との間の貿易赤字について、「アメリカはこれほど膨らんだ貿易赤字にはもはや耐えられない」と述べ、貿易不均衡の見直しに強い意欲を示しています。

ロス商務長官は日本との2国間の貿易交渉についても優先度が高いという考えを示し、多国間のTPP=環太平洋パートナーシップ協定よりも自分たちの主張を通しやすい2国間の交渉を重視する立場を鮮明にしています。

さらに、各国との通商交渉などにあたるライトハイザー通商代表は、農業分野では日本が第1の標的になると指摘。「日本は一方的に譲歩をするべきだ。それが貿易赤字を削減する簡単な方法だ」と述べて、牛肉の関税引き下げなど、農業分野の市場開放に強い意欲を示しています。


日米FTAへの言及あるか焦点


自国優先主義を掲げるトランプ政権は、これまでに結んだ貿易協定は巨額の貿易赤字の要因になっているとして問題視しています。

このため、みずからの要求を通しやすい2国間の貿易協定を重視する姿勢を鮮明にして、TPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱を表明しました。

さらに、NAFTA=北米自由貿易協定や韓国と結んだFTA=自由貿易協定についても見直しを進めています。

日本に対しても日米の二国間でのFTAに関心を示していて、先月に行われた麻生副総理とペンス副大統領の「日米経済対話」の中でも、二国間交渉についてアメリカ側から言及がありました。

これに対して、日本は多国間の枠組みを基本とする姿勢をとっています。日本としてはアメリカを除く参加11か国でのTPP発効を目指していて、今月1日まで開かれた高級事務レベル会合のあと、梅本首席交渉官は「11か国で発効させることは、アメリカができるだけ早くTPPに戻ってくることを実現するための最も有効な道だと考えている」と述べています。

こうした中で、今回の日米首脳会談はトランプ大統領が日米のFTAについて言及するかが焦点となっています。


自動車の非関税障壁について議論か


アメリカ政府は日本の自動車市場は、外国製の車の輸入をしにくくする「非関税障壁」があるとして見直しを求めています。

アメリカが海外から輸入される乗用車に2.5%、トラックに25%の関税を掛けているのに対して、日本は海外から輸入される車の関税をすでに撤廃しています。

ただ、去年輸入された自動車の多くはドイツなどヨーロッパの車で、日本自動車輸入組合によりますと、アメリカの主要メーカーの車は1万3800台余りと輸入車全体の4.7%にとどまっています。

こうした現状にトランプ大統領は「日本は販売を難しくさせている。しかし、日本はアメリカでたくさんの自動車を売っている。この問題は協議しなければならない。これは公平ではない」と発言。アメリカ側は日本で車を販売する際の認証手続きや安全基準が輸入をしにくくする障壁になっているのではないかと主張しています。

この問題は先月の麻生副総理とペンス副大統領による日米経済対話でも議題となり、日本が審査の手続きを簡単にする措置を検討することで合意しました。

日本側は安全基準などは国際的な基準にのっとっており、貿易の障壁にはなっていないという立場ですが、今回の日米首脳会談でも議論になる可能性があります。


冷凍牛肉のセーフガードも焦点の一つ


日本政府はことし8月に、アメリカ産などの冷凍牛肉について、緊急の輸入制限、いわゆる「セーフガード」を発動し、関税を引き上げました。

冷凍牛肉はことし4月から6月までの輸入量が前の年の同じ時期より17%余り増加したため、基準を超えたとして国際的な貿易ルールに基づいて自動的に輸入制限が発動されました。

対象となっているのはアメリカ産のほか、ニュージーランドやカナダなどから輸入される冷凍牛肉で、来年3月31日まで関税が従来の38.5%から50%に引き上げられます。

これに対し、アメリカ側は「日本に対する貿易赤字が拡大する可能性がある」などとして、反発してきました。

先月、ワシントンで行われた麻生副総理兼財務大臣とアメリカのペンス副大統領による日米経済対話でも取り上げられましたが、引き続き協議することになりました。

日本政府としては今回の措置で、アメリカの冷凍牛肉の輸入量への影響は見られないとして、「セーフガード」をめぐる法改正などには応じられないとの立場ですが、今回の日米首脳会談はトランプ大統領がこの問題に言及するかどうかが焦点の一つになっています。」

 

「【トランプ氏来日】 通商問題、米国は貿易赤字削減要求でアピール 日本は圧力回避へTPPに全力」 産経ニュース2017年11月6日

https://goo.gl/gJqCXW

 

「 トランプ米大統領は6日、安倍晋三首相と東京都内で共同記者会見し、対日貿易赤字の削減を求めた。来年11月の米中間選挙を控え、産業界にアピールする狙いがあるとみられるが、日米自由貿易協定(FTA)には言及しなかった。日本は米国の直接的な圧力を回避したことで、8日にベトナムで開幕する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加11カ国の交渉の大筋合意に全力を尽くす。

 「慢性的な貿易の不均衡を是正しなければいけない」。日米の貿易不均衡について、共同会見ではこう述べるにとどめたトランプ氏だが、これに先立ち日米企業トップらを前に行った演説では「日本との貿易は公正でも開放的でもない」と指摘、日米FTAも視野に交渉の必要性を訴えた。

 共同会見などで日米FTAに言及しなかったのは、優先課題とする北米自由貿易協定(NAFTA)の協議が遅れ、妥結は年越しが確実な状況だからだ。米中間選挙が1年後に迫る中、NAFTAや、再交渉で合意した米韓FTAを優先し、日本が警戒する日米FTAは先送りした格好だ。

 それでも、訪日には強硬派として知られる米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表が同行。ライトハイザー氏は訪日前に米テレビ番組で日本などの貿易赤字に対し「深刻な懸念を抱いている」と厳しい姿勢を示しており、トランプ氏の「本音」を代弁する布陣を敷き、無言の圧力をかけることは忘れなかった。」

 

https://goo.gl/Xpuu2c

 

「 一方、日本はTPP11カ国の交渉を早期に取りまとめ、離脱した米国の復帰を促す戦略を描く。多国間の枠組みで先にルールを固め、米国の圧力を和らげる狙いだ。安倍首相は共同会見で、「トランプ氏と2国間貿易のみならず、アジア・太平洋地域に広がる貿易・投資の高い基準作りを主導する」と呼びかけた。

 TPP11カ国の閣僚会合は米国の復帰まで協定の一部を棚上げする「凍結項目」の選定を政治決着させ、続く首脳会合で大筋合意を報告する方針。日本は凍結項目を最小限にとどめたい考えだが、各国の主張には依然として溝が残る。

 閣僚会合に出席する茂木敏充経済再生担当相は6日、記者団に、ベトナムから日本が共同議長国を要請されたことを明らかにし「参加国からの修正要求は基本的にはない。全力で頑張る」と早期の大筋合意に意欲を示した。(高木克聡、ワシントン 塩原永久)」

 

 

 

 「TPP亡国論」は、保守系の人々に対して大きな影響を与えた。

 しかし、冷静に見てみると、結構おかしいのである。

 例えば、「激しいコスト競争の中で、輸出企業は、実質賃金を抑制せざるを得なくなりました。」である(145ページ)。「実質賃金は、名目賃金÷物価」であり、「契約書に実質賃金を書くことはできない」のだから、企業が実質賃金を抑制することはできない(飯田泰之「世界一わかりやすい経済の教室」(中経出版、2013年)192,193ページ。https://goo.gl/GgkP4i)。そんな実質賃金の理解が怪しい中野が「実質賃金ガー!」の音頭を取ったのだからますますおかしい(https://goo.gl/sLLFtX)。

 TPP交渉自体も、TPP亡国論者らが述べてきたところと異なる様相だ。

 中野の「反官反民 中野剛志評論集」(幻戯書房、2012年)の帯にはこう書いてある。

「思想の確かさは、具体的な事象への判断によって試される。」

と(https://goo.gl/ATJt9D)。

 保守論壇誌は「TPP亡国論」の「確かさ」を「具体的な事象」に照らして検証してはどうか。

 保守論壇誌はマスメディアが垂れ流す反安倍フェイクニュースを批判し、その悪影響の払拭に努めているが、反安倍TPP亡国論者に対しても同様であってほしいものだ。